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2015年9月19日 (土)

アメリカFOMCを巡る中国の動き

 アメリカの中央銀行に当たるFRB(連邦準備制度理事会)は、9月16~17日にFOMC(連邦公開市場委員会)を開き、今回は利上げを見送る決定を行った旨を公表しました(会合結果の発表は日本時間9月18日(金)午前3時)。決定会合後の記者会見で、FRBのイエレン議長は、利上げを見送った理由として、中国を含む新興国経済に不確定要素があり、それがアメリカ経済にどのように影響を与えるか更に見極める必要があるため、と指摘しました。

 FRBは、その任務として、アメリカ経済の雇用と物価の安定化を求められているのであって、世界経済のコントロール役ではありません。よく「FRBはアメリカの中央銀行であって、世界の中央銀行ではない」と言われます。しかし、経済がグローバル化している今日、世界経済は必ずアメリカ経済に跳ね返って来ますので、FRBとしてもアメリカ以外の国々の経済にも目配りをする必要があることを今回のFOMCで明確に表明したことになります。

 今回(2015年9月)のFOMCでアメリカが7年にわたって続けてきたゼロ金利政策を解除して利上げするのではないか、と言われてきました。8月11日に中国人民銀行が人民元の対ドル為替レートの基準を人民元安の方向に切り下げたのも、9月のアメリカの利上げの可能性を前にして、アメリカの利上げに伴うドル高によってドルを基準にして変動してきた人民元がドル以外の通貨に対して高くなりすぎることを防ぐためだった、との見方もありました。

 FOMCがその会合の結果を公表する約7時間前の北京時間9月17日(木)夜、中国の新華社は「中国共産党中央と国務院の開放型経済構築のための新経済体制に関する若干の意見」という文書を公表しました(9月17日(木)木の中国中央テレビの夜7時のニュース「新聞聯播」で報じられ、翌9月18日(金)の「人民日報」1面トップで伝えられた)。

 この文書は、既に今年5月5日に決まっていたもので、「経済のグローバル化に鑑み、国際標準と貿易規則に適応した管理方式を確立する」などとうたっていますが、今まで全人代などいろいろな場面で表明されてきた中国の経済政策の運営方針と基本的に同じであり、「新鮮味」のあるものではありませんでした(そのため、日本のマスコミはほとんど無視して報じていません)。

 5月に決まっていた文書をこのタイミングで公表したことの意味は何なのか、について、私は、中国がアメリカFRBに対して「抗日戦勝利記念軍事パレードを催すなど、中国は改革開放経済政策をやめるのではないか、との懸念もあるようだが、中国の開放型経済への努力は変わっていない。今一生懸命、新しい経済体制の構築のために努力しているのだから、アメリカは今利上げするのはやめて!」というメッセージを送りたかったのではないか、と思いました。

 一方、FRBのイエレン議長は、FOMC後の記者会見で、極めて率直かつ正直に、今回利上げしなかったのは、中国をはじめ新興国経済などアメリカ以外の経済状況がアメリカ経済に与える影響を見極める必要があるためであることを表明しました。イエレン議長は、言葉を選んで、ことさら「中国が心配なので」というトーンに聞こえないように説明していたと私は思いますが、市場関係者は「あぁ、やっぱりFRBも中国経済のことが心配なんだ。中国の状況はそれほどよくないんだ。」と感じたからか、FOMC決定翌日の9月18日(金)の日欧米の株価は大幅に下落しました。

 9月17日夜に中国が公表した文書がFRBに対する「利上げしないで!」と訴えるメッセージであったのかどうかは別にして、中国は今回のFOMCの判断に対して大きな関心を持っていたことは間違いないと思います。アメリカの利上げとドル高は中国経済に大きな影響を与える可能性があるからです。ところが、9月18日(金)の「新聞聯播」や9月19日(土)の「人民日報」では、今回のFRBの利上げ見送りについては報じていません。

 もちろん、ネット上では報じた記事もあり、別に「報道規制」をしているわけではありません。ただ最も公式な報道である「人民日報」と「新聞聯播」が今回のFOMCの結果を報じていないことについては、今まで、QE3(量的緩和第三弾)の縮小開始や終了に当たっては普通に報道していたことと比べると、私は「何かちょっと変だな」と思いました(金融政策を「変更しなかった」のだから報道する必要はなかった、というのがおそらくは公式見解なんだと思います)。

 いつも書いていますが、私は「新聞聯播」や「人民日報」については、「何を報じるか」ではなく「何を報じないか」が重要だと思っています。今回、イエレン議長が記者会見で中国を名指しして中国経済の今後について注視していく旨を語っているのにそれを「人民日報」や「新聞聯播」が報じなかったのは、イエレン議長の指摘が「中国の痛いところを突いていたからだ」と考えるべきなのだと思います。(ちなみに日本の安保法制に関する動きについては、「新聞聯播」や「人民日報」では、他国の法律制定に関する動きをそこまで報道しなくてもいいのに、と思うくらい、しつこく報じています)。

 株価の暴落や悪い経済指標が続いていることに対して、中国政府は累次「景気対策」を講じてきています(NPO法人日中産学官交流機構のホームページで、同機構の特別研究員の田中修氏が「田中修レポート」の中で累次の景気対策について紹介しています。9月17日にアップした分までで「景気テコ入れ策(7)」まで来ています)。ただ、これらの「景気てこ入れ策」は、政府の許認可の簡素化、中小企業や農村への融資の拡大方策、などであって、パンチのある決定打、とはなっていないようです。

 アメリカFRBのイエレン議長が「中国など新興国の不確定要素」を指摘しているのに「新聞聯播」や「人民日報」が反論しないのは、中国自身が経済が困難に直面していることを認識しており、累次の対策を講じているけれども、それらは劇的な即効性のある対策ではなく、効果が出るとしても時間が掛かるものであることを中国自身が自覚しているからでしょう。

 来週は習近平主席が訪米しますが、オバマ大統領との米中首脳会談の際の記者会見などにおいて、習近平主席には、中国経済の現状認識と対策について、ぜひ世界に向けて虚心坦懐に語って欲しいと思います。今、世界の多くの人が感じている不安の中心は、中国経済の減速という事実そのもの以上に、中国の指導者が何を考えているのかわからない、という点にあるわけですから。

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