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2017年2月

2017年2月25日 (土)

中国経済の公共事業頼みはどこまで

 昨日(2017年2月24日(金))の中国中央電視台夜7時のニュース「新聞聯播」のトップ・ニュースと今日(2月25日(土))の「人民日報」の1面トップの記事は、習近平主席が北京市内で2022年の冬のオリンピックに備えて工事が進む新しい北京空港の建設現場を視察した時の様子などを伝えるものでした。私の二回目の北京駐在の途中に完成した現在使用されている北京首都空港(北京市街地の北東の郊外にある)の第三ターミナルは、ターミナル・ビルの全長が3kmにも及ぶという巨大なものだったので、最初に行った時にはその大きさに圧倒されたのですが、今、北京市街地の南郊外に建設中の新しい空港の建設現場は、テレビの画面で見てもその巨大さに驚くような規模のものでした。

 2008年の北京オリンピックを前にして完成した北京首都空港第三ターミナルは、非常に巨大なものでしたが、北京首都空港は滑走路はその時点で既に「満杯」状態で、私も北京首都空港から出発する時、飛行機の扉が閉まってから滑走路が空いて離陸するまで長時間待たされることなどしょっちゅうありました。今、東京には成田空港と羽田空港があり、上海には浦東空港(主に国際線)と虹橋空港(主に国内線)がありますが、北京には今は大型機が使える空港は北京首都空港一つしかないので、北京にもう一つ空港を建設する、というのは、中国の経済発展の状況を考えればある意味当然の話だと思います(むしろ「遅すぎた感」すらある)。

 とは言え、新しい北京空港の巨大な建設現場の様子をテレビのニュースで見て、私は、「中国ではまだまだ巨大な公共事業の工事があちこちで進んでいるのだなぁ。だとすると中国で鉄鋼の需要が強い(従って、鉄鉱石や製鉄に使う原料炭の値段が上がる)のは無理もないよなぁ。」と思ったのでした。「新聞聯播」では、同じく現在建設中の港珠澳大橋(香港とマカオをつなぐ海上の道路橋)の建設の様子も節目節目で紹介していますが、この工事も私は「とんでもない巨大公共事業」だと思います。

 1997年に完成した東京湾横断道路(東京湾アクアライン)は全長15.1kmで、私は相当巨大な公共事業だったと思うのですが、現在建設中の港珠澳大橋はトンネル部分も含めると全長55kmです。中国には、他にも2008に完成した杭州湾海上大橋(全長35.7km)、2011年に開通した青島膠州湾大橋(全長41.6km)など「巨大公共事業」はいくつもありました(なお、日本の青函トンネル(1988年開通)は全長53.9kmです)。

 そもそも公共事業には、「巨大な道路や橋を完成させることにより、その後の経済発展の基盤を作る」という意味と、「建設作業に巨額の資金を投じることにより、建設時点での経済の活性化と雇用の維持を図る」という目的とが存在します。公共事業については、経済発展効果に比べて投下される資金が膨大過ぎて「建設会社にメシを食わせるために事業をやっているのではないか」などと批判されることは、どの国でもある話です。日本でも、例えば、本州四国連絡橋は3つのルートの全てを建設する必要があるのか、といった議論もありましたし、青函トンネルも、新函館北斗まで北海道新幹線が開通したのが去年(2016年)であったことを考えれば、急いで1988年のタイミングで開通させる必要はなかったのではないか、といった議論もなされることがあります。

 こういった「公共事業を巡る議論」は、中国に限らず、どの国でもある話ですが、私の感覚では、中国では「野党による政権与党に対する批判」もないし「報道機関による政府批判」もないので、中国の公共事業においては、「完成することによる経済基盤としてのメリット」はあまり重要視されず「建設工事を進めることによる経済の活性化と雇用の創出」を主な目的とするものがかなり多いのではないかという印象を持っています。2009年前半、リーマン・ショック対応の公共事業が始まった頃、私は北京の街で、前年オリンピックのためにきれいに整備された歩道をまた掘り返して透水性舗装に変える工事をやったり、1980年代の私の前回の北京駐在の時に新築されたアパート群を2009年の時点で取り壊してまた作り直す工事をやっているところなどを目の当たりにしたので、特にそういう印象があるのかもしれません。

 今、中国政府は、今年(2017年)秋に開かれる中国共産党大会の開催までは、経済の水準を維持して、失業者を大量に発生させるようなことは絶対に避けたいと考えて、経済実態とは関係なく、大量の公共事業を行っているように見えます。経済効果をあまり生まない公共事業は、資金や資源の無駄となるばかりでなく、将来、経済発展に伴う税収増がないのに維持費ばかりかさんで、結果的に国全体の経済の重荷になる可能性をはらんでいます。また、共産党大会が終了したとたんに公共事業をやめてしまう、というようなことになるのだったら、党大会が終わる2017年秋頃から中国経済は急速に減速してしまうことになるでしょう。適切な批判と監視がない状況で進む「公共事業頼みの中国経済」は、問題を抱えたまま肥大化することになります。中国のそうした状況を理解しないで、例えば、2016年半ばから2017年に掛けて、今、中国経済には回復の兆しがあるのだ、と認識するのは危険かもしれません。

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2017年2月18日 (土)

中国経済の現状と原料炭・鉄鉱石の価格との関係

 ここのところ鉄鉱石と原料炭(製鉄に使うコークスの原料となる石炭)の価格が急激に上がってきています。原料炭については去年(2016年)11月頃をピークにして現在も高値圏にあるようですし、鉄鉱石価格は今でもまだ上昇基調にあるようです(参考:昨日(2017年2月17日(金))付け日本経済新聞朝刊3面記事「鉄鉱石急騰 国際価格、1年で2倍 中国で鋼材値上がり 日本の製鉄に影響も」)。

 鉄鉱石も原料炭及びそれらで生産される鉄鋼は、世界の中では生産量・消費量ともに中国が極めて大きな割合を占めていますが、中国経済の現状(鉄鋼も石炭も過剰生産能力削減に努力中、鉄鋼の需要先である鉄道やマンション建設等の投資も過度にならないようにコントロール中)を考えると、この鉄鉱石や原料炭の価格の急上昇は、私には腑に落ちません。この先、何か「ワナ」が待っているような不安を覚えます。

 一部に、この鉄鉱石や原料炭価格の上昇はアメリカのトランプ大統領が掲げるインフラ投資拡大による鉄鋼の需要増を見込んだもの、との見方もありますが、原料炭と鉄鉱石の価格の上昇は去年(2016年)の半ば頃以降、トランプ大統領誕生の前から始まっており、原料炭と鉄鉱石の価格の上昇をトランプ大統領の誕生と結びつけることは必ずしも正しくないと思います(また、鉄鋼需要のアメリカと中国との大きさを考えても、中国の方が圧倒的に規模が大きいので、アメリカの政策の影響はあってもあまり大きくはないはず)。

 こうした資源の価格は、最終需要(鉄鉱石と原料炭の場合は最終的には鉄鋼の需要)の現状と今後の見通しのほか、生産の状況(例えば、大きな炭鉱で生産トラブルが起きて生産量が一時的に落ちた、など)や「投機筋」の動向などが複雑に絡むので、単に最終需要が増える見通しだから価格が上がる、最終需要が減る見通しだから価格が下がる、といった単純なものではありません。

 例えば、原油価格はリーマン・ショック直前に1バーレル150ドル近くまで急騰した後、リーマン・ショックで30ドル台まで急落し、その後100ドル超まで上昇した後、去年(2016年)初に20ドル台まで下落したことは記憶に新しいところです。これらは世界景気の動向という需要面やシェール・オイルの開発といった供給面の動きを素直に受けて動いた、というよりは、そうした需要面・供給面の先行きをにらんだ「投機筋」の思惑で実際の需給関係以上に価格が大きく変動した結果だ、と言えるでしょう。

 現在の鉄鉱石と原料炭の価格の急騰は、中国政府による石炭や鉄鋼の過剰生産能力削減の政策により特に原料炭の生産量が絞られたからだ、とする見方もあります。もしこの見方が正しいのだとしたら、中国政府の過剰生産能力削減は石炭だけはきちんとやったが、鉄鋼については過剰生産削減の方はあまりうまくできなかった、ということになります(製鉄所での需要があるからこそ、鉄鉱石や原料炭の価格が上がるのだと思われるからです)。

 鉄鉱石と原料炭の価格の高騰に併せて、現在、鉄鋼価格も高くなっているようですが、今、鉄鋼の最終需要の状況はどうなっているのでしょうか。私はよくわかっていません。一口に「鉄」と言っても、ビルや橋梁等の建設に使うH型鋼と自動車のボディーに使う高張力鋼板とでは需要動向が全く異なると思います。どういう分野で「鉄」の最終需要が増加しているから(あるいは増加する見通しがあるから)鉄鉱石価格と原料炭価格が高くなっているのか、は私はよく知りません。ただ、少なくとも「鉄」の世界最大の需要国である中国においては、既に「新常態」の時代になっているので、今後急激に現在以上に鉄道建設やマンション建設が増えるとは思えないので、そんな中で鉄鉱石と原料炭の価格が上昇しているので、私には「なんか変だなぁ」という感じがするのです。

 ちょっと心配なのは、鉄鉱石や原料炭の価格は、実需とは全くかけ離れた「投機筋」の「思惑」によって高くなっているだけなのではないか、ということです(ハッキリ言えば、「バブル」ではないのか、ということです)。その意味で気になる記事が昨日(2017年2月17日(金))付け日本経済新聞夕刊5面に載っていました(アジア・ラウンドアップの欄 香港「割安な中国金融株に資金」)。この記事では、中国マネーの流入により香港株式市場に上場されている中国金融株の株価が上がっている、と指摘しているのですが、この記事の中に「中国当局が資本規制の一環で海外M&A(合併・買収)などに目を光らせているため、持て余した資金が香港株に流れるとの思惑もある。」との記載がありました。私が気になったのは、中国当局が中国から外国への資金流出を強力に規制していることから、行き場を失った中国の「投機マネー」の一部が鉄鉱石や原料炭などの資源商品価格市場に流入して、実需の見通しを越えて鉄鉱石や原料炭の価格を必要以上に押し上げているのではないか、という点です。

 鉄鉱石と原料炭(及びそれらを用いた最終製品である鉄鋼)は、生産量及び消費量の両方において、中国が世界の中で非常に大きなシェアを占めています。もし仮に、鉄鉱石や原料炭の価格を左右する「投機筋」の資金の中に占める「中国マネー」の割合が大きいのだとしたら、鉄鉱石と原料炭の価格については「生産」「消費」「投機」の全ての面において中国国内のプレーヤーの動向に左右されてしまうことになります。そうだとしたら、中国の外からは見えない中国国内の「思惑」によって鉄鉱石や原料炭の価格が動いてしまうことになります。これは世界経済にとって非常に危うい状況なのではないでしょうか。

 リーマン・ショック前後(及びリーマン・ショック後から現在まで)の原油価格の変動については、中国の需給要因や「投機筋」における「中国マネ-」の存在は世界全体の中における比重はそれほど大きくはなかったと思われます。しかし、鉄鉱石と原料炭の価格については、中国の占める比重は原油価格に比べて格段に大きいと思われるので、世界経済は鉄鉱石価格と原料炭価格を通じて中国に振り回されることにないよう注意する必要があると思います。

 その意味で、ネットで興味ある中国での報道を見つけました。「人民日報」ホームページの「財経チャンネル」に載っていた2月16日付け「経済参考報」の記事「鉄鋼価格の高騰に関して政府五機関が価格コントロールに関する文書を発出 専門家は資本による投機的取引を防ぐ点を指摘」です。

 この記事では、最近、中国政府の発展改革委員会、工業・情報化部、国家品質監督検査検疫総局、中国銀行業監督管理委員会、中国証券監督管理委員会の5つの機関が共同で「さらに保持・圧力政策を進めて鋼材市場の均衡ある進展を促進することに関する通知」を出したことを伝えています。この「通知」では、大手鉄鋼企業に対して、「鋼材出荷価格を科学的に決めること」を求め、価格を合理的範囲に積極的に引導して「風向計」「安定器」になるよう求めています。

 この記事では、この政策は、最近の鋼材価格の上昇は速すぎるし激しすぎて基本状況から離れているので、一方では鉄鋼業における過剰生産能力削減の政策を進めつつも、別の一方で過剰生産能力削減に名を借りた鋼材価格の過度に投機的な価格設定を防止するためのものである、とするあるアナリストの指摘を載せています。

 この記事にあるように、中国政府自身が、最近の鉄鋼価格の上昇が「速すぎるし激しすぎて基本状況から離れいている」と認識しており、この価格上昇が「投機的価格設定」による部分がある、と懸念していると思われる点は非常に重要だと思います。現在の鉄鉱石や原料炭の価格の上昇について、「世界経済が景気循環の回復過程に入って需要が増えた(増える見通しだ)からだ」との見方をする人もいるようですが、たぶん中国政府はそういう楽観的な見方はしていないのだと思います。

 2008年の原油価格の「バブル的急騰」とリーマン・ショックとがどういう関係にあったのかについてはいろいろ議論があるところだと思いますが、今の「鉄鉱石」「原料炭」及び「鉄鋼」の価格の上昇が次の世界経済における「大変動」の前兆現象であるのかないのか、慎重に見究めていく必要があると思います。特に原油と違って、「鉄鉱石」「原料炭」及び「鉄鋼」については、中国の比重が非常に大きいので、「今、中国がどうなっているのか(今後どうなっていくのか)」を見究めることが特に重要になってくると思います。

 

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2017年2月11日 (土)

「金融リスクの防止」は2017年の中国のキーワード

 2月6日付け「人民日報」18面に「融資プラットフォームの『上着の着替え』は安全か?~ホットな焦点・金融リスクをどうやって防ぐか~」と題するシリーズものの解説が載っていました。この記事の冒頭は、「『リスクを防ぐこと』が2017年の中国の経済領域におけるキーワードである」という文章で始まっています。おそらくは3月初めから開かれる全人代で議論される政策課題の中の最重要課題として「金融リスクの防止」が挙げられることから、その点を解説したものと思われます。

 この記事は、2015年の時点で100以上の市レベル、400以上の県レベルの地方政府が債務率が100%を越えている、という現状認識からスタートしています。

 この解説では、2015年1月1日以降、地方政府は地方政府債の発行によってのみ借金をすることができ、それまでのように地方政府が「融資プラットフォーム」を通じて借金をすることができなくなったので、リスク管理はできるようになった、と強調しています。また、2015年以降、地方政府は「融資プラットフォーム」に対する債務保証をすることはできなくなり、地方政府が「融資プラットフォーム」の償還責任を負わないことになった、とも強調しています。

 また、この解説記事によると、地方政府が負うべき2014年末までの負債は15.4億元であり、この債務は、今後3年程度のうちに地方政府が債券を発行して借り換えることにより、予算の範囲内で管理され、期限までに償還されるだろう、としています。

 この解説記事では、こららの改革により、新たな「政績プロジェクト」(地方政府幹部による自分の出世のための成果を強調するために実施されるプロジェクト)に起因する負債を生み出すことは避けられる、としています。この記事を見ると、中国共産党中央は、地方政府債務問題の本質(地方政府幹部(=中国共産党の地方幹部)が自分の出世のための功績を挙げるため無理をして借金をしてプロジェクトを実施する傾向があること)はきちんと理解しているようです。

 で、私が気にしているのは、「地方政府による借金漬けの『政績プロジェクト』の実施が抑制されると、投資に過度に依存している中国経済全体にブレーキが掛かってしまうことにならないのか。」という点です。今年(2017年)秋に中国共産党大会が予定されていますが、そこで決まる人事査定でよい評価を得るために、地方政府幹部(=中国共産党地方幹部)は、借金をして無理をしてでもプロジェクト投資にいそしんできたわけですが、2017年秋の党大会へ向けての動きは既に一段落していると見られることに加え、上記の解説記事にあるように、2015年以降は地方政府による借金のやり方にも規制が加わっていることから、おそらくは最近は地方政府によるプロジェクト投資にはブレーキが掛かっているものと思われます。従来より、中国経済は「投資」に依存する割合が高すぎる、と懸念されているところですが、そうした状況においては(他に経済の牽引役が育っていない現状においては)、地方政府によるプロジェクト投資が減少すると、中国経済全体が失速するおそれがあります。

 先頃発表された貿易統計によると、2017年1月の中国の貿易額は輸出入とも対前年比で増えているようであり、幸いにして世界経済の復活基調に伴って、2017年については、貿易による中国経済の下支え効果はある程度期待できそうです。従って、アメリカのトランプ大統領が中国に対して貿易上の無理難題を吹き掛けない限り、とりあえず2017年中は、中国経済は一息付けることになるかもしれません。

 問題は、今年秋の党大会の後どうなるか、です。地方政府幹部による「政績プロジェクト」への投資がヤマを超え、地方政府の借金のやり方にも「タガ」がはめられるようになった今後は、今までのような「経済ファンダメンタルズ(経済的基礎条件)とは関係ない地方政府幹部の政治的意図による投資」には期待できなくなるわけで、そうした中で中国経済を前に進めるパワーをどこに求めるかが問題となります。その中で「今までふくれあがった借金の返済」が問題となっていくわけです。

 「金融リスクの防止が2017年の中国経済のキーワード」というこの「人民日報」の解説は全く正しいと思います。3月初旬の全人代を通して、中国政府が「金融リスク防止」に対する有効な政策運営をしていくことを期待したいと思います。

 その際、トランプ大統領の対中通商政策と並んで、アメリカFRBによる利上げの動きと関連した人民元相場の動きにも注意が必要です。人民元安は、中国企業が抱える外貨建て債務の負担を大きくするからです。2017年に入って、人民元の対ドル相場は安定していますが、先頃発表された中国の2017年1月末の外貨準備高は「節目」と考えられていた3兆ドルを割り込みました。減少するスピードは鈍化しているので、あわてる必要はないと思いますが、今後の動きには注意が必要です。

 先週日曜日(2017年2月5日)付けの産経新聞9面の「日曜経済講座」には「外貨準備と人民元が混迷~中国が直面する『3と7のカベ』」と題する上海支局長の川崎真澄氏の記事が載っていました。「3」とは「外貨準備3兆ドル割れ」のことですが、これは実際に3兆ドルを割ったことが確認されました。「7」とは人民元の対米ドルレートが1ドル=7元を超えて人民元安になることです。これについてはいろいろな見方がありますが、「人民日報」ホームページ「人民網」の財経チャンネルに掲載されていた「経済参考報」の2月10日付けの記事「人民元は、こちら岸とあちらの岸の両方から圧力を受けている」の中では、「2017年末には人民元は対米ドルで1ドル=7.3人民元付近まで下落する可能性がある」との専門家の見方を紹介しています。

(注)この記事は、中国から外国への資金流出の圧力と、「香港-深センの株取引相互流通開始」やEU離脱後を見据えてイギリスが目指している「上海-ロンドン間の金融流通」を通した外国から中国への資金流入の圧力の両方が存在している、と指摘しています。要は「中国からの資金流出ばかりを心配する必要はない」との中国当局の主張を背景にした記事なのですが、その記事の中ですら、2017年末の時点で1ドル=7.3人民元まで元安が進む、との見方が紹介されている点は注目する必要があると思います。こうした見方は人民元の先安感に基づく中国からの資金流出圧力を「後押し」するからです。

 日本時間の今朝(現地時間2017年2月10日)、ワシントンでトランプ大統領と安倍総理との日米首脳会談が行われました。このお二人は、これからフロリダ州のトランプ大統領の別荘でゴルフをするようですが、当面、世界経済は「中国共産党がどういう政策をとるか」よりも「トランプ大統領が何を言うか、何をするか」に右往左往することになるのでしょう。ただ、トランプ大統領は、昨年末「中国の出方によっては『ひとつの中国政策』も再考する」といったことをツィッターで書きながら、昨日行った習近平主席との電話会談ではいともあっさりと「アメリカは『ひとつの中国政策』を堅持する」と表明するなど、「トランプ大統領はツィッターでいろいろ『発言』するけど、その『発言』って意外に軽いんじゃない?」という見方も今後広がると思います。トランプ大統領の「ツィッター発言」に右往左往しないで、中国の経済の状況を含め、経済の実態を見落とさないようにしっかりチェックしていくことが改めて重要だと認識する必要がありそうです。

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2017年2月 4日 (土)

中国における最恵国待遇・内国民待遇の歴史

 アメリカのトランプ大統領は声高に「アメリカ人を雇え!」と叫んでいます。私は1990年代末にアメリカ駐在をしていますが、アメリカでは、全ての企業は人を雇う場合、「性別、年齢、人種、宗教、国籍で差別してはならない」ということに細心の注意を払っていました。採用試験を受けに来て落ちた人が「差別で就職を断られた」と裁判に訴えるリスクを常に意識しているからです。そのアメリカの大統領に「雇用に当たってはアメリカ国籍の人を優先しろ!」と主張されると、私は「わけわからん」状態になってしまいます。

 そもそも現代国際社会においては、その国の法律を遵守する限りにおいて、外国人や外国企業であっても自国民や自国企業と同様に適切な保護が与えられることが大原則になっています。また、状況において外国人や外国企業に対して一定の規制を掛けることもあり得ますが、その際も国によって差別しないことが大原則です(例えばA国人やA国の企業はOKだけど、B国人やB国企業はダメ、といった恣意的な規制を掛けてはならない)。これらの原則は「内国民待遇」(内外無差別:原則としてその国の国民と外国人とを差別しない)と「最恵国待遇」(ある国に対しては原則として他の最も優遇された国に与えられたのと同様の待遇を与える(=国によって差別しない))と呼ばれます。

 「最恵国待遇」と「内国民待遇」は、基本的に国と国との間の条約で決められますが、日本の場合は、19世紀半ば、幕末に欧米列強各国と結んだ「和親条約」と「修好通商条約」がこれらを定めた条約の「はしり」でした。

 「最恵国待遇」は「国によって差別しない」ことなので、発展初期の段階の国においても比較的受け入れられやすいのですが、「内国民待遇」の方は、遅れた自国民が進んだ外国人より不利な立場に置かれやすい、という理由で、当初は認められないことが多いようです。幕末の修好通商条約でも外国人の通行できる範囲は開港された港の周辺に限られ、外国人は日本人と同じようには行動できませんでした。

 日本と中華人民共和国とは1972年に国交が樹立しましたが、当初は日本人は中国人と同じようには中国国内を移動することはできませんでした。私が最初に訪中した1983年2月の時点では、外国人が自由に移動できる範囲(外国人開放区)は、例えば北京においては北京の市街地部分だけでした。盧溝橋(北京の西南にある)の西詰めの場所には「ここから先は外国人は立ち入り禁止」という立て札が立てられていて、人民解放軍の兵士が銃剣を持って見張っていました(その脇を中国の人たちは、立て札の下を全く気に掛けずに行き来していました)。

 1980年代は、中国では、経済活動でも明確な「内外差別」がありました。外国人は、中国人が使う貨幣の「人民元」は持つことは原則認められず、外貨から兌換した「外貨兌換券」しか持つことが許されませんでした。「外貨兌換券」は外国人専用の商店やホテルでしか使えませんでしたから、外国人は買い物をする場所も限られていました。(もっとも、「外貨兌換券」の方が「輸入品が買える」というメリットがあったので、中国人用の商店でもむしろ喜んで受け取ってくれたので実際には中国人用の商店でも買い物はできたんですけどね。またそうした中国人用の店で高額の「外貨兌換券」で買い物をすると、おつりは通常の「人民元」で返ってくるので、実際は外国人の手元にも「人民元」は入って来ました)。

 北京市内の外国人専用の商店「友誼商店」に行くと、入口に係の人が立っていて、中国人が店の中に入らないように見張っていました。私の場合は顔を見ただけでは中国人か日本人か区別が付かないらしく、「友誼商店」の入口の係の人からよく「何しにきた」という目でじジロリを見られたことがありました。そういう時は、日本のパスポートを見せると、途端に「いらっしゃいませ」というニコニコした顔になって入れてくれたのを覚えています。「外国人排撃」とは全く逆の現象なんですけど、中国人と外国人とで差別する、っていうのは、よくないよなぁ、とその時感じたことを覚えています。

 また、1980年代には中国には「外国人値段」というのがあり、例えば一羽30元の北京ダックを買おうとしてこちらが外国人だとわかると「50元だ。30元では外国人には売れない。」と言われることもありました(外国人は金持ちだから、外国人からはお金はたくさん取れるはずだ、という発想です)。

 2007年に二回目の北京駐在を始めた時には、個人レベルの活動における「内外差別」は基本的には消えていました。軍事施設周辺など特殊な場所を除けば「外国人が行ってはいけない場所」はなくなっていましたし、「外貨兌換券」は1995年に廃止されていました。100元札を持って行けば、外国人だろうと中国人だろうと全く同じように扱ってくれるようになっていたのです。(ただし、それは個人の生活上の話であって、外国企業による投資や営業活動などに対する制限は現在の中国でもまだまだ多いのが現状です。だいたいフェース・ブックやツィッターが中国では認められていない(それに代わる中国系企業のSNSが発達している)ことを見てもわかるように、企業経済活動の面での「内外差別」は現在の中国には厳然と存在しています)。

 なお、1986~1988年と2007~2009年の二回の北京駐在を通して、「最恵国待遇」になっていなかった事例(例えば、アメリカならOKだけど、日本だからダメといったケース)は、思い浮かびません(逆の例として、1980年代、対共産圏輸出統制(いわゆる「ココム」)のため、日本からアメリカへの輸出は自由だけれど、日本から中国への輸出には制限が掛かる、といった品目があり、中国側が日本に不満を述べる例はありました(特に1987年に発生した「東芝機械ココム事件」は、対ソ連輸出で問題が起きたのに、対中国輸出でも輸出審査が厳しくなって事件に無関係な中国が迷惑を被った、という事例でした))。

 こういった私の経験からすると、ある国が「内外差別」を実施するのは、その国の発達が初期段階であるからであるので、「内外差別の存在」はその国の後進性を意味する、という印象があります。ですので、世界で最も進んだ国であるはずのアメリカの大統領が堂々と「(実質的に)内外差別をするぞ!」と叫んでいることには、無茶苦茶違和感を感じます。

 さらに「最恵国待遇」は、日本では江戸幕府が当時の国際社会から教えられた「近代国際社会の大原則」です。それなのにトランプ大統領は「メキシコや中国からの輸入には他の国とは異なる高い関税を掛けるぞ!」と主張しているわけで、これは日本で言えば江戸時代以前に戻るとんでもない時代錯誤であると言えます。(アメリカが「最恵国待遇」を無視するなら、仮に中国が政治的問題で日本だけをターゲットにした経済的規制を掛けてきたとしても文句が言えなくなってしまいます)。

 私はこのブログで、中国政府が採る様々な「国際的ルールとは異なるやり方」に対して批判的なことを書いてきましたが、もしトランプ大統領が主張していることを本当にアメリカが実行するならば、中国政府の政策の問題点など全く「取るに足らない小さな問題」ということになってしまいます。世界をリードするはずのアメリカが国際社会の土台となる大原則を破壊してしまうことがないよう、世界各国は協調して対応する必要があると思います。

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