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2016年12月24日 (土)

中国からの資金流出と財産保護に対する信頼感

 ここのところ、中国の通貨人民元の継続的な下落と外貨準備の減少、中国国債の金利上昇(価格の低下)を見て、マスコミでも複数の経済専門家が中国におけるトリプル安(株安、通貨安、債券安)や中国からの資金流出のリスクについて強く指摘しています(例:2016年12月20日(火)放送の日経CNBC「昼エクスプレス」における岡崎良介コメンテーター、12月22日(木)放送のテレビ東京「Newsモーニング・サテライト」におけるニッセイ基礎研究所の矢嶋康次氏)。

 一方、たまたまですが、昨日(2016年12月23日(金))付けの日本経済新聞朝刊には、以下の三つの記事が載っていました。

○1面「中国事業2300億円で売却 米マクドナルド CITICなどに」

○15面「農業・乳業 中国で売却 アサヒ、保有資産見直し 十数億円」

○11面「ソニー、工員ストを金銭解決 『供給維持へ現実策』 争議不可避・市場は魅力 中国法人トップに聞く」

 三番目のソニーの件は、広州にある工場を中国企業に売却するにあたって、雇用は守られるにもかかわらず従業員がストを起こしたのだが、それをどのように解決したのか、という話です。上記の三件とも、中国でのビジネスをやめるわけではなく、中国とのビジネス関係は維持しつつ、中国に投下した資本を中国の企業に売却するというものです。各企業の「中国でのビジネスは魅力的だが、中国に巨額の資本を置いておくというリスクは避けたい」という考え方が反映しているように思えます。

 私は、1986年10月~1988年9月と2007年4月~2009年7月の二回北京駐在を経験しています。一回目の駐在の頃、日本や欧米の各企業は、中国への投資開始を真剣に検討していました。またこの頃「話のネタ」として開店したばかりのケンタッキー・フライド・チキンの北京一号店(和平門店)に行った時のことを思い出します(この時点では、マクドナルド・ハンバーガーはまだ北京に進出していなかった)。また、二回目の駐在の時には、北京日本商工会の会議などで中国の拡大する中間所得層を狙った日本の食品メーカーの中国進出の話をよく聞きました。それを考えると、上記のような日米企業の中国からの「資本引き上げ」に関するニュースには時代の流れを強く感じます。たぶん今、中国経済の動く方向性を示す針が大きな音を立てて方向転換をしつつあるのだと思います。

 この「中国経済の方向性の大転換」については、中国企業や中国の人々自身が感じていると思います。昨今、中国企業による外国企業の買収案件をよく聞くのも、中国企業自身が資金を中国国内に置いておくより外国に持っていた方が安心だと考えているからでしょう。最近の報道によると、インターネット上の仮想通貨であるビットコインの取引が急増しており、その取引の9割を中国が占める、とのことです。中国は資本規制が厳しいので、あの手、この手で資金を海外に持ち出そうとしている人が多いようです。

 中国は一昨年(2015年)6月をピークにした「株バブル崩壊」を経験しました。日本では、1989年末をピークとする「株バブル崩壊」のあと、1991年頃をピークとする「土地バブルの崩壊」を経験しました。日本の経験を踏まえて、「上海株バブル崩壊」の二年後の来年(2017年)、中国で「不動産バブル崩壊」があるのではないか、と見る人もいるようです。しかし、日本のバブル崩壊時期においては「日本からの資金流出」といった状況は起きておらず、日本のバブル期を現在の中国の状況にそのまま当てはめて理解することには無理があると思います。

 そもそも中国においては、毛沢東時代の共産主義の理想社会においては「財産は公有」が原則でしたから、私有財産権に関する社会通念自体がまだ「建設途上」です。中国でもマンションの売買は行われていますが、土地について売買されているのは「土地使用権」です(土地の所有権は国または村などの集団にある)。また建物等の物件について法律上明記した「物件法」が制定されたのは2007年でした。中国共産党中央と国務院は、先月(2016年11月4日)、「財産権保護を確立し法に基づいて財産権を保護することに関する意見」を提出しています。個々人の権利関係の基本となる「民法総則草案」については、2016年12月現在、全人代常務委員会で議論中です。明治31年(1898年)に民法が施行され既に120年近くが経過して様々な判例も確立している日本と現在の中国とを単純に比較することはできないと思います。

 土地に関する権利関係も中国においては「発展途上(つまりまだ揺れ動いていて定まっていない)」です。農地に関しては、1978年の改革開放政策の導入以降、所有権は村などの集団にあるのもの「農業生産請負権」は各農民にある、とされてきました。それに加えて、最近の「農業三権改革」により、「農業生産請負権」は「請負権」と「生産権」の二つに分離され、それぞれ別個に貸し出したり、譲渡したり、担保としたりすることができる、とされるようになりました。また、ごく最近、20年の期限付きの「土地使用権」について、手続きなし、延長費用なしで、期限延長が認められたことが中国の新聞で報じられました。マンションが高額で売買される一方で、土地に関する権利関係がその時の政策によっていろいろ変わることが現在の中国では起こりうるのです。中国共産党中央と国務院が先月「財産権保護を確立し法に基づいて財産権を保護することに関する意見」を出したのも、土地を含めた権利関係が今後揺れ動くのではないか、という中国人民の不安感を払拭する狙いがあったものと思われます。

 日本のバブル崩壊期には「日本からの資金流出懸念」はなかったのに、現在の中国において「中国からの資金流出懸念」があるのは、中国国内における「財産権の保護」に関して、外国企業や外国人のみならず中国企業や中国人自身が中国政府(=中国共産党)の政策に信頼を置いていないからだ、と見ることもできます。中国からの資金流出が中国の社会経済に大きな打撃を与えないようにするためには、適切な金融政策のほかにも「中国国内でも財産はきちんと保護されるという中国人・中国企業自身による信頼感が確立されること」が非常に重要だと思います。

(注)中国共産党が革命の過程で、大土地所有者から農地を没収し、資本家から工場や機械設備を没収し、都市部の中小商店から所有権を没収した(ただし営業継続は許可した)のは「共産主義革命」なのですから「当然」だとは言えます。しかし、大土地所有者から貧農に分け与えられた農地は、1949年の中華人民共和国建国後、「農業の社会主義化」の過程で再び農民から召し上げられ公有化されました。その後、1978年の改革開放後には「農業生産請負権は各農民にある」とされましたが、土地開発計画が持ち上がった地方では、一定の補償金を支払った上で農民は農地から追い出されました。「財産権の保護」に関して言えば、中国政府(=中国共産党)は、日本等他の国の政府に比べて自国民・自国企業に圧倒的に信頼されていない、というのが私の印象です(そしてそれこそが中国経済の最大の弱点だと私は思っています)。

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