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2016年8月13日 (土)

毎年八月上旬の中国指導部の「所在不明」

 今週(2016年8月8日(月)から始まる週)も中国中央テレビの夜7時のニュース「新聞聯播」には習近平主席も李克強総理も登場しませんでした(というか、中国共産党政治局常務委員(いわゆるチャイナ・セブン)は誰も登場しなかった)。毎年八月上旬の二週間は、中国共産党幹部は休暇をかねて河北省北戴河に集まって、引退した元幹部も含めた会議「北戴河会議」が開かれるので、この時期、中国指導者の動静が全く報道されない、という状況になります。

 このブログの去年の記事を見ると、去年(2015年)は、8月6日と8月16日に亡くなった元党幹部のお葬式があり、そこに中国指導部が参列したことが報じられました。今年(2016年)は、そうしたお葬式がなかったので、中国指導部はほぼ二週間にわたって「所在不明」の状況になっています(ただし、外国のイベントに祝電を打ったり、北京に赴任する外国の大使に関する手続きなど「北京にいなくてもできる事務的手続き」については報道されるので、「全く何も報道されない」というわけではないのですが)。

 毎年恒例の「政治局常務委員の劉雲山氏が北戴河で同地で休暇中の専門家を慰問した」というニュースが去年も今年も8月5日に流れていますので、「北戴河会議」は毎年と同じスケジュールで行われていると考えられており、おそらくは今年も8月16日あたり以降「夏休み明け」の中国指導部の報道が流され始めるのだと思います。

 幸いなことに、去年8月11日にあった人民元の突然の切り下げや、8月12日にあった天津大爆発事故のようなことは今年はないので、おそらくは大きな動きはないのだと思いますが、「北戴河会議」の後、習近平主席と李克強総理との関係に何か変化が起きるかどうかには注目する必要があると思います。

 現状では、相変わらず中国経済は低迷が続いています。3月の全人代で強調された「ゾンビ企業の処理」も効果はあまり目に見えてきていません。それどころか、先日発表された7月の貿易統計では、鉄鋼の輸出が金額ベースでは減っているのに数量ベースでは増えていることが明らかになり、中国が価格を下げて大量の鉄鋼を輸出している(つまり「ゾンビ」の鉄鋼企業は生産を続けているらしい)ことが「目に見えて」きています。

 また、昨日(2016年8月12日(金))付けの日本経済新聞朝刊の1面トップ記事「中国企業 海外M&A最高 1~6月12兆円 前年通年超す」では、中国企業による海外企業の買収が非常に増えており、今年(2016年)は1~6月で既に過去最高だった去年(2015年)を上回っている、とのことでした。中国の企業が積極的に外国の企業との関係を強化することは悪いことではないと思いますが、一方で、このことは中国国内に有力な投資先がないことも反映していると思われます。別途発表された中国の経済統計によれば、中国の民間部門の投資の伸びは、今年に入って急激に伸びが鈍化しているとのことです。このことも、「わかりにくい」と言われる中国の経済統計においても、中国国内の経済の鈍化が「目に見えて」きていることを表しています。

 これに関連して8月11日(木)付けの産経新聞のコラム「石平の China Watch」で、筆者の石平氏は、中国の経済専門家による「中国企業の未来への『信心』の喪失」という見方を紹介していました。「信心」とは、日本語で言えば「自信」「確信」「信頼」に相当する中国語です。石平氏は、「信心喪失」の中身として、中国経済の先行きへの不安とともに政治路線の不透明感があることも指摘しています。習近平主席と李克強総理の「不仲な様子」については、おそらくは中国国内の企業家たちも不安に思っているのだと思います。

 「北戴河会議」の期間中、中国指導部の動向が報道されない、というのは、確かに中国共産党の「長年の伝統」なのかもしれませんが、中国の指導部に「中国の企業家に『信心喪失』させてはならない」という問題意識があるのだったら、もっと中国共産党内部の議論をオープンにして、「今後どういう政策が採られるのかわからないという不安」を払拭する必要があると思います。もしそれができないのだったら、中国の企業家は中国国内でのビジネスを縮小して、海外で「稼ぐ」ことに重点を置くようになり、中国経済の低迷を長期化させ、結果的に中国指導部が最も欲している「中国共産党政権の維持」の土台を揺るがせることになってしまうと思います。

 「北戴河会議」の動向は全く報道されないので外部からは想像するしかないのですが、8月11日頃から尖閣諸島周辺にいた中国漁船や中国公船の数が減ったところからすると、私はこの時点で「北戴河会議」はヤマを超えたのだろう、と見ています。

 8月11日に起きた中国漁船とギリシャ船籍の貨物船の衝突で漂流していた中国漁船乗組員を日本の海上保安庁が救助しました。この件について、中国国内では「中国公船は何をやっていたのか」との批判が起こっているようです。一連の動きを見ていると、今回の動きの目的は、中国側が尖閣諸島(中国名:釣魚島)の領有権を日本側に対して主張するというよりは、多くの日本のマスコミが指摘しているように、領有権に対する強硬姿勢を日本側に見せることによって、何らかの形で「北戴河会議」に影響を与えることだったように思えます。

 ちなみに、昨日(8月12日(金))に放送された中国中央電視台の「新聞聯播」では、リオデジャネイロ・オリンピックの競泳男子200m個人メドレーで中国の汪順選手が銅メダルを獲得したニュースにおいて、このレースで銀メダルを取った日本の萩野公介選手と汪順選手ががっちり握手して互いの健闘を讃え合うシーンを流していました。私のようにオリンピックのニュースまで「政治的色眼鏡」に見てしまうのはよくないとは思うのですが、私はこうしたニュースの流し方は「これは党中央は今の時点で反日感情を高めてはならないと考えているというメッセージだ」と感じてしまうのでした。

 いずれにせよ、中国におけるこうしたいろいろな側面的状況から「習近平指導部はこう考えているのではないか」と想像しなければならないような政治のあり方は、いい加減に改めて欲しいと思います。ロシアのプーチン大統領だって、何か意図がある時にはテレビに登場して国の内外に対してハッキリものを言うじゃないですか。中国共産党政権が国内を安定させ、国際社会において影響力のある地位を占めたいと思うのならば、政権幹部が夏の二週間「所在不明」になるような慣習は改めて、もっと政権の意図を中国人民と世界に明確に発信する努力をするべきだと思います。

 私は1987年秋の第13回中国共産党大会のあった頃、北京にいました。この時の中国共産党大会は、テレビで生中継され、毎日、党の主要幹部が生中継のテレビカメラの前で記者会見に登場しました(外国の記者からの質問も行われた;この形式はその後恒例化した)。この頃ソ連もゴルバチョフ書記長の下で改革を進めていましたが、内外に対する政権の意図を発信する努力、という点では、中国共産党はソ連共産党より格段に進んでいました。その時の新鮮な驚きを今でも覚えているだけに、中国共産党の対外発信努力がその後全く進歩していない(というよりむしろ後退しているように感じる)のは残念でなりません。

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