« 中国における最恵国待遇・内国民待遇の歴史 | トップページ | 中国経済の現状と原料炭・鉄鉱石の価格との関係 »

2017年2月11日 (土)

「金融リスクの防止」は2017年の中国のキーワード

 2月6日付け「人民日報」18面に「融資プラットフォームの『上着の着替え』は安全か?~ホットな焦点・金融リスクをどうやって防ぐか~」と題するシリーズものの解説が載っていました。この記事の冒頭は、「『リスクを防ぐこと』が2017年の中国の経済領域におけるキーワードである」という文章で始まっています。おそらくは3月初めから開かれる全人代で議論される政策課題の中の最重要課題として「金融リスクの防止」が挙げられることから、その点を解説したものと思われます。

 この記事は、2015年の時点で100以上の市レベル、400以上の県レベルの地方政府が債務率が100%を越えている、という現状認識からスタートしています。

 この解説では、2015年1月1日以降、地方政府は地方政府債の発行によってのみ借金をすることができ、それまでのように地方政府が「融資プラットフォーム」を通じて借金をすることができなくなったので、リスク管理はできるようになった、と強調しています。また、2015年以降、地方政府は「融資プラットフォーム」に対する債務保証をすることはできなくなり、地方政府が「融資プラットフォーム」の償還責任を負わないことになった、とも強調しています。

 また、この解説記事によると、地方政府が負うべき2014年末までの負債は15.4億元であり、この債務は、今後3年程度のうちに地方政府が債券を発行して借り換えることにより、予算の範囲内で管理され、期限までに償還されるだろう、としています。

 この解説記事では、こららの改革により、新たな「政績プロジェクト」(地方政府幹部による自分の出世のための成果を強調するために実施されるプロジェクト)に起因する負債を生み出すことは避けられる、としています。この記事を見ると、中国共産党中央は、地方政府債務問題の本質(地方政府幹部(=中国共産党の地方幹部)が自分の出世のための功績を挙げるため無理をして借金をしてプロジェクトを実施する傾向があること)はきちんと理解しているようです。

 で、私が気にしているのは、「地方政府による借金漬けの『政績プロジェクト』の実施が抑制されると、投資に過度に依存している中国経済全体にブレーキが掛かってしまうことにならないのか。」という点です。今年(2017年)秋に中国共産党大会が予定されていますが、そこで決まる人事査定でよい評価を得るために、地方政府幹部(=中国共産党地方幹部)は、借金をして無理をしてでもプロジェクト投資にいそしんできたわけですが、2017年秋の党大会へ向けての動きは既に一段落していると見られることに加え、上記の解説記事にあるように、2015年以降は地方政府による借金のやり方にも規制が加わっていることから、おそらくは最近は地方政府によるプロジェクト投資にはブレーキが掛かっているものと思われます。従来より、中国経済は「投資」に依存する割合が高すぎる、と懸念されているところですが、そうした状況においては(他に経済の牽引役が育っていない現状においては)、地方政府によるプロジェクト投資が減少すると、中国経済全体が失速するおそれがあります。

 先頃発表された貿易統計によると、2017年1月の中国の貿易額は輸出入とも対前年比で増えているようであり、幸いにして世界経済の復活基調に伴って、2017年については、貿易による中国経済の下支え効果はある程度期待できそうです。従って、アメリカのトランプ大統領が中国に対して貿易上の無理難題を吹き掛けない限り、とりあえず2017年中は、中国経済は一息付けることになるかもしれません。

 問題は、今年秋の党大会の後どうなるか、です。地方政府幹部による「政績プロジェクト」への投資がヤマを超え、地方政府の借金のやり方にも「タガ」がはめられるようになった今後は、今までのような「経済ファンダメンタルズ(経済的基礎条件)とは関係ない地方政府幹部の政治的意図による投資」には期待できなくなるわけで、そうした中で中国経済を前に進めるパワーをどこに求めるかが問題となります。その中で「今までふくれあがった借金の返済」が問題となっていくわけです。

 「金融リスクの防止が2017年の中国経済のキーワード」というこの「人民日報」の解説は全く正しいと思います。3月初旬の全人代を通して、中国政府が「金融リスク防止」に対する有効な政策運営をしていくことを期待したいと思います。

 その際、トランプ大統領の対中通商政策と並んで、アメリカFRBによる利上げの動きと関連した人民元相場の動きにも注意が必要です。人民元安は、中国企業が抱える外貨建て債務の負担を大きくするからです。2017年に入って、人民元の対ドル相場は安定していますが、先頃発表された中国の2017年1月末の外貨準備高は「節目」と考えられていた3兆ドルを割り込みました。減少するスピードは鈍化しているので、あわてる必要はないと思いますが、今後の動きには注意が必要です。

 先週日曜日(2017年2月5日)付けの産経新聞9面の「日曜経済講座」には「外貨準備と人民元が混迷~中国が直面する『3と7のカベ』」と題する上海支局長の川崎真澄氏の記事が載っていました。「3」とは「外貨準備3兆ドル割れ」のことですが、これは実際に3兆ドルを割ったことが確認されました。「7」とは人民元の対米ドルレートが1ドル=7元を超えて人民元安になることです。これについてはいろいろな見方がありますが、「人民日報」ホームページ「人民網」の財経チャンネルに掲載されていた「経済参考報」の2月10日付けの記事「人民元は、こちら岸とあちらの岸の両方から圧力を受けている」の中では、「2017年末には人民元は対米ドルで1ドル=7.3人民元付近まで下落する可能性がある」との専門家の見方を紹介しています。

(注)この記事は、中国から外国への資金流出の圧力と、「香港-深センの株取引相互流通開始」やEU離脱後を見据えてイギリスが目指している「上海-ロンドン間の金融流通」を通した外国から中国への資金流入の圧力の両方が存在している、と指摘しています。要は「中国からの資金流出ばかりを心配する必要はない」との中国当局の主張を背景にした記事なのですが、その記事の中ですら、2017年末の時点で1ドル=7.3人民元まで元安が進む、との見方が紹介されている点は注目する必要があると思います。こうした見方は人民元の先安感に基づく中国からの資金流出圧力を「後押し」するからです。

 日本時間の今朝(現地時間2017年2月10日)、ワシントンでトランプ大統領と安倍総理との日米首脳会談が行われました。このお二人は、これからフロリダ州のトランプ大統領の別荘でゴルフをするようですが、当面、世界経済は「中国共産党がどういう政策をとるか」よりも「トランプ大統領が何を言うか、何をするか」に右往左往することになるのでしょう。ただ、トランプ大統領は、昨年末「中国の出方によっては『ひとつの中国政策』も再考する」といったことをツィッターで書きながら、昨日行った習近平主席との電話会談ではいともあっさりと「アメリカは『ひとつの中国政策』を堅持する」と表明するなど、「トランプ大統領はツィッターでいろいろ『発言』するけど、その『発言』って意外に軽いんじゃない?」という見方も今後広がると思います。トランプ大統領の「ツィッター発言」に右往左往しないで、中国の経済の状況を含め、経済の実態を見落とさないようにしっかりチェックしていくことが改めて重要だと認識する必要がありそうです。

|

« 中国における最恵国待遇・内国民待遇の歴史 | トップページ | 中国経済の現状と原料炭・鉄鉱石の価格との関係 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



« 中国における最恵国待遇・内国民待遇の歴史 | トップページ | 中国経済の現状と原料炭・鉄鉱石の価格との関係 »