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2016年2月20日 (土)

報道機関締め付けに見る中国の大規模リストラの準備

 今日(2016年2月20日)付けの「人民日報」トップ記事は昨日(2月19日)習近平主席が人民日報社や中国中央電視台を視察した上で開催した「新聞輿論工作座談会」でメディアによる世論工作の重要性を強調したことを報じたものでした。昨日(2月19日)夜の中国中央電視台の夜7時のニュース「新聞聯播」のトップもこのニュースでした。

 中国の国家指導者が人民日報社や中国中央電視台を視察するのは、特段珍しいことでもないのですが、人民日報や「新聞聯播」の報道ぶりはいささか「おおげさすぎ」だと私は思いました。

 「人民日報」のホームページでは、まるで中国が月面着陸にでも成功したかのような大きな見出しを掲げて報じていました。「新聞聯播」では、いつもニュース・キャスターがニュースを伝えるデスクに習近平主席が座ってスタッフと談笑する様子が放映されました。中国中央電視台内の職場の視察では、職員が「私たちは党の指揮を聴きます!」と書かれたプラカードを掲げて習近平主席を歓迎する様子も放映されました。あまりの「わざとらしさ」に私は思わず苦笑してしまいましたが、テレビ局だけにこの程度の「テレビ的演出」は致し方ないのでしょう。

 そもそも「人民日報」や「中国中央電視台」は「党の舌と喉」なんですから、習近平主席が人民日報社や中国中央電視台を視察することは、完全に「内輪ネタ」であって大騒ぎして報じるような「ニュース」では全くないと思います。このハデな報道ぶりについて、私は「わざとらしい」「ちょっとやり過ぎ」の印象を持つととともに、このハデな報道ぶりには何か意図があるのかもしれないと思ったのでした。

 一方、日本の各紙の報道によると、2月26日から上海で始まるG20財務大臣・中央銀行総裁会合で、主催者の中国側は外国報道陣の参加枠を絞っているため、参加枠をもらえない報道機関も出ているようです。これは「中国に都合のよい報道をしないと、次のイベントに参加させませんからね」という各国報道機関に対する中国当局のプレッシャーであることは明らかであって、中国では「よくあること」で珍しいことではないのですが、特に今回の措置は、中国の経済政策に対する報道については、中国としては報道機関の締め付けを今後強めるぞ、という意思表示だと受け取ってよいと思います。

 また、産経新聞の報道によると、人民日報の傘下にある環球時報の編集長が中国版ツィッター「微博」で「政府批判を一定程度まで容認すべきだ」と発言して話題になっている、とのことです。環球時報は、中国国内線の飛行機に乗るとたいてい無料で配られるので私も時々読んだことがありますが、私の印象では「人民日報本紙よりゴリゴリの御用新聞」というイメージなので、その新聞の編集長が「政府批判を容認すべきだ」と「微博」で発言するなど、ちょっと信じられない感じです。報道機関に対する「締め付け」がかなり異常な程度で行われているのではないか、と疑わせるニュースです。

 そもそも、私が2007年~2009年に二回目の北京駐在をした際に前回(1986年~1988年)の駐在時と最も大きく変わった、と感じたのは、中国の新聞のあり方でした。「人民日報」は20年間全く変わっていませんが、21世紀の今は「新京報」や「南方周末」など検閲で認められる範囲内とはいいながら、かなり鋭い視点で報道や論説を展開する新聞が存在しており、それらの新聞が結構売れているという事実があります。また、ネット検閲の網をくぐり抜けながら、ネット上で多種多様な発言が飛び交っていることも、最近の特徴です。

 今回、人民日報や中国中央電視台が習近平主席の視察をことさら大々的に報じて、「新聞輿論工作座談会」での習近平主席の発言を大きく取り上げているのは、中国当局が今後新聞やネット上の発言を今まで以上に厳しく取り締まっていく方針であることを示していると思います。

 で、今、ことさら時代に逆行するような新聞やネット検閲の厳格化を行い、言論に対する締め付けを強化するような姿勢を中国当局が示しているのは、2月26日に上海で始まるG20財務大臣・中央銀行総裁会合を前にして、今後、中国が徹底的かつシビアに生産過剰設備を持つ国有企業のリストラを進めていくためのひとつの準備なのではないかと私は考えました。

 生産設備を過剰に持つ国有企業について容赦のないリストラを進めると、当然、失業の危機にさらされる労働者が大量に出るほか、リストラされた企業が立地する地方政府も不満を募らせる可能性があります。また、大規模なリストラを進めるにあたっては、当然のことながら、ある企業は破綻させ、ある企業は存続させる、という選別をせざるを得ません。従って、破綻させられた企業の関係者は大いに不満を持つはずなので、中国当局としては、そうした不満を力で抑え付けようとしており、言論の締め付けの強化もその一環なのだと思います。破綻させられた企業の関係者同士が連携して党中央に反発する声を上げることは許さない、というわけです。

 通常、中国当局がメディアやネットの検閲を強化すると西側各国は「民主化への動きに反する」として反発しますが、もし中国当局が言論への締め付けの強化を「生産設備の過剰を解消し、中国の経済改革を進めるに際して、社会の安定を維持するために行う」と主張するならば、西側各国は本気で反発することはできないかもしれません。西側各国にとって、中国国内で言論の自由が圧殺されることよりも、中国の過剰生産設備が削減されることの方が世界経済の円滑化のために重要だからです。

 香港で民主化勢力のデモを香港当局が抑圧したケースでは、イギリスは一応「ケシカラン」とは主張しましたが、あまり本気で反発していないように見えました。イギリスにとっては、香港がどうなるか、より、人民元を巡る国際金融ビジネスで中国と協力する方が重要だからでしょう。

 2007年~2009年に駐在していた頃に読んでいた新聞各紙の論調を見る限り、中国の報道人の「ジャーナリスト」としての意識と誇りは相当に高まっていると思います。時々伝えられる各地の争乱事件などの話を聞くと多くの中国人民の「権利意識」も相当に高くなっているようですし、自己主張に対する意識の高いネットワーカーの数も相当に多くなっていると思います。中国当局も「そうした意識の高まった中国人民」を向こうに回してメディアとネットに対する「締め付け」を強めることは難しいと思いますが、今回は、生産設備過剰企業のリストラという経済構造改革の推進と絡めることによって、実質的に西側各国の「暗黙の了解」を取り付けた上で、メディアとネットでの言論の締め付けを強化していくことになるのかもしれません。

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