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2016年7月

2016年7月30日 (土)

グローバル化を考える中での日本の位置

 今年(2016年)のこれまでの世界の動きの中で特筆すべきなのは、国民投票によるイギリスのEU離脱決定やアメリカ大統領選挙のトランプ旋風に見られるような先進国の中におけるグローバル化反対の動きでしょう。

 イギリスやアメリカでのこれらの多くの国民による現在の政策に対する「異議申し立て」の背景には、イギリスにおける石炭・鉄鋼・造船業の衰退、アメリカにおける石炭・鉄鋼業の衰退があると言われています。これらは経済のグローバル化(移民の流入も含む)ばかりでなく、世界全体での石炭から石油への転換や、イギリスでは金融業の拡大、アメリカではIT産業の拡大など、産業構造全体が変化する「時代の流れ」によるものも含まれています。従って、外国との自由貿易や移民の流入に反対しても、問題の解決にはならないと私は思います。でも、イギリスやアメリカの多くの国民の「不満」は現実のものなのですから、「グローバル化反対の動き」をどう考えるかは非常に重要なことだと思います。

 日本の場合、企業における「終身雇用制度」がまだ根強くてアメリカのようにドライに解雇が行われるケースは少ないからか、現在のところ、イギリスやアメリカのような「反グローバル化」の動きは表面立っては見えていません。ただ、日本の企業は、従業員を解雇する代わりに、新規に採用する正規雇用者の数を減らし、その分非正規雇用者を増やしているので、日本全体での失業率はかなり低い状況であっても、日本国内でも自分の能力より低い賃金しかもらえていない労働者が増えており、イギリスやアメリカの人々の間に溜まっている「不満」と同様の「不満」が日本でも蓄積している可能性は大きいと思います。

(注)イギリスやアメリカでは、若い人は比較的新しい産業(金融業やIT産業)に適応できるが、中高年層は時代の流れに対応できないので、「不満」の多くが中高年層に溜まっているのに対し、日本の場合には非正規雇用でしか働けない若い世代の方により多くの「不満」が溜まるなど、「不満」の構造が日本とイギリス・アメリカでは異なっている可能性があります。

 ただ、グローバル化の問題を考える時、日本の場合は、存在している物理的な位置に関係して、イギリスやアメリカと以下のような大きな違いがあると私は思っています。

○地理的・歴史的条件:日本は島国であり、鎖国政策と対外積極策とを繰り返した歴史を持つこと。

 アメリカ共和党の大統領候補になったトランプ氏は「不法移民を防ぐためにメキシコ国境に壁を作る」と主張しています。一方、日本は島国であって、隣国との間は海によって手こぎボートで渡るのはほとんど不可能なほどの距離で隔てられています。トランプ氏が主張するような「壁」を作らなくても、日本の国境には「海」という物理的な壁が昔から存在しているのです。従って、日本の場合、港や空港での管理を通じて、人や物の国境を越えた移動を政策によって比較的容易にコントロールできます。外国に開いた「窓」を政府の意志によって比較的容易に開けたり閉めたりできる、というこの物理的特性により、日本は対外積極政策と対外消極政策を繰り返してきた歴史的経験を持っており、それぞれの対外政策の結果どうなったかを日本国民はよく知っています(例えば、平家政権は対外通商に積極的、鎌倉幕府は対外政策は消極的、織田信長・豊臣秀吉の時代は対外通商関係は積極的だったが、江戸幕府は鎖国政策を採り、明治以降は対外関係は積極的に展開しています)。

 特に江戸幕府の鎖国政策により日本が世界の動きに取り残されたという印象を多くの日本国民が持っています。対外政策に関しては明治維新直前の時期に「尊皇攘夷派」と「開国派」の「論争」が徹底的になされました。このため、対外関係の基本路線については、日本では既に結論が出ている、即ち、資源が少なく食糧生産に必要な広い国土も持たない日本では、外国との関係を絶っては生存できない、と思っている人が多いと思います。

 日本人の中で「世界に目を向けな、いかんぜよ」と主張する坂本龍馬の人気が高いうちは、日本人が徹底した「反グローバル化」政策を求めることはないと私は考えています。

○周辺国の状況:日本の場合、隣接する国々に経済格差の大きい国、政治や社会の不安定な国がないこと(北朝鮮を除く)。

 アメリカとメキシコは友好関係にありますが、経済格差にはかなり大きいものがあります。また、メキシコの南には数多くの中南米諸国があり、中南米諸国からメキシコ経由で不法移民が移動してくる可能性があります。アメリカ国内で「カナダとの国境に壁を作ろう」などという話が全く出ないのは、カナダとアメリカとには大きな経済格差がないからです。

 ヨーロッパは、トルコ経由で中東諸国と陸続きであり、地中海を挟んだ向かい側にアフリカ大陸があります。中東諸国やアフリカ各国は、ヨーロッパとは大きな経済格差があるほか、こららの地域には政治的・社会的に不安定な国々が数多くあります。イギリスはヨーロッパと同一経済圏の中にいる限り、中東諸国やアフリカ各国と「隣接」することになります。イギリス国民の過半数がEU離脱に賛成した背景には、これらの国々と「隣接」したくない、という考え方もあったのではないかと想像されます。

 それに比べて日本の場合、海を隔てて隣接する国々(地域)は、北朝鮮を除いては、経済格差は極端に大きくはなく、政治的・社会的にも安定しています。1970年代半ば、ベトナム戦争の末期の頃、インドシナ半島が混乱した際には、「ボート・ピープル」と呼ばれたインドシナ難民が周辺諸国を悩ませましたが、この時も日本は距離的にかなり離れていたので、日本に難民が押し寄せて日本社会が困る、というような状況にはなりませんでした(ただ、当時、海上保安庁は、かなり厳重な警戒を敷いていた、と記憶しています)。

 時折「日本は、中国や韓国の隣にいるが、引っ越しするわけにもいかないので・・・」といった議論を耳にしますが、世界中を見渡せば、これは「相当に贅沢な悩み」だと思います。いろいろ御不満はあるのでしょうが、中国も韓国もきちんとした社会的・経済的に安定した国ですからね(ここにまた「北朝鮮は除く」と書かなければならないのは残念ですが)。

 中国人の中には「中国共産党政権の一党独裁や一人っ子政策を批判する日本人がいるが、中国の政治が混乱したり、人口がコントロールできないほど増えたりしたら、中国大陸から日本に難民が押し寄せることになるんですよ」と言う人がいます。言外に「だから、日本人は中国共産党政府の政策をありがたく思え」と言っているように聞こえるのでカチンと来るのですが、客観的に考えれば、この考え方は間違っていないかもしれません。

 日本は「海」という「自然の恵みによる壁」に守られていて安心仕切っているところがあるのですが、イギリスのEU離脱の国民投票やアメリカ大統領選挙でのトランプ旋風をひとつの切っ掛けにして、外国との関係をどうするのか、外国人の受け入れをどうするのかを真剣に考える必要があると思います。具体的に言えば、入国管理制度(外国人労働者の受け入れ制度を含む)をどうするのか、外国生まれの人に日本国籍や永住権を与える条件をどうするのか、について、もっと議論する必要があると思います。今後中国経済が長期低迷した場合、日本に渡航して(場合によっては日本国籍を取得して)日本で働きたいと考える中国人が増える可能性がありますから(日本人の少子高齢化が進むとそれを望む日本企業が増える可能性もありますから)、中国との関係を考える上でも、この点は非常に重要な問題だと思います。

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2016年7月23日 (土)

「李克強はずし」にはなっていない現状

 二週間前のこのブログに「習近平主席による『李克強はずし』が始まったのか」と書きました。最近、習近平主席が主宰する「中央全面深化改革指導小組」に「副組長」であるはずの李克強氏が欠席する例があったほか、7月8日に開かれた習近平氏主宰の「経済形勢専門家座談会」に李克強氏が欠席したからでした。

 しかし、7月11日には李克強氏が主宰する「経済形勢専門家と企業家による座談会」(習近平氏は出席していない)が開かれたことが報道されました。「国家主席と国務院総理とがバラバラで経済形勢専門家との座談会をやってどうすんの。やるなら一緒にやってよ。」と思いますが、こうした報道を見ると、少なくとも李克強氏が経済政策から「はずされた」という状況にはなっていないようです。

 そうした中、昨日(7月24日)に開催された「中央全面深化改革指導小組第26回会議」(習近平氏が主宰)には李克強氏も出席しました。これを見ても、今は「李克強はずし」の状態にはなっていないようです。それどころか、今日(7月24日)から四川省成都で開催されているG20財務大臣・中央銀行総裁会議に先立って昨日北京で開かれた「『1+6』円卓対話会議(中国と6つの国際経済金融機関との会議)」では、李克強氏がIMFのラガルド専務理事ら国際経済金融機関の幹部とにこやかに会談する場面がニュースで流れていました。このニュースは、まるで「李克強氏こそが中国政府の経済政策の中心人物なのだ」と内外に宣言しているように見えました。李克強氏は、こうした国際会議に数多く出るので、国際的な場面から見ると、むしろ李克強氏が政府の中心におり、習近平氏の方が「はずされている」ように見えることすらあります。

 おそらくは、まもなく開かれる中国共産党の現役幹部と老幹部(引退した幹部)が集まる会議「北戴河会議」を前にして、今、習近平氏と李克強氏の間でいろいろな「駆け引き」が行われているのだと思います。ただ、ちょっと心配なのは、今年は揚子江流域を中心に相当にひどい豪雨が続いていて、広範な地域で洪水や土砂崩れの被害が出ており、そんな中で北京の中枢部で「権力争い」や「来年の党大会で決まる人事を念頭に置いた駆け引き」なんかやっていていいのか、と多くの中国人民が感じているのではないか、ということです。「権力争い」や「駆け引き」は通常「見えないところ」でやるものですが、現在の中国共産党指導部に関しては「権力争い」や「駆け引き」が行われていることが外部から(ということは中国人民から見ても)ミエミエなのですが、これは問題だと思います(「見えないところでやるよりも透明性があってよろしい」という意見もあろうかと思いますが)。

 中国に関しては、南シナ海問題で既成事実を積み上げている問題とか、中国軍による「偵察」の問題とか、外交上非常に微妙な問題に対して軍や国防部の幹部が対外的に発言することがよくあり、「北京の指導部中央は軍の現場を完全にコントロールしているのか」(いわゆる「シビリアン・コントロール」が確立しているのか)といった懸念もあります(現在の制度上、国家主席で中国共産党軍事委員会主席の習近平氏には人民解放軍(=中国共産党の軍隊)の指揮権はありますが、李克強総理には軍の指揮権はありません)。中国の指導部が「権力争い」や「駆け引き」をやっていることが外からミエミエになっている現状は、中国国内政治の観点でよくないだけではなく、国際情勢の観点でも不安定要素になるので、なんとかして欲しいと私は思っています。 

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2016年7月16日 (土)

トルコの軍事クーデター事件で思い出すもの

 日本時間今日(2016年7月16日(土))早朝から伝えられているトルコ軍の一部によるクーデターの試みについては、私は朝からCNNでニュースを見ていました(現時点(日本時間7月16日夜の時点)で既に「クーデターは失敗した」と報じられています)。夜の街頭に戦車が展開し、銃と持った兵士と市民が対峙するイスタンブールの光景は、私にはやはり1989年6月4日未明の北京の状況とかぶって見えました。CNNの番組に出ていたキャスターやコメンテーターも同じ印象を持っていたようで、「27年前の天安門事件のときは・・・」と言った話が何回も出てきました。

 CNNは、1980年代から世界中に広がったアメリカのテレビ・ニュース・ネットワークですが、1989年の「六四天安門事件」の当時、私の家にはCNNは入っていませんでしたが、職場には入っていたので、私も職場のテレビで随分CNNの映像を見ました。六四天安門事件の時、CNNのスタッフが北京から生中継をやっている最中に中国側当局の担当者がやってきて中継をやめろと指示したことから、CNNのキャスターと中国側当局の担当者が「中継をやめろ」「やめない」とやりあっていたことがそのまま世界中に生中継されたことが今でも語り草になっています。今回のトルコの事件では、イスタンブールのCNNトルコのスタジオにクーデター派の兵士が入って来たためCNNはスタジオからの放送をやめましたが、キャスターのいないカラのスタジオの様子をずっと生中継で流していました。CNNの関係者もきっと「六四天安門事件」の時のことを思い出していたと思います。

 今回のトルコの事件では、クーデターに反対する圧倒的多数の市民を前にして、クーデター派の兵士は、いかんとすることもできず、最後は投降したようです。イスタンブールでの兵士と市民との対峙の様子の映像を流しながら、CNNのキャスターは、こう言っていました。「天安門事件の時は兵士は市民に向かって発砲しました。イスタンブールでは、北京と違って、兵士は空に向かって威嚇射撃をし、多数の市民は兵士の方に近寄って行っているようです」。今回のトルコの事件に関するCNNの報道を中国当局が検閲でカットした、という話は聞こえてこないので、おそらくは、このCNNの放送は中国国内でも流されたのでしょう。中国では、CNNが見られる受信設備は、当局の許可がないと設置できないので、CNNを見られる中国人民は、ごく一部の限られた人たちですが、この放送を見て、「天安門事件の時は・・・」と話すキャスターの話を聞いて、どう感じたのでしょうか。私は胸が痛みます。

 夜中の街頭に戦車が展開し、兵士と市民が対峙する、という今回のトルコの映像はかなり衝撃的なので、中国でどう報道するのかなぁ、と思っていたのですが、人民日報のホームページではかなり迅速に写真付きの情報を流しており、中国中央電視台の夜のニュース「新聞聯播」では、映像付きで「ふつうに」淡々と報道していました(トルコに滞在する中国人は数多いので、中国の報道機関としても「報道しない」という選択肢はあり得ない)。ただ、私の印象では、中国での報道では、テレビ局に乱入するクーデター派の兵士の様子やクーデターに抗議する市民の様子、クーデターは失敗したとイスタンブールの空港で記者会見で述べるエルドアン大統領の様子などの映像は流しても、「夜中の街頭に戦車が展開し、兵士と市民が対峙している」という天安門事件を直接的に連想させる映像は避けていたように思います。

 トルコでは既に多くの方々が亡くなっているようです。事態はまだ流動的な部分もあるようですが、トルコの事態が一刻も早く収拾され、政治と市民生活が一刻も早く通常に戻るよう祈りたいと思います。

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2016年7月 9日 (土)

習近平主席による「李克強はずし」が始まったのか

 6月27日に開催された「中央全面深化改革指導小組25回会議」(習近平氏が主宰)に李克強氏(小組の副組長)は欠席でした。今年3月26日付けのこのブログの記事にも書いたのですが、3月22日に開かれた第22回会議でも李克強氏は欠席しています。3月の第22回会議の時は、李克強氏は、海南島で開かれた中国・メコン川周辺諸国首脳会議とボアオ経済フォーラムに出席するために海南島へ行っていたために欠席だったのですが、6月27日の第25回会議は、天津で開かれていた世界経済フォーラム(通称「夏季ダボス会議」)に出席したことによる欠席でした。

 世界経済フォーラムは、民間団体主催のフォーラムですが、李克強氏は毎回出席しており、世界の経済界も「中国の国務院総理の生の発言を聞く機会」として重要視していたと思います。特に今年はスケジュール的にイギリスのEU離脱を決めた国民投票の直後であっただけに、世界は李克強氏の発言に注目していました。世界経済フォーラムが開かれた天津市は北京に隣接しており、今は高速道路もありますから、車で1時間程度で移動できますので、天津での会議と北京での会議を掛け持ちすることはいくらでも可能した。それを考えると、6月27日の「中央全面深化改革指導小組25回会議」は、李克強氏が世界からも注目されている「夏季ダボス会議」に出席しなければならないタイミングをわざと狙って開催されたように見えます。

 さらに、昨日(2016年7月8日)、習近平主席は「経済形勢専門家座談会」を開催しましたが、この座談会には副総理で党政治局常務委員の張高麗氏や中国人民銀行の周小川総裁らが出席したのに、国務院総理の李克強氏は欠席でした。この日は、先に亡くなった中国共産党老幹部のお葬式や国務院常務委員会が北京で開かれ、李克強氏はこちらには出ていますので、この日は李克強氏は間違いなく北京にいました。なのになぜ「経済形勢専門家座談会」に欠席したのでしょうか。まぁ「経済形勢専門家座談会」は、一種の「勉強会」であって、何か重要な政策を決定する会議でもないので、李克強氏が出席しなくても構わない会議なのだ、という見方もできますが、イギリスのEU離脱決定など様々な国際経済情勢が複雑化するなか、中国の経済政策運営をどうするのか、極めて重要なタイミングで、国家主席が主催する「経済形勢専門家座談会」に経済運営の実務を担当する国務院総理の李克強氏が出席しないというのは、どう考えても不自然です。

 李克強氏が欠席した3月22日の「中央全面深化改革指導小組22回会議」、6月27日開催の「中央全面深化改革指導小組25回会議」、7月8日開催の「経済形勢専門家座談会」の全てには、副総理の張高麗氏(党政治局常務委員序列7位)は参加していますので、ほとんどこれは習近平主席による「李克強はずし」と言えるのではないでしょうか。こうした会議は、誰が出席したかも含めて、「人民日報」や中国中央電視台の夜7時のニュース「新聞聯播」でトップニュース扱いで報じられていますので、李克強氏の会議欠席は「単なるスケジュール調整上、都合が合わなかったことによる欠席」ではなく、「経済政策に関する会議からは李克強氏ははずします」というメッセージを意図的に発しているものと理解すべきなのではないでしょうか。

 今週月曜日(2016年7月4日)、胡錦濤総書記時代の中国共産党中央弁公庁主任(党の「事務局長」のようなもの)だった令計画氏が汚職の罪で無期懲役の判決を受けました(令計画氏自身、上告しないと宣言したので、おそらく刑はこれで確定)。胡錦濤氏、李克強氏、令計画氏は、中国共産主義青年団出身で「団派」という派閥の一員である、とよく言われます。中国共産党内部の権力闘争は、「習近平主席と団派との争い」といったような単純な形で議論することはできない複雑なものだと私は想像していますが、まるで「李克強はずし」に見えるような最近の李克強氏の会議での欠席と令計画氏の無期懲役判決は、一連の動きとして繋がっているように見えてしまいます(複数の話を単純化して「一連のもの」として理解するのはよくない、と私は常々思っていますが)。

 例年ですと、7月末~8月上旬頃に、中国共産党の引退した幹部と現役幹部が一同に回する「北戴河会議」が開かれます。来年(2017年)秋には中国共産党大会が開かれて、習近平政権の二期目の人事が議論されますので、今年(2016年)の「北戴河会議」では、そのための「根回し」が行われるのではないかと見られています。9月には浙江省杭州でG20首脳会議が開かれますので、その前に人事に関する重大な情報が漏れ出てくることはないと思いますが、「イギリスのEU離脱決定」「アメリカでトランプ大統領誕生の可能性は?」といった不安材料が山積する中、中国の政治状況は穏やかであって欲しい、と祈るばかりです。

 なお、一部、来年(2017年)の党大会で李克強氏は全人代常務委員会委員長になる(つまり国務院総理をはずれる)といった観測も流れているようですが、ちょうど10年前(2006年頃)、「温家宝氏は2007年の党大会で国務院総理をはずれるのではないか」といったウワサがあったことを思うと、そういった類の「ウワサ」はアテにはなりませんので、情勢は慎重に見守っていくことが必要だと思います。

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2016年7月 2日 (土)

イギリスのEU離脱と香港2047年問題

 6月23日(金)のEU離脱を決めたイギリスの国民投票の結果は世界に衝撃を与えました。移民の問題やエリートが仕切る経済政策への多くの国民の不満といった問題が指摘されていますが、今回の問題の一つの大きな問題は「自らの国の政策は自分たちが決める」という民主主義の大原則の観点から過半のイギリス国民がEUに対して「ちょっとおかしいんじゃない?」と疑問を投げ掛けたことにあった、と見ることもできると思います。

 EUは、徴税や財政政策(徴収した税金をどう支出するのか)の権限は各国(フランスとかドイツとか)に残したまま、人や物の移動や経済ルールについての国境をなくし、一部の地域(ユーロ圏)については通貨や金融政策を統一した組織体です。

 近代民主主義国家では、「徴税」「財政政策」「人や物の移動」「経済ルール」「通貨政策」「金融政策」は国ごとに独立しており、どのようなルールでどのような政策を採るかは、その国の国民は自ら決めることができます。アメリカ人が「代表権なくして課税なし」と叫んで独立戦争を始めたように、「課税ルールや経済政策を国民自らが決める」ことは、近代民主主義国家の国民にとって、最も重要な要求です。イギリスは統一通貨ユーロを採用していないので、「通貨政策」と「金融政策」は独自に決められるのですが、それでも「人や物の移動」「経済ルール」について独自で決められないことに対してイギリス国民の過半が反発したことが、今回のEU離脱決定の大きな原因のひとつだと考えられます。

 EU全体が「徴税」「財政政策」「人や物の移動」「経済ルール」「通貨」「金融政策」の全てについて統一を目指すのか(いわゆる「EUの政治統合」を目指すのか)、各国の独自性を尊重する方向に戻るのか、イギリスのEU離脱決定は、EU自身の将来像の方向性について、大きな課題を突きつけた格好となりました。

 EUの場合は「複数の国がある中でいくつかのルールについてだけ統一がなされている中途半端な状態」の矛盾点が今回のイギリスのEU離脱によって浮き彫りにされたわけですが、現在の中国は全く逆の状況にあります。中国では、一つの国なのに国内に大陸部と香港・マカオとに複数のルールが存在しています(「一国二制度」)。香港・マカオは中華人民共和国の一部であるにも係わらず、経済ルールや通貨が異なり、人や物の移動も自由ではありません。しかも、この「一国二制度」には、2047年という「タイムリミット」があります。(台湾には、北京政府の実効支配が及んでいませんので、台湾の問題は、全く別の性質の問題です)。

 そもそも中国では、中国共産党が全てを決めるので、どのようなルールでどのような政策を採るかについて中国人民は自ら決めることができません。2047年が近づいた時、「一国二制度」を予定通り終了させるのか延長させるのか、いったい誰がどうやって決めるのでしょうか。もし、中国共産党が香港の人々の意見を聞かずに2047年で「一国二制度」を終了させる(=香港を中華人民共和国の他の地域と同様の地域として取り込むことにする)と決めたとしたら、香港の人々は黙っているでしょうか。

 私は、1984年、中英共同声明で香港返還の枠組みが決まった時、「2047年なんて63年も先の話だから、それまでにはなんとかなっているだろう」と思っていました。しかし、それから現時点まで既に32年が経過してしまいました。2047年まではあと31年しかありません。今までの32年間、全く何も進展していない(行政長官の民選も実現しなかった)ので、あと31年後も今と状況は全く変わっていない可能性の方が大きいのではないかと今は思っています。もちろん、2047年以降も現在の状態を継続させる、という選択肢もありますが、早めに決めないと、将来に不安を持つ企業などが香港から脱出し、香港の経済活動が衰退してしまうおそれもあると思います。

(注)イギリスのEU離脱により、ロンドンの金融街(シティ-)の衰退も懸念されていますので、ロンドンと香港が同時並行的に衰退していくことがかなり現実的なものになるのではないかと心配になります。

 日本は島国なので、「徴税」「財政政策」「人や物の移動」「経済ルール」「通貨」「金融政策」などの全てについて「どこで国境線を引くのか」などと思い悩む必要が全くないので日頃あまり考えることが少ないのですが、今回のイギリスのEU離脱決定を切っ掛けとして、「国家とは」「国境とは」「国籍とは」「政策決定を誰が行い、その政策はどの範囲に適用されるのか」といった問題について考え、香港の将来について考えてみることも重要なことだと思います。

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