« 第18期五中全会の日程がいまだ決まらず | トップページ | 習近平主席に対するイギリスの「熱烈歓迎」の目的 »

2015年10月17日 (土)

中国の中長期リスク:農業(食糧)問題

 毛沢東が先導した中国の共産主義革命は、基本的には「農民による革命」でした。毛沢東の最も基本的な問題意識は「貧しい中国の農民にどうやってメシを食わせるか」でした。現在、いろいろな問題があるとは言え、13億の中国人民が少なくとも「メシは食える状態」になっていることは、中国共産党の政策の成果として評価できると思います。一方で、「大躍進時代」の1958~1959年頃、政策の失敗から食糧生産が激減し、数千万人の餓死者が出た、という歴史的事実は、現在の中国共産党政権にとって忘れてはならないことと考えられていると思います。

 GDPの数字など、中国政府の発表する経済統計の数字の多くには信憑性がないのですが、私が最も「これは信用できないなぁ」と思っているのは「2004年~2014年まで食糧生産量が毎年前年を上回っている」という発表です。農業技術の進歩により中国の食糧生産量が傾向として増加していることは事実として間違いはないと思いますが、天候に大きな影響を受ける農業において、「11年連続で前年の生産量を上回る」というのは、非常に不自然です。中国統計年鑑などで、コメ、トウモロコシ、小麦などを個別に見ると年によって増減はあるのですが、「食糧」のカテゴリーに入る作物を全て加えると、ここのところ11年連続で毎年前年より収穫量が増えている、ということのようです。統計上の「からくり」なのかもしれませんが、私は毎年「今年も連続増収が続いた」という発表を聞くたびに「ほんとかなぁ」と思ってしまいます。

 ただ、コメ、トウモロコシ、小麦などの国際商品市場で、「中国の減産による価格の上昇」といった現象は起きていないので、「11年連続増収」は信用できないとしても、一定程度の生産量が確保されているのは間違いないと見てよいと思います。「中国経済は大丈夫か」という外国からの問い掛けに対して、中国は「成長率は低くなったが経済運営に問題はない」と反論する際の根拠として、「農業生産は順調であること」を掲げていますが、これはたぶん間違いではないでしょう。

 中国政府も、大躍進時代の食糧危機などの過去の経験を踏まえて、食糧生産の確保は非常に重視しています。農地の工業用地への転換に関しても、全国ベースで農地18億ムー(1ムー=667平方メートル;15ムー=1ヘクタール)は確保する、というスローガンは何年も言い続けています。

 しかし、私は、中国の食糧生産は「持続可能ではないのではないか」と危惧しています。河北平原での水不足問題が深刻であり、工場排水による汚染された河川からの灌漑で、農地の重金属等による汚染等も深刻化しているからです。例えば、私が2008年に訪問した河北省石家庄近くにある研究所で聞いた話では、河北平原では、小麦の生産に必要な水の7~8割は地下水の汲み上げによる灌漑に頼っていて、河北平原では1980年代には地表面の下十数メートルのところにあった地下水位が、現在では地表面から35メートルのところまで低下してしまった、とのことでした。

(参考URL)科学技術振興機構中国総合研究センター
サイエンス・ポータル・チャイナ
「コラム&レポート」-「北京便り」
【08-005】中国科学院の植物・農業関連研究所訪問
http://www.spc.jst.go.jp/experiences/beijing/b080602.html

※この記事の筆者とこのブログの筆者は同一人物

 中国では、今、揚子江流域の水資源を運河等で北部に送る「南水北調」というプロジェクトを進行中ですが、これが河北平原の水不足の完全な解消に繋がるかどうかはわかりません。(揚子江流域の雨量が少なくなる年もあり、「南水北調」で全てが解決するとは私は思っていません)。

 水不足や農地の土壌汚染の問題が今すぐに中国の食糧生産に影響を及ぼし社会的問題になるとは思いませんが、今後十年単位の中長期的な課題として忘れてはならない問題だと私は常々思っています。

 そもそも農業は労働生産性が低い(苦労して働いても得られる収入があまり多くない)ので、農業をどうやって振興していくかは、中国に限らずどの国にとっても重要な政策課題になっています。全てを共同で行う「人民公社」をやめて個別の農家に一定程度裁量を任せる「農家個別請負制度」にしたことが今の中国の改革開放政策の出発点ですが、現在、生産効率の向上のために、農家の自主性を尊重しつつ複数の農家が出資して共同で農業を経営する「合作社方式」も推進しているようです。今度の五中全会で決まる新しい五カ年計画でも農業振興に関する計画も織り込まれるでしょう。中国の今後の経済動向を見る上で、インフラ投資や製造業、サービス産業に関する政策に目が向きがちですが、農業に関する政策がどうなっていくかをしっかり見ていくことも中長期的な観点で中国を見ていく上では非常に重要だと私は思います。

|

« 第18期五中全会の日程がいまだ決まらず | トップページ | 習近平主席に対するイギリスの「熱烈歓迎」の目的 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



« 第18期五中全会の日程がいまだ決まらず | トップページ | 習近平主席に対するイギリスの「熱烈歓迎」の目的 »