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2017年4月 1日 (土)

香港「残された時間」の5分の2が既に経過

 先週の日曜日(2017年3月26日)に行われた選挙人による選挙において香港の行政長官に林鄭月娥氏が当選しました。北京政府が林鄭氏を支持していたと伝えられていましたので「予想通り」の結果でした。

 香港は1997年にイギリスから中国に返還されました。香港返還を定めた1984年の中英共同声明においては「香港における資本主義制度は返還後50年間維持する」ことが合意されていました。今年(2017年)で、その「50年間」のうち5分の2が経過することになります。

 1980年代前半、サッチャー首相率いるイギリスと最高実力者トウ小平氏が牛耳っていた当時の中国とが香港返還について協議している頃、私は中国との通商貿易を担当する部署で仕事をしていましたが、当時は「香港が返還される1997年の50年後は2047年であり、その頃には世界も中国も想像できないほど変わっているだろう。だから、2047年の時点では、香港と大陸部の中国は円滑な形で融合することになるだろう。」と漫然と思っていました。世の中の多くの人は(香港に住んでいる人でさえ)そう思っていたのではないかと思います。

 しかし、中英共同声明で香港返還が合意されて今年で33年が経過しますが、中国と香港を取り巻く状況は全然進歩していません。

 10年前の2007年4月、私は二回目の北京駐在を開始しました。その時点ですら「10年経てば香港の状況は少しは変わるかもしれないなぁ。」とうっすらと思っていました。実際、2007年12月、全人代が「2017年の第5期の行政長官と全ての立法議会議員に対する直接選挙を実施することを認識した上で、2012年には行政長官と職能団体推薦枠議員に関する直接選挙は行わない」との決定を行ったことから、一部で、2017年には香港で住民による直接選挙が行われるのではないか、との期待が生まれました。

 しかし、2017年の行政長官選挙について、中国政府は住民による直接投票を実施する方針ではあったものの立候補者に対して様々な条件を課す方針だったため、「実質的な制限選挙だ」と反発する香港市民も多く、2014年秋の自由選挙を求める香港住民による「雨傘運動」を経て、結局は選挙方法の改正は行われず、2017年の行政長官選挙は従来通りの方法で行われました。こうした経緯を踏まえると、当面、香港における選挙は従来通りのやり方(一定の条件の下に立候補した候補者に対する選挙人による投票=住民による直接投票ではない)が継続する可能性が高まったと私は思います。結局のところ、中英共同声明が定めた「資本主義制度の維持」の期限である2047年まであと30年ですが、たぶんそれまで何も変わらないのかもしれません。

 1980年代と今とを比べると、旧ソ連は崩壊して冷戦は終わり、ヨーロッパでは今はイギリスがEUからの離脱を宣言し、自由主義経済の雄だと思っていたアメリカの大統領が今は保護主義を唱える時代になっています。世界はこれだけ激動しているのに「中国共産党が支配する中国」は本質的には全然変わっていません(もちろん中国は、経済的には発展し、社会は大きく変革しましたが、政治体制は基本的に全く微動だにしていません。逆に最近は習近平氏の「皇帝化」が進んでいて時代が逆行しているようにさえ感じます)。

 中国は大きな国ですので、変わるためには相当長い時間が必要なのかもしれません。例えば、1861年に西太后が清の実権を握りましたが、この時点で、既に列強各国による中国の半植民地化は進みつつあり、清朝の政権はもう長くはないような状況だったのに、実際に清朝が倒れたのは1911年の辛亥革命によってでした。西太后の権力掌握は50年近く続いたのでした。それを考えると、2047年までのこれからの30年間、香港の状況は本質的には何も変わらないまま継続するのかもしれません。

 問題は、今の状態が今後も相当期間変わらないだろうと思われる(しかも2047年以降はどうなるかわからない)香港の状況について、香港に住んでいる人々がどう考えるか、香港で経済活動を展開している外国企業がどう考えるか、です。一定程度の資産を持って香港経済を支えている香港の人の中には、2047年以降は、香港も大陸と同じような政治制度に組み込まれるのではないかと考えて、その前に香港を脱出しようと考えている人がいるかもしれません。また、今後、香港で活動する外国企業の中には「2047年以降」を見据えて、企業戦略を考え始めるところが出てきてもおかしくありません。

 幸か不幸か、香港に住んでいる人々は、自分たちと全く同じような文化を持った人々が台湾やシンガポールで自由な経済活動を享受していることをよく知っています。アメリカや日本にも中華系の経済人がたくさんいます。2047年へ向けて、今後、北京政府は「香港の大陸化」を進めて行くかもしれませんが、そういう圧力を強めれば強めるほど、特に経済的に力を持っている香港の人々(及び香港に拠点を置く外国企業)は、香港を離れて行ってしまうことになるでしょう。

 もしかすると、香港の人々にとっても北京政府にとっても、香港については「今と全く同じ状況が今後も(場合によっては2047年以降も)続く」ことが最も好ましい選択肢なのかもしれません。ただし、ヨーロッパやアメリカを含めた世界が少しずつ変化していく中で「あと何十年も今と同じ状態を続けること」が本当に中国と香港にとってよい選択肢なのかどうかはわかりません。

 少なくとも、私の個人的な感覚としては、「将来はきっとよい方向に変わるだろう」と思っていた1980年代の自分の気持ちと2017年の現実との違いを突きつけられて、相当に「残念だなぁ」という「気分」が強いことは否定はできません。私としては、やはり「未来は今よりきっとよくなる」と思い続けていたいと思うので。

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