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2016年4月 9日 (土)

「爆買い」の次は中国人の日本企業への「爆就職」か

 今年に入ってからかなり円高が進みましたが、この桜の季節、中国人を含む多くの外国人観光客が日本を訪れて桜を楽しんでいるようです。

 私は、中国に二回合計4年3か月、アメリカに一回2年3か月駐在した経験がありますが、客観的に言って日本は住むにしろ旅行するにしろ相当に快適な国だと思います。アメリカも自由で快適ですが、治安の問題で夜は気軽に街を歩くことはできませんし、食べ物がイマイチ(全て「量」で勝負する感じ;おいしい物はあるけど高い)です。のんびりした1980年代の中国は悪くはなかったですが(これは各人の好みによると思います)、今の中国は空気が悪いし、横断歩道を横断するのに勇気が要るし、安くておいしい食べ物はたくさんあるけど、食品の安全性について気にしながら食べるのは疲れます。

 日本は桜のほか、四季折々、地方によって海も緑の山も美しいし、温泉もたくさんあるし、東京、京都、大阪など都市もそれぞれ「顔」があるので、円安・円高に係わらず外国人が「行ってみたい」と思う気持ちはわかります。

 中国の反日感情は、多分に政治的に煽られている部分があるので、中国の一般の人々の対日感情がそれほど悪いとは私は思っていません。そもそも1980年代には中国人の中には「反日感情」というものはありませんでした(もちろん軍国主義時代を正当化するような政治家には反発していましたが)。1989年の六四天安門事件以降、経済の市場原理取り込みが進む中で中国共産党が政権を担い続けている理由付けとして「抗日戦争を勝利に導いたのは中国共産党だから中国共産党が中国を統治することが正しいのだ」との論理が作られ、「中国共産党が政権を担うことは正しい=反日」という理屈の宣伝が強化されていることが今の中国の「反日」の背景にあると私は思っています。なので、実際の中国の若者の中には、日本に興味を持ち、日本企業に就職したいと思っている人たちもたくさんいると思います。

 一方、多くの日本企業が中国に関連会社を設立するなどしてビジネスを展開していますが、中国でのビジネス拠点の管理等のため、中国語ができ中国の事情に通じた人材はそうした日本企業には必要不可欠です。今は日本企業内部で外国人職員の採用がまだまだ進んでいないので顕在化していませんが、今後、日本企業内でのダイバーシティ(女性や外国人の登用など)の動きが本格化すれば、日本企業の外国人職員の採用も増え、それとともに日本企業の日本本社での中国人職員の採用が急速に増えていくと思います。

 日本社会はまだ外国人が住み付いて働くには不便なところがたくさんあります。例えば、日本ではアパートを借りるためには原則として保証人を立てる必要がありますが、日本に来たばかりの外国人にとって保証人を立てないとアパートが借りられない、という日本の現状は非常に不便です。(私は中国とアメリカでアパートメントを借りて暮らしていましたが、借りる時に保証人を立てることは要求されませんでした)。なので、今、外国で働きたいと思う中国人は、たいていアメリカ等へ行ってしまいます。また、シンガポールなど、中国語の通じる国もあるので、多くの中国人にとって、今、日本は「働きたいと思う外国」の中ではあまり順位は高い方ではないと思います。

 ただ、私が中国に駐在した経験から感じるのは、やはり中国と日本は地理的に近くて、行き来するのに非常に便利だ、ということです。日本と中国には時差が1時間あるので、朝の航空便で成田から北京に行けば、午後の打ち合わせに間に合います。また、北京でお昼まで仕事をして、午後便で東京に帰って来ても、夜そんなに遅くない時間に家に帰れます。ですから、例えば、高齢の両親が中国にいる中国の若い人にとっては、もし日本企業が日本人と同じレベルで給料を支払ってくれるのであれば、日本で働くことは悪くない選択肢だと思います。

(注)私が1995年にシンガポールに行って感心したのは、シンガポール政府が「Jターン計画」を進めていることでした。当時、シンガポールでは、マレーシアやインドネシアから欧米に留学していた優秀な研究者に対して市民権を与えてシンガポールで研究させる政策を推進していました。シンガポールに住んでいれば先進国レベルの生活が送れますし、何かあったらすぐにマレーシアやインドネシアの故郷にいる親元に帰れます。そうやって、シンガポールは周辺諸国の優秀な若い研究者を集めて、研究開発レベルを高めようとしていたのでした(故郷に帰れば「Uターン」ですが、故郷の一歩手前のシンガポールに帰ってくる、という意味で「Jターン」と称していたのでした)。

 私が二度目の北京駐在をしていた2007年から中国に進出している日本企業の団体である中国日本商工会は他の関係団体と協力して「走近日企・感受日本」というプロジェクトを始めました。このプロジェクトは、中国の優秀な大学生を団体で二週間程度日本に招待して、企業訪問やホームスティをしてもらい、日本を理解してもらおう、というものでした。2005年に起きた反日デモを受け、若い中国人にもっと実際の日本を知ってもらおう、として始めたプロジェクトですが、費用は中国日本商工会メンバーの日本企業が喜んで拠出していました。日本企業にとっては、優秀な中国人大学生に自分たちの企業や工場を見てもらって理解を深めてもらうことで、将来就職を希望する切っ掛けになるかもしれないと思ったからです(残念ながらこのプロジェクトは、尖閣諸島の国有化を切っ掛けとする中国の対日関係の悪化により、2012年を最後に終了してしまったようです)。このプロジェクトに多くの企業が喜んで費用を拠出していたことは、日本企業による中国人大学生の採用ニーズが大きいことを示していると思います。

 日本の大学卒業生の数はだいたい毎年55万人程度です。一方、中国では毎年750万人の大学卒業生が生まれています。中国の産業構造は、従来の労働集約型製造業から高度化が進みつつありますが、まだまだ大学卒業レベルの就職口は学生の数ほどは多くないので、中国の大学卒業生の就職先探しは、結構大変なものがあるようです。ですので、日本企業で外国人職員採用傾向が進み、日本社会の「外国人慣れ」が進めば、中国人の若い人たちが日本企業に就職し日本で働く数が急速に増えていく可能性があると私は思っています。

 私の二度の中国駐在の経験から言わせてもらえば、国と国との関係は、結局は人と人との関係の集大成です。仮に日本で働く中国の若い人の数が増えれば、それだけ日中関係は良好なものになっていくと思います。それに加えて、少子高齢化が進む日本において、若い中国人が数多く日本で働いてくれれば、その分、日本に税金が落ちましね(租税協定により、個人所得税は、国籍とは関係なく、働いた場所で支払うことが原則です)。

 問題は、そうした状況について「日本人の働く場が奪われる」として日本の人たちが反対するかどうか、です。今、ヨーロッパでは中東やアフリカからの移民が増え、アメリカではメキシコからの移民が増えて政治的に大きな問題になっていますが、日本と中国の現状を考えれば、仮に今後多くの中国人が日本で働くことになる場合、その中心はヨーロッパやアメリカで問題となっている移民のような単純非熟練労働者ではなく、大学卒レベルのホワイトカラーが中心となるでしょう(中国共産党政権は、政権基盤を弱めてしまうので、単純非熟練労働を行う労働者を外国に出すことは認めないと思います)。従って、中国人の日本での就職数増加の問題は、ヨーロッパやアメリカの移民政策は参考にならず、日本独自の対応方法を考える必要があります。

 私は個人的には、中国の若い人には優秀で意欲的な人が多いので、多くの中国人が日本に来て働くことは悪いことではない、と思っています。日本の若い人たちには「中国人に職を奪われるのはイヤだ」と思わないで、少なくとも中国の若い人たちと同じ程度には勉強して自分をレベルアップさせ、就職においても国際競争に勝てる人材になって欲しいと思っています。

 よく言われますが、大相撲はおそらくはそうした日本の将来の姿を先取りしていると思います。私は、実力で出世した外国人力士には敬意を払うべきだし、「外国人だから」という理由で(例えば年寄り襲名等について)排除すべきではないと思っています。人によって考え方はいろいろだと思いますが、少子高齢化の中で「労働力不足」が言われる日本においては、中国人については、「爆買い」の時代の次に来るのは「日本企業への『爆就職』」の時代かもしれない、ということを想定しておくべきだと思います。

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