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2016年1月30日 (土)

中国の春節明けと日銀マイナス金利導入のタイミングの一致

 報道によれば、中国人民銀行は定例のオペで1月21日(木)に4,000億元(約7兆1,000億円)、26日(火)に4,400億元(約7兆9,000億円)、28日(木)に3,400億元(約6兆1,000億円)の資金供給を実施したとのことです。春節(旧正月;今年(2016年)は2月8日が元旦)前には現金需要が高まるので、中国人民銀行は毎年この時期にこのような資金供給を行っていますが、1月25日の週の資金供給額は、週間ベースでは過去最大規模だとのことです。通常、こうしたオペは火曜日と木曜日に行われますが、中国人民銀行は1月28日、春節前後の期間の全ての営業日に必要に応じオペを行う、との声明を発表しました。

 これらのオペは、通常、リバースレポと呼ばれ、一定の期限の後に返済することを前提として、銀行が提供した債券を担保として、中国人民銀行が各銀行に対して短期資金を貸し出すものです。

 こうしたオペは、春節前で、多くの人が銀行から現金を引き出したり、企業が従業員に「春節手当」を支払ったりするため、一時的に現金に対する需要が急増する状況に対処するためのものです。現金を手にした人々は、受け取った(あるいは銀行の預金口座から下ろした)現金を、春節休みの際に、故郷に帰るための旅費として使ったり、お土産を買ったりするために使うのですが、現金を受け取った交通機関や商店は春節明けに現金を預金として銀行に預けるので、現金は春節後に銀行に還流し、結局は中国人民銀行に返済されることになります。

 つまり、春節前の中国人民銀行による資金供給は、一時的な現金需要に対応するもので、供給された資金は一定期間の後に中国人民銀行に戻ってきますから、金融政策の観点からは、基本的に「中立」です(緩和でも引き締めでもない)。

 毎年行われる中国人民銀行による春節前の資金供給ですが、今年(2016年)の場合ちょっと気になるのは、中国経済の減速が鮮明になって企業活動も低調となっている中で、中国人民銀行による資金供給額が過去最大規模になっていることと、中国人民銀行が「毎営業日にオペを行う」とわざわざ声明したのはなぜか、という点です。例年行われている春節前の資金供給オペについて、今年(2016年)その規模が過去最大規模になっているのは、それだけ今年は現金の需要が大きいことを意味しています。その背景は必ずしも明らかではありませんが、企業が従業員に「春節手当」を支払うといった例年と同じ現金需要のほかに、今年は、人民元を外貨に替えるための人民元需要が例年より強くなっている可能性があります。

 中国では、個人が外国旅行等に行く場合に外貨に替えられる金額を一人当たり年間5万ドルに制限しています。この枠は暦年でリセットされます。通常は、海外旅行に行く時点(春節、5月のメーデー連休、夏休み、10月の国慶節連休など)に外貨に替えればいいのですが、今年は人民元の先安感が強いことから、今年後半に外国旅行を計画している人でも、人民元が安くなる前に早めに外貨に替えておこうと考えて、この春節前に銀行口座などから人民元を下ろして外貨に替えようとしている人が多くなっているのかもしれません。

 香港の人民元オフショア市場では、先日、人民元を外貨に替えたいと思う人(及び企業)が増え、その一方で人民元安を阻止するために、中国当局が国有銀行を通じて大量の人民元買い・外貨売り介入を行った結果、市場で人民元が枯渇し、翌日物の香港銀行間貸出金利が急騰する事態が起きました。こうした状況も踏まえ、仮に中国国内の銀行窓口で一時的にでも人民元の現金が足りなくなるような事態が起きれば大きな混乱が起きるので、中国人民銀行はそういうことが起きないように、市場に潤沢な資金を供給すると声明し、実際に潤沢に資金を供給しているのだと思います。

 外国旅行を予定している個人による外貨買いの意欲は、おそらくは春節休みの時期を過ぎれば一段落すると思いますが、もし「人民元の先安感」が強いならば、外国と貿易を行っている企業などによる「外貨買い・人民元売り圧力」は、春節後も続く可能性があります。

 わざとこうしたタイミングを捉えて、だと思いますが、先日開かれた世界経済フォーラム(ダボス会議)で有名な投資家のジョージ・ソロス氏が「中国のハードランディングは不可避」としてアジア通貨の空売りを宣言しました。そして、そのソロス氏の発言に反論する文章を「人民日報」が掲載したことについて、今日付けの日本経済新聞が伝えていました(2016年1月30日付け日本経済新聞朝刊8面記事「中国、ソロス氏に警戒感 ダボス会議『中国売り』発言受け 人民日報『絶対にハードランディングしない』」)。

 ソロス氏は、1992年にイギリスのイングランド銀行を相手にしてポンドを売り浴びせ、イングランド銀行を降参させたことで有名ですが、中国の場合は、最近減少傾向にあるとは言え、まだまだ膨大な外貨準備(外貨売り・人民元買い介入の原資となる)を持っており、必要があれば金融取引を強権的に管理することもやりかねないので、外国の投資家が「人民元売り」で中国人民銀行に勝てるとは私は思っていません。

 ただ、中国人民に「人民元の先安感」が広がり個人ベースでの人民元売り・外貨買いの傾向が強まっては困るので、春節前の今のタイミングでは、中国人民銀行は、多少無理をしてでも人民元安阻止の方向で動いていますが、春節が過ぎれば個人による人民元売り・外貨買いの圧力は減ると思うので、春節後、中国人民銀行は、市場動向に従って、緩やかな人民元安傾向を容認していくようになる可能性はあります。

 一方、たまたまのタイミングですが、昨日(2016年1月29日(金))の金融政策決定会合で、日銀がマイナス金利導入を決めたことから再び円安・ドル高の傾向が強まっています。中国としては、日本円との対比で日本円安・人民元高の傾向が強まっては困るので、その意味でも春節明け以降は人民元安方向に誘導していく可能性があります。人民元安が進むと、中国国内で生産される鉄鋼等の製品が安く世界に輸出されることになることから、世界の市場関係者は「人民元安=中国から世界へのデフレの輸出」になるのではないかと恐れているようです。実際、最近、中国人民銀行がレートの中央値を人民安方向に設定すると世界の株式市場に恐怖心が走る傾向があるように見えます。

 春節休みが明けたタイミングで、中国人民銀行が人民元安方向に基準レートを設定し、それが世界規模の同時株安などの市場の混乱を招くことにならないように願いたいものです。

 日銀は昨日の金融政策決定会合でマイナス金利の導入を2月16日(火)から開始することを決定しました。私はなぜ2月16日(火)から開始することにしたのかについては知りませんが、事実関係として、このタイミングは中国の春節明けの企業活動再開のタイミングとほぼちょうど重なります(中国の政府機関の休みは2月7日(日)~13日(土))。ちょうどその直後の2月末に上海でG20財務大臣・中央銀行総裁会議が開かれるようですから、世界の金融当局関係者は、うまく話し合って、「中国の春節明けのタイミングから始まる世界経済の波乱」が起きないように調整して欲しいものだと思います。

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