« 中国経済の公共事業頼みはどこまで | トップページ | 中国経済と法的安定性との関係の問題 »

2017年3月 4日 (土)

全人代を経て経済政策の「調整」は進むか

 明日(2017年3月5日(日))から北京で全国人民代表大会が開かれます。毎年恒例の全人代ですが、今年は事前に経済関係の政府機関のトップの人事異動がいくつか発表され、経済政策における「人事刷新」とそれに伴う経済政策の「調整」がどの程度行われるかに対して注目が集まっています。

 「人事刷新」と言えば、今年秋に予定されている中国共産党大会で党の重要人事が刷新され、政府機関幹部の人事は来年(2018年)の全人代で決まる、というのが基本的な形ですが、今年の全人代を前にした幾人かの経済閣僚の交代は、来年決まる習近平体制第二期の政府幹部人事の「刷新」を予感させるものです。

 来年(2018年)の全人代では李克強総理と周小川中国人民銀行総裁が続投するのかどうかがポイントとなるでしょう(基本的に今年秋の党大会が終わった時点で見通しは立っているはずだと思いますが)。李克強氏と周小川氏が経済政策の前面から退くと経済政策の舵取りがどうなるか心配だ、との見方もありますが、中国には優秀な人材がたくさんいるので、習近平氏が自分に近い人物だけを任命する、といった過ちを犯さすことなく、実力のある者を適切なポストに就けることができれば、中国の経済政策が迷走することは避けられると思います。

 私がそういう印象を持ったのは、3月2日に就任後初の記者会見を行った中国銀行監督管理委員会の郭樹清主席の発言が結構ポイントを突いた鋭いものだったからです。郭樹清主席の記者会見については、「人民日報」ホームページ「人民網」の銀行チャンネルにも記事が出ていますが、その記事によると、郭樹清主席は以下のように発言しています。

「各種の金融の乱れた現象は断固として管理しなければならない。目下のところ、一部で市場をまたがった金融商品が層をなして積み重なった状態にあり、下層の資産については底が見えない、最終的に向かう方向は誰も知らない、といった状況がある。この種の現象が発生しているのは、多くの程度、監督制度が欠けていることに原因がある。これはいわば『牛小屋で猫を飼うようなもの』で、完全で健全な監督制度がなければ、銀行の業務経営は必ずや厳重なリスクにさらされることになる。」

 私は、これは中国の政府機関のトップとしては非常にハッキリとしたものいいであり、今後の改革実行に期待を持たせる発言だと思いました。郭樹清主席は、「『一行二会』及びその他の政府関係機関との間で情報共有と統一的な協調を深化させることに積極的に参加する」とも語っており、彼が中国政府の金融行政に縦割り行政の弊害があることを強く認識していることを示しています。

(注)「一行二会」とは、中国人民銀行、中国銀行業監督管理委員会、中国証券監督管理委員会のこと。さらに中国保険監督管理委員会も加えて「一行三会」ということもある。中国の金融行政が複数の部署に別れて執行されており、統一的な政策執行ができていないのではないか、という問題点は以前から指摘されている。

 そもそも中国経済は、タテマエ上は全てのプレーヤーを中国共産党がコントロールしていることになっていますが、実態的には中国共産党のグリップが強い国有企業等と中国共産党による指導に従っている(たぶん「従っているふりをしている」だけの)民間企業との混合体です(このことについて、昨日(2017年3月3日(金))付け日本経済新聞朝刊29面「経済教室」の「中国経済をどうみるか(下)純粋民営企業 世界に挑む」で学習院大学教授の渡辺真理子氏は「中国経済は一つの個体に異質な遺伝子が同居する『キメラ』である。」と表現しています)。こうした中国経済をうまく舵取りしていくためには、相当に難しい(時によってはアクロバティックな)経済政策運営が必要だと思います。その意味で、今年及び来年の全人代で固まることになる経済政策担当者の人事の刷新と具体的な経済政策の「調整」は重要です。

 一方、3月1日、台湾のホンハイ精密工業とその傘下になったシャープが出資する液晶パネルメーカーによる8K対応の高画質大型液晶パネルの工場の起工式が広州で行われました。この起工式にはホンハイの郭台銘会長や広東省党書記の胡春華氏も出席したそうです。このニュースは同日夜の中国中央電視台の7時のニュース「新聞聯播」でも報じられました。このニュースは、もはや「中国共産党の指導」の枠の外にあるプレーヤーが中国経済において重要な役割を果たしていることを端的に示したものだと言えるでしょう。

 上に書いた日経新聞の記事では、渡辺真理子教授は、アリババや華為(ホアウェイ)などの純粋民間のグローバルな中国企業が中国経済の大きな部分を占めていることを指摘しています。この点は、おそらくは現在の中国が旧ソ連とは全く異なる点で、中国の現体制の強靱さを示していますが、同時に「中国共産党によるコントロール」がどこまで効くのか、という中国の現体制の根幹に関わる問題と関係してきます。「人民日報」は今でも「中国共産党による指導」という「タテマエ」を声高に強調していますが、実態的には他の資本主義諸国と同じように法令による経済主体のコントロールの重要性は今後高まっていくと思います。もしそうだとすれば、中国においても、中国共産党大会よりも法律を決める全国人民代表大会の方が重要性が増していくことになるはずです。もしそうではなく、あくまで「中国共産党大会が最強の決定機関」であり続けるのであれば、たぶんそうした体制は徐々に中国経済の実態とはかけ離れたものになっていくことになるのでしょう。

 今年と来年の全人代は、習近平主席が自らに権力を集中させる方向での「変革」を図っていくだろう、という見方もあります。経済実態が「党による統治から法による統治への変革」を求めている中国の現状において、習近平氏が「党(=総書記である習近平氏自身)による統治」へ向かうのか、それとも「法による統治」に向かうのか、今年と来年の全人代は、今後の中国の行方を占う上で、いつにも増して重要なものになると私は思っています。

|

« 中国経済の公共事業頼みはどこまで | トップページ | 中国経済と法的安定性との関係の問題 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



« 中国経済の公共事業頼みはどこまで | トップページ | 中国経済と法的安定性との関係の問題 »