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2015年9月26日 (土)

国有企業への党の指導の強化で更に中国経済低迷か

 日本時間今日(2015年9月26日)未明までワシントンで米中首脳会談が行われていました。その後の共同記者会見の様子なども報道されていますが、私の印象では、あんまり新鮮味とインパクトのある内容はないなぁ、という感じです。オバマ大統領も記者の側も「本当に質問して欲しいところ」「習近平主席にとって『痛いところ』」を突いていないからだと思います。

 「習近平主席にとって『痛いところ』」を突いた質問とは、「国有企業改革をやる、と言っているけれども、共産党一党独裁体制を維持したままで、そんなことはできるのか」「中国企業の活動を活性化し、中国経済を順調に成長させるためには、中国共産党による一党独裁体制をやめるのが最も効果的なのではないのか」といった質問です。答はわかりきっている(「中国の国情を考えたら共産党の一党独裁が最も優れている」「外国の人が内政干渉するのはやめて欲しい」と答えるに決まっている)し、記者の場合、こんな質問をした報道機関は、次回から中国高官が出席する記者会見に入れてもらえなくなるから、誰も質問しないんでしょうけどね。

 9月13日、中国共産党中央と国務院は「国有企業改革の深化に関する指導意見」を発表しました。また、9月18日、李克強総理は、「国有企業の改革と発展を深化させるための座談会」で、今後の国有企業改革について語っています。ここでいう「国有企業改革」とは、国有企業のメカニズムに活性がなく、管理がうまくいっていないとの問題意識に立ち、国有企業における現代的な企業制度と市場化経営システムを強化しようというものです。李克強総理は、上記の座談会で「いわゆる『ゾンビ企業(=死に体企業)』や長期欠損を続ける企業を急いで処理する」と強調しています。大いにもっともなことで、中国政府も、イノベーションを生まない効率の悪い国有企業を市場から退場させる必要があることはよく認識しているのだと思います。

 これらの一連の動きは、習近平主席の訪米を前にして、中国政府としても、国有企業を改革し、中国経済を活性化させようと努力している姿勢を示すためのものと思われます。

 一方、同じ頃、中国共産党中央弁公庁は、「国有企業改革の深化の中における党の指導を堅持し党の建設を強化することに関する若干の意見」を発表しています。国有企業における「市場原理に基づく企業経営」と「中国共産党による指導の堅持」とは矛盾するように思えますが、この点については、2015年9月21日付け「人民日報」2面にQ&Aの形で解説されています。それによると、例えば、「取締役会による経営者層の人員選定作業において、党の上級組織部門及び国有資産監視監督委員会は、標準を設定したり、選定方法の規範を示したり、検討に参与したり、人員を推薦したりする役割を果たす。」としています。

 これは、国有企業幹部による企業資産の私的使用や着服といった腐敗現象をなくすために党の上部組織及び国有資産監視監督委員会による国有企業の管理を強化するためのもの、ということのようですが、これでは国有企業の独自の経営判断権を奪うに等しいと言えます。そもそも、毛沢東時代には「国営企業」と称していた組織をトウ小平氏の時代に「国有企業」と言い改めたのは、国は国有企業の「所有者」ではあるが各企業の経営方針は各企業の取締役会に任せ、国は企業の経営には口を出さない、という考え方を示すためのものでした。今回の「指導意見」は、こういった1978年に始まった「トウ小平氏の改革開放路線」の根幹の部分について、時代を毛沢東時代に逆転させたものだ、と言えます。

 この点については、9月23日に放送されたBS日テレ「深層News」の「中国経済の何が危機?バブル崩壊の実態検証」の中で柯隆氏(富士通総研主席研究員)も同様の懸念を示していました。(柯隆氏は別のテレビ番組でも「最近の習近平主席は、まるで毛沢東時代に戻そうとしているように見えるが、中国人民はそれについていけるのかなぁ。」と懸念を示していました)

 上記の李克強総理による「国有企業の改革と発展を深化させるための座談会」と中国共産党中央弁公庁が発表した「国有企業改革の深化の中における党の指導を堅持し等の建設を強化することに関する若干の意見」は、ともに9月21日付けの「人民日報」1面に載っているのですが、党の「若干の意見」の記事の方が李克強総理の「座談会」の記事より上に載っています。また、李克強総理は座談会の発言の中で「国有企業改革は幅広い面に及ぶので、党の国有企業に対する指導を強化し進化させる必要があり、企業における党組織が政治的核心作用を十分発揮させるようにしなければならない」と発言しています。要するに「国有企業改革」よりも上位の概念として「中国共産党による国有企業に対する指導の強化」が位置付けられているのです。

 おそらく、中国共産党による指導を強化した上で行われる「国有企業改革」は、各国有企業の自主的な経営判断を阻害し、イノベーションを遅らせるとともに、例えば地域の雇用を守るためにリストラを行わない、といった「本当の意味での企業改革」を遅らせる効果を生むでしょう。「改革」とは言っていますが、今打ち出されている「国有企業改革」は、中国経済の活性化の観点からはおそらくは「改悪」になります。こういう方針であるならば、中国経済は、例え「ハードランディング」は避けられたとしても、長期的な低迷状態の泥沼に沈み込むことは間違いないと思います。

 そもそもトウ小平氏の「改革開放路線」は、農業における農家請負制(国が決めた「請負生産量」を確保できれば、それ以上の生産(または追加的な別の種類の農産物の生産)は各農家の責任で自由にやってよい、という制度)が出発点でした。この制度は、農民の「やる気」を爆発的に解放し、1980年代以降、生産量を大幅に増やしました。

 同じ考え方は工業分野でも行われ、最初は1980年代「工場長責任制(製品の改良や雇用、設備投資等を工場長の判断に任せ、国は口を出さない。その代わり経営の振るわない工場長は辞めさせる)」といった形で始まり、次第に(業種によりますが)経営責任者が利潤を留保して資本財を購入することも認められるようになりました(1980年代は、個人による資本の留保や資本財の所有は認められていなかったため、民間企業は最初は資本財を必要としない旅行代理店のようなサービス業から始まりました。私が駐在していた1988年当時、トラック数台程度の「資本財」の「私有」は認められ始めていたので、1988年頃、北京では民間の「引っ越し業者」が現れ始めていました)。

 「経営者独自の創意工夫で新たな製品・サービスを開発できる」というシステムは、一部の国有企業でイノベーションを進め、1980年代以降の中国経済の急速な発展の一部を支えてきました。一方で、特に朱鎔基時代(1992年~2002年)には、非効率な国有企業は破産させられました(破産手続きを規定した「中華人民共和国企業破産法(試行)」が公布されたのは1986年12月。正式施行は2007年)。

 「ゾンビ企業」を破産させて市場から退場させる必要があることは、中国政府もよくわかっていることです(上記に紹介したように李克強総理もそういう趣旨の発言をしています)。しかし、「党の指導強化の堅持に関する若干の意見」にあるように、国有企業の経営層の人選について党が関与することになると、党として経営がうまくいかなかった国有企業を破産させることができなくなるおそれがあります。党の推薦した経営者が経営に失敗し、その会社を破産させて労働者を失業させたら、結果的に党が労働者の失業を生んでしまったことになるからです。「党の関与により国有企業を破産させられなくなる」のだとしたら「破産法」を作った意味がなくなります。

 国有企業の破産がスムーズに行われなくなれば、企業の新陳代謝が滞ることになり、中国経済全体の活性が失われることになります。

 私は9月5日付けのこのブログに「軍事パレードで見えた『改革開放の中国』の終わり」と書きました。今回の「国有企業改革の深化の中における党の指導を堅持し等の建設を強化することに関する若干の意見」を見ると、単にイメージとして「改革開放が終わった」のではなく、実質的政策において1978年に始まったトウ小平氏の「改革開放政策」が終わった、と見るべきでしょう。「改革開放政策」が1980年代以降の中国の経済成長の推進力であったことを考えると、必然的に、今後の中国経済は「改革開放政策」という推進力を失って長期にわたり低迷する期間に入った、と見る必要があると思います。

 従って、例え「経済のハードクラッシュ」がなかったとしても、中国経済の低迷が今後長期にわたり世界経済の足を引っ張り続ける可能性があります。(そして、そういう低迷した経済状態が長期に続くと、中国人民の不満が鬱積し、政治的安定性に問題が生じるのではないか、という新たな懸念が生じます。今後は政治的原因によって中国が「ハードクラッシュ」を起こす可能性が高まることに警戒が必要です。これは1989年6月3日まで「民衆が政治的不満から大きな運動を起こしても、中国共産党にはそれをコントロールする能力がある」と思っていた私自身に対する自戒でもあります)

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