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2016年1月23日 (土)

中国経済は春節休み明けの変調に要注意

 今年(2016年)は、2月8日(月)が旧暦の正月(春節)の元旦で、中国ではこの前後で約1週間の長期の休みとなります。日本では、また中国人観光客による「爆買い」が話題になるでしょう。

 中国人民銀行は、1月21日(木)、春節前の現金需要に応えるため計4,000億元(約7兆1,000億円)の資金供給を行った、とのことです。この規模は3年ぶりの大きさ、とのことです。

 中国では、春節の前に、多くの企業で従業員に日本の冬のボーナスに相当する「春節手当」が払われます。多くの中国の人々は、故郷に帰省したり、長期の休みを利用して旅行したりするので、春節直前はどうしても現金の需要が高まります。そのため、中国人民銀行が春節前に大量の資金供給を行うのは、毎年恒例の行事となっています。

 中国では、こどもを故郷の農村に残して都会に出稼ぎに出ている農民工が多数いますが、彼らは多くの場合、春節手当をもらうとお土産を買って故郷に帰ります。彼らは基本的に春節休みが明けると元の職場に戻ってくるのですが、経済情勢によっては、例えば、故郷の農村近くによい働き場所ができた場合にはそちらに転職して、春節明けに農民工が元の職場に戻ってこない、といったことが起きます。

 私が二度目の北京駐在をしていた2008年の春節の際にはその傾向が顕著でした。従来の中国では、沿岸部に労働集約型輸出産業が集積して、そこに内陸部から出稼ぎに来ている農民工が多数働いていたのですが、2008年頃になると、内陸部に進出する工場も増え、内陸部でのインフラ建設も加速していたので、故郷近くの内陸部でそれなりの職場が見つかるため、春節明けに沿岸部の工業地帯に農民工が戻ってこない事態が多発しました。結果として、沿岸部では労働者の奪い合いとなり、賃金が上昇するひとつの原因となりました。

 2008年とは事情が全く異なりますが、今年(2016年)も春節明けに中国の雇用動態において変調が起きる可能性があります。ポイントは以下のとおりです。

【製造業部門】

○「労働集約型輸出産業」は既に中国から他のアジア諸国等に移転しつつあり、中国の沿岸部の製造業は、既に大量の非熟練労働者に雇用を提供する場ではなくなりつつある。

○ブラジル、ロシア等他の新興国の経済低迷により、そもそも中国の輸出指向型製造業は頭打ち状態となっている。

○スマートフォンなどの「新規製品」の普及に一巡感が出ている一方、今後普及が広がるような「次の新規製品」は今はないので、製造業全体として雇用が大きく増大するような状況にはない(これは中国だけではなく世界共通)。

○鉄鋼、セメント等の中国の「伝統的製造業」については、相当程度の生産過剰状態にあり、政府の方針でこららの「伝統的製造業」では徐々に生産縮小が進みつつある。

【不動産建設部門】

○2016年1月19日に中国国家統計局が発表した数字によると、2015年の不動産投資額は対前年比1.0%増に留まった(2014年は対前年比10.5%増)。また、新規着工面積は対前年比14%減少した。住宅部門については、現在、在庫が溜まっており、新規の建設はかなり鈍化している。

 これらの事情を踏まえると、例えば、2008年に起きたような、春節前に沿岸部の製造業で働いていた農民工が春節後に故郷に近い内陸部の工場や建設現場で働くようになる、というような事態は起きないと思われます。最も懸念されることは、製造業、建設業とも必要とする雇用は頭打ちとなっており、この春節期間を切っ掛けとして職場を代わろうとした労働者にとって受け皿となる雇用の場がなくなっている、といった事態が広範に起こる可能性があることです。

 インターネット通販の拡大など、中国でも新たな雇用の場は多様化しつつありますが、雇用の数の面では、中国は、まだ従来型の労働集約型製造業や鉄鋼等の国有企業型産業や建設業に多くを頼らざるを得ない状況だと思います。

 従来から中国では「保八」などといって経済成長率8%以上を確保することが必要だとされてきました。成長率が8%に満たないと膨大な人口を支える雇用が確保できないと考えられていたからです。1月19日に2015年の中国のGDP成長率は6.9%であったと発表されましたが、この成長率でどの業種が膨大な中国の雇用を維持しているのか、必ずしも明確ではありません(一般には、サービス業の伸びが雇用の場を増やしている、とされています)。鉄鋼等の分野で長期間生産者物価指数が大きなマイナスを続けているのに過剰生産がなくならないのは、多くの国有企業が雇用を維持するために赤字であっても無理して操業を続けているからではないか、と見る人もいます。

 「雇用の問題」は、中国経済にとって(そして中国共産党が支配するシステム全体にとって)致命的に重要な意味を持ちます。毎年のことですが、今年も春節という年に一度の労働者が故郷と職場の間を大移動する季節を切っ掛けとして雇用を巡る中国経済に変調が見えるかどうか、しっかりと注目していく必要がありそうです。

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