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2016年8月20日 (土)

ゾンビ企業対処の正念場

 このブログの先週の発言で予想していたとおり、8月16日(火)から中国指導部は「北戴河会議:夏休み」の期間を終えて、会議への出席や外国要人との会談など、通常の業務に戻ったようです。習近平主席も李克強総理も中国中央電視台の夜7時のニュース「新聞聯播」にいつものとおりの表情で登場したので、私としてはとりあえず一安心しました(突然「誰かが失脚した」などといった事態になったらエライコトなので)。

 今日(2016年8月20日(土))の「新聞聯播」のトップニュースは「全国衛生健康大会」に習近平主席、李克強総理をはじめ党政治局常務委員7名全員が参加したことでした。まぁ「衛生健康」も重要な政策課題だとは思いますが、このニュースが全国の中国人民に本当に伝えたかったのは、習近平主席と李克強総理は「不仲」でも何でもなく、党政治局常務委員7名は一致団結して政策課題に対応していますよ、ということだったんだろうなぁ、と私は想像しています。

 で、休み明けの8月16日(火)、李克強総理は早速定例の国務院常務会議を開きました。国務院常務会議の定例開催日は通常は毎週水曜日なのですが、今週は「休み明け」ということで火曜日の16日に開いたようです。この日の国務院常務会議のしょっぱなの議題は「鉄鋼・石炭産業における過剰生産能力の削減問題に対する対処」でした。

 同じ8月16日(火)、国家発展改革委員会は、定例の記者会見を開き、過剰生産設備削減問題について説明しました。この記者会見で、国家発展改革委員会のスポークスマンは、7月末の時点で、過剰生産能力の年間削減目標に関し、鉄鋼業では47%、石炭産業では38%の達成率であると発表し、今年下半期には、厳しい監督と問責等を通じて過剰生産能力削減措置のスピードを上げるつもりであることを述べました。

 中国の場合、年度(中国の場合、通常カレンダーイヤーを年度として用いている)の途中で、年度目標が計画通りに進んでいないこと(つまり政策が順調に遂行されていないこと)を発表するのはかなり異例なので、私はこの記事を目にして、ちょっとびっくりしました。

 この日の国務院常務会議では、鉄鋼業と石炭産業の過剰生産設備の削減について全国的な監査を実施し、スケジュール通りの削減を確保するようにすることを決定しました。

 これらの事項が「人民日報」に大々的にオープンに掲載されたことは、鉄鋼及び石炭産業における過剰生産設備削減処置を本気で成し遂げるとの中国政府の決意を内外に示したかったからでしょう。9月4~5日に浙江省杭州で開かれる予定のG20首脳会議において、各国から中国の過剰生産設備削減問題について突っ込まれることは明白なので、中国政府としても全力で取り組んでいる姿勢を先手を打って内外に示す必要があったのだと思います。

 一方、今日(2016年8月20日(土))付け日本経済新聞朝刊は7面に「中国で債務不履行急増 今年既に3,800億円、昨年の2倍 ゾンビ企業 淘汰進まず」と題する記事を掲載しています。この記事では、今年に入って7回、累計48億元の社債のデフォルト(債務不履行)を起こしながら、大株主である遼寧省の意向を受けて、雇用の維持等のために生産を続けている大手国有鉄鋼企業の東北特殊鋼について紹介しています。

 遼寧省と言えば、先日(8月10日)、中国共産党は、遼寧省前書記の王ミン氏(ミンは「王」へんに「民」)について重大な規律違反があったとして党籍を剥奪し、司法機関に移送することを決めました。王ミン氏の前任の遼寧省党書記は李克強氏ですので、この日経新聞の記事を読んで、遼寧省のゾンビ企業の措置がうまくできないとすると過去の党書記の責任も追及されて李克強総理のクビが飛ぶかもしれない、といった憶測を持った人もいるのではないかと思います。

 李克強総理が夏休み明け最初の国務院常務会議の最初の議題に鉄鋼業・石炭業の過剰生産能力削減措置の問題を議論したことを見ても、李克強総理は「お尻に火が付いた」状況で必死に対応しているのであろうことが想像されます。おそらくは「北戴河会議」で、李克強総理に対しては、「ゾンビ企業」の処置をきちんと進めるよう新旧幹部から相当なプレッシャーが掛かったのではないかと思います。

 上記に紹介した日経新聞の記事では、中国では、デフォルトを起こした企業に対しても、「最後は地方政府が支援に乗り出すはず」との思惑から国有銀行が取引を続けているケースが少なくないとしています。仮にこうしたケースが多く重なると、その結果として国有銀行が多くの不良債権を抱えることになります。もし仮に最終的に国有銀行の多くの不良債権を中央銀行(人民紙幣の発行主体)である中国人民銀行が尻拭いをするようなことになれば、それは一種の「ヘリコプター・マネー」(=無制限の紙幣発行)であり、外国為替相場における人民元の暴落と中国国内でのハイパー・インフレを招くことになります。一方でゾンビ企業を無定見に倒産させることは多くの失業者を生みますから、多くの国有ゾンビ企業を国有銀行が支えている現在の構図を金融不安を発生させずに解消するためには、政治面・金融面で相当難しいコントロールが要求されると思います。

 今、中国で過剰生産された鉄鋼は、多くが外国へ輸出され「中国から世界へのデフレの輸出」が起きていますが、一方で、過剰生産された鉄鋼は、中国国内では、マンションや鉄道の建設等に使われています。マンションは常にバブル崩壊の危惧がありますし、急速に建設を進めている鉄道についても、おそらくは大半の路線が赤字になると思います(先日、最も収支が良いと思われる北京-上海間の高速鉄道がようやく黒字を確保できた、と報じられていましたので、おろらくは他の路線の多くは赤字なのだと思います。中国の鉄道網は遠くない将来に、かつて日本の国鉄がたどったような道を歩むことになる可能性が大きいと私は思っています)。

 中国経済の先行き不透明感については、中国企業や中国の人々自身が最も強く肌感覚で感じていると思います。当局にかなりの程度コントロールされているとは言え、企業のリスクを一定程度反映する中国の株価や中国からの資本流出の度合いを反映する人民元為替レートの変動は、ある程度中国企業や中国の人々が持っている「中国経済に対する感覚」を知ることができる指標のひとつですから、今後とも注意深く見守って行く必要があると思います。

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