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2016年10月22日 (土)

「神舟十一号」打ち上げ時に習近平主席は外国訪問中

 中国の有人宇宙船「神舟十一号」が2016年10月17日に打ち上げられました。中国としては、六回目の有人宇宙船の打ち上げです。今回は、既に打ち上げられていた無人の実験室「天宮二号」とドッキングして、宇宙飛行士が30日間宇宙空間に滞在して、将来の中国版宇宙ステーション完成に向けての様々な実験等を行うことになっています。

 今回は中国にとって六回目の有人宇宙飛行であり、最初の頃に比べると注目度は低くなっているかもしれませんが、それでも有人宇宙飛行は中国にとって二年に一度程度の国家的大イベントです。ですが、今回の「神舟十一号」の場合、最終的に打ち上げを発表した日(10月16日)に習近平主席はBRICS首脳会談に出席のためインドにおり、習近平主席が北京に戻ったのは打ち上げ後の翌10月17日の夜でした(打ち上げは北京時間10月17日の朝の7時半に行われた)。

 打ち上げのタイミングで習近平主席が甘粛省酒泉近くにある発射場に出向くのは物理的に無理でした。実際の打ち上げでは、李克強総理と劉雲山政治局常務委員が現場に出向き、打ち上げの様子を見守りました。

 ロケットの打ち上げは、機器の点検の具合や最終的には打ち上げ場付近の気象条件も関係するので、政治家のスケジュールに合わせてピンポイントで「この日」と指定することは困難です。なので、打ち上げ日の最終決定発表日と打ち上げ当日が「たまたま」習近国家主席の外国訪問期間中にぶち当たってしまったことについては「習近平主席は運が悪かった」のだと思います。でも、昨今、習近平主席と李克強総理との「主導権争い」が目に付いているだけに、有人宇宙船打ち上げ時に「習近平主席は外国訪問中」であり「李克強総理が現場で立ち会った」という現実を見ると、「習近平主席は有人宇宙船打ち上げのタイミング調整において影響力を発揮できなかったのではないか」という「うがった見方」もしたくなってしまいます(前の週は習近平主席は北京にいたわけですからね)。

 中国の三回目の有人宇宙船「神舟七号」の打ち上げ(2008年9月25日:中国初の宇宙遊泳を実施)の時、私は北京に駐在していたので、打ち上げ及び宇宙遊泳そのものを北京で中国中央電視台の生中継で見ました。そこで「神舟七号」と「神舟十一号」の違いについて、下記に書いてみたいと思います。

○「神舟七号」

打ち上げ日の発表:2008年9月7日に「9月25~30日の間に日を選んで打ち上げる」と発表

(注)この打ち上げタイミングは「北京オリンピック・パラリンピック終了後で、国慶節の連休(10月1日~)の前」という中国人民の注目を集めやすいタイミングでした。

打ち上げ前日:酒泉衛星発射センターで行われた「宇宙飛行士出発式」に胡錦濤国家主席が参加。胡錦濤主席は直接宇宙飛行士に対し激励の言葉を掛けた。

打ち上げ当日:胡錦濤主席は管制センターで打ち上げの様子を視察。打ち上げ成功後、管制センターのスタッフと握手して打ち上げ成功を祝した。

国家主席と宇宙飛行士との直接通信:北京に戻った胡錦濤主席と宇宙遊泳を実施し終わった「神舟七号」の宇宙飛行士とが直接通信。胡錦濤主席は中国で初めて宇宙遊泳を成功させた宇宙飛行士をねぎらった。

○「神舟十一号」

打ち上げ日の発表:2016年10月16日に「翌10月17日午前7時半(北京時間)に打ち上げる」と発表(ただし、ドッキングする「天宮二号」は9月15日に既に打ち上げられており、宇宙飛行士を乗せた「神舟十一号」が10月中旬に打ち上げられる予定であることは周知の事実だった)。この時、習近平国家主席はインド滞在中。

打ち上げ前日:酒泉衛星発射センターで行われた「宇宙飛行士出発式」には、習近平主席も李克強総理も出席せず。

打ち上げ当日:李克強総理と劉雲山政治局常務委員が酒泉衛星発射センターの管制センターで打ち上げを視察。打ち上げ成功後、習近平主席がインドから打った祝賀電報を現場指揮官が読み上げた。李克強総理と劉雲山政治局常務委員はスタッフと握手して打ち上げ成功を祝した。

国家主席と宇宙飛行士との直接通信:打ち上げ6日目の今日(10月22日)現在、習近平主席と宇宙飛行士との直接通信は行われていない(ただし、今回は30日間の長期滞在なので、どこかのタイミングで習近平主席と宇宙飛行士との直接通信は行われることになるものと思われる)。

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 ちなみに「神舟十一号」が打ち上げられた10月17日夜7時からの中国中央電視台のニュース「新聞聯播」のトップニュースは、習近平主席が出席したBRICS首脳会談関連のニュースで、「神舟十一号」打ち上げのニュースは二番目でした。「新聞聯播」では、トップニュースは習近平主席関連のニュース、李克強総理関連のニュースは二番目、と順番が決まっているのでこういう順番になったのですが、たぶん中国人民の一般的感覚から言ったら「神舟十一号打ち上げの方がトップニュースでしょうに!」と思うでしょう(ちなみに、翌10月18日の「人民日報」の1面トップ記事は「神舟十一号打ち上げ」で1面の題字右側のスペースに習近平主席のBRICS首脳会議関連のニュースが載っていました)。

 「胡錦濤前主席に比べると、習近平主席は有人宇宙飛行に冷たいなぁ」というのが私の率直な感想でした。でも、「神舟十一号の打ち上げ」を報じた10月17日の「新聞聯播」の後半では「貧困地域支援対策」のニュースをやっていたところを見ると「宇宙開発に金を掛ける余裕があるのだったら、もっと国内の貧困地域対策に力を注いで欲しい」といった党内世論に配慮したのかもしれません。

 今週(2016年10月17日の週)は、習近平主席は17日(月)夜にインドから帰国した後、18日(火)には北京でウルグアイの大統領と会談、20日(木)には北京でフィリピンのドゥテルテ大統領と会談、21日(金)には人民大会堂で行われた「長征勝利80周年記念大会」に参加、といった北京で行う重要なスケジュールが目白押しだったので、「神舟十一号」の打ち上げが数日前後したとしても酒泉衛星発射センターに行って宇宙飛行士に直接声を掛けたり打ち上げを見守ったりする時間的余裕は習近平主席にはありませんでした。なので、「神舟十一号」の打ち上げが習近平主席が外国訪問中に行われた、というのも、スケジュール調整上、やむを得ない判断だったのかもしれません。

 ただ、有人宇宙船の打ち上げには常に「打ち上げ失敗」のリスクがありますから、打ち上げの瞬間に国家主席で中国共産党軍事委員会主席の習近平氏が中国国内にいなくてリスク管理上問題なかったのか、という疑問は残ります(中国の場合、宇宙開発を行っているのは軍の一部門です)。酒泉衛星発射センターに行く時間はなくても、少なくとも打ち上げは国家主席(=党軍事委員会主席)が北京にいるタイミングにすべきだったのではないか、と私は思います。

 習近平主席と李克強総理の「主導権争い」が目立っている昨今の状況を踏まえれば、「神舟十一号」の打ち上げ時、酒泉衛星発射センターの現場にいたのが習近平主席ではなく李克強総理だった、という事実は、結果論的に言えば、中国人民に対して、宇宙開発を担当している軍の部門の指揮は習近平主席ではなく李克強総理がとっているのですよ、というようなイメージを与える効果があったのではないか、と私は思っています。

 来週、10月24日から「六中全会」(第18期中国共産党中央委員会第六回全体会議)が開かれます。「党内規律の厳格化」が議論される、とされていますが、来年(2017年)秋の党大会へ向けて、人事や党内ルールの変更も議論される、という観測もあります。10月19日付けの日本経済新聞朝刊1面に掲載されていた連載記事「習近平の支配(3)闘争再び」では「最高指導部である政治局常務委員制度の廃止、大統領制に似た権限の集中」というような「憶測」も飛び交っていることが指摘されています。記事では「さりげなく」書かれていますが、これが本当に実現するなら「中国共産党の歴史上最大の党内クーデター」だと私は思います。毛沢東時代ですら、中国共産党内部には毛沢東に反対する勢力が常に存在し、毛沢東への全権限の集中はできていなかったのですから(文化大革命には「毛沢東による党内の反毛沢東勢力に対する大衆を動員した大反撃」という側面がある)。

 今回の「神舟十一号」の打ち上げのタイミング設定を見る限り、現時点において、習近平主席が党内のすべての勢力(軍も含む)をすべてコントロールできているわけではない、と見るのが妥当だと思います。「金を使いすぎる」などの批判はあるのでしょうが、少なくとも有人宇宙飛行は中国人民には人気のあるプロジェクトだと思います。それを考えると、今回、(胡錦濤前主席の「神舟七号」の時と比較して)習近平主席が有人宇宙飛行プロジェクトに冷淡であるかのように見えたことは、今後、習近平主席が自分への権力集中を進めて行こうとする時に「中国人民からの反発」「宇宙開発を進めている軍の内部からの反発」を招く可能性があるので要注意だと私は思いました。

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