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2016年4月16日 (土)

「パナマ文書」はたぶん中国の政治情勢には影響を与えない

 世界各国の政治家などのタックス・ヘイブン(租税回避地)の利用状況などが記されたいわゆる「パナマ文書」が報道され、いくつかの国では政治的な問題になっています。「パナマ文書」には、中国の国家指導者の親族の名前も出てきているようですが、私は「パナマ文書」が中国の政治情勢に影響を与えることはないだろうと思っています。

 というのは、「中国では報道規制がなされているから」ということもありますが、中国の多くの人民は、中国共産党幹部(国家指導者レベルを含む)及びその親族が自分たちの資産についてタックス・ヘイブンで租税回避をしているだろうことは「あり得る話」として以前から認識しており、「パナマ文書」で国家指導者の親族の名前が出てきても「やっぱりね」と思うだけで、特段の新し味を感じないと思われるからです。もし逆に、仮に「パナマ文書」に中国の国家指導者の親族の名前が一人も出てこないとしたら、多くの中国人民は「それはあり得ない。その『パナマ文書』なるものはニセモノだ。」と思うでしょう。

 また、中国政治には、様々な「派閥」がありますが、タックス・ヘイブンで租税回避をすること自体は、どの「派閥」でも行われており、租税回避問題を追及すると、必ず自分たちのグループにも「被害者」が出てしまうので、どの「派閥」もお互いに租税回避問題で相手方を追い込むことはできないと考えられます。

 ちょっと古いですが、私の手元に2006年の中国への外資の投資額(実行ベース)の国・地域別割合のデータがあります(出典は、中国経済データ・ハンドブック2007年版(日中経済協会))。国・地域別うちわけは「香港:32%、日本:8%、シンガポール:4%、韓国6%、台湾3%、EU:9%、米国5%、自由港26%、その他:7%」となっています。「自由港」とはタックス・ヘイブン諸国(モーリシャス、ケイマン諸島、イギリス領バージン諸島、サモア)です。

 このタックス・ヘイブン諸国から中国への投資の中には、欧米や日本の会社がタックス・ヘイブン諸国に設立した会社からのもののほかに、中国国内の資産家がタックス・ヘイブン諸国に設立した会社からの投資も含まれていると考えれています。中国国内資本がタックス・ヘイブン諸国に設立した会社からの中国国内への投資は実質的には「外国から中国への投資」には当たりませんが、統計上は区別はできません。中国では、従来、外国からの技術導入を促進するため、外国から中国への投資に関しては様々な優遇措置が講じられてきましたから、中国国内の投資主体が「外資優遇政策」を受けるためにあえてタックス・ヘイブン諸国に会社を設立して行う「外資を偽装した中国国内での投資」もこれに含まれている可能性があります。

(注)香港は中国の一部ですが、多くの経済統計上では「境外」として「外国」と同じ扱いになります。香港には中国大陸部の資本が相当進出していますから、香港から中国大陸部への投資を「外資による中国大陸部への投資」にカウントしている以上、純粋な「外資」と中国国内資本の香港や諸外国の会社を経由しての「迂回投資」とを区別することはもともとできません。

 タックス・ヘイブン諸国から中国国内への投資が多いという上記の統計は公表データですので、多くの中国の投資主体(その多くは中国共産党の中央及び地方の幹部が牛耳っている)がタックス・ヘイブン諸国に資金を移動させて、そこから中国国内へ投資を行っているのではないか、ということは、多くの中国の人々にとっては「周知の事実」だったと思います。ですから、今回「パナマ文書」に中国共産党幹部の名前が出てきた時も、おそらく多くの中国の人々にとっては「驚き」には当たらなかっただろうと思います。

 麻薬組織と関係している、などの違法行為に絡んでいるのでなければ、タックス・ヘイブンへの資金移動は、単なる「租税回避」だけの目的であれば、道義的意味で非難されることはあっても、違法行為ではありません。なので、議会で「野党」から追求されることがなく、人民に対する説明責任もない中国共産党幹部にとっては、「パナマ文書」に名前が出てきたとしても、違法行為をしていない限り、実態上は痛くもかゆくもありません(その上、中国の報道規制は厳しいので「新聞や週刊誌で騒がれる」こともありませんしね)。なので、中国に関しては、「パナマ文書」は、中国の政治情勢に対して影響を与えることはないと思います。

 なお、上記に紹介した「外資優遇措置を受けるために、中国国内の資金がタックス・ヘイブンを経由して外資を装って中国国内に投資される事態」については、外資優遇政策の不正な活用ですので、中国政府も問題意識を持っているようで、2000年代後半以降、「外資優遇政策」はだんだん縮小されてきています。今年(2016年)、中国はG20の議長国なので、今後、G20首脳会議へ向けて、タックス・ヘイブンでの租税回避問題が各国で議論されることになれば、中国としてもタックス・ヘイブンへの租税回避のための資金移動を抑制する政策を今後検討する可能性はあると思います。しかし、タックス・ヘイブンの「利用者」の多くが中国共産党幹部と思われることから、中国共産党がタックス・ヘイブンを使っての租税回避を抑制する実効性のある政策を決める可能性はあまり高くないと私は思っています。

(注)経済格差是正のため、多くの国には資産家の遺産に課税する相続税制度や、不動産資産等に課税する資産課税制度があります(日本の固定資産税も資産課税制度の一種)。しかし、現在、中国では、個人所得税は累進課税になっていますが、相続税や日本の固定資産税に相当する税金はありません。これは、ひとえに中国では「資産家=中国共産党幹部」であるため、法制度を作る側の中国共産党の内部に反対者が多くいるために資産家に課税する制度を作れていないのが現状だからです(共産党とはプロレタリア(無産階級)の党なのだから、中国共産党幹部=資産家なのは本当は矛盾もいいところなんですけどね)。

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