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2017年4月 8日 (土)

「雄安新区」は「最後のバブル先送り策」か

 日本時間の今朝(2017年4月8日朝)まで、アメリカのフロリダで二日間にわたって米中首脳会談が開かれていました。おそらく習近平主席としては、ここでトランプ大統領と二人並んでテレビの前に登場することにより、「これからの世界はこの二つの大国がリードしていくのだ」と示したかったのだと思います。ところが、まさに習近平主席との夕食会をやっている最中にトランプ大統領は化学兵器を使用したとしてシリアにミサイル攻撃を実施し、世界の目は習近平主席との米中首脳会談よりもシリア情勢の方に向いてしまいました。習近平主席はタイミング的に「運が悪かった」と言えますが、心の中では「トランプ大統領にメンツを潰された」と感じたと思います。

 今回の米中首脳会談では、会談終了後の共同記者会見はありませんでした。通常、政治家は、会談の成果を自国民にアピールしたいと思うのが普通で、そのための舞台装置として、会談後の共同記者会見は重要なイベントであるはずです。それが今回共同記者会見が設定されなかったのは、中国側が首脳会談中のシリアへのミサイル攻撃を快く思わなかったためかもしれません(共同記者会見を開かないことにより、中国側は国際社会に対してアメリカによるシリアへのミサイル攻撃に賛成しない、との意思表示をした、とも捉えられると思います)。

 また、報道によれば、米中貿易問題については、両首脳は中国の対米貿易黒字是正に関して議論する「100日計画」の設置で合意した、とのことです。表面上は、習近平主席がトランプ大統領の要請を受け入れた格好になっており、習近平主席がトランプ大統領から「一本取った」という部分はなかったように見えます。

 こうした結果を見ると、習近平主席にとっては、今回のトランプ大統領との会談については、当初中国国内向けにアピールしたいと考えていた「米中首脳会談の成果」はあまり得られなかったのではないかと思います(実際、今日(4月8日)の中国中央電視台夜7時のニュース「新聞聯播」では、米中首脳会談関連のニュースは、夫人の活動の部分も含めて9分間程度であり、習近平主席の主要国訪問時のニュースにしては異様に短かったと私は感じました。イギリス訪問時には、いつもの放送時間(30分間)を延長して長々報じていた記憶があります)。

 今回の米中首脳会談は、おそらくは中国側から会談実現を要望したものと思われますが、習近平主席がこの時期にトランプ大統領に会いたいと考えたのは、国内的に、今年秋に開かれる中国共産党大会へ向けて、外交面で成果を上げ、自分の存在感をよりいっそうアピールしたかったからだと思います。

 同じ理由で国内政策の面でも習近平主席のリーダーシップを強調するのを目的とするような決定が先週なされました。それは、4月1日に中国共産党中央と国務院が決定した「雄安新区設立の決定」です。この決定は、肥大化する北京の政治的首都機能以外の機能を分散させるため、北京の南に位置する河北省の雄県、容城、安新の三つの県と周辺地区に新しい都市を建設する、というものです。

 「雄安新区」の具体的な姿はまだ必ずしも明確ではありませんが、「人民日報」の記事によると、以下のようなキーワードがちりばめられています。

○「世界一流の」「グリーンで」「近代的な」「インテリジェントな(中国語で「知恵」)」都市を建設する。

○生態環境に優れ、青と緑が織りなす、清新で明るい、水と都市が融合した生態都市(エコ・シティ)を造る。

○先端的で高度な新産業を発展させ、イノベーションの基となる資源を集積し、新しい運動エネルギーを培う。

○優れた公共サービスを提供し、優れた公共施設を建設し、都市管理の新しいモデルを創る。

○高速・高効率交通網を整備し、グリーンな交通体系を打ち立てる。

○規制改革を行い、資源配分においてマーケット・メカニズムに力を発揮させるとともに、政府の役割をよりよく発揮させ、市場活力の活性化を図る。

○全方位に対外開放を拡大し、新しく高度な開放を拡大して、外国との協力の新しいプラットフォームを造る。

 これらのキーワードから想像するに、例えば日本の筑波研究学園都市や韓国のテジョン(太田)広域市のように大学や政府系研究機関を政策的に集中立地することにより、先端産業の企業が立地するような都市を目指すのかもしれません。

 北京では、市の北西部に位置する北京大学・清華大学のキャンパスとその周辺の中国科学院の研究所群を中心にハイテク企業等が急速に集積するようになった中関村地区が既に有名です。しかし、北京は街全体が「世界遺産」みたいな街ですので、中心部(第二環状路の内側)では高層ビルの建設が制限されていますし、東京の首都高のような高速道路も作れません(日本では京都を想像するとよいと思います)。従って、北京の市街地周辺では発展の余地が限られるので、北京の市街地の南方に新しい空港を建設中であることも考慮して、北京南方の河北省の平原地帯に人工的に新しい都市を作ろうという考えなのかもしれません。

 こうした新しい都市を作るという政策は、悪くない考え方ですし、あってもいいと思うのですが、打ち出し方がかなり「わざとらしいくらい大仰」です。「大仰さ」をわかってもらうために、決定を報じる4月2日付け「人民日報」1面の記事の冒頭をそのまま訳してみましょう(「2017年4月1日北京発新華社電」です)。

「数日前、中国共産党中央と国務院は、河北雄安新区の設立を決定したとの通知を発した。これは、習近平同志を核心とする党中央が作り出したひとつの重大な歴史的戦略の選択であり、深セン経済特区と上海浦東新区に続く全国的に意義のある新区であり、千年の大計、国家の大事である。」

 ここの部分について、日本の新聞などは、「習近平同志を核心とする党中央」というフレーズを使うとともに、1980年代にトウ小平氏が設立を決めた深セン経済特区と1990年代に江沢民氏が設立を決めた上海浦東新区に次ぐ新区、と表現することにより、習近平主席がトウ小平氏、江沢民氏に次ぐ偉大な指導者なのだ、ということを強調するものだ、と論じています。私の個人的な感覚としては、この新区建設は確かに巨大なプロジェクトだとは思いますが「千年の大計、国家の大事」というのは、さすがに大げさ過ぎる表現だと思います。まるで、習近平主席を、南京から北京に首都を移した明の第三代皇帝・永楽帝になぞらえているように見えます。

 「人民日報」は、4月2日付け紙面の1面で「雄安新区」の設立決定を伝えて以降、今日(4月8日)付け紙面まで、連日「雄安新区」に関する解説記事を掲載しています。「新しい開発区の設立を決定した」というニュースにしては「人民日報」の扱いが「重すぎる」ことは、この「雄安新区設立」は、日本の新聞が解説しているように、「習近平主席のリーダーシップを強調する」という政治的目的が強いことを示していると思います。

 中国では、4月4日まで「清明節」の連休でしたが、連休明けの上海株式市場は、この「雄安新区」設立決定をはやして連日上昇しました。ロシア・サンクトペテルブルクでの地下鉄爆破テロや北朝鮮による弾道ミサイル発射、さらにはアメリカによるシリアへのミサイル攻撃があり、日本の株式市場は右往左往して株価は相当に下げましたが、上海の株式市場は、世界の動きとは関係なく上昇しました。「雄安新区」という「新しい金の成る木」が相当にうれしかったようです(というか、習近平政権は意図的にそういう株価上昇を狙ったのでしょう。トランプ大統領との会談を前にして株価が下がったのでは、習近平主席の立つ瀬がありませんので。本来ならば、併せてトランプ大統領との首脳会談の成功を大々的に宣伝したかったのでしょうが、米中首脳会談の方は冒頭に書いたように習近平主席の思うようには運ばなかったようです)。

 一方、「雄安新区」設立決定の発表により、関連地区では有象無象の不動産投機マネーが動き始めているようです。報道によれば、張高麗副首相は、「雄安新区」地域での不動産開発を厳しく管理するよう指示した、とのことです。ただ、2008年11月のリーマン・ショック対策のために実施した「四兆元の経済対策」の時も、始めた時は「バブルにならないように厳しく管理する」と言っていましたが、結局はバブル化しましたので、今回の「雄安新区」も「新しいバブルのネタ」になることは間違いないと思います。

 私は、2008年の「四兆元の経済対策」が発表された時「史上最大のバブルの予感」と書きました(このブログの2008年11月28日付け記事「『史上最大のバブル』の予感」参照)。「四兆元の経済対策」の結果として肥大化した鉄鋼業やセメント業については、去年(2016年)3月の全人代の段階では「生産能力過剰産業の削減」を強く打ち出しましたが、今年秋の党大会を前にして大規模な人員削減をするわけにもいかず、結局は「次のバブルの計画」を打ち出すことによって、2008年から始まったバブルの問題を先送りすることにした、と言えると思います。

 今まで中国はこうした「バブルの先送り」を過去に何回もやってきましたので、「あ、またか」という気もしないでもないのですが、さすがに今回の「雄安新区」は「最後のバブル先送り策」になると私は思います。その理由は、中国の人々自身がこの「雄安新区」の設立について「問題となっているバブルを先送りするためのものだ」と考えていると思われるからです。

 4月6日付け「人民日報」3面には「雄安新区」に関する河北省党書記の趙克志氏の話が掲載されていますが、趙克志書記はわざわざ「新区は、イノベーションの盛んな地域になるのであって、不動産で投機をやったり金儲けをしたりする場所ではない」と発言しています(後半部分の中国語は「不是炒房淘金的地方」。「房」はマンション、「炒」は「中華鍋で炒めるように売ったり買ったりすること」。「淘金」は砂金を探すこと。)。河北省党書記がわざわざこう言っている(かつ、それを「人民日報」が掲載している)ということは、中国の人々の多くが「雄安新区」は、マンションで投機したり、金儲けをしたりする場所だと思っているからでしょう。

 東京オリンピック・パラリンピックの次は万博だ、カジノだと言っている日本もエライコトは言えないのですが、「雄安新区」のような「土地開発」にばかり力を入れているようでは、中国経済の先行きはないと思います。過去の膨大な「土地開発」に投入された資金が「借金」として積み上がっていて全然回収される見込みのない現状において、また新たに巨大な「雄安新区」の構想を打ち出してどうしようというのでしょうか。今年秋の共産党大会までは、中国の人々は「雄安新区」がバラまいた夢を見ながら過ごすのでしょうが、共産党大会が終わって夢が覚めた時、中国経済がどうなるのか、相当に心配です。

 中国共産党の幹部の方々は「習近平主席は核心だ」と習近平氏をおだてておいて、バブルがはじけるタイミングになると「全ては習近平主席の指示だった。私はその指示に従っていただけだ。」と言って逃げることになるのかもしれませんね。「バブルの先送り策」がどうなるかについて最も用心しなければならないのは、もしかすると習近平主席自身なのかもしれません。

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