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2015年5月31日 (日)

「人民日報」に見る中国経済の問題点に対する認識

 上海株式市場の上海総合指数は、2015年5月26日(木)、対前日比で6.5%暴落しました。世界中の人が「今、上海の株はバブルだ」と思っているので、「すわっ、バブル崩壊が来たか!」と思った人もいると思います。一方で「あ、やっぱり暴落したのね。」と「予想通り」と思った人もいたでしょう。翌5月27日(金)は小幅安で終わりましたが、日中は大きく乱高下していましたので、上海市場に参加している中国の投資家自身、相当「疑心暗鬼状態」になっているのかもしれません。週明け以降、また持ち直す可能性もありますが、先週がピークだった可能性もあると思います。

(下記に述べるように、中国共産党中央は、構造改革を模索しており、おそらくは株価の過熱は望んでいません。それに対して、中国の個人投資家がどう動くのかが、が当面のカギでしょう。問題は「中国共産党中央」と「中国共産党内の多くの中堅幹部」は考えていることが別である、ということです。党の中堅幹部の中では「中国の将来」より「自分がどうやって儲けるか」を考えている人が多いでしょうから。)

 世界の多くの人が上海の株の状況を気にしていると思いますが、おそらくは一番心配しているのは中国当局(=中国共産党中央)自身でしょう。

 先週月曜日(2015年5月25日)付けの「人民日報」は多くの紙面を割いて、中国経済の現状について分析していました。この日の「人民日報」の論調は、中国当局自身が現在の中国経済の困難さをかなり深刻に受けて止めていることを表していると思います。

 この日(5月25日)付けの「人民日報」1面トップ記事の見出しは「正視困難 保持定力 前景光明」でした。「正視困難」の文字を見て、私は一瞬「『人民日報』も中国経済を正視するのが困難なほどひどいと思っているのか!」と思ってしまいましたが、これはもちろん、漢字を知っている日本人がよくやる「勘違い」です。「正視困難 保持定力 前景光明」は、「困難を正しく見つめ、一定の力を保持していけば、今後には光明が見える」と訳すべきものです。

 この日の一連の記事では、中国当局の中国経済に対する見方を垣間見ることができます。

 2面に掲載された経済情勢に関する専門家に対するインタビュー記事「中国経済に関する5つの問い」を見ると、中国当局自身が中国経済の現状を決して楽観視しているわけではないことを表すものとして、以下のようは表現が出てきます。

「当面の経済リスクは総体的にはコントロール可能だが、高レバレッジとバブル化を主要な特徴とする各種のリスクが、高度の警鐘を呼び起こしている。今年の経済発展目標を実現するためには、穏やかな成長とリスク・コントロールをバランスさせ、システミック・リスクと地域性リスクを発生させてはならないという基本線を断固として守らなければならない。」

「至極当たり前のこととして、借りた借金は返さなければならない。我が国の広義の貸し付け残高のGDP比は176%であり、2008年に比べて63ポイント上昇している。構成比で見ると、我が国の債務の増加スピードが最も速いのは非金融に分類される企業で、その債務残高はGPDの125%を占めるが、これは世界的に最高水準にある。高レベレッジ企業が属するのは、主に生産能力が過剰な業種、不動産業及び一部の国有企業である。高度に注意を要するのは、これらの業種と地方政府の債務の増加状況である。業種によって経済の勢いが様々に異なるという全体的状況の下、もし一部の地域において連続的な経済の下落が起きると、就業問題に大きな影響をもたらすことになる可能性がある。」

 さらに17面には「第一四半期の経済成長率が7%にまで下落したことが、中国経済の状況に対して心配を引き起こしている~速度のゆるみは形勢がよくないことを表しているのか~」(特別報道:新しい視点から状況を見る)と題する解説記事が載っています。

 この解説記事のポイントは以下のとおりです。

○鉄鋼が「白菜のような価格で」売られている、石炭価格は低い谷に入ったまま、セメントや電解アルミニウムは「需要が減れば減るほど多く生産しようとする」状況であり、伝統的産業の生産能力過剰問題は、いまだに根本的な解決に至っていない。第一四半期、鉱石採掘、電力等の伝統業種の成長スピードの下落は明らかである。これと同時に新興産業は非常に成長スピードを強めているが、総量としてみれば、伝統産業を完全に代替するまでには至っておらず、代替されるまでにはまだ更なる月日が必要である。

○経済が高い速度で成長していた時期には、経済運行の中に潜むリスクは覆い隠されていた。成長スピードが低下した今、いくつかのリスクと矛盾が表に出てくる可能性が十分にある。経済発展期には、マンション等の資産価格の下落、金融や地方債務におけるリスクは表に出てこなかったので、これらをあらかじめうまく管理してリスクを防ぐことが必要である。

○我が国の人が日本で「便器のふた」を買いあさっている時、中国は低廉な価格で世界の5分の1の工業製品を製造している。我が国の人が国外で粉ミルクを大量に買い占めている時、中国の乳業は痛みを受けている・・・品質向上の補習、イノベーションの補習は、中国経済が受けなければならない「必修授業」である。

 基本的に、中国当局の経済政策の担当者は、中国経済の「弱点」をよくわかっているのだと思います。

 さらにこの日の「人民日報」では18面で「激しい太陽の光だけが、厳寒から抜け出すことを可能にする」(各人各論)と題する評論が掲載されていました。この評論では、石炭価格低迷の中で生産能力過剰に悩む石炭産業に関して論じています。ポイントは以下のとおりです。

○現在の市況においては、石炭企業では1トンの石炭を生産するごとに数十元から百元の赤字が出る。赤字が出るのになぜ生産を続けるのか? 資金のチェーンを保持しなければならないからである。資金のチェーンが切れなければ、企業は何とか生き続けることができ、従業員に生活費を支払うことができる。もし、資金のチェーンが切れそうになったら、まず地方政府がこれを阻止するだろう。企業が閉鎖されたら、負債はどうするのか?失業問題は誰が解決するのか?

○生産能力過剰問題に対して、政府は何をなすべきか、何ができるのか。試算によれば、現在、国有石炭企業の人的コストは40%から70%だという。このように高い人的コストについては、企業による機械化、自動化、情報化の推進だけが問題を解決できる。このため、政府は、社会において果たしている役割から企業を解き放ち、人員整理のシステムを作り上げ、職を失った労働者の生活と再就職の問題を解決しなければならない。

 「生産能力過剰な石炭産業をどうするのか」「職を失う炭鉱労働者の就業問題はどうするのか」という問題は、過去、イギリスや日本が経験した重い課題です。日本では、かつて炭鉱で栄えた夕張市が今でも財政問題で苦しんでいますし、1980年代のサッチャー政権による石炭産業のリストラが現在のスコットランド独立問題の背景の重要な要因である、とも言われています。各国とも、政府、労働者、企業の長年にわたる対立、協議、妥協で解決を図ってきたわけですが、完全に解決できたという状況ではありません。民主主義制度のない今の中国で、こういう「苦しい社会構造の変革の問題」について、うまく解決を図ることができるのでしょうか。

 上記の論説の中で「経済の高度成長期には表面化してこなかったリスクや矛盾が低成長下では表に出てくる可能性がある」と述べていますが、そういった「リスクや矛盾」の中には、そもそも民主主義がなく、経済活動を含めた全ての活動において「中国共産党の指導」が組み込まれていることに起因する中国独自の「リスクや矛盾」も多く含まれています。上記で紹介した「人民日報」の論説は、現在の中国経済の問題点を正直に分析していますが、その解決策として「民主主義の導入」「中国共産党による指導の廃止」を解決策のひとつとして検討のまな板の上に乗せられるかどうか、がその中国経済の問題点を解決できるかどうかの真のカギになるでしょう。その意味で、今、中国は「中国共産党による支配体制」自体に係わる重要な転換点に来ている、と言えるでしょう。

 折しも、2015年5月29日(金)、中国共産党中央政治局は「中国共産党党組工作条例(試行)」について審議し、条例文の公開を決定しました。この条例改革が何を目指そうとしているのか、現時点ではまだ判断できませんが、国有企業など経済組織の中に組み込まれている中国共産党組織のあり方を改革するものである可能性があります。そうであれば、この条例改革は、中国が国是とする全ての分野における「中国共産党の指導」を改革するものであり、中国における国有企業の企業統治(コーポレート・ガバナンス)に致命的な影響を与えるものとなる可能性があります。これまで国有企業は立地地域の就業対策という政治的役割を果たしてきましたが、上記の石炭産業に関する評論にあるように、国有企業をその政治的役割から解放させ、失業対策のような政策の責任は地方政府に担わせる、という方向で改革が行われる可能性があるからです。

 ただし、この問題の背景には「地方政府の幹部は地元住民(国有企業の従業員でもある)の選挙で選ばれたわけではない」という中国における民主主義制度の欠如が存在しています。多くの国では、民主主義制度に基づいて、政府、企業、地元住民(=労働者)が長く苦しい議論を通じて解決策を模索してきました。習近平総書記が「国有企業と地方政府の機能分離」を目指しているのだとしたら、問題解決のため、結局は民主主義制度を導入するかどうか、といった根本問題にぶちあたります。

 世の中的には、上海株の上下に一喜一憂する日々が続くのでしょうが、「自由競争下にある国際経済体制に組み込まれた中国において、民主主義体制を排した『中国共産党による指導に基づく体制』と自由闊達な経済活動をどう調和させていくのか」といった中長期的な(おそらくは十年単位で動く)大問題に基づく地殻変動が起きつつある現状も見失わないようにしなければならないと思います。

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