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2017年1月 7日 (土)

中国資金流出阻止攻防戦:当局対人民・投機筋

 今年(2017年)の年初、中国からの資金流出が加速し、人民元安が急速に進む懸念がありました。このブログでもそのことを昨年末に書きましたが、中国当局も相当に懸念を持っていたようで、様々な準備を行っており、実際に様々な措置を講じた模様です。その結果、2017年の最初の一週間が終わった段階では、中国当局による資金流出阻止、人民元安阻止の「作戦」は功を奏しているようです。

 中国当局が資金流出加速の防止と人民元の急落を阻止するために行った一連の措置は以下のとおりです。

○個人の人民元売り・外貨買いの兌換措置の手続き厳格化(対中国人民)

 2017年1月6日付け日本経済新聞朝刊7面記事「中国、資本流出阻止に躍起」の中にある「政府、個人にも資本規制」の部分によれば、12月30日、中国上海のある大手銀行の企画担当者は、中国人民銀行から翌日行う個人による外貨購入に関する手続きの新ルールに関する説明会に出席するよう求められた、とのことです。新ルールでは、外貨購入を希望する個人は申請書の提出を義務付けられ、申請書には「海外で不動産や証券、保険を購入してはならない」と明記されている、とのことです。

 この「新ルール」に関して、1月3日に人民日報ホームページ「人民網」の財経チャンネルにアップされた「外国為替管理局が明らかにした:個人の外貨購入において境外(外国及び香港等)で不動産を購入することは認められない、というのは新しい政策ではない」というタイトルの解説記事によると、12月31日の夜、外国為替管理局は「国家外国為替管理局の責任者による個人外貨情報申請の管理に関する記者からの質問に対する答」を発表したのことです。この「答」では「5万米ドルという個人の年間外貨限度額に変化はない。個人が兌換した外貨は海外における不動産購入や投資等の許可されていない項目への使用は認められないことも改めて説明されているが、ここの部分は多くのメディアが誤って伝えているような今年新たに加わった『新しい制度』ではない」ことが説明されている、とのことです。

 中国では、一人当たり年間5万米ドルの外貨への兌換が認められているので、毎年年が明けると限度はリセットされ、各個人は新しい年の分の5万ドル分を外貨に替えることができるようになります。資金流出懸念が強まっている中、多くの中国人民は「5万ドルの限度額が削減されるのではないか」との懸念を持っていたのではないかと思います。上記のように「人民網」に「解説記事」が掲載されたということは、そういった状況の中で年末ギリギリになって外貨購入の際の「手続きに関する新ルール」が示されたので、外貨兌換限度額が減額になったのではないか、という「誤解」が中国国内に広まったことを示唆しています。

○オフショア市場での人民元供給の絞り込み(対投機筋)

 昨年末、「年が明けたらたら人民元相場は急落する可能性がある」との見方があったことから、多くの投機筋が人民元の「空売りポジション」を持っていたようです。

【説明】手元に人民元を持っていない人がどこからか人民元を借りてきてそれを売って外貨を買っておくことを「人民元の空売りポジションを持つ」と言います。このポジションを持っている状態で人民元相場が下落すれば、持っていた外貨で安くなった人民元を買い戻して借りてきたところに返せば、売買の時の相場の差の分だけ外貨が手元に残って儲かることになります(相場が逆に動けば損をすることになる)。ただし、相場が予想したように「人民元安」に動いていたとしても、人民元を借りている期間の金利は払わなければならないので、人民元を借りている間の金利として支払う人民元より、売買で手元に残る外貨の額の方が大きいことが「儲かる」ための条件となります。

 一方、去年IMFのSDR(特別引き出し権)の対象通貨になった人民元ですが、まだまだ「国際通貨」としての地位は確立していませんので、大量の人民元を持っている銀行は香港に立地している中国の国立銀行くらいのものです。従って、中国人民銀行が中国の国立銀行を「指導」すれば、外国に存在する人民元の量をコントロールすることは実態的にできてしまいます(この点が、既に国際通貨としての地位を確立させていたイギリス・ポンドについて投機筋が「ポンドの空売り」でイングランド銀行を打ち負かした1992年のポンド危機の時のイギリス・ポンドと現在の人民元との「立ち位置」の違いです)。

 上記の日経新聞の記事によると、中国人民銀行の意向を受けた中国の国有銀行などが香港での人民元の供給を絞ったため、人民元の流通量が減り、香港銀行間取引金利(HIBOR)翌日物が1月5日、前日の16.9%から38.3%に急騰し、午後には100%を越える取引もあった、とのことです。金利が急騰すると、人民元を借りている投機筋は金利負担が膨らんでしまうので、あわてて損失覚悟で「人民元の空売りポジション」の解消(=外貨売り・人民元買い戻し)をした投機筋が多かったようです。このためオフショア(中国本土外)の人民元対ドル相場は1月4日と5日の二日間で2%上昇し、1月5日の香港外国為替市場の終値は1ドル=6.82元台となりました。

 中国当局は、急速な人民元安が進んだら外貨準備を取り崩してでも「人民元買い・ドル売り」の為替介入をやるつもりだったと思います。ただ、上記の日経新聞の記事によると、あわてた投機筋による「空売りの解消」によってむしろ人民元高になったことから、外国為替市場での中国当局による大規模な「人民元買い・ドル売り」の為替介入は見送られたようです。

○2016年12月末の外貨準備高のコントロール(対市場マインド)

 今日(2017年1月7日)中国人民銀行が発表したところによると、2016年12月末現在の中国の外貨準備高は前月比410億ドル減の3兆105億ドルだった、とのことです。節目の3兆ドルを下回ると、市場の「外貨準備が底をつく懸念」を強めてしまうので、中国当局は12月末の時点で3兆ドルを下回らないように慎重にコントロールした可能性があります。昨年11月9日にアメリカでトランプ氏が次期大統領になることが決まって以降、アメリカ国債の長期金利は継続して上昇傾向にありますが、12月に入ると「一服感」が出ました。もしかすると、12月に入ってから中国が為替介入の原資とするためのアメリカ国債の売却のスピードを緩めたからなのかもしれません(それが12月末時点で外貨準備高が3兆ドルを割らなかった理由かもしれません)。

 今日(2017年1月7日(土))付けの日本経済新聞朝刊7面の記事「人民元基準値0.9%高く 対ドル 中国、05年以来の上げ幅」では、2017年第一週の人民元の対ドル相場が人民元高に推移していることを伝えていますが、その中に「5日はドル全面安という幸運も重なり、香港市場で元が急騰」という記述があります。しかし、アメリカ国債の大量の保有者としての中国は、アメリカ国債を大量に売買することにより、アメリカ国債金利に影響を与えることが可能であり、アメリカ国債金利の上下を通じて、ある程度ドル相場に影響を与えることも可能なので、5日にドル全面安となったのは「幸運」ではなく、中国当局が意図的にドル安(=元高)に持って行きたかったのでアメリカ国債の売りを控えた(あるいはアメリカ国債を買った)からだ、と考えることも可能だと思います。

 もちろん、中国当局と言えども、ドル相場を全面的に、または、長期間にわたりにコントロールする力はありません。しかも、アメリカ国債を売り続けて外貨準備が減ってしまえばコントロールする力も衰えてしまいますので、中国当局も相当慎重に人民元相場と相対していると思います。ただ、1月20日にトランプ大統領が正式に就任して、対中国政策を明らかにするまでの間は、市場で急激な人民元安の状態が起きてしまったり、中国当局による為替介入の形跡が露骨に見えてしまうようなことになったりして、トランプ氏に中国攻撃の口実を与えるような事態はなんとしても避けたいと考えているはずです。

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 最初に書いたように、2017年の最初の一週間は、外国為替市場では人民元安にはならずにむしろ人民元は対ドルで高くなりました。その意味で「中国資金流出阻止攻防戦:当局対人民・投機筋」の第一ラウンドは、今のところ中国当局の「完勝状態」となっています(むしろ効果が「出過ぎた」くらい)。しかし、ここで問題なのは、中国当局が必死になって「人民元安・中国からの資金流出の阻止」の措置を多方面で行っている実態が表面化してしまったことです。「当局が必死になって対応している」ことは、即ち、中国当局自身が中国からの資金流出を真剣に懸念しており、今後の人民元安を恐れていることを示しています。

 多くの中国人民や中国企業は、中国当局自身が「将来安くなるかもしれない」と考えている人民元を持ち続けるのはイヤだと思うでしょうから、認められた限度額の範囲内で早めに外貨に替えておきたい、と考えるでしょう。特に、もし中国国内で不動産バブルが崩壊するかもしれないと考えるのであれば、資産保護のため、早急に中国国内の不動産を売って外貨に替えておきたいと考える中国人民や中国企業もいるでしょう。そうした状況の下で、中国当局の懸念や中国人民の気持ちを利用して一儲けしようと狙う投機筋は、まだまだ今後も機会を捉えて「人民元の空売り」を仕掛けてくるかもしれません。

 1月20日にトランプ氏が大統領に正式就任して対中国政策を明らかにするまでは、中国当局は「現行作戦」を継続すると思いますが、中国国内に「人民の先安懸念」が存在する限り、「人民元安」と「中国からの資金流出」の圧力は掛かり続けます。生産者物価指数がマイナスから急速にプラスに転換した最近の中国の国内経済状況やトランプ氏の当選以降急速に進む人民元安・ドル高による輸入物価の上昇で、今後中国国内でインフレが進む可能性がありますが、「将来のインフレ予想」は「人民元の先安感」を更に強化します。トランプ氏が正式に大統領に就任して以降、「中国資金流出阻止攻防戦」(と裏側で進む「急激な人民元安を避けたい一方外貨準備の急減も避けたい中国当局の神経戦」)は第二ラウンドに入り、まだしばらくは「熾烈な攻防戦」が継続するのだと思います。

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