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2017年2月18日 (土)

中国経済の現状と原料炭・鉄鉱石の価格との関係

 ここのところ鉄鉱石と原料炭(製鉄に使うコークスの原料となる石炭)の価格が急激に上がってきています。原料炭については去年(2016年)11月頃をピークにして現在も高値圏にあるようですし、鉄鉱石価格は今でもまだ上昇基調にあるようです(参考:昨日(2017年2月17日(金))付け日本経済新聞朝刊3面記事「鉄鉱石急騰 国際価格、1年で2倍 中国で鋼材値上がり 日本の製鉄に影響も」)。

 鉄鉱石も原料炭及びそれらで生産される鉄鋼は、世界の中では生産量・消費量ともに中国が極めて大きな割合を占めていますが、中国経済の現状(鉄鋼も石炭も過剰生産能力削減に努力中、鉄鋼の需要先である鉄道やマンション建設等の投資も過度にならないようにコントロール中)を考えると、この鉄鉱石や原料炭の価格の急上昇は、私には腑に落ちません。この先、何か「ワナ」が待っているような不安を覚えます。

 一部に、この鉄鉱石や原料炭価格の上昇はアメリカのトランプ大統領が掲げるインフラ投資拡大による鉄鋼の需要増を見込んだもの、との見方もありますが、原料炭と鉄鉱石の価格の上昇は去年(2016年)の半ば頃以降、トランプ大統領誕生の前から始まっており、原料炭と鉄鉱石の価格の上昇をトランプ大統領の誕生と結びつけることは必ずしも正しくないと思います(また、鉄鋼需要のアメリカと中国との大きさを考えても、中国の方が圧倒的に規模が大きいので、アメリカの政策の影響はあってもあまり大きくはないはず)。

 こうした資源の価格は、最終需要(鉄鉱石と原料炭の場合は最終的には鉄鋼の需要)の現状と今後の見通しのほか、生産の状況(例えば、大きな炭鉱で生産トラブルが起きて生産量が一時的に落ちた、など)や「投機筋」の動向などが複雑に絡むので、単に最終需要が増える見通しだから価格が上がる、最終需要が減る見通しだから価格が下がる、といった単純なものではありません。

 例えば、原油価格はリーマン・ショック直前に1バーレル150ドル近くまで急騰した後、リーマン・ショックで30ドル台まで急落し、その後100ドル超まで上昇した後、去年(2016年)初に20ドル台まで下落したことは記憶に新しいところです。これらは世界景気の動向という需要面やシェール・オイルの開発といった供給面の動きを素直に受けて動いた、というよりは、そうした需要面・供給面の先行きをにらんだ「投機筋」の思惑で実際の需給関係以上に価格が大きく変動した結果だ、と言えるでしょう。

 現在の鉄鉱石と原料炭の価格の急騰は、中国政府による石炭や鉄鋼の過剰生産能力削減の政策により特に原料炭の生産量が絞られたからだ、とする見方もあります。もしこの見方が正しいのだとしたら、中国政府の過剰生産能力削減は石炭だけはきちんとやったが、鉄鋼については過剰生産削減の方はあまりうまくできなかった、ということになります(製鉄所での需要があるからこそ、鉄鉱石や原料炭の価格が上がるのだと思われるからです)。

 鉄鉱石と原料炭の価格の高騰に併せて、現在、鉄鋼価格も高くなっているようですが、今、鉄鋼の最終需要の状況はどうなっているのでしょうか。私はよくわかっていません。一口に「鉄」と言っても、ビルや橋梁等の建設に使うH型鋼と自動車のボディーに使う高張力鋼板とでは需要動向が全く異なると思います。どういう分野で「鉄」の最終需要が増加しているから(あるいは増加する見通しがあるから)鉄鉱石価格と原料炭価格が高くなっているのか、は私はよく知りません。ただ、少なくとも「鉄」の世界最大の需要国である中国においては、既に「新常態」の時代になっているので、今後急激に現在以上に鉄道建設やマンション建設が増えるとは思えないので、そんな中で鉄鉱石と原料炭の価格が上昇しているので、私には「なんか変だなぁ」という感じがするのです。

 ちょっと心配なのは、鉄鉱石や原料炭の価格は、実需とは全くかけ離れた「投機筋」の「思惑」によって高くなっているだけなのではないか、ということです(ハッキリ言えば、「バブル」ではないのか、ということです)。その意味で気になる記事が昨日(2017年2月17日(金))付け日本経済新聞夕刊5面に載っていました(アジア・ラウンドアップの欄 香港「割安な中国金融株に資金」)。この記事では、中国マネーの流入により香港株式市場に上場されている中国金融株の株価が上がっている、と指摘しているのですが、この記事の中に「中国当局が資本規制の一環で海外M&A(合併・買収)などに目を光らせているため、持て余した資金が香港株に流れるとの思惑もある。」との記載がありました。私が気になったのは、中国当局が中国から外国への資金流出を強力に規制していることから、行き場を失った中国の「投機マネー」の一部が鉄鉱石や原料炭などの資源商品価格市場に流入して、実需の見通しを越えて鉄鉱石や原料炭の価格を必要以上に押し上げているのではないか、という点です。

 鉄鉱石と原料炭(及びそれらを用いた最終製品である鉄鋼)は、生産量及び消費量の両方において、中国が世界の中で非常に大きなシェアを占めています。もし仮に、鉄鉱石や原料炭の価格を左右する「投機筋」の資金の中に占める「中国マネー」の割合が大きいのだとしたら、鉄鉱石と原料炭の価格については「生産」「消費」「投機」の全ての面において中国国内のプレーヤーの動向に左右されてしまうことになります。そうだとしたら、中国の外からは見えない中国国内の「思惑」によって鉄鉱石や原料炭の価格が動いてしまうことになります。これは世界経済にとって非常に危うい状況なのではないでしょうか。

 リーマン・ショック前後(及びリーマン・ショック後から現在まで)の原油価格の変動については、中国の需給要因や「投機筋」における「中国マネ-」の存在は世界全体の中における比重はそれほど大きくはなかったと思われます。しかし、鉄鉱石と原料炭の価格については、中国の占める比重は原油価格に比べて格段に大きいと思われるので、世界経済は鉄鉱石価格と原料炭価格を通じて中国に振り回されることにないよう注意する必要があると思います。

 その意味で、ネットで興味ある中国での報道を見つけました。「人民日報」ホームページの「財経チャンネル」に載っていた2月16日付け「経済参考報」の記事「鉄鋼価格の高騰に関して政府五機関が価格コントロールに関する文書を発出 専門家は資本による投機的取引を防ぐ点を指摘」です。

 この記事では、最近、中国政府の発展改革委員会、工業・情報化部、国家品質監督検査検疫総局、中国銀行業監督管理委員会、中国証券監督管理委員会の5つの機関が共同で「さらに保持・圧力政策を進めて鋼材市場の均衡ある進展を促進することに関する通知」を出したことを伝えています。この「通知」では、大手鉄鋼企業に対して、「鋼材出荷価格を科学的に決めること」を求め、価格を合理的範囲に積極的に引導して「風向計」「安定器」になるよう求めています。

 この記事では、この政策は、最近の鋼材価格の上昇は速すぎるし激しすぎて基本状況から離れているので、一方では鉄鋼業における過剰生産能力削減の政策を進めつつも、別の一方で過剰生産能力削減に名を借りた鋼材価格の過度に投機的な価格設定を防止するためのものである、とするあるアナリストの指摘を載せています。

 この記事にあるように、中国政府自身が、最近の鉄鋼価格の上昇が「速すぎるし激しすぎて基本状況から離れいている」と認識しており、この価格上昇が「投機的価格設定」による部分がある、と懸念していると思われる点は非常に重要だと思います。現在の鉄鉱石や原料炭の価格の上昇について、「世界経済が景気循環の回復過程に入って需要が増えた(増える見通しだ)からだ」との見方をする人もいるようですが、たぶん中国政府はそういう楽観的な見方はしていないのだと思います。

 2008年の原油価格の「バブル的急騰」とリーマン・ショックとがどういう関係にあったのかについてはいろいろ議論があるところだと思いますが、今の「鉄鉱石」「原料炭」及び「鉄鋼」の価格の上昇が次の世界経済における「大変動」の前兆現象であるのかないのか、慎重に見究めていく必要があると思います。特に原油と違って、「鉄鉱石」「原料炭」及び「鉄鋼」については、中国の比重が非常に大きいので、「今、中国がどうなっているのか(今後どうなっていくのか)」を見究めることが特に重要になってくると思います。

 

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