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2017年1月28日 (土)

春節の中国人訪日客と中国国内旅行者

 今日(2017年1月28日)は、春節(旧正月)の元旦です。中国は長期連休中なので、日本各地で中国人訪日客を目にする機会も多いと思います。円高是正に伴って、中国から日本への訪問客は急増していますけど、この機会に中国国内の中国人国内観光客の多さについても想像をたくましくしてみてはいかがかと思います。

 中国の観光地に行かれたことのある方はよく御存じだと思いますが、中国の観光地にはもちろん外国人観光客もいますけど、中国人国内観光客が相当数います。「どこも混雑しているなぁ」という感想を持った方も多いと思います。

 春節と言えば、私が一番最初に中国へ行ったのは1983年2月の春節の時期でした。仕事の出張で行ったのですが、なぜこの時期に出張するようなスケジュール調整になったのか記憶にないのですが、中国側は春節休みを返上して我々訪中チームのために対応してくれた記憶があります。春節は中国人にとって一年で最も重要な時期ですが、1980年代前半は、「外資系企業によって沿岸部に建設された工場で働く農民工」もまだいなかったし、「農民工が数多く働く都会のビル建設現場」もありませんでした。中国の人々は基本的に自分が住んでいるところで働いていたので、「大学生が帰郷する」「都会で働く人が田舎の両親の元に帰る」といったケースはもちろんありましたが、中国国内を億人単位の旅行者が大移動する、という雰囲気ではなかったように記憶しています。

 「中国人の国内旅行」として私が強烈に印象に残っているのは、2007年5月1日に北京の故宮博物館に行った時のことです。メーデー連休の最中なので、故宮博物館は大混雑でしたが、そのほとんどは中国人の国内旅行客でした。混雑ぶりは、ちょうど日本で言えば「大晦日の仲見世」とか「元日の初詣客でにぎわう明治神宮」といった雰囲気で、何かにつまづいて転ぶと後ろから押し寄せる人並みで押しつぶされそうな、生命の危険を感じるほどの混雑ぶりでした。この日はあまりに混雑がひどいので、故宮に入るのはあきらめたのでした。

 1980年代、私は北京駐在中に日本からの出張者へのつきあいなどで故宮博物館には40回近く行っていますが、「生命の危険を感じるほどの混雑」を経験したことはありませんでした。1980年代を通じて、中国人民は急速に豊かになりましたが、多くの人々は増えた収入でカラーテレビを買ったり冷蔵庫を買ったりしましたが、休みの期間に中国国内に旅行に出掛けるほど生活の余裕のある人はあまり多くはなかったのです。しかし、2000年代も後半になると、かなり内陸に住んでいる人でも一定以上の収入が得られるようになり、生活必需品や食べ物の不自由はなくなって、「今度の連休には北京に旅行しようか」と考える人が増えたのです。中国政府も旅行業の発展は各地方の経済発展にも繋がるので、観光業の発展は奨励していましたので、中国人の国内旅行客数は急速に増加しました。このため、私が駐在していた2007~2009年頃は、一定以上の収入のある人の中には「中国国内の観光地は、どこへ行ってもすごい混雑なので、ちょっとイヤだなぁ」と考える人が多かったようです。

 2013年以降、それまでの「超円高」が是正され始めると、「中国国内の観光地は混雑しているのでイヤだ」と考えている一定数の余裕のある中国の人々は日本を訪問するようになりました。彼らは「中国国内の観光客で混雑している中国国内の観光地から押し出されて日本に来た」と見ることもできます。従って、日本を訪問する観光客の数十倍(あるいは数百倍?)の人数の中国人観光客が中国国内の観光地を訪問していると考えることも可能です(ちなみに中国国家発展改革委員会の推計によると今年(2017年)の春節期間の旅客数(人数×回数)は29億7,800万人次だそうです。これは半端な数ではありません)。

 今年の春節に関しては、中国中央電視台の夜のニュース「新聞聯播」では各高速道路の渋滞の状況などを伝えていました。1983年の春節の北京を知っている私としては、隔世の感があります。

 中国政府の政策にはいろいろな批判もありますが、多数の中国人民を「食べるのがやっと」の状態から、「テレビや冷蔵庫が買える状況」に変え、さらに「たまには国内旅行をしようか。」という人々を増やし、中には「国内は混雑しているので外国に観光旅行に行こう」と考える人々を大量に生み出した、という点では、それなりに評価されるのではないか、と思います。別の言い方をすれば、そういう「生活の向上」があるからこそ、中国人民は中国政府のやり方にいろいろ不満はあるけれども、それが爆発するところまでは圧力が高まっているわけではない、と言えます。

 昨今の中国からの資金流出懸念を踏まえて、中国当局は、年間一人当たり5万ドルの外貨兌換枠について、外貨購入手続きを厳格化はしましたが、5万ドルの金額枠自体を減額することはしませんでした。特に経済的に重要な役割を果たしている富裕層の人々が持っている「休みには日本など外国へ旅行がしたい」という願望を押しつぶすわけにはいかなかったからだと思います。

(注)日本では前の東京オリンピックがあった1964年に海外旅行が自由化されましたが、この時の外貨持ち出し制限は一人当たり500ドル(当時は1ドル=360円)でした。

 改革開放後の約40年間、中国の人々は「食べるのがやっと」→「電化製品を買えるようになった」→「時々(まずは国内へ、余裕が出れば外国へ)旅行に行けるようになった」という生活の向上を経験してきました。今、中国経済は、ひとつの「踊り場」に来ています。人々の生活が今までと同じようなスピードで向上し続けることができなくなった場合(そして例えば物価だけが上昇するようになった場合)、中国人民の大きなエネルギーはどこへ向かうのか、を考えることは、これからの中国を考える上での極めて重要になると思います。

 この春節期間中、日本におられる方々も中国人訪日客のエネルギーを感じる機会が多いと思いますが、その機会にそのエネルギーの数十倍(あるいは数百倍?)のエネルギーを持った旅行客が中国国内を移動していることを想像して、今後中国がどう動くのか、それに対して日本はどう対応していくべきなのか、考えてみるのもよろしいかと思います。

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