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2016年7月 2日 (土)

イギリスのEU離脱と香港2047年問題

 6月23日(金)のEU離脱を決めたイギリスの国民投票の結果は世界に衝撃を与えました。移民の問題やエリートが仕切る経済政策への多くの国民の不満といった問題が指摘されていますが、今回の問題の一つの大きな問題は「自らの国の政策は自分たちが決める」という民主主義の大原則の観点から過半のイギリス国民がEUに対して「ちょっとおかしいんじゃない?」と疑問を投げ掛けたことにあった、と見ることもできると思います。

 EUは、徴税や財政政策(徴収した税金をどう支出するのか)の権限は各国(フランスとかドイツとか)に残したまま、人や物の移動や経済ルールについての国境をなくし、一部の地域(ユーロ圏)については通貨や金融政策を統一した組織体です。

 近代民主主義国家では、「徴税」「財政政策」「人や物の移動」「経済ルール」「通貨政策」「金融政策」は国ごとに独立しており、どのようなルールでどのような政策を採るかは、その国の国民は自ら決めることができます。アメリカ人が「代表権なくして課税なし」と叫んで独立戦争を始めたように、「課税ルールや経済政策を国民自らが決める」ことは、近代民主主義国家の国民にとって、最も重要な要求です。イギリスは統一通貨ユーロを採用していないので、「通貨政策」と「金融政策」は独自に決められるのですが、それでも「人や物の移動」「経済ルール」について独自で決められないことに対してイギリス国民の過半が反発したことが、今回のEU離脱決定の大きな原因のひとつだと考えられます。

 EU全体が「徴税」「財政政策」「人や物の移動」「経済ルール」「通貨」「金融政策」の全てについて統一を目指すのか(いわゆる「EUの政治統合」を目指すのか)、各国の独自性を尊重する方向に戻るのか、イギリスのEU離脱決定は、EU自身の将来像の方向性について、大きな課題を突きつけた格好となりました。

 EUの場合は「複数の国がある中でいくつかのルールについてだけ統一がなされている中途半端な状態」の矛盾点が今回のイギリスのEU離脱によって浮き彫りにされたわけですが、現在の中国は全く逆の状況にあります。中国では、一つの国なのに国内に大陸部と香港・マカオとに複数のルールが存在しています(「一国二制度」)。香港・マカオは中華人民共和国の一部であるにも係わらず、経済ルールや通貨が異なり、人や物の移動も自由ではありません。しかも、この「一国二制度」には、2047年という「タイムリミット」があります。(台湾には、北京政府の実効支配が及んでいませんので、台湾の問題は、全く別の性質の問題です)。

 そもそも中国では、中国共産党が全てを決めるので、どのようなルールでどのような政策を採るかについて中国人民は自ら決めることができません。2047年が近づいた時、「一国二制度」を予定通り終了させるのか延長させるのか、いったい誰がどうやって決めるのでしょうか。もし、中国共産党が香港の人々の意見を聞かずに2047年で「一国二制度」を終了させる(=香港を中華人民共和国の他の地域と同様の地域として取り込むことにする)と決めたとしたら、香港の人々は黙っているでしょうか。

 私は、1984年、中英共同声明で香港返還の枠組みが決まった時、「2047年なんて63年も先の話だから、それまでにはなんとかなっているだろう」と思っていました。しかし、それから現時点まで既に32年が経過してしまいました。2047年まではあと31年しかありません。今までの32年間、全く何も進展していない(行政長官の民選も実現しなかった)ので、あと31年後も今と状況は全く変わっていない可能性の方が大きいのではないかと今は思っています。もちろん、2047年以降も現在の状態を継続させる、という選択肢もありますが、早めに決めないと、将来に不安を持つ企業などが香港から脱出し、香港の経済活動が衰退してしまうおそれもあると思います。

(注)イギリスのEU離脱により、ロンドンの金融街(シティ-)の衰退も懸念されていますので、ロンドンと香港が同時並行的に衰退していくことがかなり現実的なものになるのではないかと心配になります。

 日本は島国なので、「徴税」「財政政策」「人や物の移動」「経済ルール」「通貨」「金融政策」などの全てについて「どこで国境線を引くのか」などと思い悩む必要が全くないので日頃あまり考えることが少ないのですが、今回のイギリスのEU離脱決定を切っ掛けとして、「国家とは」「国境とは」「国籍とは」「政策決定を誰が行い、その政策はどの範囲に適用されるのか」といった問題について考え、香港の将来について考えてみることも重要なことだと思います。

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