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2015年12月12日 (土)

人民元安傾向とアメリカの利上げ

 昨日(2015年12月11日(金))の上海外国為替市場で、人民元は対米ドルで一時1ドル=6.4564元と2011年7月以来4年5か月ぶりの安値を付けました。一部には人民元のIMFのSDR(特別引き出し権)基準通貨入りの決定(11月30日)以降、世界の中央銀行や企業が人民元を外貨として保有する割合が増えるとの思惑から、人民元が買われて人民元高になるのではないか、との見方もありましたが、実際は、人民元を売りたい人の方が多く、人民元レートは安値方向への圧力が続いているようです。

 この人民元安は、多くの人に今年8月の「世界同時株安」の再来を思い起こさせているようです。報道によれば、中国人民銀行は、人民元の相場について、米ドルだけではなく、その他の通貨をバスケットにしたものと比較する指標を公表することにしたそうです。これは「人民元は対米ドルでは安くなったけど、他の通貨と比較するとそんなに安くなってませんよ」と言うための道具として使われるのではないか、との思惑から、「中国人民銀行は人民元の更なる対米ドル安を容認するのではないか」との憶測を呼んでいるようです(下記に紹介する「人民日報」の記事参照)。

 「将来人民元が安くなる」との見方が強まれば、中国からの資金流出が進み中国経済を更に下押しするおそれがありますし、今後実際に人民元が安くなっていけば、中国製品(特に過剰設備で生産される鉄鋼など)の安値での輸出が増えて、中国から世界への「デフレの輸出」が進むことも懸念されます。

 今日(2015年12月12日(土))付けの日本経済新聞夕刊のトップ記事の見出しは「米市場、リスク回避 原油安加速 利上げ観測 NY株309ドル安」でした。記事の中で「市場は荒れた8月と似た状況になっている」との関係者の見方を紹介していました。

 今(2015年12月初旬)の世界の株式市場の変調は、減産合意を決められなかった12月4日のOPEC(石油輸出国機構)総会の結果を受けた原油価格の更なる下落と来週(12月15~16日)に開かれるアメリカFOMC(連邦公開市場委員会)で決まるであろうと考えられているアメリカの9年ぶりの利上げに対する市場関係者の不安感が背景にあるので、中国が原因ではありません。しかし、対米ドルでの人民元安傾向が続いている現状は、「中国からの資金流出による中国経済の更なる低迷」「人民元安による製品輸出による中国から世界への『デフレの輸出』」を想起させ、他の状況と相まって世界の関係者の心理を相乗効果的に冷やしているのだと思います。

 そもそも今ある「人民元安方向への圧力」は、2013年3月の習近平・李克強体制のスタートの頃から始まり2014年後半頃から本格化した全く新しい現象です(タイミング的には原油価格の下落開始時期と合致するので、原油価格の下落と人民元相場の下落は一定の相関関係があると考えてよいと思います)。

 私が二回目の北京駐在を始めた2007年前半頃は、状況は全く逆でした(当時は、人民元の先高感が強かった)。当時の状況を知るには、例えば、このブログの下記の発言を御覧ください。

(参考URL)このブログの2007年6月28日付け記事
「次々と打ち出される過剰流動性対策」
http://ivanwil.cocolog-nifty.com/ivan/2007/06/post_0f49.html

 2007年前半の経済成長率は対前年同期比+11.5%で、2007年7月20日には中国人民銀行は1年ものの基準金利を従来の3.06%から3.33%にする利上げを実施しています。この当時は人民元高への圧力が強く、当局は人民元為替レートを人為的に低く抑えようとするために大量のドル買い・元売り介入を行っていました。

 今は全く逆で、人民元には先安感が強くあります。当局の今後の為替政策には不透明なところもありますが、11月30日にIMFによる人民元のSDR基準通貨入りの決定を通過したので、中国当局は比較的自由に為替政策を採れるようになったので、今後は、市場レートが示す方向に従って、あまり急スピードにならないような範囲で、基準値を人民元安の方向に誘導していくのではないかと思います。

 そうした中国当局の為替政策の方針を伺う参考となる記事が、昨日(2015年12月11日)付けの「人民日報」10面に載っていました。人民日報の王観記者が書いた「人民元が大幅に下落する基礎的条件は存在しない(数字から見る経済運行の軌跡)」と題する記事です。この記事の副題は「11月の外貨準備高は減少したが、我が国の国際収支は非常に穏健である」です。この記事は、前日(12月10日)に行われた四半期外国為替管理政策新聞発表会で、国家外国為替管理局の責任者が記者に対して行った質疑応答をまとめたもので、以下のような説明がなされています。

○米ドル建ての中国の外貨準備が減少している背景には、ドル高により中国が米ドル以外の通貨で持っている外貨準備のドル建て価値が相対的に減少しているという事実がある。

○「一帯一路」政策により、今中国政府は中国企業の海外投資を促進しており、外貨準備の一部は、これら海外投資する企業への融資に使われている(IMFによる外貨準備の定義に従って、これらは外貨準備の外にカウントされる)。

○中国には年間5,000億ドルを超える貿易黒字があり、これらを含む穏健な国際収支は人民元が大幅に下落する基礎的条件がないことを示している。

○人民元為替相場については、対米ドルだけで見るのではなく、多くの通貨との関係と中長期的すう勢を見なければならない。

○近く予想されているアメリカFRBによる利上げについては、中国の国際資本流通について一定の影響はあると思われるものの、非常に顕著なものとはなり得ない。中国の貿易及び投資競争力は依然として極めて強く、比較的大きな黒字幅を保持している。このような状況下、アメリカの利上げは、国際資本流通を短期的には変動させる可能性はあるが、長期的に見れば、国際収支と国際資本流通への影響は穏健なものになるだろう。

 この記事から以下の点が見て取れます。

・中国の当局も中国の外貨準備が減少していることを心配している人がいることを承知していて、それに対して「心配することはない」と説明する姿勢を示している。

・中国当局としては、一定程度の対米ドルでの人民元安は容認する考えである。

・中国当局は、アメリカの利上げが中国に大きな影響を与えることはないと考えているが、アメリカの利上げについてはかなり「気にしている」。

 なお、今日(2015年12月12日)付けの「人民日報」の1面トップは、習近平主席と李克強総理による貧困対策に関する指示についてでした。ここのところ、貧困対策に関するニュースが多くなっているところを見ると、当面のところ、中国の経済政策は成長や改革の推進よりも雇用の維持を重視する方向でなされる(具体的に言えば、一定程度の人民元安を容認し、従来からある労働集約型輸出産業が急速に淘汰されないようにする方向で政策を運用する)と見てよいのではないかと思います。

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