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2016年8月 6日 (土)

共青団改革計画と習近平主席の「あせり」

 中国共産党中央弁公庁は、8月2日、党の青年組織である「共産主義青年団(共青団)改革計画」を発表しました。内容は「共青団に対する党中央の統制を明確化する」などですが、共青団は、過去の総書記(胡耀邦氏、胡錦濤氏)や現職の国務院総理李克強氏の出身母体であることから、この「改革計画」は、習近平総書記による共青団出身者(いわゆる「団派」)への「締め付け」のひとつだと見られています。

 習近平国家主席と李克強総理の「不仲説」が取りざたされるなか、このタイミングでこの「共青団改革計画」が発表されたことは、8月上旬に開かれていると思われている「北戴河会議」(中国共産党の現役や元幹部が集まり人事等について話し合う会議)を前にして、習近平氏が李克強氏ら共青団出身者を抑えて優位に立っていることをアピールする狙いがあると見られています(もっとも、最近、習近平氏は軍に対する関与を強めていますが、「共青団」もしっかり管理監督していることを見せつけて、「締め付けているのは軍だけではない」ことを軍関係者に見せたいと考えたからだ、とする見方も可能です)。

 今回の動きは、共青団出身で、将来の党中央の幹部候補だと思われていた令計画氏(元中国共産党中央統一戦線部長)の失脚(今年7月4日に有罪判決)に繋がるものと見られています。共青団については、習近平氏が進める反腐敗運動を担当している党の中央巡視グループが今年の春「貴族化、娯楽化の傾向がある」として問題点を指摘していたところでした。

 共青団に関する動きについては、既に「週刊東洋経済」2016年7月30日号のコラム「中国動態」で、ジャーナリストの富坂聡氏が「求心力を求める習近平 次なる標的は『共青団』」と題する文章で指摘していました。このコラムの中で富坂氏は、習近平氏が狙うのは「個々の政治家ではなく組織そのもの」と指摘しています。

 ただ、私は、今回の「共青団改革計画」の発表は、タイミングが「北戴河会議」の直前ということもあり、「あまりに露骨過ぎる」ことから、むしろ習近平氏の「あせり」を表しているのではないか、と感じています。去年(2015年)は、9月3日に行われた「反ファシスト勝利70周年軍事パレード」を頂点とする一連の行事において「習近平氏による人民解放軍の掌握」をアピールしたのに続き、今年(2016年)は習近平氏は李克強総理をトップとする共青団グループ(団派)に対する自らの優位性を内外にアピールすることに必死になっている、というふうに私には見えてしまいます。

 私は1980年代、中国に関係する仕事をやっており、1980年代後半は北京に駐在していましたが、当時の中国の最高実力者はトウ小平氏でした。トウ小平氏は、ほとんどニュースには登場せず、自らは「黒子」に徹していました。何のアピールをしなくても、トウ小平氏が中国共産党(人民解放軍も含む)を完全に掌握していることは、内外の誰の目にも明らかだったからです。国共内戦に自ら将軍として参戦したトウ小平氏と革命後世代の習近平氏とを同じ目で比較することは習近平氏には気の毒ですが、これだけ露骨に「私が中国の中心なのだ」とアピールされると、それだけ習近平氏の実際の求心力は強くはないのだ、という印象を受けてしまうのです。

 実際、習近平主席と李克強総理とは「不仲だ」と言われますが、ニュースや「人民日報」に登場する回数はほとんど同じで、李克強総理が「政権の中心から外されている」という印象は全くありません(むしろ国際会議への出席回数や外国要人との会談の回数から言ったら、習近平氏より李克強氏の方が多いという印象がある)。

 私が「習近平氏は焦っているのではないか」と感じるのは、最近、中国の外交案件で「不運」が目だつからです。南シナ海問題を巡る国際仲裁では中国の主張が否定されましたし、EU離脱の国民投票後に新しくイギリス首相になったメイ氏は昨年習近平主席訪英時にキャメロン前首相との間で合意したイギリスの原子力発電所建設に対する中国の出資について再検討を指示しました。

 また、最近、米韓両国は、韓国に高高度防衛ミサイル(THAAD)を配備することを決めましたが、これに対して中国は鋭く反発しています。THAADは、北朝鮮のミサイルを防御するためのシステムですが、中国があまり快く思わないことは理解できます。しかし、客観的に見てTHAADは北朝鮮からのミサイルを防衛するために導入したとする米韓の主張を否定することは難しく、中国としては不快感を示して「東アジア情勢をいたずらに刺激すべきではない」とコメントする程度に留めておくべきだと私には思えます(実際、ロシアは「その程度の反応」で留めています)。なのに、中国中央テレビのニュース「新聞聯播」では、何回もこの問題を取り上げて「アメリカと韓国はケシカラン」という雰囲気を煽っています。このことからも、たび重なる外交上の「不運」を受けて、中国政府が中国人民に対してメンツを失ってしまって「焦っている」ように見えてしまいます。

 再び1980年代を引き合いに出して恐縮ですが、当時、トウ小平氏は「みんなで対ソ包囲網を作りましょう」と自ら音頭をとって国際関係を構築していて、レーガン大統領のアメリカ、サッチャー首相のイギリス、中曽根総理の日本とは非常に良好な関係にありました。「対ソ包囲網の一部」という意味では、1980年代は中国は「西側」の一員でした。そうやって、トウ小平氏は、日本やアメリカ・ヨーロッパと友好関係を築く中で当時の中国が最も必要としていた経済的・技術的協力をこれらの国々から得ていたのでした。1989年の「六四天安門事件」を経てから振り返れば、トウ小平氏が「中国は西側の一員である」などとはこれっぽっちも思っていなかったのは明らかなのですが、1980年代、トウ小平氏は日米欧とうまく渡り合って、当時中国が最も必要としていたものを国際社会で得ることに成功したのでした。

 それと比べると、今の中国の外交のやり方は、いたずらに国際社会の反発を買うだけで、中国は相当に損していると思います。 

 私がイメージとして持っている「中国政権内の権力闘争」とは、外から見えないところで水面下でやられるものでした。ある有名な人が失脚して初めて「ああ、見えない所で権力闘争が行われていたのだ」と後からわかる、というのが「普通」でした(古い例では1971年にクーデター未遂を起こして外国に逃亡しようとして墜落死した林彪氏(党副主席)や1987年に学生運動に対する対応のまずさに起因して辞任した胡耀邦氏(党総書記)など)。しかし、今回の「共青団改革計画」の発表は、あからさまに習近平主席と李克強総理との権力闘争を見せつけるようなものなので、あまりの「露骨さ」に私は相当戸惑っています。「中国共産党内の権力闘争と言えども、みんなが見えるところで堂々とやるのが、ネットの発達した21世紀のやり方なのだ」という考え方もあり得るのかもしれませんが、それだったら「北戴河会議」のように、開催されているのかいないのかすらわからないような秘密会議で話し合いをやるのはやめて欲しいと思います。

 まぁ、上海株式市場が暴落していないところを見ると、中国の人々は「共青団改革計画」の発表は「とんでもない権力闘争が具体化した」とは思っていないようなので、あまり心配する必要はないのかもしれません。

 ただ、今日(8月6日)、尖閣諸島の接続水域に中国漁船が230隻も出現した、というニュースはちょっと気になります。このブログの2014年11月7日付け記事「習近平主席の『法治改革』はAPEC後にどう動くのか」で書いたのですが、北京でのAPEC首脳会議に合わせて習近平主席と安倍総理の個別会談が実現するかどうか微妙な段階だった2014年11月初旬、日本の小笠原近海に大量の中国のサンゴ密漁船が出現する事件がありました。タイミングからして、この大量のサンゴ密漁船の小笠原近海への出現は、安倍総理との会談を模索する習近平主席に対する嫌がらせのように見えました。

 今回の尖閣諸島近海への大量の中国漁船の出現も、タイミング的に言って、「共青団改革計画」を発表して「北戴河会議」に臨もうとしている習近平氏に対する「ゆさぶり」なのではないか、とかんぐりたくなってしまいます。9月4~5日に浙江省杭州で開催予定のG20首脳会議を直前に控えた今の時期は、習近平主席にとっては日本とイザコザを起こしたくない時期だと思えるからです。

 この一週間、中国中央テレビの夜7時のニュース「新聞聯播」には習近平主席も李克強総理も登場していません。そのことが今「北戴河会議」をやっている最中なのだ、と推測させる根拠になっているのですが、お二人には、できるだけ早く新聞・テレビにご登場いただいて、ぜひとも表面上だけでよいから仲の良い様子を内外に示して、中国共産党中央は一丸となって中国の経済社会を安定的に運営していきますよ、というメッセージを発して欲しいと思います。

 多くの人は、去年(2015年)のことをよく覚えています。去年は9月3日に「抗ファシスト戦勝利70周年軍事パレード」があり、その直前の8月に「中国発世界同時株安」が起きました。今年は9月4日に杭州でG20首脳会議がありますが、去年の9月3日も今年の9月4日も習近平氏にとっては「晴れ舞台」なので、去年と同じようなことが今年も起こるのではないか、と心配したくなってしまうのです。

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