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2016年10月 1日 (土)

習近平主席と李克強総理の「抗争」いまだ結論見えず

 今回も中国の習近平主席と李克強総理の「主導権争い」について書きます。というのは、中国共産党のトップ2の二人の「抗争」は、その結論によっては極めて重大な変化をもたらすことを中華人民共和国の歴史は教えてくれるからです。

 古くは1960年代初期の毛沢東中国共産党主席と劉少奇国家主席の路線の争いは、1966年からの文化大革命を招きました(劉少奇にしてみれば、毛沢東と「争っている」という認識はなかったかもしれませんが、結果的に劉少奇は不遇の死を迎えることになりました)。

 1978年~1981年の華国鋒中国共産党主席とトウ小平氏の「主導権争い」(トウ小平氏側から言わせれば「すべて派」との争い)は、1981年6月、華国鋒氏が党主席を平和的に辞任することでトウ小平氏側の勝利となり、現在の「改革開放路線」が確定しました(華国鋒氏は2008年8月に死去。葬儀は「党への功績者」として敬意を持って執り行われました)。

 1987年の党大会で総書記になった趙紫陽氏と翌年3月の全人代で国務院総理になった李鵬氏とは、「改革派」と「保守派」として対立していたようです。ただ、私は当時北京に駐在していましたが、二人の対立は表立って目に見えるようなものではありませんでした。結局は、二人の対立は1989年4月に始まった「第二次天安門事件(六四天安門事件)」の運動に対する対処方法の対立となり、結局は趙紫陽総書記の辞任と人民解放軍による武力鎮圧で終わりました。趙紫陽氏は、その後、軟禁状態となり、2005年に失意のうちに死去しました。現時点においても趙紫陽氏は名誉回復がなされていません。

 何回も書きますが、習近平主席と李克強総理の「抗争」は、上記の三つの例とは異なり、「誰の目からも明らか」なことです。それだけに、上記三つの例とは異なり、それほど深刻なものではなく、単なる政策路線の違いであって、どの国のどの党の内部にもある一種の「派閥争い」に過ぎない、という見方もできます。ただ、「中国共産党はトップ(昔は主席、現在は総書記)を中心に団結している」という「タテマエ」が長く続いてきているだけに、あからさまなトップ二人の「主導権争い」を見せつけられると、諸外国のみならず、中国人民自身が相当程度とまどっていると思います。

 中国共産党の中国人民に対する「広告塔」である中国中央電視台夜7時のニュース「新聞聯播」は今週も、はからずも習近平主席と李克強総理の「抗争ぶり」を全国の中国人民に知らせる役割を果たしていました。今週の「新聞聯播」の報道ぶりを以下にまとめてみます。

○2016年9月27日(火):トップニュースは、中国共産党政治局会議が開かれ、六中全会(中央委員会第6回全体会議)を10月24~27日に北京で開催することを決定し、六中全会で議論する党内規律の厳格化について議論されたことでした。二番目のニュースはキューバ訪問中の李克強総理が9月25日夜キューバ政府の首脳とともに劇場に赴き「演芸の夕べ」を楽しんだことでした。私は、このニュースの伝え方を見て、率直に「李克強氏は中国共産党の議論の中心からはずされた」との印象を受けました。

○9月28日(水):トップニュースは27日に開かれた中国共産党幹部による「集体学習会」で習近平総書記が「重要講話」したことでした。この「集体学習会」の様子は映像で紹介され、習近平総書記のほか、政治局常務委員の兪正声氏、劉雲山氏、王岐山氏、張高麗氏が映っていました。つまり、政治局常務委員のうち李克強総理と張徳江氏はこの場にはいないことが明示的に示されたわけです。この日、李克強総理はキューバにおり、張徳江氏も外国訪問中でしたので、この場にいないのは当然なのですが、この種の「集体学習会」は通常政治局会議と同じ日に開催されるので、この映像は「李克強氏と張徳江氏は政治局常務委員ではあるが党政治局会議は欠席した」と中国全人民に伝える意味があったと判断できます。この日、李克強総理が28日午後に北京に戻ったことが報じられましたので、27日の政治局会議に李克強総理が出席していなかったことが確認されました。

○9月29日(木):トップニュースは、この日午前、「『胡錦濤文選』を学習する報告会」が開かれ、習近平総書記が「重要講話」を行ったことでした。この報告会には、党政治局常務委員7名がすべて出席し、李克強氏が司会を務めた、とのことでした。胡錦濤前主席は、李克強氏と同じ中国共産主義青年団(共青団)出身なので、この報告会は、胡錦濤氏を讃えることで共青団出身者(団派)を重要視していることを示す会であった、と言えます。一方で「胡錦濤文選」を讃えることで「胡錦濤前主席はもう過去の人物なのだ」という印象を与える効果もあったと思います。この報告会のニュースは、李克強氏が司会をし、習近平総書記が「重要講話」を行い、政治局常務委員全員が出席している様子を映像として伝えることで、中国人民に「党中央はみんな団結していますよ」というメッセージを送りたかったんだろうなぁ、と私は感じました。

○9月30日(金):トップニュースは習近平総書記をはじめ政治局常務委員全員が天安門広場にある人民英雄記念碑に花輪を捧げる行事が行われたことでした。この行事は、毎年国慶節(10月1日)の前日に行われるもので、特段、例年との違いは感じませんでした。二番目のニュースは、これも毎年恒例の行事ですが、国慶節を前にして行われる各界代表者(外国の大使等も含む)を招いて開く国務院主催のレセプションの様子でした。これにも政治局常務委員は全員参加していますが、国務院主催なので、挨拶は国務院総理の李克強総理でした。国慶節の御祝いの宴会なんですから、習近平主席もにこやかな表情を見せてもよいところですが、李克強総理が挨拶をしている間、習近平主席は無表情(私の印象では不機嫌な表情)でした。

 この次のニュースは、中国を訪問しているベラルーシの大統領と李克強総理との会談のニュースでした(ベラルーシの大統領は、前日に習近平主席や張徳江全人代常務委員長と会談しています)。

 次のニュースは、国慶節レセプションに際して、李克強総理が宴会に参加した新任の各国大使を一人づつ迎えて言葉を交わすシーンでした。この宴会は国務院主催なのですから、国務院総理の李克強氏が参加者の各国大使を一人づつ迎えて挨拶するのは別におかしくはないのですが、映像のイメージは、新任の各国大使から信任状を受け取るセレモニーと全く同じです。新任大使からの信任状の受け取りは国家主席である習近平氏の仕事であり、実際、習近平主席による新任大使からの新任状受け取りは「新聞聯播」でもしょっちゅう報じられます。なので、この李克強氏による新任大使一人一人との挨拶を見ていると、まるで李克強氏が国家主席であるかのように見えるので、私は「李克強総理は明らかに習近平主席と張り合っているなぁ」との印象を受けました。

 その次のニュースは、中国との友好関係強化に貢献した外国人に与えられる「中国政府友誼賞」の授与についてでした。このニュースでは、李克強総理が中国政府を代表して受賞者の外国人と懇談し記念撮影をする様子が報じられました(習近平主席はこのニュースには登場しません)。これら一連のニュースを見ていると「やっぱり中国政府代表は(習近平主席ではなく)李克強総理だよね」という印象を持ってしまいます。

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 ということで、9月27日の党政治局会議に李克強総理が出席しなかった時点で、李克強氏は党の議論や決定から完全に「はずされた」と私は思ったのですが、一昨日(9月29日)と昨日(9月30日)の「新聞聯播」を見ると、李克強氏は党中央から「はずされた」などということは全くない、というふうに見えてしまいます。

 そもそも9月28日に李克強氏が帰国することがわかっていながら、なぜ9月27日に政治局会議が開かれたのか、が全くナゾです。この日程の組み方は、「李克強氏は党中央の意志決定からはずされた」ことを意味するのか、そうでなければ「今回の党政治局会議は党のナンバー2の李克強氏やナンバー3の張徳江氏が欠席でも構わない程度のそれほど重要性の高くない会議なのだ」ということを意味するのか、のどちらかです。ただどちらをとっても、中国人民には「今の党中央は政治局が全体で一致団結して党内規律の問題を議論する六中全会を開こうとしているわけではない」という印象しか残らなかったのではないでしょうか。

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 今日(10月1日)から中国は国慶節の連休なので、10月の最初の一週間は中国に関しては、何も動きはないと思います。ただ、休み明け、以下の二つの点については、どう動くか注意しておいた方がよいと思います。

○今日(2016年10月1日)、人民元がSDR(IMFの特別引き出し権対象通貨)入りしました。SDR入りを前にして、急激な人民元安が進まないように、中国人民銀行は為替を安定させるように介入を行っていた模様です(9月30日付け日本経済新聞夕刊5面コラム「アジア・ラウンドアップ」「中国『国際通貨』でもやまぬ流出」参照)。中国経済の先行き不安、アメリカの追加利上げ観測などを踏まえて、中国国内からの資金流出圧力は依然として強いと考えられます。人民元のSDR入りを通過した後に中国当局による為替介入が弱まると、ジリジリと人民元安が進む可能性があります(去年(2015年)8月の状況を思い出せばわかるように、人民元安が急激に進むと、世界同時株安が発生する可能性があります)。

○マンション販売業者による国慶節期間の販売促進が不動産価格の急騰を招くおそれがあったことから、いくつかの中国の地方政府は今日(10月1日)からマンション購入時の頭金割合規制を強化するなどの対策を導入しました。9月中はそれを前にした「マンションの駆け込み購入」もあったようです。中国政府の価格急騰対策が効きすぎると、中国の不動産価格は今がピークとなり、これから下落に転じる可能性があります。上に書いたように、経済全体で資金流出懸念が強い中、不動産バブルも崩壊するとなると、人民元安と不動産価格の下落がお互いに共鳴して加速させ合うことになる可能性もあることには注意が必要だと思います。

 私は、習近平主席と李克強総理の「抗争」が実際に経済政策にマイナスの影響を与える可能性があるならば、それを察知した「事情通」は既に今の時点で株を売り始めるだろうから、上海の株価を見ていれば、「本当に危ないかどうか」はわかるだろうと思っていました。ところが、国慶節前の上海の株価は、あまり動かず、連休前日の昨日(9月30日(金))は、3,004.703で引けました。心理的節目の3,000ポイントをわずかに上回った値で引けたことについて「うまくできすぎているよなぁ」というのが私の正直な印象です。

 「オモテ」に見えている習近平主席と李克強総理の「不仲さ加減」は、たぶん表面的なものであろうと思う一方、毎日「新聞聯播」を見るたびに「やっぱり不仲なんだ」「でもどうやら大丈夫そうだ」と見方がコロコロ変わるような状況は、やはり「正常」ではないと思います。アメリカの民主党クリントン氏と共和党トランプ氏による大統領選挙も世界経済の不安定要因だとは思いますが、やはりこの秋は中国の政治と経済の状況が最も大きな世界経済の不安要素だと私は思っています。

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