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2016年9月

2016年9月24日 (土)

李克強-オバマ会談のテレビのニュースは一日半遅れ

 中国の李克強総理は、ニューヨークでの国連総会での演説を終え、次の訪問国であるカナダに移動しました。で、結局は、私が知る限り、アメリカにいる間、李克強総理はアメリカのメディアの単独インタビューは受けなかったようですね。アメリカのメディアに「あなた(李克強総理)と習近平主席は不仲だとの見方があるが、実際はどうなのか」と質問してもらい、李克強総理がそれにどう答えるか知りたかったんですけどね。

 もし、李克強総理と習近平主席の関係が「不仲」ではなく、全く問題のない関係なのだとしたら、メディアへの露出の多いアメリカ滞在中にむしろ積極的にメディアのインタビューを受けて、「不仲なんてとんでもない。私(李克強総理)は、習近平総書記を中心とする中国共産党中央の一員として、他の党員とともに、一致団結して諸問題に取り組んでいます。」と世界にアピールするチャンスだったと私は思うのですが。そういうチャンスを活かさなかったところとみると、「不仲説」は、たぶん事実なのでしょう。

 私は、李克強総理のアメリカでの行動を中国のメディアが中国国内でどう伝えるかに興味を持っていました。李克強総理が国連本部等で「中国政府代表」として活躍する姿は、「中国政府の中心は私だ」と考えている習近平主席にとっては「面白くないもの」のはずですから。

 事実関係を書くと以下のとおりです(日時は全て北京時間(=日本時間-1時間))。

○9月20日朝、ニューヨークでオバマ大統領と李克強総理が会談。

○9月20日10:30頃、オバマ-李克強会談について、新華社が写真入りで記事を配信。「人民日報」のホームページにも掲載される。写真は二枚で、オバマ大統領と李克強総理が歩きながらにこやかに談笑する写真と両国国旗の前で両者が握手する写真。

○9月20日の中国中央電視台の12:00からの「中国新聞」(お昼のニュース)と19:00からの「新聞聯播」(夜7時のニュース)では、李克強-オバマ会談については伝えず(同日行われた李克強総理の難民関連の会議での演説やニュージーランドの総理との会談については伝えた)。この日の「新聞聯播」のトップニュースは、杭州でのG20首脳会談開催を担当した関係者を顕彰するセレモニーで習近平主席が担当者たちを褒め称える祝辞を送ったことだった。

○9月21日付け「人民日報」は1面(トップ記事ではない)で、オバマ-李克強会談について伝えた。写真は両国国旗の前で二人が握手する場面のもの。この時点で「人民日報」ホームページに掲載されている記事は、前日に掲げられていた新華社の二組の写真を使ったものから、「人民日報」に掲載されたものと同一のものに差し替えられていた。

○9月21日19:00からの「新聞聯播」では、二番目のニュースとして、オバマ-李克強会談について伝えた(この時点で、実際に会談が行われてから1日半が経過している)。会談の映像を流し、アナウンサーが会談の内容を伝えるものだったが、オバマ、李克強両氏のしぐさを見る限り、10秒程度の短い映像を何回も繰り返して使用していた。会談後、歩きながら談笑する両氏の様子も放映したが、映像の様子はプロが撮った映像ではなく、まるで随員が撮影した映像のように手ぶれが入っていた。

○9月21日朝にニューヨークで行われた李克強総理とフランスのオランド大統領との会談についても、9月21日の「新聞聯播」では伝えられず、9月22日の「人民日報」の1面に掲載された後、9月22日夜の「新聞聯播」で伝えられた(会談後1日半が経過していた)。ただし、映像の様子は通常の首脳会談のニュースと同様にプロが据え置き式カメラで撮影したような、手ぶれのない映像だった。

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 「新聞聯播」はテレビのニュースですから「速報性」はあります(やろうと思えばできます、の意味)。北京時間18時頃に起きた日本の桜島の噴火の様子を直後の19時からの「新聞聯播」で報じたこともあります。しかし、実際の「新聞聯播」は、国家指導者の地方視察などについて「習近平主席は最近○○を視察しました」などと伝えるなど、「終わった話」を伝えることがほとんどです。なので、中国人の中には「『新聞聯播』には『新聞』はない。『旧聞』ばかりだ。」という人もいます。

 でも、もし李克強総理がオバマ大統領と会談したニュースについて「アメリカも中国を重要視している証(あかし)だ」と中国人民に伝えたいのであれば、できるだけ早く伝えたでしょう。李克強総理がアメリカのオバマ大統領やフランスのオランド大統領と会談したことを伝えたのが1日半も経過してからだった、というのは、「李克強-オバマ会談」「李克強-オランド会談」はいずれもそれほど重要な会談ではないのだ、というメッセージを中国人民に伝えたかったのだ、と考えるべきなのでしょう。

 しかも、李克強-オバマ会談のニュースの直前に「杭州でのG20首脳会談開催を担当した関係者を顕彰するセレモニーで習近平主席が担当者たちを褒め称える祝辞を述べた」というニュースを長々と流したのは、中央電視台は明らかに「中国政府の中心は習近平主席であって、李克強総理ではない」というメッセージを中国人民に発したかったのでしょう(少なくとも見ていた私はそういうメッセージだと思った)。

 一方で、今週は、「人民日報」が「胡錦濤文選」の出版を伝えるなど「共青団派」にも配慮した動きが見られました(胡錦濤前主席と李克強総理はともに「中国共産主義青年団」出身で「団派」と呼ばれる)。もし現時点で、既に習近平主席が李克強総理を凌駕するほどに権力を自分に集中させていたのだったら、そもそも李克強総理を国連総会に派遣することを認めなかったはずです。ですから、習近平主席と李克強総理との関係は対立して勢力争いをしているが、まだどちらも完全に勝ったと言えるほど決着は付いていない、と考えるのが正しいのだと思います。

 私が感じたのは、激しく争うトップ2に対して、中央電視台や人民日報の編集担当は、紙面の大きさや順番などについて、相当神経を使っているだろうなぁ、ということです。私の感覚では、「人民日報」の方は、習近平主席と李克強総理の双方との距離を測りながら、バランスよく記事を掲載しているように思えます。それに対して、中央電視台の方は、やや「習近平主席が主役で、李克強総理は脇役に過ぎない」という感覚で編集しているように見えます。中央電視台も人民日報も、しょせんはサラリーマンが動かしている組織体ですから、「エライ人」の顔色を見ながら、怒られないように記事を取捨選択・編集しているであろうことは容易に想像できます。

 問題は、こうした「トップ2の争い」は、中国自身にとって全くプラスにならないということです。アメリカのオバマ大統領もフランスのオランド大統領も、つい3週間前に杭州で習近平主席と会談していますが、今回、またニューヨークで李克強総理と会談したのは、アメリカもフランスも「今、中国のトップ2は抗争しており、機会があれば、その両方に同様にコンタクトしておくべきである」という配慮が働いたからだと思います。これは中国が諸外国に足元を見られていることを意味しており、中国の外交政策上よくないと思います。

 また、中央電視台や人民日報の職員が「二人のエライ人」の顔色を伺いながら毎日仕事をしているのだとしたら、中国のその他の国有企業の職員も同様でしょう。そういう状態なら、国有企業改革のための困難な業務に対して職員が真剣に取り組める状態だとはとても思えません。ここまで習近平主席と李克強総理との対立関係が国際的にも国内的にも明らかになった以上、習近平主席政権の後半(2018年3月~2023年3月)も李克強氏が国務院総理を務めることは、もう現時点では想像できなくなった、と言えるかもしれません。一方で、李克強総理の後任の総理になりそうな人物は今の中国共産党政治局常務委員の中にはいませんから、もし李克強氏が総理を続けないのであれば、今後人事で相当揉めることになるでしょう。

 中国経済は「ハードランディング」はないとしても、長期低迷の状態は相当長い期間続くことになるのかもしれません。

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2016年9月17日 (土)

李克強総理はアメリカで何を語るか

 中国の李克強総理は明日(2016年9月18日)からアメリカを訪問し、ニューヨークの国連本部で国連総会に出席して演説を行う予定です(そのほかカナダとキューバも訪問し9月28日に帰国する予定)。

 最近、習近平主席と李克強総理との間の「権力闘争」を巡る思惑を背景とした報道が相次いでいます。9月10日、天津市党書記代理だった黄興国氏が突如解任されました。黄興国氏は、習近平主席に極めて近いとされる人物です。一方、9月13日、遼寧省代表の全国人民代表のうち45人が2013年の選出にあたって不正行為があったとして当選が無効とされました。李克強総理は2007年まで遼寧省党書記を務めていたことから、この遼寧省選出の全国人民代表の大量の当選無効も最終的には李克強総理を標的とした動きの一環なのではないか、といった報道もなされています。

 8月2日に李克強総理の出身母体である中国共産主義青年団(共青団)の改革が決まったことも李克強総理に対する「締め付け」の一環なのではないか、という見方もありました。

 中国共産党内部の権力闘争は、これまでもいろいろなレベルでいろいろな形で行われてきましたが、今回のように、いろいろな動きが表に見える形で行われていて「ほとんどガラス張りの中で殴り合っているような状況」は初めてです。しかも、争っている二人がトップの二人、即ち、国家主席と国務院総理ですから、これは中国共産党政権始まって以来の事態と言えます。

 今日(2016年9月17日(土))付けの朝日新聞朝刊15面の「風 北京から」というコラムで、中国総局長の古谷浩一氏が、9月8日に行われた朱鎔基元総理の記者会見録の出版記念会について書いています。このコラムによると、今般リニューアル出版された朱鎔基元総理の記者会見録は、本に記者会見の映像を記録したDVDが付録についているのですが、民主化への発言や過去の政治闘争に係わる質疑に関してDVDにあるのに本に記載されていない部分がある、つまり本への収録に際して削除された部分がどこであるかわかるようになっている、とのことでした。中国では、「敏感な部分」については、記者会見はテレビで生中継されているのに、後でホームページに文字でアップされる時には削除されることは「よくあること」なのですが、わざわざ削除された部分がわかるようにDVDを付録につけて記者会見録の本を出版するなんて実際妙な話です。このコラムを書いた古谷氏は、この記者会見録の出版には、「問題発言」をした朱鎔基元総理を批判する意図があるのではないか、と疑っているようです。

(注)朱鎔基元総理は、経済官僚出身の政治家で、経済政策上の考え方は李克強総理に近いと考えられています。また、現在の中国人民銀行総裁の周小川氏は、朱鎔基元総理によって取り立てられた人物です。

 このコラムによると、古谷氏の友人の中国人学者は「うちの会社は今、会長と社長の仲が悪い。元社長にも批判の動きが飛び火しているんですよ」と解説していたそうです。

 この中国人学者に代表されるように、おそらく中国政府職員の人たちや中国の企業経営者の方々は、今の「ガラス張りの中で殴り合っているような会長と社長」の様子をおそるおそる見ているのだと思います。で、この「殴り合い」が自分の身に及ばないように、両方の勢力から一定の距離を置いて日々の生活を送っているのだと思います。これでは中国の経済を支える人々は「今までと同じルーチンの仕事以外のことはやらないほうが安全だ」と考えるようになり、中国では、仮に今後大きな政治的混乱が起きないとしても、経済レベルでは沈滞ムードが続くことになるでしょう。

 こうした中、「社長」である李克強総理がアメリカへ行きます。国連での演説等ではおそらくは「公式見解」しか述べないと思うのですが、仮にアメリカのテレビ局等が李克強総理と単独インタビューを行った時には、李克強総理が何を発言するかは注目に値します(2008年9月に当時の温家宝総理が訪米して国連総会で演説した際にはCNNが単独インタビューを実施して、中国の民主化について質問しています(このブログの2008年10月2日付け記事「温家宝総理の人気が支える中国政府」参照))。李克強総理は、経済や外交については「公式見解」を繰り返すでしょうが、おそらくアメリカのメディアなら「あなた(李克強総理)と習近平主席との関係は不仲だとの見方があるが、実際はどうなのか」といった質問は必ずするでしょうから、それに対して李克強総理がどう答えるかは非常に重要だと思います。

 ただし、アメリカのメディアからこの種の質問を受けることはミエミエなので、李克強総理はアメリカのメディアの単独インタビューは受けない可能性もあります。でも、単独インタビューを受けないのなら、それは「李克強総理は習近平主席との関係についての質問には答えたくないのだ」という意味になり、それは李克強総理と習近平主席との関係は実際に深刻であることを示唆するので「単独インタビューを受けなかった」こと自体がひとつの重要なニュースになると思います(中国側は「スケジュールが合わなかったのでインタビューは受けなかった」などと言い訳すると思いますけど)。

 その後、中国では、10月に開催予定の六中全会(中国共産党中央委員会第6回全体会議)でどのような結果が出てくるかが注目されることになります。

 いずれにせよ、これから1年間(来年の中国共産党大会が終わるまで)は、「大きな変動」はないかもしれませんが、中国の動きには注目していく必要があると思います。

 先週、日本の新聞やテレビで、「一世帯で二軒目以降のマンション購入に関しては頭金の割合を増やすなどの規制が強くなるので、投資用マンションを買うために夫婦がわざと離婚して二世帯のふりをする『偽装離婚』が増えている」といったニュースを数多く見ました。この手の「偽装離婚」は以前からありましたが、ここへ来てまた「増えている」というのは、たぶん大都市部では今また不動産価格が高騰している(バブル化している)からでしょう。

 このブログにも再三書いてきましたが、3月の全人代の頃までは、中国政府は「マンションについては既に多くの在庫がある」と発言したり、鉄鋼業等の「ゾンビ企業の処置」を強調したりしてきましたが、今のところマンション・バブルも沈静化していないし、鉄鋼等の「ゾンビ企業」は赤字を垂れ流しながら操業を続けているようです。それは来年(2017年)の中国共産党大会へ向けて、地方政府は失業者を発生させることはできないので、バブルであろうが何であろうがマンション建設は続けるし、赤字垂れ流しであろうがなかろうが工場を止めるわけにはいかない、という事情があるのでしょう。ですから、来年(2017年)秋の中国共産党大会の頃までは「なんだかんだと言うけど、中国経済は言われるほど悪くはないじゃん」といった「見かけ上の底入れ感」を示す状態が続くのだと思います。

 一方、普通の会社であれば「会長と社長が仲が悪い」のは会社の没落の兆候です。そういったことを考えると、来年(2017年)秋の中国共産党大会の後、中国経済の低迷が目に見えるようになってくることを今のうちから心構えとして持っていた方がよさそうだ、と私は思っています(ちなみに、2007年の上海株バブルのピークは、党大会のあった2007年10月であり、2008年2月の春節後には沿岸部の輸出関連企業等に変調のきざしが見え始めました。ただし、この時は2008年9月のリーマン・ショックの発生(とその後の4兆元の超大型経済対策)により、中国経済の変調は覆い隠されてしまいました)。

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2016年9月10日 (土)

李克強総理の二国間会談は白黒写真

 結局、先に開かれた杭州でのG20首脳会議関連行事には、国務院総理の李克強氏は全く登場しませんでした。よく今回のG20は「中国が国を挙げて威信を賭けて開催した」と表現されますが、登場したのは習近平主席だけだったので「習近平主席がその威信を賭けて開催した」と表現した方がよかったようですね。

 とは言っても、現時点では李克強総理は中国共産党政権のナンバー2の地位を追われたわけでもなんでもありません。それどころか、G20首脳会議に引き続くスケジュールでラオスのビエンチャンで開かれた「ASEAN+3首脳会議」と「東アジア首脳会議(EAS)」には、李克強総理は「中国政府代表」として習近平主席と入れ替わるようにして出席しています(ちなみに、日本の安倍総理、韓国のパク・クネ大統領、アメリカのオバマ大統領は、G20に出席した後、ビエンチャンでの会議に出席するため、杭州からビエンチャンにぞろぞろと移動しています)。

(注)今、G20のほか、「ASEAN+3」「東アジア首脳会議」「APEC首脳会議」など各国首脳が参加する国際会議が覚えられないくらいの数ありますが、誰が出るかは各国ごとに、またその年の状況に応じて変わります。日本の安倍総理の場合は「皆勤賞」ですが、中国の場合、これまでも習近平主席と李克強総理が「手分けして」各種会議に参加することはよくあったので、今回、杭州での「G20」に習近平主席が、ビエンチャンでの「ASEAN+3」と「東アジア首脳会議」に李克強総理が手分けして参加したこと自体には不自然さはありません。

 ただ、今回、一連の外交案件に関する報道を見ていて気になったのは、「人民日報」での習近平主席と李克強総理に対する扱い方の違いです。二人とも、今回の国際会議の機会を捉えて、いろいろな国々の首脳と二国間会談を行っていますが、習近平主席が杭州で行った二国間首脳会談については、「人民日報」はカラー写真入りで大々的に報じていた一方、李克強総理の出番については、「人民日報」は「ASEAN+3」の会議自体やラオスでの歓迎行事での李克強総理についてはカラー写真で報じていますが、二国間首脳会談については、二面に白黒写真で紹介しているのに留まりました。

 習近平主席の会談相手がアメリカ、イギリス、フランス、ドイツ、日本、韓国などの首脳だったのに対し、李克強総理が会談したのは、マレーシア、オーストラリア、ラオスなどの首脳だったので、紙面上の扱いの違いは「相手国と中国との関係の重要性に基づくものであって、習近平主席と李克強総理とをことさら差を付けて扱っているわけではない」というのがおそらくは公式見解なのでしょう。ただ、カラーの映画やドラマの中に出てくる白黒のシーンは「昔の回想シーン」なので、二国間首脳会談について、習近平主席がカラー写真、李克強総理が白黒写真だと、まるで「李克強総理は既に過去の人なのだ」ということを中国人民に宣伝しているのと同じではないか、と私は思ってしまったのでした。

 日本の新聞等でも報道されているとおり、今回の杭州での習近平主席との二国間会談では両国の国旗の前で話をする両国首脳の写真が「人民日報」に掲載されるのが一般的だった中で、日本の安倍総理との会談についてだけは国旗が映らないアングルでの写真が掲載されました(随員の話では、会談を行った部屋には両国の国旗はあったそうです)。掲載する写真によって、日本は他の国とは扱いが違うのだ、ということを中国人民に広く知らせたかったのでしょう。「人民日報」の写真の掲載の仕方にそういう意図があるのだとしたら、習近平主席による二国間会談の写真はカラー、李克強総理による二国間会談の写真は白黒、という選択をした「人民日報」には、それなりの意図があった、と考えるべきだと私は思います。

 ちなみに、昨日(2016年9月9日(金))の中国中央電視台の夜7時のニュース「新聞聯播」では、もちろんラオス・ビエンチャンでの李克強総理とマレーシアの首相などとの首脳会談などのニュースは流したのですが、順番としては二番目で、この日のトップニュースは「習近平主席が北京市内の八一学校を視察した」というニュースでした(しかも、30分間のうち冒頭の15分くらいがこのニュース)。9月10日が「中国教師の日」なので、その日を前にして習近平主席が学校を視察したらしいのですが、ネットで調べたら「北京八一学校」とは習近平主席が通っていた小中学校なのだそうです。「習近平主席に対する個人崇拝」のにおいがプンプンするニュースでした。

 実は、この日(2016年9月9日)は、毛沢東主席が亡くなってから40年目の日だったのですが、「新聞聯播」では毛沢東主席については全く何も触れませんでした。私は「毛沢東の命日の件はどのように扱うのか」という頭でニュースを見ていたところに、習近平主席の母校の小中学校訪問のニュースを長々とやったので、「習近平主席に対する個人崇拝」のにおいがプンプンする、と感じてしまったのでした。

 最近、「人民日報」の記事の見出しや「新聞聯播」に出てくる人の話に「習主席」という言い方があるのが私は気になっています。私の個人的な印象ですが、毛沢東については長年にわたり中国共産党の主席だったので「毛主席」という言い方は「普通」ですが、最近の国家主席(李先念、楊尚昆、江沢民、胡錦濤)については「名字だけ+主席」という言い方は少なくとも私はあまり聞いたことはありません。私には「毛主席」という言葉は毛沢東に対する特別の敬意(あるいは畏怖)を含んでいる、という印象があるので、他の人にはあまり使わないのだ、と思っていました。なので、「習主席」という言い方には、私はかなり違和感を感じるのです。

 さらに、今日(2016年9月10日(土))の「新聞聯播」では、ラオス・ビエンチャンでの李克強総理とラオスの首相との会談のニュースに引き続き、南寧で開かれている中国-ASEANシンポジウムに出席するため訪中しているベトナムの首相とカンボジアの首相が張高麗副総理(党政治局常務委員)と会談するニュースを流していました。これらのニュースを続けて見せられると「李克強氏と張高麗氏は同じ党政治局常務委員に過ぎない」というイメージを受けてしまいます。つまり一連のニュースが「李克強氏は党政治局常務委員の一人であって、特別に偉いわけじゃない」というイメージづくりを意図しているのではないかと思えてしまうのです。

 このようにして今後「習近平氏=唯一の最高のトップ」「李克強氏=その他大勢の有力者の中の一人」というイメージが強く打ち出されていくことになるのかもしれません。そうだとすれば、それは李克強氏は来年(2017年)秋の中国共産党大会での人事を経て2018年3月の全人代で国務院総理を退任する、という道筋を意味することになるのかもしれません。

 なお、先週のこのブログの記事で、(もし李克強総理が来年(2017年)の党大会後、国務院総理を退くようなことになるのであれば)「後任の国務院総理は誰がやるのか?」「中国マクロ経済政策運営の実務の『要』である周小川中国人民銀行総裁の去就はどうなるのか?」と書きました。後半は私の杞憂だったかもしれません。というのは、周小川氏は、杭州でのG20首脳会議に参加していたからです。習近平氏がG20首脳会議の開幕式での開会宣言をする際、周小川氏は習近平主席の後ろに「随員」として座っていました。この様子をテレビのニュースで見て、私は、G20首脳会議開幕式の時、周小川氏を習近平主席のすぐ後ろに座らせて、テレビカメラで一緒に映るようにしたのは、「仮に李克強氏が国務院総理を辞めることになっても、周小川氏は中国人民銀行総裁は辞めませんからね」という世界に向けたメッセージなのではないか、と勝手に思ってしまったのでした。

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2016年9月 3日 (土)

G20における李克強総理の出番

 明日と明後日(2016年9月4日、5日)、中国の浙江省杭州でG20首脳会議が開かれます。既に各国首脳は杭州に集まりつつあり、習近平主席は、集まった各国首脳との個別二国間会談やこの機会に開かれたG20経済関係者の会議などでの演説など、既に一連の行事をこなしつつあります。オバマ大統領は既に杭州入りしており、今日(9月3日)は習近平主席とオバマ大統領との米中首脳会談も行われました。

 しかし、これら杭州でのG20関連行事に今のところ李克強総理が全く出てきていません。昨日(9月2日)と今日(9月3日)の中国中央電視台の夜7時のニュース「新聞聯播」では、習近平主席が各国首脳との二国間会談等をこなしている様子が長時間流されているのとは対照的に、李克強総理の名前は、わずかに「ウズベキスタンの大統領に死去に関して、習近平主席がウズベキスタン上院議長に、李克強総理がウズベキスタンの総理に弔電を送った」というニュースをアナウンサーが読んだ時に名前が出てきただけでした。党政治局常務委員の中では、全人代常務委員会が閉幕したニュースでは張徳江氏が、黒竜江省への視察のニュースでは劉雲山氏が「普通に」ニュースに登場していましたので、G20という中国にとって大きなイベントなのに、国務院総理の李克強氏が全くニュースに出てこないのはなんか変だなぁ、と私は思いました。

 外交案件は国家主席の役割なのだから、李克強総理はG20の期間中は北京でお留守番なのかもしれません。でも、私としては、例えば経済関係者の会議には李克強総理が出席して演説し、習近平主席と李克強総理がうまく役割分担して世界各国の有力者との関係行事をこなして、「いろいろ『不仲説』もあるけれども、私たちは『チーム中国共産党』『チーム中国政府』として連携して活動していますよ」という姿を世界に示して欲しかった、というのが私の気持ちです。

 G20関連行事のうち、数日前、先んじて中国を訪問して北京を訪れたカナダのトルドー首相訪中については、通常の外交案件と同じように、北京で李克強総理と習近平主席と別個に会談をしていますので、李克強総理が一連のG20関連行事から「はずされて」いるわけではないのですが、G20という大きなイベントをやっている杭州に李克強総理が姿を見せない、という事実自体、「習近平主席と李克強総理の不仲説」を世界に宣伝しているみたいなものなので、よくないと思います。

(注)胡錦濤主席-温家宝総理の時代は、緊急時対応の意味もあり(政治局常務委員の多数が江沢民元主席の「息のかかった人たち」ばかりだったこともあり)、二人が同時に北京を離れることは原則としてありませんでした(2008年5月の四川大地震対応など実際の「緊急時対応」の場合は別)。習近平主席-李克強総理の二人は、つい先日も、同じ時期に、習近平主席が青海省へ視察、李克強総理が江西省へ視察、といったように「まるで張り合うように」同時に別の地方に視察を行ったりするので、日頃から二人同時に北京を離れることについては、全く気にしていないように見えます。

 習近平主席ばかりがテレビに登場するG20関連行事のニュースを見ていると、もしかすると、今後、李克強総理の出番がだんだん少なくなっていき、来年(2017年)秋の中国共産党大会で決まる人事で李克強氏が国務院総理から退任することが決まるのかなぁ、などと早々と考えたくなってしまいます。そうなると「後任の国務院総理は誰がやるのか?」「中国マクロ経済政策運営の実務の『要』である周小川中国人民銀行総裁の去就はどうなるのか?」といった中国の経済政策に対する「先行き不透明感」に苛まされることになりそうです。(私がそう思うのは私の勝手なのですが、実際、中国人民の間にもそうした危惧が広がっていくのではないか、と私は心配しています)。

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