« 香港雨傘革命対処と衆院解散総選挙判断は共鳴するか | トップページ | 対華21か条要求受諾100周年より対独戦勝利70周年 »

2015年5月 3日 (日)

上海株バブル崩壊のタイミングとその影響

 上海株式市場の上海総合指数は、メーデー休暇前の2015年4月30日(木)の終値ベースで4,441.655ポイントと2008年初以来の高い水準にあります。最近の中国の経済指標が軒並み減速している中で、もはや「上海の株はバブルか?」といった質問は愚問でしょう。誰が見ても明らかにバブルだからです。昨年11月に始まった香港と上海の株式市場の相互取引(いわゆる「直通車」)により新たな買い需要が起きたからだ、との見方もできますが、「株価は経済情勢を映す鏡である」という見方からすれば、今年に入ってからの上海株の上昇ぶりは、明らかに異常です。

 ただ、この「上海株バブル」が「いつはじけるか」を予測するのは相当に難しいと思われます。というのは、今は「バブルじゃないのか?」という「懐疑の中」で株価が上昇している段階であり、まだ「幸福感の中で消えていく」という段階に至っていないからです。なので、「上海株はまだ上がる」と思っている人も多いと思います。ひとつの節目は、前回の「上海株バブル」のピークだった2007年10月の6,124ポイントで、今回もこれを超える水準までは上昇するだろう、とする見方もあります。

 前回の上海株バブル(2007年10月16日場中高値6,124ポイント→2008年8月18日終値で2,319.868ポイントを付け、その後リーマン・ショックで更に下げた)の時、私は北京に駐在していましたが、今(2015年春)の上海総合指数の上昇ぶりは2007年春の上昇ぶりとそっくりであると感じています。

 私は2007年4月末に北京駐在を始めましたが、その直後の2007年5月第一週にあった関係機関北京事務所長の会合で「上海株バブルはいつはじけるか」で議論になっことをよく覚えています。多くの参加者は「北京オリンピック(2008年8月)までは上昇が続く。その後は崩れるかもしれない。」「いや、上海万博(2010年)までは上昇が続く。その後は調整するかもしれない。」との意見でした。私は「北京オリンピックの前に崩壊する」と主張したのですが、同調者はいませんでした。事実は、2007年の10月がピークだったので、私の説は当たったのですが、2007年10月の後の上海株の動向は半年以上掛けて「ずるずる下げた」という感じだったので、「バブルがはじけた」という印象はあまりなく、株価の下落が経済全体に悪影響を与えた、という印象もありませんでした。

 ただ、この時期(2007年~2008年前半)、賃金の上昇等により、中国は従来の労働集約型の産業構造を変換せざるを得ない状況となったのは事実でした。

(参考URL)科学技術振興機構中国総合研究センター
北京便り(JST北京事務所快報)File No.08-007
「2008年上半期の中国経済とイノベーション」
http://www.spc.jst.go.jp/experiences/beijing/b080723.html

※この文章の筆者はこのブログの筆者と同一人物

 そうしているうちに、四川大地震(2008年5月)が起きたり、北京オリンピック終了直後(パラリンピック開催中)の2008年9月にアメリカ発のリーマン・ショックにより世界経済が混乱したりしたので、「2007年10月の上海株のピークがバブルだったかどうか」といった議論は吹き飛んでしまいました。中国は、リーマン・ショック対応の大型景気刺激策を打たざるを得なくなり、「労働集約型産業からイノベーション型産業構造へ」の構造転換は「おあずけ」となり、従来型の「鉄鋼、セメント等のインフラ型(=国有企業型)産業」で雇用を支えざるを得なくなりました。現在の習近平政権も、リーマン・ショック対応の景気刺激策で肥大化した「インフラ型産業」を十分に削減することができず、アジアインフラ投資銀行によって、中国国外のインフラ投資を増やして、中国国内の余剰なインフラ型産業の製品販売先を確保せざるなくを得なくなったのが現状である、と言えるでしょう。

 中国が今アジアインフラ投資銀行や「一帯一路」(陸と海のシルクロード構想)路線を強調しているということは、中国が2008年頃考えていた「労働集約型からイノベーション型」への産業構造変換をあきらめ、従来型のインフラ型産業構造に頼らざるを得ない状況になっている(そうでないと膨大な就業需要を吸収できない)ことを意味しています。従って、2007年と今(2015年)とでは、「上海株バブル」と巡る背景情勢は全く違っていることに注目すべきです。

 2007年の前例と同様になるだろうとの推測から今回(2015年)の上海株の上昇も「6,000ポイントを超えるまで続く」「10月頃まで続く」と考えてはいけないのかもしれません。具体的に、2007年と今(2015年)とで、異なる経済状況について、以下に列挙してみます。

○2007年は、北京オリンピックや上海万博を控えて、中国経済は高い経済成長率を続けており、物価も上昇していたが、2015年には中国経済の減速は明らかである(2007年のGDP成長率(年間)は+14.7%、消費者物価上昇率2008年2月で対前年同月比+8.7%、2014年のGDP成長率(年間)は+7.4%、消費者物価上昇率2015年3月で対前年同月比+1.4%)。

○2007年~2008年前半は、中国当局は、バブルを警戒し、金融政策は引き締め気味だった。それに対し、2014年後半~2015年4月、中国人民銀行は2回の利下げ、2回の預金準備率引き下げを行い、「大型の景気刺激策は採らない」としているものの、方向としては明らかに金融緩和の方向に舵を切っている。

○2007年は、株価の上昇と不動産市場の上昇が同時に起きていた(不動産市場も2007年末頃から頭打ち傾向となり、株価と不動産市場はほぼ同時に調整局面に入った)のに対し、2015年年初~は、不動産市場が低迷する中で株価が上昇している。(不動産市場が不調であるため、それまで理財商品等を通じて不動産に流れていた資金が株に流れることで株価の上昇に繋がっている、との見方もある)。

○2007年は北京オリンピックや上海万博を前にして外国からの投機資金(いわゆるホット・マネー)が流入するとともに、輸出増により外貨準備も急速に積み上がりつつあったのに対し、2015年は、外国から中国への投資資金は引き揚げられつつあり、資金流出超となった。輸出の不振も相まって2015年には外貨準備は減少傾向にある。中国が持っているアメリカ国債も減少傾向にあり、2015年2月には中国が保有するアメリカ国債の額は日本に抜かれて2位となった。

 もうひとつ、2008年の教訓として言えるのは、中国経済は外的要因によって想定外の動きを余儀なくされる可能性がある、ということです。具体的に言うと、「2008年のアメリカ発のリーマン・ショックによって、中国が望んでいた産業構造改革ができなくなった」のと同じように、「2015年のアメリカの利上げによる国際的投資資金のアメリカへの引き揚げによって、中国が想定していた以上のスピードで、中国に入っていた外資(ホット・マネー)の引き上げが加速し、中国が望んでいた経済のソフトランディングができなくなる」可能性があることです。

 今、世界経済は相互にリンクしており、「どちらが原因で、どちらが結果か」がわからない状況になっています。2014年半ば以降の急速な原油安の動きも、シェールオイルや中東情勢など供給側の問題ではなく、経済が急減速した中国経済による需要の急減が主な原因かもしれません。2014年の中国のGDP成長率はプラス7.4%ですが、中国政府が発表するマクロ経済データは信用できない、実際は中国経済はもっとシビアに減速しているかもしれない、という見る人も多いと思います。

 こうした状況における上海株の急騰に対しては、多くの人が警戒心を持っています。今日(2015年5月3日)付けの日本経済新聞では、中国の状況に警戒する以下の3つの記事が掲載されていました。

○5面記事「中国上場企業に減速感 前期5.8%増益止まり 非鉄金属や資源関連低迷 投資ブーム、株価は過熱」

○5面記事「『部分上場』透明性欠く 優良資産だけ切り離し 国有大手企業で活発に」

○3面記事「けいざい解読:中国、行き詰まる『土地財政』 金融緩和に地方救済色」

 特に3面の記事は、最近の中国の金融緩和が「土地財政」に頼った地方の負債を「地方債の発行」という形で「尻拭い」する側面があることを指摘しています。「理財商品」や「影の銀行」の問題で従来から懸念されていた土地開発を巡る地方政府の不良債権について、地方債券の発行を許可し、国内の金融機関にその地方債を購入させることによって、実質的に相次ぐ金融緩和が「借金に苦しむ地方政府の救済」になるのではないか、とこの記事では懸念しています。今までは「中国には豊富な外貨準備があるから大丈夫」と言われてきましたが、外貨準備が減少傾向に入り、中国が持っているアメリカ国債の額も減ってきている、という現状を見せつけられると、「いよいよ『土地を巡る地方政府の不良債権』という時限爆弾の導火線に火が付いたのではないか」とする見方も出てきて当然だと思います。

 先週(2015年4月27日(月)から始まる週)、世界では、ドイツ国債やアメリカ国債が売られ(金利は上昇し)、ユーロが急激に反発しました。一般には、5月7日のイギリス総選挙やギリシャ債務問題を話し合う5月11日のユーロ圏財務相会談の行方が不透明なこと、4月29日に発表されたアメリカの1~3月期のGDP成長率が年率ベースで+0.2%と予想を大きく下回る弱さだったことから、各国の投資家が5月相場の不透明感に備えて今までのポジションを巻き戻して、どちらに転んでも対応できるように対処したからだ、と言われています。しかし、もしかすると、5月のメーデー連休明けに想定される膨大な資金需要に備えて中国人民銀行がドイツ国債やアメリカ国債を売ったからこれらの国債の金利が上がったのかもしれません。あるいはそうなることを見込んだ投機筋が先回りしてドイツやアメリカの国債を売った、という見方も可能かもしれません。

 中国経済を巡る情勢は、中国経済自体の状況や腐敗撲滅運動に見られる習近平主席による政治的動きのほかに、「アメリカの利上げ」「イギリス総選挙の行方(イギリスのEUからの脱退がどの程度真剣に議論されるのか)」「ギリシャ情勢(ギリシャ国債はデフォルトするのか、ギリシャのEUからの脱退はありうるのか)」といった中国とは関係のない外的要因に大きく左右される可能性があります。上記に掲げた今日付の日本経済新聞の記事は「連休明けの中国経済(上海株)の動向に注意せよ」という注意喚起だと思います。

 中国経済については「いつも警戒モードだ」「バブルがはじける、はじける、と言われ続けているが、いつまでたってもはじけない」とよく言われますが、バブルは「一瞬にしてはじける」というより、「じりじり下がって行って、あとから振り返ればあれはバブルだった」と思えることが多いので、警戒心は常に持っている必要があると思います。

 上に掲げた2007年と現在との経済的背景の違いを考慮すれば、上海株がピークを打って下げ局面に入ったときの中国経済全体への影響は、2007年~2008年当時に比べれば格段に大きく深刻なものになることが予想されることには留意すべきです。2007年~2008年当時は、経済全体が成長し、外国からの資金流入も大きかったことから、上海株の下げは他の部門で吸収されたのですが、現在は、ほとんど全ての経済分野が低迷しており、もし上海株がピークを打って下落局面に入った場合、その負の影響を吸収できる分野が中国経済にはないからです。逆に上海株の下げが他の経済分野の問題点(例えば地方政府の不良債権問題)の深刻化を加速させ、加速度的に中国経済にマイナスの影響が広がる可能性があります。今、中国には、北京オリンピックのような「みんなが期待する将来の楽しみイベント」がありませんので、経済が「下げ」局面に入った場合、多くの人が「中国から我先に逃げる」という選択をする可能性があることは念頭に置いておく必要があると思います。

|

« 香港雨傘革命対処と衆院解散総選挙判断は共鳴するか | トップページ | 対華21か条要求受諾100周年より対独戦勝利70周年 »

コメント

バブル弾けたら中国の投資家は路頭に迷いますね。外国の投資家は売り払ってるみたいです。最後の花火になりそうですな

投稿: マニス | 2015年5月21日 (木) 02時39分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



« 香港雨傘革命対処と衆院解散総選挙判断は共鳴するか | トップページ | 対華21か条要求受諾100周年より対独戦勝利70周年 »