« 中国の公共投資とそれからの社会的リターン | トップページ | 中国に有効な「景気浮揚策」は残されているのか »

2015年7月25日 (土)

中国人民銀行の6年ぶりの金保有高公表は何を意味するのか

 中国人民銀行は、2015年7月17日、6年ぶりに金保有量について公表しました。保有高は6月末時点で1,658トンでした。これを切っ掛けとして、低めに推移していた国際市場の金価格はさらに急落しました。この件については、今日(2015年7月25日)付け日本経済新聞朝刊17面記事「人民銀、金急落の引き金 6年ぶり公表 保有高、予想の半分」で報じられています。

 この記事によると、中国人民銀行は2009年以降、金保有高を公表してこなかったが、市場関係者は、3,000トンは保有していると推定していたことから、今回の中国人民銀行の公表により金価格は急落した、とのことです。さらに、週明けの7月20日には、中国のファンドによる金の売りが出て、金価格は2分間で1トロイオンスあたり1,130ドルから1,080ドルまで急落したとのことです。

 私が北京に二度目の駐在をしていた2007年4月~2009年7月の頃は、確かに中国人民銀行のホームページには外貨準備高とともに金の保有量も掲載されていた記憶があります。2009年以降、中国人民銀行が金保有高の公開を停止し、今般、このタイミングで公表を再開したのはなぜなのか、は不明です。また、上記の今日付の日経新聞の記事によると、今回の中国人民銀行の公表数字を受けると、計算上は少なくとも1,000トン以上の金が中国国内で行方不明になっている、とのことです。このあたりの「からくり」も不明です。

 一番心配なのは、中国当局が地方政府の抱える膨大な債務を尻拭いするために、公表しないままに金を処分したりしていないか、という懸念です(金を処分(=売却)したとすれば、売られた金は必ずどこかで市場に流れるので、「行方不明」にはならないはずなので、これはあり得ない話だと思いますが)。「地方政府の債務は確かに膨大だが、中国政府には金を含む膨大な外貨準備があり、国有企業の財産もあるので、対応は十分に可能なので心配はない」という見方も多いのですが、もし仮に保有している金の「切り売り」が行われているのだとすると、「巨大な中国中央政府の財産」もだんだん減ってきているのではないかと心配になります。

 7月3日に「人民日報」ホームページの「理財」のページにアップされた広州日報の記事「株式市場が震動した後、理財商品市場に資金が環流している」によると、上海株式市場での株価の暴落の後、理財商品に資金が戻って来ている、とのことでした。株に懲りた人たちが、再び投資先として理財商品を選ぶ傾向が出てきているようです。

 中国人民銀行は、株式市場に対しても無制限に流動性を供給する、と言っていますが、あちらで株バブル、こちらで理財商品バブルが発生している状況において、両方のバブルを中国人民銀行が「下支え」してしまったら、そのうち中国人民銀行自体がバブルに押しつぶされてしまうこことはないのでしょうか。「なぁに。中国人民銀行は人民元のお札を刷っている主体だから、いざとなったらお札を刷り増しすればいいのさ。」という考え方もあるのかもしれませんが、無定見にお札を刷ったらハイパー・インフレになって、結局は中国人民が苦しむことになります。

 もしかすると、今年後半から中国が中心となって設立されるアジア・インフラ投資銀行(AIIB)が動き出しますが、その前提として、最大の資金供給国である中国の中央銀行である中国人民銀行の状況はオープンにすべきである(そうでないと他国が安心してAIIBに出資できない)との考えから、このタイミングで金の保有高の公表を再開したのかもしれません。もしそうなら、中国人民銀行は金保有高公表再開の理由をきちんと説明すべきでしょう。

 現在、「中国政府が発表する統計数字は信用できない」という考え方は、世界で一般的になりつつありますが、それに加えて、中国人民銀行が今まで停止していた金保有高の公表を突然再開した(しかも公開した保有量が市場関係者の推計と大きく異なり、結果として金価格を急落させた)今回の事態は、中国に対する世界の市場関係者の「疑心暗鬼」を更に高めたと思います。透明性を欠き、疑心暗鬼を払拭しようとしない中国当局のやり方は、世界中の人々の中国経済に対する懸念を必要以上に強め、民間企業による中国に対する投資を躊躇させ、結果的に中国経済自身にマイナスの効果を与えていると思います。

 改革開放政策を始めて既に35年以上の経験を有する中国当局は、「不利な統計数字でもきちんと公表する」「マーケットに対する説明をきちんとやる」ことの重要性はよくわかっているはずです。わかっているのに説明をきちんとやらないことにより、やはり中国経済の実態が実際は相当に悪く、地方政府の債務の処理(及び理財商品の償還不能等の金融システミック・リスクの回避)に相当苦慮しているのではないか、という「更なる疑心暗鬼」を生んでしまっていると思います。

 なお、6月29日の週、上海の株価の暴落が続く同じタイミングで、ギリシャの銀行が一時窓口を閉めましたが、「人民日報」と中国中央電視台の夜のニュース「新聞聯播」では、銀行のATMに並ぶギリシャ市民の姿の写真・映像を伝えませんでした(翌週からは伝えるようになりました)。ギリシャ債務問題は、中国とは関係ないので、中国では客観的に報道できたはずなのに、です。「人民日報」や「新聞聯播」は「党の舌と喉」なので、「何を報じるか」よりは「何を報じないか」の方が重要なケースが多々あります。「ATMに並ぶギリシャ市民の姿」の写真・映像を一時期伝えなかったのは、中国当局が中国において同じような事態(金融システミック・リスクの発生による銀行の取り付け騒ぎなど)が起きることを最もおそれていることを示しているのではないか、と私は思っています。

|

« 中国の公共投資とそれからの社会的リターン | トップページ | 中国に有効な「景気浮揚策」は残されているのか »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



« 中国の公共投資とそれからの社会的リターン | トップページ | 中国に有効な「景気浮揚策」は残されているのか »