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2016年6月18日 (土)

中国共産党内の論争は李克強総理の一人芝居ではないか

 2016年6月13日(月)に放送されたテレビ東京「Newsモーニング・サテライト」で、最近注目されている中国の経済政策に関する「論争」について特集していました。今年5月9日付け「人民日報」が現在の中国経済の現状に関する「権威人士」に対するインタビュー記事を掲載し、この「権威人士」が構造改革を重視していて、経済成長については「『V字回復』や『U字回復』ではなく、『L字回復』(当面、低成長が継続しても致し方ない)との見方を示したことから、この「権威人士」とは誰の意向を受けた者なのかが話題になっている、という件に関する話でした。この番組に出演していたSMBC日興証券の肖敏捷氏は、「権威人士」は習近平主席の「構造改革重視」の意向を踏まえた人物であり、李克強総理は「構造改革よりも雇用の維持などのための景気維持を重視すべき」と考えていることから、習近平主席と李克強総理の間で党内論争が起きているようだ、と紹介していました。

 今、中国共産党内部で、当面の経済運営に関して論争が起きていることはそのとおりだと思いますが、「習近平主席=構造改革重視」「李克強総理=構造改革より景気維持を重視」という分類の仕方には私は相当違和感を覚えました。というのは、これまで(今年3月の全人代まで)李克強総理は「ゾンビ企業の処理」を幾度となく強調して構造改革に積極的に取り組む姿勢を示していたのに対し、習近平主席の方は貧困層対策を重視するなどむしろ構造改革による経済失速を懸念するような発言が多かったからです。

 過去の実績を考えても、李克強氏は構造改革に熱心でした。李克強氏は胡錦濤主席の時代の2008年の全人代で決まった国務院改革を主導しました。李克強氏は、この時、国有石油化学企業をコントロールするために「エネルギー部」を設置するとともに、特権集団化している鉄道部門を管理するために「交通運輸部」を設置しようとしていたようです。結局この時の国務院改革では、「エネルギー部」は設置されずに国家発展改革委員会の管理下に国家エネルギー委員会と国家エネルギー局が設置され、道路運輸と水運を担当する交通部、航空輸送を担当する中国民用航空総局、国家郵政局を統合して「交通運輸部」が設置されましたが、「鉄道部」は手つかずのまま存続しました(私は「交通運輸部」が鉄道を所管しないことになったこの時の改革について、「相当にいびつだ」との印象を持ったことを覚えています)。

 この時の国務院改革については、下記に掲げるレポートでNPO日中産学官交流機構特別研究員田中修氏が、李克強氏は既得権益グループを管理監督するために「エネルギー部」「交通運輸部」の設立を試みたが、国有石油化学企業や鉄道部などの「抵抗勢力」からの巻き返しで、改革は中途半端なものに終わってしまった、と指摘していました。

(参考)過去NPO日中産学官交流機構のホームページに掲載されていた田中修氏のレポート2008年2月19日付け「政府機構改革をめぐる議論」

 これら過去の李克強氏の過去の言動を考えると、「権威人士=構造改革派」と「李克強総理=景気重視派」との論争は、実は構造改革を進めたい李克強総理による党内をまとめるための「一人二役の一人芝居」なのではないか、と私には思えるのです。そこには、来年(2017年)秋の党大会での人事へ向けて、「権威人士は習近平主席に近い人物である」と見せ掛けることによって、構造改革を嫌がる既得権益グループの中に「反習近平主席」の機運を盛り上げようという李克強氏側の「作戦」があるのではないか、と私は見ています。

 ただし、私がこういった「憶測」をしたくなるそもそもの原因は、「強大な権力を手にした」と言われている習近平主席がどちらの方向に進みたいと思っているのか「本心」が見えない点にあります。習近平主席については、相変わらず外国訪問など外交案件でのテレビの露出が多くて「私は権力を一手に掌握している」と内外に示したい意欲は強く感じる一方で、経済政策についてどういう考え方を持っているのかイマイチよくわかりません。私は、経済問題については李克強総理が国務院の官僚組織を通じて実権を掌握しており、習近平主席は経済問題に関する強いリーダーシップを発揮できていないのではないか、とさえ疑っています。

 先週、ドイツのメルケル首相が中国を訪問し、習近平主席や李克強総理と会談しましたが、私は、今回のメルケル首相訪中時の「習近平-メルケル会談」が北京市内のホテルで行われ、「李克強-メルケル会談」が人民大会堂で行われたことに強い違和感を感じました。メルケル首相は国家元首ではなく、メルケル首相のカウンターパートは李克強氏であるのだから、「李克強-メルケル会談」が「メイン・イベント」であり、「習近平-メルケル会談」は外交儀礼上の「表敬訪問」に過ぎない、その違いが会談場所の違いに表れた、という見方もできますが、「場所の格」としては、言うまでもなく人民大会堂は一般のホテルに比べて格段に「格上」ですから、外交儀礼上の「重要さ」としては、「李克強-メルケル会談」の方が「習近平-メルケル会談」より「格上」に見えてしまうからです。

(注)「習近平-メルケル会談」が中南海(中国共産党本部のある場所:中国共産党幹部の住居もここにある)で行われたのなら全く違和感はありません。メルケル首相が習近平主席の住んでいる場所に訪ねていく、という形になるので、外交儀礼上の「表敬訪問」(格上の人のところに挨拶にいく)の形式に合致します。昔、人民大会堂で国務院総理と会談した外国要人が中南海に行って毛沢東主席やトウ小平氏と会談する、といったケースは多々あったと記憶しています。

 いずれにせよ、これまでこのブログで何回も書きましたが、中国の経済政策に関して、誰がリーダー・シップを持っていて、どちらの方向に持っていこうとしているのかよくわからない、というのが一番困った状況だと思います。今週は、6月23日に行われる予定のイギリスのEU離脱を巡る国民投票が世界の関心を集めていますが、それが終わると次は9月に杭州で行われるG20首脳会談へ向けて、「中国の経済政策は誰がどちらの方向に舵を切るのか」に世界の注目が集まることになると思います。中国の指導部には内部でしっかり意思統一を行って内外に明確なメッセージを出して欲しいと思います。

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