« 2015年6月 | トップページ | 2015年8月 »

2015年7月

2015年7月25日 (土)

中国人民銀行の6年ぶりの金保有高公表は何を意味するのか

 中国人民銀行は、2015年7月17日、6年ぶりに金保有量について公表しました。保有高は6月末時点で1,658トンでした。これを切っ掛けとして、低めに推移していた国際市場の金価格はさらに急落しました。この件については、今日(2015年7月25日)付け日本経済新聞朝刊17面記事「人民銀、金急落の引き金 6年ぶり公表 保有高、予想の半分」で報じられています。

 この記事によると、中国人民銀行は2009年以降、金保有高を公表してこなかったが、市場関係者は、3,000トンは保有していると推定していたことから、今回の中国人民銀行の公表により金価格は急落した、とのことです。さらに、週明けの7月20日には、中国のファンドによる金の売りが出て、金価格は2分間で1トロイオンスあたり1,130ドルから1,080ドルまで急落したとのことです。

 私が北京に二度目の駐在をしていた2007年4月~2009年7月の頃は、確かに中国人民銀行のホームページには外貨準備高とともに金の保有量も掲載されていた記憶があります。2009年以降、中国人民銀行が金保有高の公開を停止し、今般、このタイミングで公表を再開したのはなぜなのか、は不明です。また、上記の今日付の日経新聞の記事によると、今回の中国人民銀行の公表数字を受けると、計算上は少なくとも1,000トン以上の金が中国国内で行方不明になっている、とのことです。このあたりの「からくり」も不明です。

 一番心配なのは、中国当局が地方政府の抱える膨大な債務を尻拭いするために、公表しないままに金を処分したりしていないか、という懸念です(金を処分(=売却)したとすれば、売られた金は必ずどこかで市場に流れるので、「行方不明」にはならないはずなので、これはあり得ない話だと思いますが)。「地方政府の債務は確かに膨大だが、中国政府には金を含む膨大な外貨準備があり、国有企業の財産もあるので、対応は十分に可能なので心配はない」という見方も多いのですが、もし仮に保有している金の「切り売り」が行われているのだとすると、「巨大な中国中央政府の財産」もだんだん減ってきているのではないかと心配になります。

 7月3日に「人民日報」ホームページの「理財」のページにアップされた広州日報の記事「株式市場が震動した後、理財商品市場に資金が環流している」によると、上海株式市場での株価の暴落の後、理財商品に資金が戻って来ている、とのことでした。株に懲りた人たちが、再び投資先として理財商品を選ぶ傾向が出てきているようです。

 中国人民銀行は、株式市場に対しても無制限に流動性を供給する、と言っていますが、あちらで株バブル、こちらで理財商品バブルが発生している状況において、両方のバブルを中国人民銀行が「下支え」してしまったら、そのうち中国人民銀行自体がバブルに押しつぶされてしまうこことはないのでしょうか。「なぁに。中国人民銀行は人民元のお札を刷っている主体だから、いざとなったらお札を刷り増しすればいいのさ。」という考え方もあるのかもしれませんが、無定見にお札を刷ったらハイパー・インフレになって、結局は中国人民が苦しむことになります。

 もしかすると、今年後半から中国が中心となって設立されるアジア・インフラ投資銀行(AIIB)が動き出しますが、その前提として、最大の資金供給国である中国の中央銀行である中国人民銀行の状況はオープンにすべきである(そうでないと他国が安心してAIIBに出資できない)との考えから、このタイミングで金の保有高の公表を再開したのかもしれません。もしそうなら、中国人民銀行は金保有高公表再開の理由をきちんと説明すべきでしょう。

 現在、「中国政府が発表する統計数字は信用できない」という考え方は、世界で一般的になりつつありますが、それに加えて、中国人民銀行が今まで停止していた金保有高の公表を突然再開した(しかも公開した保有量が市場関係者の推計と大きく異なり、結果として金価格を急落させた)今回の事態は、中国に対する世界の市場関係者の「疑心暗鬼」を更に高めたと思います。透明性を欠き、疑心暗鬼を払拭しようとしない中国当局のやり方は、世界中の人々の中国経済に対する懸念を必要以上に強め、民間企業による中国に対する投資を躊躇させ、結果的に中国経済自身にマイナスの効果を与えていると思います。

 改革開放政策を始めて既に35年以上の経験を有する中国当局は、「不利な統計数字でもきちんと公表する」「マーケットに対する説明をきちんとやる」ことの重要性はよくわかっているはずです。わかっているのに説明をきちんとやらないことにより、やはり中国経済の実態が実際は相当に悪く、地方政府の債務の処理(及び理財商品の償還不能等の金融システミック・リスクの回避)に相当苦慮しているのではないか、という「更なる疑心暗鬼」を生んでしまっていると思います。

 なお、6月29日の週、上海の株価の暴落が続く同じタイミングで、ギリシャの銀行が一時窓口を閉めましたが、「人民日報」と中国中央電視台の夜のニュース「新聞聯播」では、銀行のATMに並ぶギリシャ市民の姿の写真・映像を伝えませんでした(翌週からは伝えるようになりました)。ギリシャ債務問題は、中国とは関係ないので、中国では客観的に報道できたはずなのに、です。「人民日報」や「新聞聯播」は「党の舌と喉」なので、「何を報じるか」よりは「何を報じないか」の方が重要なケースが多々あります。「ATMに並ぶギリシャ市民の姿」の写真・映像を一時期伝えなかったのは、中国当局が中国において同じような事態(金融システミック・リスクの発生による銀行の取り付け騒ぎなど)が起きることを最もおそれていることを示しているのではないか、と私は思っています。

| | コメント (0)

2015年7月18日 (土)

中国の公共投資とそれからの社会的リターン

 上海総合指数は、当局の「強引な指数下支え対策」により、7月13日の週は下げ止まりました。多くの人は、まだ「二番底」「三番底」を見るのではないか、と懸念していますが、最も重要なのは、今回の株価暴落で露呈してしまった現在の中国経済の成長ドライバーの欠如だと思います。中国経済はいまだに「投資に頼る体質」から抜け出せておらず、その投資は借金に頼っているからです。

 この一週間、「人民日報」や中国中央電視台の夜7時のニュース「新聞聯播」では、経済関連の記事が多かったように感じました。昨日(2015年7月17日(金))の「人民日報」では、2面いっぱいを使って、「中国経済:穏やかさはどこにあるのか、よい面はどの方向にあるのか」という解説記事を載せていました。

 この経済解説記事を見ると、今年下半期、中国経済が上向くためのポイントとして「地方債の発行を進めることにより地方政府による投資が進む」ことを指摘していました。「新聞聯播」の方では、例として、地方債を発行することによって進める南昌市(江西省の省都)の地下鉄建設を紹介していました。

 しかし、私は、過去に行った地方政府の投資からのリターンが十分ではなく、地方政府の債務が累積して返却できない状態なのに、更に地方政府に地方債の発行を認めて投資をさせるのは、問題の先送りに過ぎないのであって、問題をより悪化させると思っています。

 最も重要な考えるべき点は、「中国において政府(中央政府または地方政府)が行った公共投資が借金を返せるだけの社会的リターンを生むのか」です。私が見聞きした範囲では、この点は大いに疑問です。いくつか例を挙げてみます。

○各地の巨大な工業団地プロジェクト

 中国の地方都市にいくと地元政府の人から「○○経済開発区」「××工業園」といった工業団地プロジェクトの話をよく聞きました。私は、2007年~2008年のタイミングで、天津や蘇州の開発区を見学しましたが、この時点でもまだまだ広大な土地の造成を続けていました。この後、リーマン・ショックで、これらの工業開発区にちゃんと工場が建っているのか、が気になっています。工業団地は、工場が建たなければ、造成に要した費用は回収できないからです。こうした中国各地の工業開発区は、安い補償金を支払った上で農民から接収される農地を造成して建設されるもので、地方政府の重要な財源となってきました。おそらく中国全国では、今、こういった工業開発区は、数百のオーダーで存在していると思います。

○北京の地下鉄料金

 北京の地下鉄料金は、オリンピックを翌年に控えた2007年10月、それまでの一律3元(当時のレートで約45円)から一律2元(約30円)に突如値下げになりました。「オリンピックを控えて市民の利便性を向上させるため」という目的だったようですが、これを考えると、北京の地下鉄は工事に投下された投資金額と収益との関係を全く考慮しないで料金が設定されていることがわかります(現在は、距離によって料金が異なる料金体系になっているそうです)。

 オリンピック直前に開通した北京地下鉄空港線は、2008年7月19日に開通しましたが、この空港線の料金が25元(約375円)に決まったと発表されたのは、開通前日の7月18日でした。従来の空港直通バスやタクシー料金との関係で25元に決まったようですが、これも地下鉄建設費用と料金が全く関係していないことを表しています。つまり、そもそも地下鉄は、投資に対してどのくらいのリターンがあるのかを考慮しないで建設されているわけです。

○チベット鉄道複線化

 チベット鉄道の開通は、そもそも政治的な目的であって、料金による収益で投資額がどの程度が償還されるかはおそらくは全く考慮されていないと思います。私は2009年6月に青海省に行った時に、チベット鉄道の複線化工事が行われているのを見ました。山にはトンネルを掘り、谷には巨大な橋を架け、という巨大な工事を行っていました。大がかりな工事の様子を見ると、複線化後のチベット鉄道の収益は、投下された建設のための投資資金を回収するには不十分だろうということは容易に想像がつきます。チベット鉄道は、高原部ではツンドラ(永久凍土)地帯にも敷設されているそうです。ツンドラの上に鉄道を敷設する技術に対しては、私は敬意を払いたいと思いますが、おそらくは維持費用には相当な金額を要すると思います。

 チベット鉄道には「鉄道でつなげる」ことに政治的な意味があることは理解できますが、その政治的目的は単線で繋がった時点で達成されたはずです。巨額な費用を掛けてトンネルや橋を作って複線化する工事は、単にリーマン・ショック後の景気浮揚のためにお金を使っているだけなのではないか、と私は思ってしまいました。

○タクラマカン砂漠縦断道路

 2008年6月に新疆ウィグル自治区に行った時、地元の人からタクラマカン砂漠縦断道路の話を聞きました(この時点では既に2本の縦断道路が完成していました)。タクラマカン砂漠の南縁と北縁にあるオアシス地帯を結ぶための道路ですが、オアシス地帯に住んでいる人の人口やその地域の経済規模を考えると、道路を建設しただけの経済効果が得られるとはとても思えません。そもそもはこの地区で開発されている石油掘削のための道路なのだそうですが、だとしたら「砂漠を縦断」させる必要はなかったと思います。

 更に驚きなのは、この「縦断道路」の両脇には砂漠の深い地下から汲み上げた地下水を使った「緑地帯」が設置されていることでした。植物を維持するためには、常に地下水を汲み上げなければならず、その維持費用は相当な額に上ると思われます。緑地帯を維持するのは、道路を砂漠の砂から守るためだと思いますが、費用対効果の点で十分な議論がなされたのだろうか、との疑問を私は持ってしまいました。

○寧夏回族自治区の高速道路

 2008年9月、寧夏回族自治区へ行った時、省都の銀川から南部山区まで高速道路で移動しました。立派な高速道路でしたが、走っている車はほとんどありませんでした。高速道路を降りると、1980年代とほとんど変わらないような農家がありました。農民が乗っていたのは、トラクターかせいぜいバイクで、「誰が高速道路を使うのだろうか」と思ってしまいました。「高速道路を作ることによって経済発展を促す」という目的があるのでしょうが、私には想像される周辺地区の今後の経済発展の形態と高速道路の「立派さ」のかい離が非常に印象に残りました。

 -----------------

 日本でも「経済効果がよくわからない公共投資が多すぎるのではないか」との批判はよく聞きますが、中国における「公共投資とその投資から得られるリターンとのかい離」は半端ではないと私は思います。そもそもの日本(及び「普通の」民主主義国)と中国との違いは、日本では公共投資に対する様々な批判はあるけれども、中国ではそうした批判がない(許されない)ことです。中央政府と地方政府において「議会がない」「行政の責任者が選挙の洗礼を受けない」「新聞等のマスコミが政府批判をしない(できない)」という中国の特徴を考えると、納税者にものを言う権利がないわけですから、公共投資の投資とリターンとのバランスを維持するという観点で中国には致命的な欠陥がある、と言わざるを得ません。

 「中国経済は投資に頼る割合が高すぎるのが問題」とよく言われます。それも事実ですが、それ以上に中国においては「公共投資は、単にお金を使い、人を雇うためだけに実施される(投資から得られるリターンは無視されている)」ことが最も致命的な問題ではないか、と私は思っています。中国において、今後もリターンの少ない膨大な公共投資が批判されることなく続いていくとすれば、それは債務の累積という形で、中国経済自身に対する重荷になっていくと思います。

 今週の「人民日報」の経済解説記事を読んで、いまだに「借金による投資」に頼らなければ経済の維持が図れない中国経済の脆弱性を私は強く感じてしまったのでした。株価の乱高下より、こうした中国経済の脆弱性の方が世界経済にとっては脅威だと思います。

| | コメント (0)

2015年7月11日 (土)

上海株暴落の次に来るのは中国経済危機か

 上海株の暴落は株式市場への直接的な影響としては世界に伝播することはないと思われますが、この中国の株価の暴落が中国の実体経済に打撃を与えるかどうかについては、世界中の人々が心配しています。

 今回の株価の急落の中国の実体経済に与える影響については、以下のとおり、楽観的な見方をする人がいます。

A:「中国株の暴落は、中国の実体経済にマイナスの効果をもたらすが、その影響は限定的である」とする見方(理由は以下のとおり)

○上海総合指数は2015年6月12日をピークに7月8日までの間に約三割急落したが、まだ年初の水準を割り込んでおらず、「急激に上がりすぎた分が下がった」のに過ぎない。従って、個人投資家の中に損失を被った人がいることは事実だが、全体としては株の含み益による資産効果の減少(いわゆる「逆資産効果」)は限定的である。

○中国の家計の資産は、まだ現金預金の割合が大きく、株の割合は、先進諸国と比べて小さい。従って、株価急落による家計の資産に対する打撃は、中国全体としてはそれほど大きくない。

○中国の株式市場の時価総額の対GDP比は、他の国に比べてまだ小さく、株価の下落が全体経済に与える影響は大きくない。

 しかし、一方で、下記Bのようにかなり深刻に捉えている人もいます。

 私も下記Bに掲げる深刻な見方をしています。というのは、今回の株価急落に対する中国当局の「あわてふためきぶり」が、中国当局自身、今回の株価急落を「中国共産党政権の存続に係わる重大な事態」だと認識していることを示しているからです。(公安当局が「違法な空売りは取り締まる」と威嚇したり、中国共産党宣伝部が「マスコミは一定の報道の仕方以外の報道をしてはならない」と通知を出したりしているのは、もはや「経済的な変動に対する経済・金融政策としての対応」を超えており、今回の事態が「通常の事態」ではないことを示しています)。

B:「中国株の暴落は、個人投資家に「逆資産効果」をもたらすほか、実体経済に対して大きな(場合によっては破滅的な)マイナス効果をもたらす」との見方(その理由は以下のとおり)。

1.今回の株価急落局面で、多くの銘柄(全体の約半分と言われる)が「取引停止」になっているが、これは株を担保として借り入れを行っている上場企業が担保価値の減損を避けるために「取引停止」を求めた結果だと思われること。このことは、多くの上場企業において、今回の株価の急落によって財務状況が相当程度毀損した可能性を示している。

 この点は、7月9日(木)に放送されたテレビ東京「ニュース・モーニング・サテライト」でSMBC日興證券の肖敏捷氏が指摘していたのですが、今回の株価急騰の場面では売買代金が異常にふくれあがっており、個人投資家の資金だけでこれだけの売買代金ができる可能性は低いので、多くの上場企業が自社株を担保として銀行等から資金を借り入れ、その資金を設備投資等に使わずに株式投資に投資して「財テク」していた可能性があります。

 このような状況下で自社株の株価が下がると、銀行から、借入資金の返済または追加担保の差し入れを要求されます。従って、多くの企業で「取引停止」を求めた、ということは、今回の株式相場の急落により、多くの企業で、財務状況が傷ついたことを示している可能性があります。財務状況が傷ついた企業は、新たな事業展開が難しくなるし、ヘタをすると倒産するおそれも出てきます。

 一方、中国銀行監督管理委員会は、7月9日、持ち株を担保にして企業に融資している銀行に対し、融資期限の延長や担保率の軽減をすることを(銀行を監督する役所として)認める、旨を発表しました。これは株を担保にして銀行から融資を受けている企業は助かりますが、銀行の財務体質を弱くすることになります。金融システム安定化のために銀行の財務体質をしっかり監督する立場にある銀行監督管理委員会がこうした通知を出すのはおかしいのですが、「株価の下落を避けたい」という政府全体としても目標の前にはやむをえない、として判断したのでしょう。

 中国銀行監督管理委員会がこのような自らの役割を放棄したかのような通知を出したことは、社会全体に危機的状態をもたらすほどに、自社株の株価下落により財務体質が痛んでしまった上場企業が数多く存在していることを示しています。

2.新たなIPO(新規株式公開)や増資の一時的な停止により、今後中国経済の成長をリードすることが期待されていた新興企業が成長のための資金を得ることが難しくなる

 今、中国経済においては、インフラ関連産業等に頼ったものから、例えば、IT関連、サービス関連産業など、時代の流れに応じた新たな企業が発展しなければ、成長は望めません。今回の株式市場の混乱により、IPOや成長企業の公募増資が一時的に停止されていますが、これは、今後の中国経済の成長の原動力となるべき新興企業の活躍の原資の供給を自ら止めてしまっていることを意味します。IPOや公募増資の停止が長引くと、中国経済全体の資金需要に息詰まりが起き、中国経済全体が窒息します。

3.国有企業の株価の民間放出による資金吸収ができなくなり(逆に自社株買い等により資金を民間に放出することによって株価を支えることにより)、国有企業の財務体質が悪化する。このことは、国有企業の株式放出によって得た資金を地方政府の債務の実質的肩代わりの原資にしようと考えていた中国政府の意図が頓挫することになり、多くの地方政府の債務がデフォルトすることになる可能性がある。これは理財商品の償還不能等を招くほか、中国国内における金融システミック・リスクを顕在化させる可能性がある。

 この点は、そもそも「中国政府は、明らかにバブルと思えるほど上昇しつつあった株価に対して、バブルがはじけるまで、なぜ熱気を冷ますような対策を講じなかったのか」という疑問とも通じます。

 これに関連して、「週刊東洋経済2015年6月27日号」の「ミスターWHOの少数異見:上海株急騰の裏の裏」と題するコラムでは、中国政府が株価の急騰を放置していたのは、高値での国有企業株の売却によって、鉄鋼等の業績悪化した企業群へのテコ入れと地方政府の債務の救済のための原資を得るためだったからである、という可能性を指摘をしています。

 私は、2012年暮れに東京で行われたあるシンクタンク主催の中国経済に対する勉強会に出たことがあります。その勉強会で私が「リーマン・ショック後の大規模な財政出動で、地方政府は膨大な債務を抱えている状態になっているが、中国の中央政府はそれを支えるだけの資金を有しているか」と質問しました。私の質問に対し、シンクタンクの方は「中国は膨大な外貨準備を抱えているほか、巨大な国有企業をいくつも抱えており、我々が想像するよりも、巨大な資産を持っている。いざとなったら国有企業の株を放出することで巨額の資金を得ることができるから心配することはない。」と答えていました。もしかすると、去年秋頃からの株価の急騰を中国政府が放置していたのは、今、既に、地方政府の債務を下支えするための原資が必要になるという「いざという時」が到来したので、株価が上がったところで国有企業の株を高値で放出したかったからかもしれません。

 今年6月10日、過去5年間で最大規模の資金調達額になると言われる中国核能電力(原子力発電を行う会社)の上海証券取引所でのIPO(新規株式公開)が行われました。上海総合指数がピークを打ったのは、この中国核能電力のIPOの二日後であったことは、何か暗示的なものがあるのかもしれません。

 もし「中国政府は、地方政府の債務の肩代わりの原資とするために高値で国有企業の株を売り抜けようと考えて、株価の急騰を黙認していた」のだとすれば、逆に、株価が急落した現状においては、「地方政府の債務を肩代わりする原資が得られない」ことになります。これは今回の株価の急落が「地方政府のデフォルト」→「理財商品の償還不能をはじめとする中国の金融システムの破綻」の入口となる可能性を示唆しています。

4.今回の株価暴落に対する当局の対応(あわてふためきぶり)は、中国当局の能力不足を露呈させ、内外の人々の中国当局に対する信頼を失墜させた。

 7月8日(水)朝の時点で「多くの銘柄が『取引停止』になっている」と報じられました。下がるであろう銘柄を「取引停止」にすることによって株価の下落を止めようとしたからだと思われますが、一部が取引停止となり、残りが取引可能な状態であれば、信用取引等で資金返却を余儀なくされている投資家は「売れる銘柄を売る」行為に出ることはあきらかであり、一部の銘柄の「取引停止」は、残りの銘柄の株価の暴落を呼ぶことは明らかです。それが明らかなのに一部の「取引停止」を認めた取引所の判断は、内外の人々に「中国の株式取引所は株取引のことをわかっていない」と思わせました。

 この日(7月8日)朝、中国証券監督管理委員会(上記の「中国銀行監督管理委員会」とは別組織)の関係者が「現在の市場はパニック状態にあり、理性的ではない売りが数多くなされている」と発言したと報じられました。株式市場を監理監督する立場の者は、市場参加者がパニック状態にならないように発言すべきなのですが、自ら「今、マーケットはパニックになっている」と発言したことに対し、CNBCアジアでは、ある視聴者が「中国の証券監視監理当局はアマチュアか?」というコメントを寄せてきたことを紹介していました。

 そもそも今回の株価の急騰については、私も5月3日の時点でこのブログに「上海株バブル崩壊のタイミングとその影響」と題して書いたように、5月初の時点では「今の株価はバブルで、いつか崩壊する」ことは「ミエミエ」でした。そういう状況に対して、中国当局が何も対策を講じず、みずみす6月中旬以降に「バブル崩壊」を現実化させてしまった時点で、中国当局の「対応ミス」は明らかでした。それに加えて、上記のような「バブル崩壊後の対応」においても「明らかにおかしい(自由経済の国の人から見るとシロウトのような)」対応が散見されました。これにより中国当局の信頼は失われ、「投資家に被害が及ばないように当局が何とかしてくれる」と思っていた多くの中国人個人投資家は株式市場から退場するかもしれません。そうなれば、当局がどのような策を講じても、株価は上昇するはずはありません。

 中国の株式市場監理監督当局への信頼が失われたことは、今後、中国経済発展のために重要な役割を果たすべき株式市場の正常な運営に支障を来すことになるでしょう。

5.政府による大々的な株式市場への介入により、株式市場の自主的価格形成機能は失われ、国有企業の企業統治(コーポレート・ガバナンス)は「毛沢東時代」に逆戻りすることになる。また、今後、外国資本は「中国は自由な市場ではない」と判断して中国市場への参入を見送ることになり、中国経済の国際化は進まなくなる。

 おそらく、長期的には、この点が中国経済に最も大きな致命的なダメージを与えると思います。「株価が下がると政府が出てきて株を買い支える」「国有企業の自主的な企業経営計画とは全く関係なく、政府の指示で自社株買いを『させられる』」といった事態は、中国の企業(国有企業も民間企業も)の自主的な経営努力に対する意欲を致命的に失わせます。そのことは、全人代の政府活動報告の中で「政府の役割と『見えざる手』の役割」として中国政府自らが役割を期待していた市場原理を否定することになります。経済活動の発展においては、各経済主体それぞれの創意工夫と企業や企業を支える人の「士気(=やる気、モラル)」が致命的な役割を果たします。今回の中国政府による株式市場への強圧的な介入は、中国の各経済主体(企業及び人)の「士気・やる気」をくじいてしまったと思います。

 また、当然のことながら、「何かあったら当局が強圧的に介入してくる」ような市場に、今後、外国資本は参入したいとは思わなくなるでしょう。

--------------------------

 今回の上海(及び深セン)の株式市場での株価の暴落とそれに対する中国当局の介入は、1978年に始まった中国の「改革開放の政治」の中で、1989年の「第二次天安門事件(六四天安門事件)」に次ぐ「危機的状況」だと私は思っています。株価急落は、単にその「始まり」に過ぎず、上記に述べたように、「自社株の株価急落により多くの上場企業が窮地に追い込まれる」「株式市場の機能喪失により、経済成長に必要な新興企業の資金調達がうまくできない」「中央政府による地方債務のマネジメントがうまくいなかくなり、一部地方政府のデフォルトやそれに起因する金融システム危機が起きる」といった一連の経済的危機が今後発生する可能性があるからです。

 テレビや新聞での論評を聞いていると、中国経済に詳しい専門家の方々も、その多くは私と同様のかなりの「危機感」を持っているように思います。

 多くの方が指摘していますが、上海株の急落と同時に、国際商品市場において、原油や銅などの非鉄金属等の価格が急落しています。商品市場の関係者が、中国での急速な経済停滞による需要低下を懸念しているからのようです。(一方、今日(2015年7月11日(土)付の日本経済新聞朝刊17面記事「中国系ファンドの影映る~銅相場と上海株の結びつき~」においては、銅市場においては、中国系ファンド自身が動いている可能性があることを指摘してます)。

 少なくとも、今回の中国株の急落は「中国人による『爆買い』が減ったらどうしよう」といったレベルの問題ではなく、中国経済に打撃的な下押し圧力をもたらし、その結果として世界経済全体に大きなマイナスの影響をもたらす可能性がある事態の始まりである、と認識すべきだと私は思っています。

 この週末、ヨーロッパやアメリカの株式市場がギリシャ債務問題(この週末に一定の進展がある可能性がある)にばかり注目して、「上海株は下げ止まったとして一定の安心感を得ている」ような動きをしているのは、あまりに楽観的過ぎると私は思っています。

| | コメント (0)

2015年7月10日 (金)

そして上海総合指数は「作られた指数」になった

 上海総合指数は、対前日比で、昨日(2015年7月9日(木))は5.8%、今日(7月10日(金))は4.5%上昇しました。多くの新聞等では「中国の『株価』下支え策が功を奏した」と表現していますが、私は正しくは「『指数』下支え策が功を奏した」と表現すべきだと思います。というのは、現在、中国の株式市場は、下記の理由により、正常なマーケット機能(自由な売買による株価形成機能)を喪失していて、上海総合指数が「株価を代表する指数」とは言えなくなっているからです。

【中国(大陸部)の株式市場が現在正常なマーケット機能を失っている理由】

○半数近い銘柄が「取引停止」になっていること。

 おそらくは自社株を担保として銀行等から資金を借りている会社が、自社株の株価が下がることによる担保価値喪失(→銀行から借入金の返還または担保の追加差し入れを要求される)を恐れて自社株の取引停止を申請しているものと思われます。ということは、「市場に出せば値が下がる株」が「取引停止」となり、市場に出せば値が上がる銘柄だけが取引可能となっているわけで、そうならば、全体の平均としては、値が上がる方向に偏り、指数が「株価を代表するもの」ではなくなっていることは明らかです。

○当局が証券会社や国有企業に対して強力な株の買い支えを指示していること。

 証券会社、国有企業や政府系投資ファンドが上海総合指数への寄与度の大きい銘柄に集中的に買いを入れることによって、当局の意図により「上海総合指数」を押し上げることが可能です。おそらく、そうした「操作」は実際に行われているものと想像されます。従って、今の上海総合指数は、そうした中国当局の「操作」の結果の数字であって、株価の状況を表しているとは言えません。

○公安当局が「違法な空売りは取り締まる」と宣言していること。

 「違法な空売り」と「適法な空売り」との境界線はあいまいです。例えば、「現在、株価が下がることは国家的な危機であるから、株価が下がることを期待して行う空売りは国家安全確保の観点から禁止すべき違法な空売りである」と公安当局が判断すれば、全ての空売りが「違法」となります。中国では、裁判所も「中国共産党の指導」の下にありますから、投資家が公安当局を「取り締まりの方が違法だ」と訴えても勝てる公算はありません。中国では、公安当局の前には「個人情報の保護」は存在しません。証券会社に口座を置いて、株の取引をしている以上、どの投資家がどの株をどのくらい売買しているかは、公安当局に「筒抜け」です。こういう状況で、あえて空売りをしようという投資家はいないと思います。

 今、公安当局による「威圧」により、心理的に空売りをしにくい状況になっているのだから、その分、株価が下がる可能性は減っていると思います。しかし、これは「正常なマーケットの姿」ではありません。

------------------

 問題は、こうして上海総合指数が「投資家が売り買いした結果として示される株価の状況を表す指数」から「中国当局が意図して調整された結果としての指数」に変化しているのに、日本をはじめ諸外国の関係者の一部に「上海株は下げ止まった」と判断して安心する空気が流れていることです。

 今後、「取引停止」となっている銘柄の取引が再開されたら、また下げの圧力が掛かるでしょう。

 なお、空売りをすると公安当局につかまる可能性がある状況下では空売りが減るので、今後は、株価の下落圧力は減るかもしれません。しかし、「空売りすると公安当局につかまるかもしれない」というような株式市場に外国人投資家が入ってくるでしょうか。今回の件により「中国共産党政権が続く限り中国の株式市場の完全な国際化への道は永遠に閉ざされた」と考える人が増えたのではないかと思います。

(参考)

 北京オリンピックの直前、北京市環境保護局は、北京の大気汚染が基準を下回る日数の目標を達成するため、大気汚染の基準を超えそうになる日には、環境測定地点の周辺の工場に操業停止の指示をしたそうです(北京市環境保護局副局長が記者会見で、そう説明しています)。

※下記のこのブログの過去記事参照
「2008年上半期の北京の大気汚染指数」(このブログの2008年7月11日付け記事)
http://ivanwil.cocolog-nifty.com/ivan/2008/07/2008_d352.html

 中国当局側の感覚では、こうしたことはウソの数字を発表しているのではないので、「数字を操作しているわけではない」ということになります。

| | コメント (0)

2015年7月 4日 (土)

上海株暴落2008年とは違う中国当局の狼狽ぶり

 中国の上海株式市場の上海総合指数は、2015年7月3日(金)の終値で3,686.915ポイントと対前週末終値比12.1%安、三週間前の6月12日(金)の終値と比べると28.6%安でした。三週連続の急落でした。

 上海総合指数は、過去にも、2007年10月にピーク6,124ポイントを付けた後に値を下げ、2008年3月には3,400ポイント、2008年8月18日終値は2,319.868ポイントまで下げたことがありました。その後、2008年9月のリーマン・ショックにより、上海の株価は更に下がりました。下げ幅は大きなものでしたが、1年近い時間を掛けた下げであり、当時私は北京に駐在していましたが「バブルがはじけた」という明確な印象はありませんでした。

 しかし、今回(2015年6月~7月)の下げは、3週間で約三割下げるという急激なのもで、グラフを見ると、明らかな「バブル崩壊」と言えるものです。今回の株価の急激な下げに対する中国当局の対応も2008年とは全く異なるものです。

 そもそも中国の国有企業の株式は、例えば、3分の1は国有、3分の1は政府系投資ファンドが所有し、残りの3分の1を市場で公開する、といった形で株式市場に上場されます。政府や政府系投資ファンドが個別の国有企業の株をどの程度売ったり買ったりしているのかは、オープンにはされません。

 そうした状況もあり、少なくとも2007年に私が北京に駐在していて上海総合指数が急激な上昇をしていた頃は、「中国の投資家はみんな『株価は当局が何とかする』と思っている。なので、株価が下がれば、個人投資家の不満は直に中国政府に向かうことになるから、株価が急落したら、政府または政府系投資ファンドは必ず株を買い支えるはずだ。」と多くの人が思っていました。

 しかし、2007年10月に株価がピークを打った後、株価が急落した場面で、政府または政府系投資ファンドが株を買い支えた、という明確な兆候はありませんでした。金融を緩和する方針が示されることもありませんでした。私は「これは中国当局は、2008年8月の北京オリンピックの後に経済のバブル的膨張が急激にしぼむことを警戒して、株や不動産などに見られる『プチバブル』的状況は意図的にはじけさせるつもりなのだ」と感じました。逆に、株価の下落に対して悠然と構える中国当局に対して、私は、一定の見識と自信を持って冷静に政策を運営しているのだ、という一種の信頼感を持ったことを覚えています。

 中国では「政府に対する不満」は新聞には載らないしネット上に書くのには勇気がいるのですが、2008年春頃になると、株価が下がれば株価の買い支えや金融緩和策が出ることを期待していた中国人投資家から相当の不満が出たようです。ネット等では「政府は株価対策を採らないのか」と言った不満もかなり見られるようになりました。しかし、中国当局は、株価買い支えや金融緩和策は打ち出しませんでした。

 そのうち、2008年夏頃になると「中国人民銀行の周小川総裁が更迭されるらしい」というウワサが流れました。実際は、周小川総裁が更迭されることはありませんでしたが、おそらくは株で利益を得ていた既得権益グループが株安に対して有効な手段を採らない中国金融当局の中心人物としての周小川総裁を追い落とそう、という権力闘争的な動きがあって、それが「ウワサ」として流れ出たのではないか、と当時私は思っていました。

 それに対して、今回の株価の急落に対しては、中国当局は矢継ぎ早に、かなり露骨な株安阻止策を打ち出しています。先週、6月27日(土)に中国人民銀行が打ち出した追加的な利下げと一部銀行に対する預金準備率引き下げは、公式には「マクロ経済全体に対するもの」ということでしょうが、タイミング的には明らかに「株安を阻止する」という意図があったものと思われます。

 その他にも以下のような措置がなされています。

○6月29日(月)夜:中国政府(人力資源社会保障部と財政部)は、中国の年金基金を運用している「基本養老保険基金」が30%まで株式投資をすることを認める規制改革案を発表

○7月1日(水)取引終了後:上海と深センの証券取引所は、8月1日から株の取引手数料を30%引き下げると発表

○7月1日(水)夜:中国証券監督管理委員会は株の信用取引規定の一部緩和を発表

○7月3日(金):中国証券監督管理委員会の報道官は、新規株式公開(IPO)の数と増資による市場からの資本調達を減らすと発表

○7月4日(土):中国の大手証券会社21社がETF(株式指数連動型上場投資信託)に1,200億元(約2兆4,000億円)を投入することを発表

 上記のうち、中国証券監督管理委員会の報道官がIPOの数と市場からの資金調達を減らすと発表したことに関し、今日(2015年7月4日)付け人民日報3面では、次のように報じています。

「最近、ある市場関係者は、しばらくIPOを停止して市場を救う(中国語で「救市」)べきだ、と提案していた。これに関し、中国証券管理監督委員会報道官は3日、IPOや企業による資金募集は資本市場の基本的機能であるが、最近の市場状況を考慮して、資金を募集する企業の数と資金額を減少させ、7月上旬のIPOは10社に調整し、集める資金も6月に比べて減少させる、と述べた。」

「報道官は、中国証券監督管理委員会は一貫して、養老資金や保険資金等が各種の内外の長期資本市場に入ることを支持している、国内の長期資金を導入することに関しては、最近、人力資源社会保障部と財政部が『基本養老保険基金の投資管理弁法』を起草し、パブリックコメントを求めている、この草案では、基本養老保険基金が株式などに基金の30%を上限として投資することが述べられている、と説明した。」

 私の感覚では、証券監督管理委員会というのは株式市場の「審判員・監督官」であって厳に中立であるべきだと思うのですが、上記の「人民日報」の報道では、証券監督管理委員会自身が、IPOの数の制限や資金調達の制限、最近政府が決めた基本養老保険基金による株式への投資比率について、株式市場を救済する(中国語で「救市」)ためにやる、と明言しているように見えます。中国共産党機関紙である「人民日報」が堂々と恥も外聞もなくそういう報じ方をしているところを見ると、上記の一連の施策は「株価対策」であることは明らかでしょう。

(中国当局としては、むしろ「株価下支え対策として一連の施策を打っているのだ」と中国人投資家に受け止めてもらった方が「株価は当局が何とかする」と思っている中国人投資家の不満をやわらげられる、と考えているのかもしれません)。

 私の感覚からすると、ネット等で「株価対策をなんとかしろ!」と声が上がったのにあえて何もしないで「株バブル」がはじけるのをあえて放置した2008年に比べて、今回の中国当局の対応ぶりは明らかに違います。この矢継ぎ早の施策の打ち出しと「人民日報」による「これは株価対策です!」とわざと訴えるような記事は、株価急落に対する中国当局の「狼狽ぶり」を表していると思います。

 なお、今日(2015年7月4日)付けの「人民日報」の3面には「デマで市場を乱そうとする者は、重い対価を支払うことになる」と題する記事も載っています。この記事では、中国証券監視監督委員会の報道官が3日、ニセ情報等に関する16件の案件について調査中であり、うち6件については、違法の事実があるので、関係機関及び個人を公安当局に通報して調査中である、と紹介していると伝えています。この記事によれば、木曜日の前にある証券会社の持ち株比率に関する情報を流した上で、木曜日と金曜日に手持ちの株を全部売って大金を違法に得た「不法分子」がいた、のだそうです。

 もちろん私は「不法分子」が本当にいたのかどうか知るよしもありませんが、この三週間、上海の株価は、実際、木曜日と金曜日に特に暴落しています。これらの「不法分子」が検挙され、中国の投資家が「なるほどね。ここ三週間、木曜日と金曜日に株価が暴落したのは、これら『不法分子』がいたからなのか」と納得すれば、来週からは、木曜日と金曜日の株価の暴落はなくなるのでしょう。

 ただ、私の過去の経験からすれば、1989年の「六四天安門事件」をはじめ、各地で民衆争乱が起きると「人民日報」は「不法分子がデマを用いて事情を知らない民衆を扇動した」というフレーズを使うことが多かった、と記憶しています。なので、人民日報が「不法分子のせいで・・・」という言葉を使う時は、「中国共産党は事態をコントロールできていない」ことを意味している、と私は感じてしまいます。従って、私は、今回の上海の株価の暴落に対して人民日報が「不法分子」を持ち出したことは「当局としては株安を止める手段は全て出し尽くした」「当局は事態をコントロールできていない」ことを意味するのではないか、と思ってしまうのです。

 実際、極めて多人数が参加するマーケットの乱高下を、当局による制度的介入や政府または政府系投資ファンドによる「買い支え介入」によって収拾することは極めて難しいと思います(下手をすると、政府または政府系投資ファンドが巨額の損失を被ってしまう可能性もある)。

 今回の上海の株価の暴落が「ハード・ランディング」なのか「ソフト・ランディング」なのかはまだわかりません。というのは、まだ「落下途中」で地面(底)に到達していないからです。ハード・ランディングして、中国に経済的・社会的混乱が起きては日本としても困るので、相当に難しいアクロバット的対応が必要だとは思いますが、中国当局には、なんとか今の事態をソフト・ランディングさせて欲しいと思います。

 特に明日(2015年7月5日(日))に行われるギリシャの緊縮策の是非を問う国民投票の結果によっては、世界経済が混乱する可能性もありますので、このタイミングでの中国経済のハード・ランディングは是非とも避けてもらいたいと思います。

| | コメント (0)

« 2015年6月 | トップページ | 2015年8月 »