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2016年12月18日 (日)

中国不動産バブルに関する中央経済工作会議の議論

 12月14日(水)~16日(金)、中国の中央経済工作会議が開かれました。中央経済工作会議は、毎年12月に翌年の経済政策について議論する重要な会議ですが、今年は「不動産バブルのリスクの防止」が大きな柱のひとつでした(12月17日(土)付け日本経済新聞朝刊8面記事「不動産バブル抑制 前面に 党大会にらみ安定優先 中国、来年の経済運営」参照)。

 中国の不動産バブルの危険性については、もう十年以上も言われ続けて来ていますが、今回経済政策を議論する中国の最高ランクの会議である「中央経済工作会議」で主要議題として議論されたことは、それだけ「不動産バブル」の問題が緊急を要する重要な問題だからでしょう。

 住宅の問題については、去年(2015年)暮の中央経済工作会議でも議論されました。この去年の中央経済工作会議では、2.5億人に上る都市部で働く農村戸籍の労働者(いわゆる「農民工」)を中小都市に誘導して都市戸籍を与えることにより、過剰な住宅不動産在庫を解消させよう、という方向性が議論されました(このブログの2015年12月26日付け記事「中国の『露骨』だけど『素直で正直な』新しい住宅政策」参照)。今年(2016年)の中央経済工作会議では、もっと露骨に「不動産バブルのリスクの防止」について議論されているわけですが、それは、去年の中央経済工作会議で議論した方策があまりうまく進んでいないことを意味していると言えます(今の中国のマンション価格と「農民工」の収入を考えたら、「農民工」にマンションを買わせること自体に無理があることは最初からわかっていることだと思うのですが)。

 現在の中国の不動産バブルの状況を大まかに言うと以下のとおりです。

○大量の「住宅在庫」が存在する(2015年末の段階で建設中のものも含めて21億平方メートル(約6,300万人分)の在庫があり、2016年11月末で(おそらく建設中のものは含まない数字で)6億9,095万平方メートル(約2,000万人分)の在庫がある(いずれも中国中央電視台夜7時のニュース「新聞聯播」での報道による)。

○大都市(北京、上海、広州、深センなど)での住宅価格は急騰している一方、中小都市(中国語では「三四線城市」)では在庫が積み上がっている。

※この問題については、今年10月30日に放送されたNHKスペシャル「巨龍中国 1億大移動 流転する農民工」で、河南省許昌市ではマンションは建っているものの、ほとんど人が住んでいない様子が紹介されていました(このブログの2016年11月6日付け記事「中国の新型都市化計画と農地三権改革」参照)。また、昨日(2016年12月17日)付け「人民日報」1面トップ記事として掲載されいている中央経済工作会議の内容について伝える記事でも「中小都市(中国語で「三四線城市」)の不動産在庫過多の問題を重点的に解決しなければならない」としています。

○マンションを自分が住むためではなく、投資目的で購入する人が多い。

※昨年12月26日付け記事「中国の『露骨』だけど『素直で正直な』新しい住宅政策」で書いたように、2015年12月25日の「新聞聯播」の報道によれば、中国社会科学院の「社会青書」では、都市部住民の91.2%は自分の住宅を所有しているが、一方で19.7%は二件以上の住宅を所有しているとのことです。この件に関し、今回の中央経済工作会議の内容を伝える「人民日報」の記事では、「『住宅は住むためのものであり、投機目的で売り買いするためのものではない』との考え方を堅持する必要がある」としています。

(参考)「住宅は住むためのものであり、投機目的で売り買いするためのものではない」の部分は、中国語では「房子是用来住的、不是用来炒的」です。中国語のわかる人なら、人民日報の超まじめな記事にこうした用語が出てくると「笑っちゃう」と思います。「炒(chao)」は、中華鍋で「炒飯」(chaofan:チャーハン)を炒めるように株やマンションを「売ったり買ったりする」意味の俗語的表現だからです。

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 「人民日報」の記事によれば、中央経済工作会議では、不動産市場について、「我が国の国情に符合し市場に適応した規律的基礎的制度と長期間有効なシステムを急いで検討して確立し、不動産バブルを抑制し、価格の暴騰や暴落の出現を防がなければならない」としています。私が北京に二度目の駐在をしていた2007~2009年頃にもマンション・バブルに対する懸念はありましたが、党や政府の公式な文書で露骨に「バブル」だの「崩壊」だのの文字を見ることはなかったのですが、今回の(2016年の)中央経済工作会議では、相当に「素直に」問題を表現しているようです。それだけ喫緊に対応せざるを得ない問題であると認識されているのでしょう。また「長期間有効なシステム」について言及していることは、今までの対策の多くは「短期間しか効かない」「場当たり的な」対策だったことを中国共産党自身が認めている、と読むことも可能でしょう。

 今回の中央経済工作会議で、不動産市場の安定的発展のために、対策として掲げられているのは以下のような点です。

○自分で住む住居の購入を支持する金融政策を採り、投資性・投機性住宅購入に対する貸出は厳格に制限する。

○人口流動状況に基づいた建設用地の分配を行う。

○地方政府の主体的責任において、不動産価格の上昇圧力の強い都市においては、都市の遊休土地を利用するなど、住宅用地の供給を増加させる。

○大都市の機能移転を促進し、周辺の中小都市の発展を促す。

○賃貸住宅市場に関する立法を加速し、住宅賃貸企業の発展を加速させる。

 これらの政策の一部は、私には「マンション価格が暴騰しないようにマンションをもっとたくさん作れ」と言っているように見えて、不動産バブル対策としては全然対策になっていないように思えます。

 そもそも中国には、日本の固定資産税や相続税に相当する制度がないので、多くの人が自分の資産保全の一環としてマンションを買います。なので、固定資産税、相続税導入の議論があってもよさそうですが、たぶんそれは無理でしょう。固定資産税や相続税の議論を始めた途端、多くの人がマンションを売ろうとして、それこそそれが切っ掛けとなってマンション・バブルが崩壊してしまうかもしれないからです(多くの人はマンションを売って、中国国外に資産を移すでしょう)。また、中国共産党の党員自身が多くの不動産を所有しているわけですが、固定資産税や相続税など中国共産党党員自身の負担を強いることになる制度を中国共産党が決めることはまずできないと思います。

 一方、12月15日付け日本経済新聞朝刊6面の記事「中国、不動産バブル抑制へ 人民銀、金融引き締め」によると、中国人民銀行は、不動産バブルを抑制するため、不動産向け融資の増加ペースを抑えるよう銀行に指導した、とのことです。最近の新規融資の7~8割が住宅ローンで、これが大都市の不動産バブルに繋がっているので、これを抑える狙いがある、とのことです。ただ、住宅ローンの貸出を絞ると、マンションの売れ行きが抑制され、在庫のマンションも減らなくなります。また、この方針は、上記に示すような中央経済工作会議で決まった「価格が高騰する都市では建設用地の供給を増やせ」との方針とは矛盾します。「全国ベースでは大量の在庫が存在する中で、一部の大都市では異常な値上がりが続く状態」である現在の中国の不動産市場をうまくコントロールすることは、既に相当に難しい状況になっているのだと思います。

 なお、不動産バブルに関しては、非常に興味深い記事が12月12日付けの「人民日報」に掲載されていました。12月12日(月)付けの「人民日報」19面に掲載されていた「マンション市場には『崩壊』のリスクは存在しない」というタイトルの不動産企業最大手の万科の総裁である都亮氏に対するインタビュー記事です。「人民日報」では、党や政府で議論される重要な課題について、前もって記事にするケースがよくあるのですが、この記事も、14日~16日の中央経済工作会議で不動産バブル問題が議論されることに関して前もって記事にされたものだと思われます。

 この記事は、実際の不動産売買をやっている万科企業の総裁の発言だけに、現在の中国の不動産市場の状況の一面をよく表していると私は思いました。

 このインタビュー記事の中で、都亮総裁は「今後一年以内に、全国の住宅の契約量は大幅に減少する可能性がある。これまでマンション価格が上昇してきた都市においても、価格が下落する可能性がある」と述べる一方、市場が「崩壊」するリスクは我が国には存在しない、と述べています。

 さらに、都亮総裁は、この記事で以下のようにも言っています。

「人口の集まり方の変化に伴い、都市間のマンション市場の違いが加速している。北京、上海、広州、深セン以外にも、上昇傾向にある都市として合肥、鄭州、武漢など一部の高速鉄道が開通した省都(省政府がある都市)が出てきている。それに反して、長春、瀋陽、大連、唐山などの都市は、万科においても在庫圧力が比較的大きくなっている。一部の小都市(中国語で「四、五線城市」)では、売れない期間が3年~10年のマンションもある。金がないのではない。買う人がいないのだ。」

 この記事は中国共産党機関紙「人民日報」の記事(=中国政府にとって都合の悪いことは書かないはず)であり、この中で万科企業総裁の都亮氏は「マンション・バブル崩壊のリスクは存在しない」と言っているのにも関わらず、私はこの記事は「相当にコワイ」と感じました。「在庫が多くなっている都市」の具体名が出ているし、「10年売れていないマンション」なんて資産価値は相当下がっていると思われるからです。12月12日(月)の上海株式市場の上海総合指数は2%以上下落しましたが、この下落は、この記事にある万科の都亮総裁の発言によって不動産株が下落したのも一因、という見方を伝えた報道もありました。

 2017年後半には第19回中国共産党全国代表大会が開かれます。中国共産党は、党大会が開かれるまではなんとかして不動産バブルが崩壊することを避けるように様々な方策を採ってくると思いますが、逆に党大会までバブル崩壊を防げたとしても、党大会が終わった後どうなるか相当に心配です。2017年は、春に香港の行政長官選挙があって香港政治が混乱する可能性もあるし、アメリカのトランプ新大統領が中国に対してどう出てくるか全くわからないし、来年(2017年)の中国経済は相当に大変なことになることは覚悟しなければならないと私は思っています(それなのに今、日米の株式市場は「トランプ・ラリー」と称してユーフォリア(根拠のない幸福感)状態ですが、これはかなりヤバイと私は思っています)。

P.S.

 アメリカ財務省によると、今年(2016年)10月末時点のアメリカ国債の保有額は、中国が大幅に減って二位となり、減少額が少なかった日本が一位になったとのことです(2016年12月17日(土)付け日本経済新聞朝刊8面記事「米国債保有2位に 中国、為替介入で大幅減少」参照)。この記事では、中国が保有するアメリカ国債を減らしたのは外貨準備として保有していたアメリカ国債を売却してドル売り・人民元買いの為替介入をやったからだ、としています。11月末の中国の外貨準備は大幅に減少していることから、11月も中国はアメリカ国債を大量に売却した可能性があります。ということは、昨今のアメリカ国債の金利の上昇(それによってドル高・円安が進んでいる)の原因のひとつとして中国のアメリカ国債の売却がある可能性があります。そうだとすると、アメリカ国債の金利上昇(とそれに伴うドル高・円安)の一部は、経済の基礎条件(ファンダメンタルズ)に基づくわけではない可能性があります。それを考えても現在の「トランプ・ラリー」と称する現象は要注意だと思います。

 このブログの11月19日付け記事「『トランプ相場』が中国経済に与える影響」で以下のように書きました。

 「もし、仮に『中国がアメリカ国債を売っている』という事実が判明したら、それは『中国当局が損得を考える以上に人民元安を食い止める為替介入の方が重要だと考えている(それだけ人民元安圧力(=資金流出圧力)が強い)』ことを示すことになるので、コトは重大だと思います。」

 既に現時点で「コトは重大」になっているのかもしれません。

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