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2016年4月30日 (土)

中国東北三省の経済は国有企業改革がカギ

 中国の東北三省(黒竜江省、吉林省、遼寧省)の経済では鉄鋼・石炭等の国有企業が大きな役割を果たしています。今、中国の国有企業は、生産設備の過剰等で非常に苦しい状況に置かれているところが多くなっていますが、2016年4月27日付けの日本経済新聞朝刊6面の記事によれば、2016年1~3月期の遼寧省の域内総生産の実質成長率は、前年同期比でマイナス1.3%となった、とのことです。この記事によれば、遼寧省がもし通年でマイナス成長になるとすると、1981年以来35年ぶりのことだそうです。

 国有企業の比重が大きい東北三省の経済については、中国政府も非常に重要視しています。日本経済新聞が上記の記事を書いた同じ4月27日の「人民日報」では、1面トップ記事で、中国共産党中央と国務院が「東北地区等の古い工業基地を全面的に振興することに関する若干の意見」を発表したことを伝えています。

 現在の中国の東北三省は、戦前日本軍のバックアップによってできた旧「満州国」とほぼ重なります。戦前、日本資本等により建設された鉄道や工場等のかなりの部分は中華人民共和国政府に引き継がれ、新中国建国期の経済成長を支えてきました。さらに新中国成立後、黒竜江省で大慶油田と呼ばれるようになる油田が発見され、それを基にした石油化学工業も中国にとって重要な産業となりました。

 このように東北三省の重化学工業は、中国の経済発展の重要な基盤的役割を果たしてきました。しかし経済環境の変化が激しい現在にあっては、時代の流れに迅速に対応できていない東北三省の重化学工業分野の国有企業は、現在の中国経済にとってひとつの「重荷」になっているのです。

 石炭・鉄鋼等の産業が時代とともに構造改革(時にリストラなどの「痛みを伴う改革」を伴う)を余儀なくされることは、中国だけに限った話ではありません。かつて鉄鋼と造船が盛んだったイギリスのスコットランドで独立問題がいまだに議論されているのは、1980年代のサッチャー政権以降進んだ産業構造の変化が失業等の問題を生じたことが今に繋がっているからだと言われています。アメリカ中西部・五大湖沿岸の「ラスト・ベルト(錆の帯)」と呼ばれるかつて鉄鋼業が盛んだった地域での雇用問題は、今でも大統領選挙等で非常に重要な政治課題となっています。今の中国は、民主主義という「利害関係者の意見表明と議論の場」を持ちません。そのような中国において「痛みを伴う改革」をどのように進めていくのか、中華人民共和国にとってかつて経験したことのない変革の時期が今始まりつつあるようです。

 今日(2016年4月30日)付けの「人民日報」の1面トップ記事は、昨日(4月29日)中国共産党政治局会議が開催され、今年第一四半期の経済データを受けて、この会議で当面の経済情勢について検討・分析し、経済政策について議論されたことが報じられています。「人民日報」に掲載された新華社電では、党政治局会議では以下の点が強調されたと伝えています。

「(2016年第一四半期の経済データに関し)十分肯定的な成績が出ているという状況の下、経済に対する下押し圧力は依然として比較的大きく、一部の実体企業の生産経営は依然として困難であり、市場リスクも増加していることを認識する必要がある。存在する突出した矛盾と問題点に対しては、高度に重視し、冷静に分析し、ターゲットを絞った措置を実施し、攻略戦、持久戦の準備をうまくやって、政策実行をうまくやらなければならない。」

 この伝え方は、中国共産党中央も、この「構造改革」には相当な時間が掛かることを認識していることを示していると言えます。

 なお、李克強総理は、2007年の党大会で政治局常務委員になる前は遼寧省党書記をやっていました。従って、遼寧省の経済をうまく建て直すことは、李克強氏自身にとって、政治的に非常に重要な課題であると言えます(遼寧省での改革がうまく進まないと李克強氏の政治的立場が苦しくなる、とも言える)。

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コメント

とても参考になります。台湾で中国語を勉強しました。中国の政治、経済、社会に大変興味があります。
大変心配なのが尖閣で日中の紛争が勃発しないかということです。中国は本当に尖閣を取りに来るのでしょうか。習近平という人は世界の動向も無視して戦争までしかけて大事件を起こすのでしょうか。また、中国にはそんな強硬路線を止めようという勢力はないんでしょうか。
こんなことを続けていると日本でも「右翼的」な勢力が勢いを増してくるのはある種当然です。中国人たちはメデイア統制の中にいて、尖閣「奪還」を当然視しているのだと思いますが、実際はどうなんでしょうか。やはり、政府に頭の中をコントロールされているんでしょうか。

投稿: びせ けんじ | 2016年8月 8日 (月) 17時42分

コメントありがとうございます。

中国共産党政権の政策発動の基本的な動機は「中国共産党による政権維持に資するかどうか」です。現状で中国が武力紛争を起こせば、国際社会の中で孤立し、中国国内での外国系企業の活動にも支障が出るので、政権維持にとってマイナスになるので、領有権問題についての原則は主張しつつも、政権の意志として外国との間で武力紛争にまで訴えることはないと思います。

ただし、中国国内で中国共産党政権による支配に動揺が起きる事態になれば、国内統一を図る観点から、外国との紛争を仕掛ける可能性は否定はできないと思います。

また、中国共産党中央の軍や地方のコントロールが不十分な場合、軍または地方の一部が暴走して党中央の意志に反して領有権問題に関して外国と武力衝突を起こす可能性も否定はできないと思います。

なお、中国は、改革開放政策に舵を切った直後の1979年2月、ベトナムに対して武力衝突を仕掛けています(中越紛争)。この中越紛争を起こした中国の意図は、私にはいまだに理解できていないのですが、華国鋒主席(当時)ら「すべて派」との権力闘争を経て1978年12月にできあがったばかりのトウ小平氏を中心とする改革開放政権は、国内統一を強固にするために、当時ソ連と友好関係にあったベトナムに対する武力行使に打って出た可能性はあります(つまり国内政治目的のために対外的な武力紛争を起こすという手段を使った)。中国政府の挙動は、国際的な力関係だけでは推し量ることができない難しさがあると思います。

投稿: イヴァン・ウィル | 2016年8月 8日 (月) 23時24分

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