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2016年9月17日 (土)

李克強総理はアメリカで何を語るか

 中国の李克強総理は明日(2016年9月18日)からアメリカを訪問し、ニューヨークの国連本部で国連総会に出席して演説を行う予定です(そのほかカナダとキューバも訪問し9月28日に帰国する予定)。

 最近、習近平主席と李克強総理との間の「権力闘争」を巡る思惑を背景とした報道が相次いでいます。9月10日、天津市党書記代理だった黄興国氏が突如解任されました。黄興国氏は、習近平主席に極めて近いとされる人物です。一方、9月13日、遼寧省代表の全国人民代表のうち45人が2013年の選出にあたって不正行為があったとして当選が無効とされました。李克強総理は2007年まで遼寧省党書記を務めていたことから、この遼寧省選出の全国人民代表の大量の当選無効も最終的には李克強総理を標的とした動きの一環なのではないか、といった報道もなされています。

 8月2日に李克強総理の出身母体である中国共産主義青年団(共青団)の改革が決まったことも李克強総理に対する「締め付け」の一環なのではないか、という見方もありました。

 中国共産党内部の権力闘争は、これまでもいろいろなレベルでいろいろな形で行われてきましたが、今回のように、いろいろな動きが表に見える形で行われていて「ほとんどガラス張りの中で殴り合っているような状況」は初めてです。しかも、争っている二人がトップの二人、即ち、国家主席と国務院総理ですから、これは中国共産党政権始まって以来の事態と言えます。

 今日(2016年9月17日(土))付けの朝日新聞朝刊15面の「風 北京から」というコラムで、中国総局長の古谷浩一氏が、9月8日に行われた朱鎔基元総理の記者会見録の出版記念会について書いています。このコラムによると、今般リニューアル出版された朱鎔基元総理の記者会見録は、本に記者会見の映像を記録したDVDが付録についているのですが、民主化への発言や過去の政治闘争に係わる質疑に関してDVDにあるのに本に記載されていない部分がある、つまり本への収録に際して削除された部分がどこであるかわかるようになっている、とのことでした。中国では、「敏感な部分」については、記者会見はテレビで生中継されているのに、後でホームページに文字でアップされる時には削除されることは「よくあること」なのですが、わざわざ削除された部分がわかるようにDVDを付録につけて記者会見録の本を出版するなんて実際妙な話です。このコラムを書いた古谷氏は、この記者会見録の出版には、「問題発言」をした朱鎔基元総理を批判する意図があるのではないか、と疑っているようです。

(注)朱鎔基元総理は、経済官僚出身の政治家で、経済政策上の考え方は李克強総理に近いと考えられています。また、現在の中国人民銀行総裁の周小川氏は、朱鎔基元総理によって取り立てられた人物です。

 このコラムによると、古谷氏の友人の中国人学者は「うちの会社は今、会長と社長の仲が悪い。元社長にも批判の動きが飛び火しているんですよ」と解説していたそうです。

 この中国人学者に代表されるように、おそらく中国政府職員の人たちや中国の企業経営者の方々は、今の「ガラス張りの中で殴り合っているような会長と社長」の様子をおそるおそる見ているのだと思います。で、この「殴り合い」が自分の身に及ばないように、両方の勢力から一定の距離を置いて日々の生活を送っているのだと思います。これでは中国の経済を支える人々は「今までと同じルーチンの仕事以外のことはやらないほうが安全だ」と考えるようになり、中国では、仮に今後大きな政治的混乱が起きないとしても、経済レベルでは沈滞ムードが続くことになるでしょう。

 こうした中、「社長」である李克強総理がアメリカへ行きます。国連での演説等ではおそらくは「公式見解」しか述べないと思うのですが、仮にアメリカのテレビ局等が李克強総理と単独インタビューを行った時には、李克強総理が何を発言するかは注目に値します(2008年9月に当時の温家宝総理が訪米して国連総会で演説した際にはCNNが単独インタビューを実施して、中国の民主化について質問しています(このブログの2008年10月2日付け記事「温家宝総理の人気が支える中国政府」参照))。李克強総理は、経済や外交については「公式見解」を繰り返すでしょうが、おそらくアメリカのメディアなら「あなた(李克強総理)と習近平主席との関係は不仲だとの見方があるが、実際はどうなのか」といった質問は必ずするでしょうから、それに対して李克強総理がどう答えるかは非常に重要だと思います。

 ただし、アメリカのメディアからこの種の質問を受けることはミエミエなので、李克強総理はアメリカのメディアの単独インタビューは受けない可能性もあります。でも、単独インタビューを受けないのなら、それは「李克強総理は習近平主席との関係についての質問には答えたくないのだ」という意味になり、それは李克強総理と習近平主席との関係は実際に深刻であることを示唆するので「単独インタビューを受けなかった」こと自体がひとつの重要なニュースになると思います(中国側は「スケジュールが合わなかったのでインタビューは受けなかった」などと言い訳すると思いますけど)。

 その後、中国では、10月に開催予定の六中全会(中国共産党中央委員会第6回全体会議)でどのような結果が出てくるかが注目されることになります。

 いずれにせよ、これから1年間(来年の中国共産党大会が終わるまで)は、「大きな変動」はないかもしれませんが、中国の動きには注目していく必要があると思います。

 先週、日本の新聞やテレビで、「一世帯で二軒目以降のマンション購入に関しては頭金の割合を増やすなどの規制が強くなるので、投資用マンションを買うために夫婦がわざと離婚して二世帯のふりをする『偽装離婚』が増えている」といったニュースを数多く見ました。この手の「偽装離婚」は以前からありましたが、ここへ来てまた「増えている」というのは、たぶん大都市部では今また不動産価格が高騰している(バブル化している)からでしょう。

 このブログにも再三書いてきましたが、3月の全人代の頃までは、中国政府は「マンションについては既に多くの在庫がある」と発言したり、鉄鋼業等の「ゾンビ企業の処置」を強調したりしてきましたが、今のところマンション・バブルも沈静化していないし、鉄鋼等の「ゾンビ企業」は赤字を垂れ流しながら操業を続けているようです。それは来年(2017年)の中国共産党大会へ向けて、地方政府は失業者を発生させることはできないので、バブルであろうが何であろうがマンション建設は続けるし、赤字垂れ流しであろうがなかろうが工場を止めるわけにはいかない、という事情があるのでしょう。ですから、来年(2017年)秋の中国共産党大会の頃までは「なんだかんだと言うけど、中国経済は言われるほど悪くはないじゃん」といった「見かけ上の底入れ感」を示す状態が続くのだと思います。

 一方、普通の会社であれば「会長と社長が仲が悪い」のは会社の没落の兆候です。そういったことを考えると、来年(2017年)秋の中国共産党大会の後、中国経済の低迷が目に見えるようになってくることを今のうちから心構えとして持っていた方がよさそうだ、と私は思っています(ちなみに、2007年の上海株バブルのピークは、党大会のあった2007年10月であり、2008年2月の春節後には沿岸部の輸出関連企業等に変調のきざしが見え始めました。ただし、この時は2008年9月のリーマン・ショックの発生(とその後の4兆元の超大型経済対策)により、中国経済の変調は覆い隠されてしまいました)。

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コメント

bleah中国の李克強総理が18日からアメリカを訪問、国連総会で演説する予定。キューバ、カナダも訪問するという。李克強と言えば、習近平主席と仲が悪い実力者と見られているが、実際にどうなのか。記者会見など注目されるところだ。

投稿: 根保孝栄・石塚邦男 | 2016年9月18日 (日) 23時29分

ここの欄は、中国問題に詳しいので勉強させていただいております。
今後もよろしく・・・。( ̄▽ ̄)

投稿: 根保孝栄・石塚邦男 | 2016年9月30日 (金) 19時14分

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