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2016年5月 7日 (土)

習近平体制は「五四運動」ではなく「中華帝国」を目指すのか

 去年の今頃も同じようなことを書いたのですが、「人民日報」や中国中央電視台の夜7時のニュース「新聞聯播」を見ている限り、今の習近平体制は「五四青年節」をほとんど重視していないように見えます。「五四運動」は、ヴェルサイユ講和会議の結果に反発して1919年5月4日、学生・市民・労働者が立ち上がった反植民地主義・反日・反資本主義の運動で、1921年の中国共産党設立の切っ掛けとなった大衆運動です。その歴史的経緯からして、歴代の中国共産党政権は5月4日の「五四青年節」を重視してきていると私は思っていたのですが、習近平政権になってからの「五四青年節」の扱いは非常に軽すぎるように思います。

 逆に、今年は5月3日に「人民日報」1面に掲載されたペンネーム任仲平による「新たなレベルの治国理政の目指すもの」と題する評論が私は気になりました。

(注)「任仲平」というペンネームによる評論は「『人』民日報『重』要『評』論」の意味で(「任仲平」は「人重評」と同音)、人民日報の評論陣が共同で議論して作成する社説です。

 この評論の内容は、当然のことながら「習近平総書記の掲げた路線を進めて行こう」と呼び掛けるものですが、私が気になったのは、「中国の歴史と実情から出発して現状を認識すべき」「五千年の歴史の連続体として中国を見るべき」などと「中国の歴史と伝統」を特に強調している点です。この評論では「他国の事例は中国では使えない」「西側の価値観に基づく中国に対する批判は不適切だ」と主張しています。

 20世紀の中国革命の歴史の中で、辛亥革命の孫文も、共産主義革命の毛沢東も、一貫して封建主義的な中国の伝統から脱却して、中国を人民を中心とした近代的な国家にすることを目指してきました。それと比較すると、上記の任仲平論文は、革命以前の歴代皇帝が支配していた中国の政治体制を復活させようとしているように見えます(そもそも「治国理政」という言葉自体、「上から目線」の皇帝政治が持つイメージと重なって見えると私は思います)。

 夜のニュース番組「新聞聯播」では、地方の末端組織の中国共産党の地方幹部の活躍ぶりを紹介するコーナーをよくやるのですが、最近、アナウンサーが「中国には数千年の郡県制の伝統があり・・・」と言っていたのを聞いてびっくりした記憶があります。郡県制とは、地方貴族による地方の統治を排して、中央皇帝権力が派遣する官僚によって行う地方統治を通じて皇帝が中国全土を統治する中央集権的政治のやり方です。皇帝が実施する登用試験「科挙」によって皇帝に忠実な官僚を選抜して地方に派遣するとともに、派遣された官僚は定期的に人事異動させて地方の土着の有力者と癒着するのを防ぐ制度で、数千年にわたる中国皇帝政治を安定的に維持させる役割を果たした制度です。中国の中央集権制度を支えた「伝統ある」政治制度であることは間違いないのですが、これって孫文や毛沢東が革命によって破壊しようとした「中国の古い政治体質そのもの」だと私は認識しています。その郡県制の伝統を称賛するような「新聞聯播」の報道ぶりを聞いた時、私は「中国共産党は今や『革命政党』ではなくなり、完全に皇帝政治のような中央集権的政治を行う権力集団に変化してしまった」と思ったのでした。

 「歴史の針を逆に回そうとしているような現象」は、今、世界中の各国で起きており、中国についてだけ「皇帝政治に逆戻りしようとしている」と批判するのは妥当ではないのかもしれません。ただ、現在に至るまでの中国経済の発展の原動力は、革命と改革開放によって、自己実現の機会を与えられた多くの中国人民の「自分の暮らしを自分の手でよくしたい」という意欲であったことは間違いなく、「皇帝政治的中央集権の復活」は、そうした中国人民の意欲を削ぐことになると思います。もし、習近平体制が自らの権力基盤を維持するために、本格的に皇帝政治的中央集権制の復活へと向かうのであれば、多くの中国人民の失望を招き、中国社会の活気を失わせ、結果的に中国の経済・社会の発展にブレーキを掛けてしまうことになると思います。

 去年も同じようなことを書きましたが、「皇帝政治が中国の伝統なのだ」と主張して1915年に自らを皇帝と称して「中華帝国」の設立を宣言した袁世凱は、国際社会のみならず中国国内の各界・各層から総スカンを食って、失意のうちに病没しました。中国共産党は袁世凱ほど愚かではないと思うので、習近平主席は皇帝にはならないと思いますが、中国の強大な経済力を背景にして、最近は習近平主席を皇帝のようにみなして揉み手をしながらゴマを摺って擦り寄るような者たちが中国国内のみならず国際社会にも増えてきているように思えるので要注意だと思います。

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