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2016年8月

2016年8月27日 (土)

「健康中国2030計画」の意味するもの

 今日(2016年8月27日(土))付けの「人民日報」1面トップ記事によると、昨日(8月26日)、中国共産党政治局は会議を開いて「健康中国2030計画」について審議した、とのことです。先週の発言でも書きましたが、今年の夏休み明けの中国指導部が一同に会した最初の「仕事」は「全国衛生健康大会」への出席でした。中国の政権指導部が中国人民の健康増進のために努力するのは大変よいことであるし、医療保険制度、食品や薬品の安全、健康を守るための環境保護問題などが中国における喫緊の政策課題であることは間違いないので、党政治局が「健康中国2030計画」について議論することは、別に「おかしなこと」ではないと思います。

 ですが、「いつもひねくれた目で中国指導部の動きを見てしまう」傾向のある私としては、「なぜ北戴河会議明けの最初の党政治局会議で議論する課題が『健康』なのか」「この手の実務的な政策の決定は国務院マターであって、重要な政治路線を決める場である中国共産党政治局会議で議論するような案件ではないように見える」と思いました。また「2030年」というタイミングについて、「なぜ『2030年なのか」「何か腑に落ちないなぁ」「ウラがありそうだなぁ」と思ってしまうのでした。

 人民日報の記事によると、「健康中国2030年」は、昨年(2015年)中国も賛同して国連で採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」を実行するためにも重要、とのことでした。でも「『国連の持続可能な開発のための2030アジェンダ』と中国人民の健康増進計画とを結びつけるのは、ちょっと強引過ぎませんか?」と私は思いました。また「計画」にはあまり具体的な政策決定事項が盛り込まれていないようで、党政治局会議で扱う案件にしては中身が薄すぎる、という印象を持ちました。

 それで、この「健康中国2030計画」に関する党政治局会議での議論の本質は、健康そのものではなく、習近平氏が主導する政権が2030年まで計画の遂行を担当する、つまり習近平主席は慣例に従って2022年の党大会で引退することはせず2030年過ぎまで政権を担当することの是非についての議論だったのではないか、と私は思ったのでした。

 今までの慣例に従えば、2012年の党大会で総書記になった習近平氏は2022年までの10年間が任期で、2022年には次の中国のトップが決まることになります。そうであれば、来年(2017年)秋に予定されている次の党大会で「2022年に党総書記(=国家主席)になる候補者(場合によっては複数)」を政治局常務委員に任命しておくことになります。過去の例でも2002年に総書記になった胡錦濤氏は1992年に政治局常務委員になっていますし、現在の国家主席の習近平氏と国務院総理の李克強氏は2007年の党大会で政治局常務委員になっています。

 今の政治局常務委員7名のうち、習近平氏と李克強氏以外の5人は年齢的には従来の慣例では来年(2017年)の党大会で引退となります。現在国務院総理の李克強氏が2022年の党大会で総書記になる可能性があるのであれば話は別ですが、そうでなければ2022年に習近平氏が次世代の指導者にバトンタッチをするつもりならば、次期トップの候補者を来年(2017年)の党大会で政治局常務委員に任命して経験を積ませる必要があります。ただ、もし、習近平氏が従来の慣例を変更して2022年以降もトップの座に居続けたいと考えるならば、来年2017年の党大会では政治局常務委員には「総書記・国家主席にはなりそうもない人物」だけを任命することになるでしょう。

 中国人民の健康に関する議論は重要な議論だと思いますが、今のタイミングでやらなければならない議論でもないと思います。今のタイミング、つまり来年(2017年)の中国共産党人事の根回しが行われたであろう今年の北戴河会議の後に行われた中国共産党政治局会議で議論されたというタイミングから、私は「健康中国2030計画」に関する議論とは、実は習近平氏の政権が2030年まで継続してよいかどうかの議論だったのではないか、と考えたのでした。

 中国人民の健康は政権安定の基盤であり、中国指導部の動きをなんでもかんでも「権力闘争を反映したもの」と考えるのはあまりに偏狭な見方だ、という御批判もあろうかと思います。私も「考え過ぎかなぁ」とも思うのですが、まぁ、こういう見方もある、という意味で紹介してみました。日本の新聞は、「健康中国2030計画」なんて、あまり関心を持たずに記事にすることもないだろうと思ったので。

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2016年8月20日 (土)

ゾンビ企業対処の正念場

 このブログの先週の発言で予想していたとおり、8月16日(火)から中国指導部は「北戴河会議:夏休み」の期間を終えて、会議への出席や外国要人との会談など、通常の業務に戻ったようです。習近平主席も李克強総理も中国中央電視台の夜7時のニュース「新聞聯播」にいつものとおりの表情で登場したので、私としてはとりあえず一安心しました(突然「誰かが失脚した」などといった事態になったらエライコトなので)。

 今日(2016年8月20日(土))の「新聞聯播」のトップニュースは「全国衛生健康大会」に習近平主席、李克強総理をはじめ党政治局常務委員7名全員が参加したことでした。まぁ「衛生健康」も重要な政策課題だとは思いますが、このニュースが全国の中国人民に本当に伝えたかったのは、習近平主席と李克強総理は「不仲」でも何でもなく、党政治局常務委員7名は一致団結して政策課題に対応していますよ、ということだったんだろうなぁ、と私は想像しています。

 で、休み明けの8月16日(火)、李克強総理は早速定例の国務院常務会議を開きました。国務院常務会議の定例開催日は通常は毎週水曜日なのですが、今週は「休み明け」ということで火曜日の16日に開いたようです。この日の国務院常務会議のしょっぱなの議題は「鉄鋼・石炭産業における過剰生産能力の削減問題に対する対処」でした。

 同じ8月16日(火)、国家発展改革委員会は、定例の記者会見を開き、過剰生産設備削減問題について説明しました。この記者会見で、国家発展改革委員会のスポークスマンは、7月末の時点で、過剰生産能力の年間削減目標に関し、鉄鋼業では47%、石炭産業では38%の達成率であると発表し、今年下半期には、厳しい監督と問責等を通じて過剰生産能力削減措置のスピードを上げるつもりであることを述べました。

 中国の場合、年度(中国の場合、通常カレンダーイヤーを年度として用いている)の途中で、年度目標が計画通りに進んでいないこと(つまり政策が順調に遂行されていないこと)を発表するのはかなり異例なので、私はこの記事を目にして、ちょっとびっくりしました。

 この日の国務院常務会議では、鉄鋼業と石炭産業の過剰生産設備の削減について全国的な監査を実施し、スケジュール通りの削減を確保するようにすることを決定しました。

 これらの事項が「人民日報」に大々的にオープンに掲載されたことは、鉄鋼及び石炭産業における過剰生産設備削減処置を本気で成し遂げるとの中国政府の決意を内外に示したかったからでしょう。9月4~5日に浙江省杭州で開かれる予定のG20首脳会議において、各国から中国の過剰生産設備削減問題について突っ込まれることは明白なので、中国政府としても全力で取り組んでいる姿勢を先手を打って内外に示す必要があったのだと思います。

 一方、今日(2016年8月20日(土))付け日本経済新聞朝刊は7面に「中国で債務不履行急増 今年既に3,800億円、昨年の2倍 ゾンビ企業 淘汰進まず」と題する記事を掲載しています。この記事では、今年に入って7回、累計48億元の社債のデフォルト(債務不履行)を起こしながら、大株主である遼寧省の意向を受けて、雇用の維持等のために生産を続けている大手国有鉄鋼企業の東北特殊鋼について紹介しています。

 遼寧省と言えば、先日(8月10日)、中国共産党は、遼寧省前書記の王ミン氏(ミンは「王」へんに「民」)について重大な規律違反があったとして党籍を剥奪し、司法機関に移送することを決めました。王ミン氏の前任の遼寧省党書記は李克強氏ですので、この日経新聞の記事を読んで、遼寧省のゾンビ企業の措置がうまくできないとすると過去の党書記の責任も追及されて李克強総理のクビが飛ぶかもしれない、といった憶測を持った人もいるのではないかと思います。

 李克強総理が夏休み明け最初の国務院常務会議の最初の議題に鉄鋼業・石炭業の過剰生産能力削減措置の問題を議論したことを見ても、李克強総理は「お尻に火が付いた」状況で必死に対応しているのであろうことが想像されます。おそらくは「北戴河会議」で、李克強総理に対しては、「ゾンビ企業」の処置をきちんと進めるよう新旧幹部から相当なプレッシャーが掛かったのではないかと思います。

 上記に紹介した日経新聞の記事では、中国では、デフォルトを起こした企業に対しても、「最後は地方政府が支援に乗り出すはず」との思惑から国有銀行が取引を続けているケースが少なくないとしています。仮にこうしたケースが多く重なると、その結果として国有銀行が多くの不良債権を抱えることになります。もし仮に最終的に国有銀行の多くの不良債権を中央銀行(人民紙幣の発行主体)である中国人民銀行が尻拭いをするようなことになれば、それは一種の「ヘリコプター・マネー」(=無制限の紙幣発行)であり、外国為替相場における人民元の暴落と中国国内でのハイパー・インフレを招くことになります。一方でゾンビ企業を無定見に倒産させることは多くの失業者を生みますから、多くの国有ゾンビ企業を国有銀行が支えている現在の構図を金融不安を発生させずに解消するためには、政治面・金融面で相当難しいコントロールが要求されると思います。

 今、中国で過剰生産された鉄鋼は、多くが外国へ輸出され「中国から世界へのデフレの輸出」が起きていますが、一方で、過剰生産された鉄鋼は、中国国内では、マンションや鉄道の建設等に使われています。マンションは常にバブル崩壊の危惧がありますし、急速に建設を進めている鉄道についても、おそらくは大半の路線が赤字になると思います(先日、最も収支が良いと思われる北京-上海間の高速鉄道がようやく黒字を確保できた、と報じられていましたので、おろらくは他の路線の多くは赤字なのだと思います。中国の鉄道網は遠くない将来に、かつて日本の国鉄がたどったような道を歩むことになる可能性が大きいと私は思っています)。

 中国経済の先行き不透明感については、中国企業や中国の人々自身が最も強く肌感覚で感じていると思います。当局にかなりの程度コントロールされているとは言え、企業のリスクを一定程度反映する中国の株価や中国からの資本流出の度合いを反映する人民元為替レートの変動は、ある程度中国企業や中国の人々が持っている「中国経済に対する感覚」を知ることができる指標のひとつですから、今後とも注意深く見守って行く必要があると思います。

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2016年8月13日 (土)

毎年八月上旬の中国指導部の「所在不明」

 今週(2016年8月8日(月)から始まる週)も中国中央テレビの夜7時のニュース「新聞聯播」には習近平主席も李克強総理も登場しませんでした(というか、中国共産党政治局常務委員(いわゆるチャイナ・セブン)は誰も登場しなかった)。毎年八月上旬の二週間は、中国共産党幹部は休暇をかねて河北省北戴河に集まって、引退した元幹部も含めた会議「北戴河会議」が開かれるので、この時期、中国指導者の動静が全く報道されない、という状況になります。

 このブログの去年の記事を見ると、去年(2015年)は、8月6日と8月16日に亡くなった元党幹部のお葬式があり、そこに中国指導部が参列したことが報じられました。今年(2016年)は、そうしたお葬式がなかったので、中国指導部はほぼ二週間にわたって「所在不明」の状況になっています(ただし、外国のイベントに祝電を打ったり、北京に赴任する外国の大使に関する手続きなど「北京にいなくてもできる事務的手続き」については報道されるので、「全く何も報道されない」というわけではないのですが)。

 毎年恒例の「政治局常務委員の劉雲山氏が北戴河で同地で休暇中の専門家を慰問した」というニュースが去年も今年も8月5日に流れていますので、「北戴河会議」は毎年と同じスケジュールで行われていると考えられており、おそらくは今年も8月16日あたり以降「夏休み明け」の中国指導部の報道が流され始めるのだと思います。

 幸いなことに、去年8月11日にあった人民元の突然の切り下げや、8月12日にあった天津大爆発事故のようなことは今年はないので、おそらくは大きな動きはないのだと思いますが、「北戴河会議」の後、習近平主席と李克強総理との関係に何か変化が起きるかどうかには注目する必要があると思います。

 現状では、相変わらず中国経済は低迷が続いています。3月の全人代で強調された「ゾンビ企業の処理」も効果はあまり目に見えてきていません。それどころか、先日発表された7月の貿易統計では、鉄鋼の輸出が金額ベースでは減っているのに数量ベースでは増えていることが明らかになり、中国が価格を下げて大量の鉄鋼を輸出している(つまり「ゾンビ」の鉄鋼企業は生産を続けているらしい)ことが「目に見えて」きています。

 また、昨日(2016年8月12日(金))付けの日本経済新聞朝刊の1面トップ記事「中国企業 海外M&A最高 1~6月12兆円 前年通年超す」では、中国企業による海外企業の買収が非常に増えており、今年(2016年)は1~6月で既に過去最高だった去年(2015年)を上回っている、とのことでした。中国の企業が積極的に外国の企業との関係を強化することは悪いことではないと思いますが、一方で、このことは中国国内に有力な投資先がないことも反映していると思われます。別途発表された中国の経済統計によれば、中国の民間部門の投資の伸びは、今年に入って急激に伸びが鈍化しているとのことです。このことも、「わかりにくい」と言われる中国の経済統計においても、中国国内の経済の鈍化が「目に見えて」きていることを表しています。

 これに関連して8月11日(木)付けの産経新聞のコラム「石平の China Watch」で、筆者の石平氏は、中国の経済専門家による「中国企業の未来への『信心』の喪失」という見方を紹介していました。「信心」とは、日本語で言えば「自信」「確信」「信頼」に相当する中国語です。石平氏は、「信心喪失」の中身として、中国経済の先行きへの不安とともに政治路線の不透明感があることも指摘しています。習近平主席と李克強総理の「不仲な様子」については、おそらくは中国国内の企業家たちも不安に思っているのだと思います。

 「北戴河会議」の期間中、中国指導部の動向が報道されない、というのは、確かに中国共産党の「長年の伝統」なのかもしれませんが、中国の指導部に「中国の企業家に『信心喪失』させてはならない」という問題意識があるのだったら、もっと中国共産党内部の議論をオープンにして、「今後どういう政策が採られるのかわからないという不安」を払拭する必要があると思います。もしそれができないのだったら、中国の企業家は中国国内でのビジネスを縮小して、海外で「稼ぐ」ことに重点を置くようになり、中国経済の低迷を長期化させ、結果的に中国指導部が最も欲している「中国共産党政権の維持」の土台を揺るがせることになってしまうと思います。

 「北戴河会議」の動向は全く報道されないので外部からは想像するしかないのですが、8月11日頃から尖閣諸島周辺にいた中国漁船や中国公船の数が減ったところからすると、私はこの時点で「北戴河会議」はヤマを超えたのだろう、と見ています。

 8月11日に起きた中国漁船とギリシャ船籍の貨物船の衝突で漂流していた中国漁船乗組員を日本の海上保安庁が救助しました。この件について、中国国内では「中国公船は何をやっていたのか」との批判が起こっているようです。一連の動きを見ていると、今回の動きの目的は、中国側が尖閣諸島(中国名:釣魚島)の領有権を日本側に対して主張するというよりは、多くの日本のマスコミが指摘しているように、領有権に対する強硬姿勢を日本側に見せることによって、何らかの形で「北戴河会議」に影響を与えることだったように思えます。

 ちなみに、昨日(8月12日(金))に放送された中国中央電視台の「新聞聯播」では、リオデジャネイロ・オリンピックの競泳男子200m個人メドレーで中国の汪順選手が銅メダルを獲得したニュースにおいて、このレースで銀メダルを取った日本の萩野公介選手と汪順選手ががっちり握手して互いの健闘を讃え合うシーンを流していました。私のようにオリンピックのニュースまで「政治的色眼鏡」に見てしまうのはよくないとは思うのですが、私はこうしたニュースの流し方は「これは党中央は今の時点で反日感情を高めてはならないと考えているというメッセージだ」と感じてしまうのでした。

 いずれにせよ、中国におけるこうしたいろいろな側面的状況から「習近平指導部はこう考えているのではないか」と想像しなければならないような政治のあり方は、いい加減に改めて欲しいと思います。ロシアのプーチン大統領だって、何か意図がある時にはテレビに登場して国の内外に対してハッキリものを言うじゃないですか。中国共産党政権が国内を安定させ、国際社会において影響力のある地位を占めたいと思うのならば、政権幹部が夏の二週間「所在不明」になるような慣習は改めて、もっと政権の意図を中国人民と世界に明確に発信する努力をするべきだと思います。

 私は1987年秋の第13回中国共産党大会のあった頃、北京にいました。この時の中国共産党大会は、テレビで生中継され、毎日、党の主要幹部が生中継のテレビカメラの前で記者会見に登場しました(外国の記者からの質問も行われた;この形式はその後恒例化した)。この頃ソ連もゴルバチョフ書記長の下で改革を進めていましたが、内外に対する政権の意図を発信する努力、という点では、中国共産党はソ連共産党より格段に進んでいました。その時の新鮮な驚きを今でも覚えているだけに、中国共産党の対外発信努力がその後全く進歩していない(というよりむしろ後退しているように感じる)のは残念でなりません。

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2016年8月 6日 (土)

共青団改革計画と習近平主席の「あせり」

 中国共産党中央弁公庁は、8月2日、党の青年組織である「共産主義青年団(共青団)改革計画」を発表しました。内容は「共青団に対する党中央の統制を明確化する」などですが、共青団は、過去の総書記(胡耀邦氏、胡錦濤氏)や現職の国務院総理李克強氏の出身母体であることから、この「改革計画」は、習近平総書記による共青団出身者(いわゆる「団派」)への「締め付け」のひとつだと見られています。

 習近平国家主席と李克強総理の「不仲説」が取りざたされるなか、このタイミングでこの「共青団改革計画」が発表されたことは、8月上旬に開かれていると思われている「北戴河会議」(中国共産党の現役や元幹部が集まり人事等について話し合う会議)を前にして、習近平氏が李克強氏ら共青団出身者を抑えて優位に立っていることをアピールする狙いがあると見られています(もっとも、最近、習近平氏は軍に対する関与を強めていますが、「共青団」もしっかり管理監督していることを見せつけて、「締め付けているのは軍だけではない」ことを軍関係者に見せたいと考えたからだ、とする見方も可能です)。

 今回の動きは、共青団出身で、将来の党中央の幹部候補だと思われていた令計画氏(元中国共産党中央統一戦線部長)の失脚(今年7月4日に有罪判決)に繋がるものと見られています。共青団については、習近平氏が進める反腐敗運動を担当している党の中央巡視グループが今年の春「貴族化、娯楽化の傾向がある」として問題点を指摘していたところでした。

 共青団に関する動きについては、既に「週刊東洋経済」2016年7月30日号のコラム「中国動態」で、ジャーナリストの富坂聡氏が「求心力を求める習近平 次なる標的は『共青団』」と題する文章で指摘していました。このコラムの中で富坂氏は、習近平氏が狙うのは「個々の政治家ではなく組織そのもの」と指摘しています。

 ただ、私は、今回の「共青団改革計画」の発表は、タイミングが「北戴河会議」の直前ということもあり、「あまりに露骨過ぎる」ことから、むしろ習近平氏の「あせり」を表しているのではないか、と感じています。去年(2015年)は、9月3日に行われた「反ファシスト勝利70周年軍事パレード」を頂点とする一連の行事において「習近平氏による人民解放軍の掌握」をアピールしたのに続き、今年(2016年)は習近平氏は李克強総理をトップとする共青団グループ(団派)に対する自らの優位性を内外にアピールすることに必死になっている、というふうに私には見えてしまいます。

 私は1980年代、中国に関係する仕事をやっており、1980年代後半は北京に駐在していましたが、当時の中国の最高実力者はトウ小平氏でした。トウ小平氏は、ほとんどニュースには登場せず、自らは「黒子」に徹していました。何のアピールをしなくても、トウ小平氏が中国共産党(人民解放軍も含む)を完全に掌握していることは、内外の誰の目にも明らかだったからです。国共内戦に自ら将軍として参戦したトウ小平氏と革命後世代の習近平氏とを同じ目で比較することは習近平氏には気の毒ですが、これだけ露骨に「私が中国の中心なのだ」とアピールされると、それだけ習近平氏の実際の求心力は強くはないのだ、という印象を受けてしまうのです。

 実際、習近平主席と李克強総理とは「不仲だ」と言われますが、ニュースや「人民日報」に登場する回数はほとんど同じで、李克強総理が「政権の中心から外されている」という印象は全くありません(むしろ国際会議への出席回数や外国要人との会談の回数から言ったら、習近平氏より李克強氏の方が多いという印象がある)。

 私が「習近平氏は焦っているのではないか」と感じるのは、最近、中国の外交案件で「不運」が目だつからです。南シナ海問題を巡る国際仲裁では中国の主張が否定されましたし、EU離脱の国民投票後に新しくイギリス首相になったメイ氏は昨年習近平主席訪英時にキャメロン前首相との間で合意したイギリスの原子力発電所建設に対する中国の出資について再検討を指示しました。

 また、最近、米韓両国は、韓国に高高度防衛ミサイル(THAAD)を配備することを決めましたが、これに対して中国は鋭く反発しています。THAADは、北朝鮮のミサイルを防御するためのシステムですが、中国があまり快く思わないことは理解できます。しかし、客観的に見てTHAADは北朝鮮からのミサイルを防衛するために導入したとする米韓の主張を否定することは難しく、中国としては不快感を示して「東アジア情勢をいたずらに刺激すべきではない」とコメントする程度に留めておくべきだと私には思えます(実際、ロシアは「その程度の反応」で留めています)。なのに、中国中央テレビのニュース「新聞聯播」では、何回もこの問題を取り上げて「アメリカと韓国はケシカラン」という雰囲気を煽っています。このことからも、たび重なる外交上の「不運」を受けて、中国政府が中国人民に対してメンツを失ってしまって「焦っている」ように見えてしまいます。

 再び1980年代を引き合いに出して恐縮ですが、当時、トウ小平氏は「みんなで対ソ包囲網を作りましょう」と自ら音頭をとって国際関係を構築していて、レーガン大統領のアメリカ、サッチャー首相のイギリス、中曽根総理の日本とは非常に良好な関係にありました。「対ソ包囲網の一部」という意味では、1980年代は中国は「西側」の一員でした。そうやって、トウ小平氏は、日本やアメリカ・ヨーロッパと友好関係を築く中で当時の中国が最も必要としていた経済的・技術的協力をこれらの国々から得ていたのでした。1989年の「六四天安門事件」を経てから振り返れば、トウ小平氏が「中国は西側の一員である」などとはこれっぽっちも思っていなかったのは明らかなのですが、1980年代、トウ小平氏は日米欧とうまく渡り合って、当時中国が最も必要としていたものを国際社会で得ることに成功したのでした。

 それと比べると、今の中国の外交のやり方は、いたずらに国際社会の反発を買うだけで、中国は相当に損していると思います。 

 私がイメージとして持っている「中国政権内の権力闘争」とは、外から見えないところで水面下でやられるものでした。ある有名な人が失脚して初めて「ああ、見えない所で権力闘争が行われていたのだ」と後からわかる、というのが「普通」でした(古い例では1971年にクーデター未遂を起こして外国に逃亡しようとして墜落死した林彪氏(党副主席)や1987年に学生運動に対する対応のまずさに起因して辞任した胡耀邦氏(党総書記)など)。しかし、今回の「共青団改革計画」の発表は、あからさまに習近平主席と李克強総理との権力闘争を見せつけるようなものなので、あまりの「露骨さ」に私は相当戸惑っています。「中国共産党内の権力闘争と言えども、みんなが見えるところで堂々とやるのが、ネットの発達した21世紀のやり方なのだ」という考え方もあり得るのかもしれませんが、それだったら「北戴河会議」のように、開催されているのかいないのかすらわからないような秘密会議で話し合いをやるのはやめて欲しいと思います。

 まぁ、上海株式市場が暴落していないところを見ると、中国の人々は「共青団改革計画」の発表は「とんでもない権力闘争が具体化した」とは思っていないようなので、あまり心配する必要はないのかもしれません。

 ただ、今日(8月6日)、尖閣諸島の接続水域に中国漁船が230隻も出現した、というニュースはちょっと気になります。このブログの2014年11月7日付け記事「習近平主席の『法治改革』はAPEC後にどう動くのか」で書いたのですが、北京でのAPEC首脳会議に合わせて習近平主席と安倍総理の個別会談が実現するかどうか微妙な段階だった2014年11月初旬、日本の小笠原近海に大量の中国のサンゴ密漁船が出現する事件がありました。タイミングからして、この大量のサンゴ密漁船の小笠原近海への出現は、安倍総理との会談を模索する習近平主席に対する嫌がらせのように見えました。

 今回の尖閣諸島近海への大量の中国漁船の出現も、タイミング的に言って、「共青団改革計画」を発表して「北戴河会議」に臨もうとしている習近平氏に対する「ゆさぶり」なのではないか、とかんぐりたくなってしまいます。9月4~5日に浙江省杭州で開催予定のG20首脳会議を直前に控えた今の時期は、習近平主席にとっては日本とイザコザを起こしたくない時期だと思えるからです。

 この一週間、中国中央テレビの夜7時のニュース「新聞聯播」には習近平主席も李克強総理も登場していません。そのことが今「北戴河会議」をやっている最中なのだ、と推測させる根拠になっているのですが、お二人には、できるだけ早く新聞・テレビにご登場いただいて、ぜひとも表面上だけでよいから仲の良い様子を内外に示して、中国共産党中央は一丸となって中国の経済社会を安定的に運営していきますよ、というメッセージを発して欲しいと思います。

 多くの人は、去年(2015年)のことをよく覚えています。去年は9月3日に「抗ファシスト戦勝利70周年軍事パレード」があり、その直前の8月に「中国発世界同時株安」が起きました。今年は9月4日に杭州でG20首脳会議がありますが、去年の9月3日も今年の9月4日も習近平氏にとっては「晴れ舞台」なので、去年と同じようなことが今年も起こるのではないか、と心配したくなってしまうのです。

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