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2015年7月18日 (土)

中国の公共投資とそれからの社会的リターン

 上海総合指数は、当局の「強引な指数下支え対策」により、7月13日の週は下げ止まりました。多くの人は、まだ「二番底」「三番底」を見るのではないか、と懸念していますが、最も重要なのは、今回の株価暴落で露呈してしまった現在の中国経済の成長ドライバーの欠如だと思います。中国経済はいまだに「投資に頼る体質」から抜け出せておらず、その投資は借金に頼っているからです。

 この一週間、「人民日報」や中国中央電視台の夜7時のニュース「新聞聯播」では、経済関連の記事が多かったように感じました。昨日(2015年7月17日(金))の「人民日報」では、2面いっぱいを使って、「中国経済:穏やかさはどこにあるのか、よい面はどの方向にあるのか」という解説記事を載せていました。

 この経済解説記事を見ると、今年下半期、中国経済が上向くためのポイントとして「地方債の発行を進めることにより地方政府による投資が進む」ことを指摘していました。「新聞聯播」の方では、例として、地方債を発行することによって進める南昌市(江西省の省都)の地下鉄建設を紹介していました。

 しかし、私は、過去に行った地方政府の投資からのリターンが十分ではなく、地方政府の債務が累積して返却できない状態なのに、更に地方政府に地方債の発行を認めて投資をさせるのは、問題の先送りに過ぎないのであって、問題をより悪化させると思っています。

 最も重要な考えるべき点は、「中国において政府(中央政府または地方政府)が行った公共投資が借金を返せるだけの社会的リターンを生むのか」です。私が見聞きした範囲では、この点は大いに疑問です。いくつか例を挙げてみます。

○各地の巨大な工業団地プロジェクト

 中国の地方都市にいくと地元政府の人から「○○経済開発区」「××工業園」といった工業団地プロジェクトの話をよく聞きました。私は、2007年~2008年のタイミングで、天津や蘇州の開発区を見学しましたが、この時点でもまだまだ広大な土地の造成を続けていました。この後、リーマン・ショックで、これらの工業開発区にちゃんと工場が建っているのか、が気になっています。工業団地は、工場が建たなければ、造成に要した費用は回収できないからです。こうした中国各地の工業開発区は、安い補償金を支払った上で農民から接収される農地を造成して建設されるもので、地方政府の重要な財源となってきました。おそらく中国全国では、今、こういった工業開発区は、数百のオーダーで存在していると思います。

○北京の地下鉄料金

 北京の地下鉄料金は、オリンピックを翌年に控えた2007年10月、それまでの一律3元(当時のレートで約45円)から一律2元(約30円)に突如値下げになりました。「オリンピックを控えて市民の利便性を向上させるため」という目的だったようですが、これを考えると、北京の地下鉄は工事に投下された投資金額と収益との関係を全く考慮しないで料金が設定されていることがわかります(現在は、距離によって料金が異なる料金体系になっているそうです)。

 オリンピック直前に開通した北京地下鉄空港線は、2008年7月19日に開通しましたが、この空港線の料金が25元(約375円)に決まったと発表されたのは、開通前日の7月18日でした。従来の空港直通バスやタクシー料金との関係で25元に決まったようですが、これも地下鉄建設費用と料金が全く関係していないことを表しています。つまり、そもそも地下鉄は、投資に対してどのくらいのリターンがあるのかを考慮しないで建設されているわけです。

○チベット鉄道複線化

 チベット鉄道の開通は、そもそも政治的な目的であって、料金による収益で投資額がどの程度が償還されるかはおそらくは全く考慮されていないと思います。私は2009年6月に青海省に行った時に、チベット鉄道の複線化工事が行われているのを見ました。山にはトンネルを掘り、谷には巨大な橋を架け、という巨大な工事を行っていました。大がかりな工事の様子を見ると、複線化後のチベット鉄道の収益は、投下された建設のための投資資金を回収するには不十分だろうということは容易に想像がつきます。チベット鉄道は、高原部ではツンドラ(永久凍土)地帯にも敷設されているそうです。ツンドラの上に鉄道を敷設する技術に対しては、私は敬意を払いたいと思いますが、おそらくは維持費用には相当な金額を要すると思います。

 チベット鉄道には「鉄道でつなげる」ことに政治的な意味があることは理解できますが、その政治的目的は単線で繋がった時点で達成されたはずです。巨額な費用を掛けてトンネルや橋を作って複線化する工事は、単にリーマン・ショック後の景気浮揚のためにお金を使っているだけなのではないか、と私は思ってしまいました。

○タクラマカン砂漠縦断道路

 2008年6月に新疆ウィグル自治区に行った時、地元の人からタクラマカン砂漠縦断道路の話を聞きました(この時点では既に2本の縦断道路が完成していました)。タクラマカン砂漠の南縁と北縁にあるオアシス地帯を結ぶための道路ですが、オアシス地帯に住んでいる人の人口やその地域の経済規模を考えると、道路を建設しただけの経済効果が得られるとはとても思えません。そもそもはこの地区で開発されている石油掘削のための道路なのだそうですが、だとしたら「砂漠を縦断」させる必要はなかったと思います。

 更に驚きなのは、この「縦断道路」の両脇には砂漠の深い地下から汲み上げた地下水を使った「緑地帯」が設置されていることでした。植物を維持するためには、常に地下水を汲み上げなければならず、その維持費用は相当な額に上ると思われます。緑地帯を維持するのは、道路を砂漠の砂から守るためだと思いますが、費用対効果の点で十分な議論がなされたのだろうか、との疑問を私は持ってしまいました。

○寧夏回族自治区の高速道路

 2008年9月、寧夏回族自治区へ行った時、省都の銀川から南部山区まで高速道路で移動しました。立派な高速道路でしたが、走っている車はほとんどありませんでした。高速道路を降りると、1980年代とほとんど変わらないような農家がありました。農民が乗っていたのは、トラクターかせいぜいバイクで、「誰が高速道路を使うのだろうか」と思ってしまいました。「高速道路を作ることによって経済発展を促す」という目的があるのでしょうが、私には想像される周辺地区の今後の経済発展の形態と高速道路の「立派さ」のかい離が非常に印象に残りました。

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 日本でも「経済効果がよくわからない公共投資が多すぎるのではないか」との批判はよく聞きますが、中国における「公共投資とその投資から得られるリターンとのかい離」は半端ではないと私は思います。そもそもの日本(及び「普通の」民主主義国)と中国との違いは、日本では公共投資に対する様々な批判はあるけれども、中国ではそうした批判がない(許されない)ことです。中央政府と地方政府において「議会がない」「行政の責任者が選挙の洗礼を受けない」「新聞等のマスコミが政府批判をしない(できない)」という中国の特徴を考えると、納税者にものを言う権利がないわけですから、公共投資の投資とリターンとのバランスを維持するという観点で中国には致命的な欠陥がある、と言わざるを得ません。

 「中国経済は投資に頼る割合が高すぎるのが問題」とよく言われます。それも事実ですが、それ以上に中国においては「公共投資は、単にお金を使い、人を雇うためだけに実施される(投資から得られるリターンは無視されている)」ことが最も致命的な問題ではないか、と私は思っています。中国において、今後もリターンの少ない膨大な公共投資が批判されることなく続いていくとすれば、それは債務の累積という形で、中国経済自身に対する重荷になっていくと思います。

 今週の「人民日報」の経済解説記事を読んで、いまだに「借金による投資」に頼らなければ経済の維持が図れない中国経済の脆弱性を私は強く感じてしまったのでした。株価の乱高下より、こうした中国経済の脆弱性の方が世界経済にとっては脅威だと思います。

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