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2016年1月16日 (土)

人民元相場と中国経済バブル崩壊の想定と現実

 私は2007年4月に二度目の北京駐在を開始しましたが、この頃の基本認識は「現在(2007年初夏の頃)の中国経済は北京オリンピック開催を1年後に控えてバブル的状態にある。このバブル的状態は『いつか』反転し、中国経済は調整局面に入る。中国経済が調整局面に入ると多くの問題が噴出する可能性がある。」というものでした。そして、2007年初夏の時点で考えていた「いつか」が今(2016年年初)到来していることは明らかです。

 2007年5月に私は「中国の現在の基本問題」と題するメモを書いたのですが、このメモの経済に関する部分のポイントは以下のとおりです。

---2007年5月の時点で私が考えていたことのポイント(始まり)---

○中国は世界の工場として製品を世界に輸出することによって恒常的に膨大な貿易黒字を作り出しており、自由な為替市場に任せれば人民元高に振れる圧力を常に受けているが、中国人民銀行は意図的に人民元安に誘導している。中国人民銀行が市場圧力に抗して人民元安に誘導している理由は以下のとおり。

・中国製品の最大の国際競争力である「人件費が安い」という利点を守るため。

・人民元高になると安い外国の農産物が中国に輸入されて中国の農業に打撃を与えるのでこれを避けるため。

 多くの工場では農民工が出稼ぎ労働者として働いており、上記のいずれのポイントも「中国の農民を守る」という中国政府の最大の目標を達成するために必要な事項である。

○市場圧力は「人民元高」方向に働いている上、意図的な人民元安誘導による輸出の振興はアンフェアであるとするアメリカ等の圧力もあり、経済の国際化を目指す中国としては、いずれ人民元高を容認する方向になることは明らかである(人民元の先高感)。であれば、今の時点で中国に投資すれば投資回収時点で人民元高による為替差益を得ることができる、との見方から、海外から大量の資金(いわゆる「ホットマネー」)が流入している。

○中国人民銀行が人民元を安い水準で維持するために行う外貨買い・人民元売りの為替介入は、市場に更に人民元を供給する結果となり、中国の市場には大量の「過剰流動性」が供給され、北京オリンピックへ向けたインフラ投資とともにマンションの建設ラッシュ等を加速している。

○2008年の北京オリンピック及び2010年の上海万博が終われば、建設ラッシュで乱立したマンション等は供給過剰となる。バブル崩壊が近づいた時点で、外資は経済が崩壊する前に投資した資金を回収する動きを始める。外資の引き上げが始まると、人民元売り・外貨買い圧力が掛かるので、人民元は人民元安に振れる。人民元に先安感が出ると、外資(ホットマネー)の流出は加速度的に広がる(更に人民元安の圧力が強まる)。

○資本の流出が起きると、マンション等の建設は行われなくなり、それまで建設労働者として働いていた多くの農民工は職を失い、社会不安が起きる。

---2007年5月の時点で私が考えていたことのポイント(終わり)---

 上記の認識に基づき、中国の高度経済成長がどの時点で調整局面に入るかについては、このブログの2007年6月21日付け記事「中国のマンション・バブルはいつまで続くのか」に書かれています。

(参考URL1)このブログの2007年6月21日付け記事
「中国のマンション・バブルはいつまで続くのか」
http://ivanwil.cocolog-nifty.com/ivan/2007/06/post_847c.html

 私はこの当時、2008年8月の北京オリンピックの前後の頃にも「調整局面入り」すると考えていました。上海株については、私の予想より早く、2007年10月がピークでした。

 その後、中国経済は私が予想していなかった展開を見せます。2008年9月のアメリカ発のリーマン・ショックにより世界経済の状況は大きく変わり、中国では2008年11月に「四兆元の経済対策」が打ち出され、中国経済が「調整局面入り」することは先送りされました。しかし、これは「先送り」されただけで、「調整局面入り」はいつか必ず来るし、むしろ「四兆元の経済対策」により「調整局面入り」した後の問題点の噴出の度合いは大きくなると当時の私は思っていました。

 この点については、このブログの2008年11月28日付け記事「『史上最大のバブル』の予感」で書きました。

(参考ULR2)このブログの2008年11月28日付け記事
「『史上最大のバブル』の予感」
http://ivanwil.cocolog-nifty.com/ivan/2008/11/post-793d.html

 北京オリンピック直前の中国の経済状況が「バブル的状況」であり、この状態は「いつか」は調整局面に入り、その際には様々な問題点が生じる可能性があるという認識については、当時の中国の新聞でもたびたび論じられていました。例えば、このブログの2007年6月1日付け記事「中国の急速な都市化は『多すぎで、速すぎ』」では、2007年5月23日付けの中国の政府系英字紙「チャイナ・ディリー」が当時の中国の急速な都市化について警告を鳴らす記事を書いていることを紹介しています。

(参考URL3)このブログの2007年6月1日付け記事
「中国の急速な都市化は『多すぎで、速すぎ』」
http://ivanwil.cocolog-nifty.com/ivan/2007/06/post_6222.html

 上記記事でも紹介していますが、このチャイナ・ディリーの記事では「もし、いつかGDPの成長率が正常な値と思われる5~6%に落ちる日が来たら、そこには1000万人の土地を持たない農民が取り残され、恐ろしいことになるだろう。」と述べた学者の発言を紹介しています。「チャイナ・ディリー」は中国政府系の英字紙ですので、当時、中国政府も急速な経済成長はいつか「調整局面入り」し、その際には様々な問題が生じる可能性があることを認識していたのです。

 また、2007年~2009年の北京駐在期間中、私は、よく「裸官」という言葉を聞きました。「裸官」とは、自分の妻やこどもを外国に住まわせ、外国に住宅を買うなど資産のほとんどを外国に移しながら、自分だけ中国国内に残って仕事をし、「いざという時」になったら外国へ逃げだそうと考えている中国の地方政府幹部(=中国共産党の地方幹部)のことを皮肉を込めて表現する言葉です。

 中国の地方に多くの「裸官」がおり、多くの人民がそれを「裸官」と呼んで皮肉っていた、ということは、地方政府幹部も中国人民も、金儲けのできるバブル期にはそれが終わる「いざという時」が必ず来ることを2007年当時から認識していたことを意味しています。

 今(2015年後半~2016年年初)起きている人民元安の圧力は、経済が調整局面に入ったことにより外資が中国から引き上げるとともに、中国の地方政府の幹部や「富裕層」が国内資産を外国に移転するために人民元売り・外貨買いをしようとする圧力が強いことを意味しています。「裸官」にとっては、今(2015年後半~2016年初)が外国に逃げ出すタイミング、つまり「いざという時」なのです。習近平主席が強力に推進している「反腐敗闘争」は、そうした「裸官」の海外逃亡を許さない、との意味も持つものと言えます。

 上に説明したように、現在中国で起きている経済の減速と人民元安への圧力は、少なくとも北京オリンピック前には「いつか起こること」として想定されいていた事態です。従って、今、世界の株式市場は「中国経済減速ショック」でパニック的に同時株安状態になっていますが、中国経済については、「予想外のことが突然起きた」のではなく、「あるだろうと思っていた事態が実際にやってきたのだ」と認識すべきです。「現在の世界のマーケットの急激な反応は反応のし過ぎだ」と評する人がいますが、私も同感です。

 ただ、リーマン・ショック後に発動された「四兆元の経済対策」で「経済が調整局面に入った時に噴出する問題の大きさ」は北京オリンピックの頃に想定していたものより遙かに大きなものに膨らんでいること、2015年に中国株のバブル的上昇と下落が発生してしまったこと、アメリカの利上げ・原油安・ブラジル等の新興国の経済不振などがタイミング的に同時進行していることは、中国経済の調整局面入りの「負の側面」を従来の想定より相当大きなものにする可能性があります。従って、中国経済の減速と人民元安(これは中国からの資本流出を意味する)が世界経済に与える影響については、決して楽観してはならないと私は思っています。

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