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2015年7月 4日 (土)

上海株暴落2008年とは違う中国当局の狼狽ぶり

 中国の上海株式市場の上海総合指数は、2015年7月3日(金)の終値で3,686.915ポイントと対前週末終値比12.1%安、三週間前の6月12日(金)の終値と比べると28.6%安でした。三週連続の急落でした。

 上海総合指数は、過去にも、2007年10月にピーク6,124ポイントを付けた後に値を下げ、2008年3月には3,400ポイント、2008年8月18日終値は2,319.868ポイントまで下げたことがありました。その後、2008年9月のリーマン・ショックにより、上海の株価は更に下がりました。下げ幅は大きなものでしたが、1年近い時間を掛けた下げであり、当時私は北京に駐在していましたが「バブルがはじけた」という明確な印象はありませんでした。

 しかし、今回(2015年6月~7月)の下げは、3週間で約三割下げるという急激なのもで、グラフを見ると、明らかな「バブル崩壊」と言えるものです。今回の株価の急激な下げに対する中国当局の対応も2008年とは全く異なるものです。

 そもそも中国の国有企業の株式は、例えば、3分の1は国有、3分の1は政府系投資ファンドが所有し、残りの3分の1を市場で公開する、といった形で株式市場に上場されます。政府や政府系投資ファンドが個別の国有企業の株をどの程度売ったり買ったりしているのかは、オープンにはされません。

 そうした状況もあり、少なくとも2007年に私が北京に駐在していて上海総合指数が急激な上昇をしていた頃は、「中国の投資家はみんな『株価は当局が何とかする』と思っている。なので、株価が下がれば、個人投資家の不満は直に中国政府に向かうことになるから、株価が急落したら、政府または政府系投資ファンドは必ず株を買い支えるはずだ。」と多くの人が思っていました。

 しかし、2007年10月に株価がピークを打った後、株価が急落した場面で、政府または政府系投資ファンドが株を買い支えた、という明確な兆候はありませんでした。金融を緩和する方針が示されることもありませんでした。私は「これは中国当局は、2008年8月の北京オリンピックの後に経済のバブル的膨張が急激にしぼむことを警戒して、株や不動産などに見られる『プチバブル』的状況は意図的にはじけさせるつもりなのだ」と感じました。逆に、株価の下落に対して悠然と構える中国当局に対して、私は、一定の見識と自信を持って冷静に政策を運営しているのだ、という一種の信頼感を持ったことを覚えています。

 中国では「政府に対する不満」は新聞には載らないしネット上に書くのには勇気がいるのですが、2008年春頃になると、株価が下がれば株価の買い支えや金融緩和策が出ることを期待していた中国人投資家から相当の不満が出たようです。ネット等では「政府は株価対策を採らないのか」と言った不満もかなり見られるようになりました。しかし、中国当局は、株価買い支えや金融緩和策は打ち出しませんでした。

 そのうち、2008年夏頃になると「中国人民銀行の周小川総裁が更迭されるらしい」というウワサが流れました。実際は、周小川総裁が更迭されることはありませんでしたが、おそらくは株で利益を得ていた既得権益グループが株安に対して有効な手段を採らない中国金融当局の中心人物としての周小川総裁を追い落とそう、という権力闘争的な動きがあって、それが「ウワサ」として流れ出たのではないか、と当時私は思っていました。

 それに対して、今回の株価の急落に対しては、中国当局は矢継ぎ早に、かなり露骨な株安阻止策を打ち出しています。先週、6月27日(土)に中国人民銀行が打ち出した追加的な利下げと一部銀行に対する預金準備率引き下げは、公式には「マクロ経済全体に対するもの」ということでしょうが、タイミング的には明らかに「株安を阻止する」という意図があったものと思われます。

 その他にも以下のような措置がなされています。

○6月29日(月)夜:中国政府(人力資源社会保障部と財政部)は、中国の年金基金を運用している「基本養老保険基金」が30%まで株式投資をすることを認める規制改革案を発表

○7月1日(水)取引終了後:上海と深センの証券取引所は、8月1日から株の取引手数料を30%引き下げると発表

○7月1日(水)夜:中国証券監督管理委員会は株の信用取引規定の一部緩和を発表

○7月3日(金):中国証券監督管理委員会の報道官は、新規株式公開(IPO)の数と増資による市場からの資本調達を減らすと発表

○7月4日(土):中国の大手証券会社21社がETF(株式指数連動型上場投資信託)に1,200億元(約2兆4,000億円)を投入することを発表

 上記のうち、中国証券監督管理委員会の報道官がIPOの数と市場からの資金調達を減らすと発表したことに関し、今日(2015年7月4日)付け人民日報3面では、次のように報じています。

「最近、ある市場関係者は、しばらくIPOを停止して市場を救う(中国語で「救市」)べきだ、と提案していた。これに関し、中国証券管理監督委員会報道官は3日、IPOや企業による資金募集は資本市場の基本的機能であるが、最近の市場状況を考慮して、資金を募集する企業の数と資金額を減少させ、7月上旬のIPOは10社に調整し、集める資金も6月に比べて減少させる、と述べた。」

「報道官は、中国証券監督管理委員会は一貫して、養老資金や保険資金等が各種の内外の長期資本市場に入ることを支持している、国内の長期資金を導入することに関しては、最近、人力資源社会保障部と財政部が『基本養老保険基金の投資管理弁法』を起草し、パブリックコメントを求めている、この草案では、基本養老保険基金が株式などに基金の30%を上限として投資することが述べられている、と説明した。」

 私の感覚では、証券監督管理委員会というのは株式市場の「審判員・監督官」であって厳に中立であるべきだと思うのですが、上記の「人民日報」の報道では、証券監督管理委員会自身が、IPOの数の制限や資金調達の制限、最近政府が決めた基本養老保険基金による株式への投資比率について、株式市場を救済する(中国語で「救市」)ためにやる、と明言しているように見えます。中国共産党機関紙である「人民日報」が堂々と恥も外聞もなくそういう報じ方をしているところを見ると、上記の一連の施策は「株価対策」であることは明らかでしょう。

(中国当局としては、むしろ「株価下支え対策として一連の施策を打っているのだ」と中国人投資家に受け止めてもらった方が「株価は当局が何とかする」と思っている中国人投資家の不満をやわらげられる、と考えているのかもしれません)。

 私の感覚からすると、ネット等で「株価対策をなんとかしろ!」と声が上がったのにあえて何もしないで「株バブル」がはじけるのをあえて放置した2008年に比べて、今回の中国当局の対応ぶりは明らかに違います。この矢継ぎ早の施策の打ち出しと「人民日報」による「これは株価対策です!」とわざと訴えるような記事は、株価急落に対する中国当局の「狼狽ぶり」を表していると思います。

 なお、今日(2015年7月4日)付けの「人民日報」の3面には「デマで市場を乱そうとする者は、重い対価を支払うことになる」と題する記事も載っています。この記事では、中国証券監視監督委員会の報道官が3日、ニセ情報等に関する16件の案件について調査中であり、うち6件については、違法の事実があるので、関係機関及び個人を公安当局に通報して調査中である、と紹介していると伝えています。この記事によれば、木曜日の前にある証券会社の持ち株比率に関する情報を流した上で、木曜日と金曜日に手持ちの株を全部売って大金を違法に得た「不法分子」がいた、のだそうです。

 もちろん私は「不法分子」が本当にいたのかどうか知るよしもありませんが、この三週間、上海の株価は、実際、木曜日と金曜日に特に暴落しています。これらの「不法分子」が検挙され、中国の投資家が「なるほどね。ここ三週間、木曜日と金曜日に株価が暴落したのは、これら『不法分子』がいたからなのか」と納得すれば、来週からは、木曜日と金曜日の株価の暴落はなくなるのでしょう。

 ただ、私の過去の経験からすれば、1989年の「六四天安門事件」をはじめ、各地で民衆争乱が起きると「人民日報」は「不法分子がデマを用いて事情を知らない民衆を扇動した」というフレーズを使うことが多かった、と記憶しています。なので、人民日報が「不法分子のせいで・・・」という言葉を使う時は、「中国共産党は事態をコントロールできていない」ことを意味している、と私は感じてしまいます。従って、私は、今回の上海の株価の暴落に対して人民日報が「不法分子」を持ち出したことは「当局としては株安を止める手段は全て出し尽くした」「当局は事態をコントロールできていない」ことを意味するのではないか、と思ってしまうのです。

 実際、極めて多人数が参加するマーケットの乱高下を、当局による制度的介入や政府または政府系投資ファンドによる「買い支え介入」によって収拾することは極めて難しいと思います(下手をすると、政府または政府系投資ファンドが巨額の損失を被ってしまう可能性もある)。

 今回の上海の株価の暴落が「ハード・ランディング」なのか「ソフト・ランディング」なのかはまだわかりません。というのは、まだ「落下途中」で地面(底)に到達していないからです。ハード・ランディングして、中国に経済的・社会的混乱が起きては日本としても困るので、相当に難しいアクロバット的対応が必要だとは思いますが、中国当局には、なんとか今の事態をソフト・ランディングさせて欲しいと思います。

 特に明日(2015年7月5日(日))に行われるギリシャの緊縮策の是非を問う国民投票の結果によっては、世界経済が混乱する可能性もありますので、このタイミングでの中国経済のハード・ランディングは是非とも避けてもらいたいと思います。

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