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2016年11月26日 (土)

中国の「地方政府の債務リスク応急処置事前対策」

 「人民日報」は2016年11月15日付け紙面の2面で、この日の数日前に国務院弁公庁が発した「地方政府の債務リスク応急処置事前対策」について解説をしています。

 私はパッと読んで「こういうケースの問題が起きた時にはこのように対処する」というような明確なイメージがさっぱり湧かないのですが、「地方政府の債券は、地方政府が法に基づいてその全ての償還責任を負う」とありますので、「地方政府は借金でクビが回らなくなったからと言って、中央政府を頼ってはいけないぞ」と言っているのだろう、ということはわかります。本当はそんなことは改めて国務院弁公庁の文書で明記されなくても「当たり前」だと思うんですけどね。

 このタイミングでこのような文書が出されたのは、実際に地方政府の債務リスク問題の具体的案件が発生する可能性があると中国政府自身が認識している(具体例の発生リスクが結構差し迫って高まってきている)ことを示している点で重要だと私は思います。

 この件を含め、中国の地方政府の借金については、日本経済新聞が11月23日付け朝刊6面の記事「中国『隠れ借金』拡大 地方政府、債券発行27兆円 中央政府管理強化へ」と題する記事で解説しています。

 中国の地方政府の債務問題については、かなり前から問題視されて来ました(例えば、ニューズウィーク日本語版2012年10月18日付け記事「不良債権 中国金融が抱える時限爆弾」参照)。地方政府自身による債券発行が認められていなかった時期にも「融資平台」と呼ばれる組織を作ってそこが借入を行う形にした「借金」が多額に上ったりしていたからです。2013年6月頃に「影の銀行」「理財商品」などの問題がクローズアップされた時など何回も「どうやって解決するのか」との懸念が持ち上がったのですが、そのたびに様々な形での借り換え等によって「解決されたように見える」状態が続いています(私は単に先延ばししているだけで、全然解決されていない、と思っていますが)。

 中国の地方政府は、「土地は公有」という社会主義体制の「特色」を活かして、一定の補償金と引き替えに農民から土地を収用して開発業者に売ることで多くの収入を得てきました。なので恒常的な税収基盤は脆弱であり、中国の地方政府が全ての借金を返済することはできないだろうと思っています。だとすると将来起こり得る事態は次のいずれかだと思っています。

○金融危機:借金を返せなくなった地方政府が出てきた場合、そこへ資金を提供していた銀行が破綻したり、「理財商品」等の形で間接的に投資していた一般市民が損害を被る。

○中央政府による肩代わり:最終的には人民元の発行主体である中国人民銀行が破綻した地方政府の借金の肩代わりをする。これは借金返済を通じた一種の「ヘリコプター・マネー政策」になるので、これが乱発されると、人民元は暴落し、中国国内は強烈なインフレに襲われる。

 日本銀行は既に大量の日本国債を購入しているのだから中央銀行が中央政府の借金を実質的に肩代わりしている日本の方が中国より既に「タチの悪い状態」になっているのだ、との考え方もありますが、日本政府の場合、税収と支出の状況はハッキリしており、税金をいくら上げて、支出をいくら切り詰めれば状況は改善する、という計算をすることはできます。しかし、中国の地方政府の場合、「公有の土地を売って収入を得る」ことに代替できるほどに今後税収を上げることができるとはとても考えられず、借金を返せるメドはどうやっても立たない、と私は見ています。

 世界の多くの人は「中国共産党ならなんとかやってくれるはず」と思っているのでしょうが、たぶん誰も(中国共産党自身も)「どうすれば『なんとかなる』のか」はわかっていないと思います。アメリカのトランプ次期大統領は「中国製品に45%の関税を掛ける」などと勇ましいことを言っていますが、中国経済が破綻したら全世界が困ります。世界は、もっとこの「中国の地方政府の債務リスク」を強く認識して、遠慮しないで中国共産党に言うべきことは言って、協力すべきことは協力して、地方政府の債務リスクの累積が破滅的な結果を招かないような方策を探る必要があると思います。

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