« 習近平体制は「五四運動」ではなく「中華帝国」を目指すのか | トップページ | 文化大革命開始から五十年 »

2016年5月14日 (土)

中国人の「誠実さ」に関する印象について

 先週5月8日(日)に中国税関総署が発表した中国の今年(2016年)4月の貿易額は、対前年同月比で、米ドルベースで輸出がマイナス1.8%、輸入がマイナス10.9%、人民元ベースで輸出がプラス4.1%、輸入がマイナス5.7%でした。輸出入とも米ドルベースでの前年同月比マイナスが続いているので、この発表を受けて世界の市場は中国経済の減速を改めて認識したのでした。

 ところが、この日(5月8日(日))夜7時から中国中央電視台で放送されたニュース「新聞聯播」では、この貿易統計の数字について「対前年同月比人民元ベースで輸出が4.1%伸びた」とだけ伝え、米ドルベースでは輸出入ともにマイナスであり、輸入については人民元ベースでもマイナスだったことは伝えませんでした。この日のニュースのポイントは、民営企業による輸出が対前年同月比7%増えたことでしたので、おそらくニュースの編集担当者は「輸入は減少した」等の部分は伝える必要はなかったと考えたのだと思います。「新聞聯播」では、この種の経済統計について、中国政府にとって都合のよい(耳障りのよい)ことだけ伝え、都合の悪いことは伝えないことは「いつものこと」なので、私は特段驚きはしませんでしたが、こうしたやり方をずっと続けているのは問題だよなぁ、「誠実さに欠ける」との印象を受ける人もいるだろうなぁ、と改めて思いました。

 例えば、八百屋さんで、高くて甘いリンゴと安いけど味はイマイチのリンゴを売っているとき、八百屋のおじさんは「こっちのリンゴは甘いよ、こっちのリンゴは安いよ」と客に呼び掛けるのであって、「こっちのリンゴは甘いけど高いよ、こっちのリンゴは安いけど味はイマイチだよ」と言うことはありません。帽子を売っているお店の人は「この帽子は100元で売っているけど、仕入れ値は40元で、店ではマージン60元を見込んでいます」などとお客には絶対に言いません。このようにビジネスの世界では場合によっては全体像を言わないのが「当たり前」なのだから、中国では「テレビのニュースにおいて発表された数字の全てを(よい面も悪い面も)伝える必要はないのだ。」と考えることも理屈としてはあり得ます。しかし、こうしたやり方を毎日テレビで流していることにより、そうしたやり方が「当たり前」のこととして中国の多くの人々の間に浸透してしまっているのはよくない、と私は思っています。

 実際、私には、中国の様々な組織で、担当者がそれほど悪気はないのに「都合の悪いことはあえて言わない」態度をとる場面に遭遇した経験が数多くあります。なので、私は疑問点がある場合には「この点はどうなっていますか」と積極的に質問するように常に意識していました。質問をすればたいていきちんと答えてくれるので、多くの場合、「その点を知らなかったのは質問しなかったお前の方が悪い」ということになります。これも中国と付き合う際のノウハウのひとつだとは思うのですが、私はこうした場面に遭遇するたびに、「都合の悪い点はあえて言わない」という中国側のプレゼンの仕方は、中国に慣れていない人に対しては「中国人は不誠実だ」という印象を与えてしまい、よくないよなぁ、といつも思うのでした。

 中国共産党が政策として「テレビのニュースにおいては中国政府(=中国共産党)に都合のよいことのみを伝え、都合の悪いことは伝えない」という方針を採っていることが、中国人民の間に「全体像を言わなくても全く構わないのだ」という認識を広めてしまっており、その認識に基づく何気ない中国人や中国企業の態度が「中国人や中国企業は誠実ではない」との印象を多くの世界の人々に与えているのではないか、と私は危惧しています。もしかすると、中国人自身も同じ印象を持っており、そのことが中国人自身が中国国内で流通する商品を買わずに外国で売られている商品を「爆買い」する要因になっているのかもしれません。そうだとすると、中国のテレビニュースの「誠実ではない」伝え方は、回り回って結果的に中国経済に相当のマイナス効果を与えていることになります。

 もともと中華民族の人々は、昔から商売が上手であって、商売の基本である「信義」を非常に重要視しています。「三国志」の登場人物の中で損得抜きの「義」に生きた関羽が最も人気があることからもわかるように、そもそも中国の人々にとって「信義」は最も重視している価値観です。私自身、多くの中国人が非常に誠実であるのをよく知っています。もし仮に、中国共産党のやり方が世界の人々の「中国人の誠実さ」に関するイメージを毀損しているのだとしたら、非常に残念なことだと思います。

|

« 習近平体制は「五四運動」ではなく「中華帝国」を目指すのか | トップページ | 文化大革命開始から五十年 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



« 習近平体制は「五四運動」ではなく「中華帝国」を目指すのか | トップページ | 文化大革命開始から五十年 »