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2015年5月

2015年5月31日 (日)

「人民日報」に見る中国経済の問題点に対する認識

 上海株式市場の上海総合指数は、2015年5月26日(木)、対前日比で6.5%暴落しました。世界中の人が「今、上海の株はバブルだ」と思っているので、「すわっ、バブル崩壊が来たか!」と思った人もいると思います。一方で「あ、やっぱり暴落したのね。」と「予想通り」と思った人もいたでしょう。翌5月27日(金)は小幅安で終わりましたが、日中は大きく乱高下していましたので、上海市場に参加している中国の投資家自身、相当「疑心暗鬼状態」になっているのかもしれません。週明け以降、また持ち直す可能性もありますが、先週がピークだった可能性もあると思います。

(下記に述べるように、中国共産党中央は、構造改革を模索しており、おそらくは株価の過熱は望んでいません。それに対して、中国の個人投資家がどう動くのかが、が当面のカギでしょう。問題は「中国共産党中央」と「中国共産党内の多くの中堅幹部」は考えていることが別である、ということです。党の中堅幹部の中では「中国の将来」より「自分がどうやって儲けるか」を考えている人が多いでしょうから。)

 世界の多くの人が上海の株の状況を気にしていると思いますが、おそらくは一番心配しているのは中国当局(=中国共産党中央)自身でしょう。

 先週月曜日(2015年5月25日)付けの「人民日報」は多くの紙面を割いて、中国経済の現状について分析していました。この日の「人民日報」の論調は、中国当局自身が現在の中国経済の困難さをかなり深刻に受けて止めていることを表していると思います。

 この日(5月25日)付けの「人民日報」1面トップ記事の見出しは「正視困難 保持定力 前景光明」でした。「正視困難」の文字を見て、私は一瞬「『人民日報』も中国経済を正視するのが困難なほどひどいと思っているのか!」と思ってしまいましたが、これはもちろん、漢字を知っている日本人がよくやる「勘違い」です。「正視困難 保持定力 前景光明」は、「困難を正しく見つめ、一定の力を保持していけば、今後には光明が見える」と訳すべきものです。

 この日の一連の記事では、中国当局の中国経済に対する見方を垣間見ることができます。

 2面に掲載された経済情勢に関する専門家に対するインタビュー記事「中国経済に関する5つの問い」を見ると、中国当局自身が中国経済の現状を決して楽観視しているわけではないことを表すものとして、以下のようは表現が出てきます。

「当面の経済リスクは総体的にはコントロール可能だが、高レバレッジとバブル化を主要な特徴とする各種のリスクが、高度の警鐘を呼び起こしている。今年の経済発展目標を実現するためには、穏やかな成長とリスク・コントロールをバランスさせ、システミック・リスクと地域性リスクを発生させてはならないという基本線を断固として守らなければならない。」

「至極当たり前のこととして、借りた借金は返さなければならない。我が国の広義の貸し付け残高のGDP比は176%であり、2008年に比べて63ポイント上昇している。構成比で見ると、我が国の債務の増加スピードが最も速いのは非金融に分類される企業で、その債務残高はGPDの125%を占めるが、これは世界的に最高水準にある。高レベレッジ企業が属するのは、主に生産能力が過剰な業種、不動産業及び一部の国有企業である。高度に注意を要するのは、これらの業種と地方政府の債務の増加状況である。業種によって経済の勢いが様々に異なるという全体的状況の下、もし一部の地域において連続的な経済の下落が起きると、就業問題に大きな影響をもたらすことになる可能性がある。」

 さらに17面には「第一四半期の経済成長率が7%にまで下落したことが、中国経済の状況に対して心配を引き起こしている~速度のゆるみは形勢がよくないことを表しているのか~」(特別報道:新しい視点から状況を見る)と題する解説記事が載っています。

 この解説記事のポイントは以下のとおりです。

○鉄鋼が「白菜のような価格で」売られている、石炭価格は低い谷に入ったまま、セメントや電解アルミニウムは「需要が減れば減るほど多く生産しようとする」状況であり、伝統的産業の生産能力過剰問題は、いまだに根本的な解決に至っていない。第一四半期、鉱石採掘、電力等の伝統業種の成長スピードの下落は明らかである。これと同時に新興産業は非常に成長スピードを強めているが、総量としてみれば、伝統産業を完全に代替するまでには至っておらず、代替されるまでにはまだ更なる月日が必要である。

○経済が高い速度で成長していた時期には、経済運行の中に潜むリスクは覆い隠されていた。成長スピードが低下した今、いくつかのリスクと矛盾が表に出てくる可能性が十分にある。経済発展期には、マンション等の資産価格の下落、金融や地方債務におけるリスクは表に出てこなかったので、これらをあらかじめうまく管理してリスクを防ぐことが必要である。

○我が国の人が日本で「便器のふた」を買いあさっている時、中国は低廉な価格で世界の5分の1の工業製品を製造している。我が国の人が国外で粉ミルクを大量に買い占めている時、中国の乳業は痛みを受けている・・・品質向上の補習、イノベーションの補習は、中国経済が受けなければならない「必修授業」である。

 基本的に、中国当局の経済政策の担当者は、中国経済の「弱点」をよくわかっているのだと思います。

 さらにこの日の「人民日報」では18面で「激しい太陽の光だけが、厳寒から抜け出すことを可能にする」(各人各論)と題する評論が掲載されていました。この評論では、石炭価格低迷の中で生産能力過剰に悩む石炭産業に関して論じています。ポイントは以下のとおりです。

○現在の市況においては、石炭企業では1トンの石炭を生産するごとに数十元から百元の赤字が出る。赤字が出るのになぜ生産を続けるのか? 資金のチェーンを保持しなければならないからである。資金のチェーンが切れなければ、企業は何とか生き続けることができ、従業員に生活費を支払うことができる。もし、資金のチェーンが切れそうになったら、まず地方政府がこれを阻止するだろう。企業が閉鎖されたら、負債はどうするのか?失業問題は誰が解決するのか?

○生産能力過剰問題に対して、政府は何をなすべきか、何ができるのか。試算によれば、現在、国有石炭企業の人的コストは40%から70%だという。このように高い人的コストについては、企業による機械化、自動化、情報化の推進だけが問題を解決できる。このため、政府は、社会において果たしている役割から企業を解き放ち、人員整理のシステムを作り上げ、職を失った労働者の生活と再就職の問題を解決しなければならない。

 「生産能力過剰な石炭産業をどうするのか」「職を失う炭鉱労働者の就業問題はどうするのか」という問題は、過去、イギリスや日本が経験した重い課題です。日本では、かつて炭鉱で栄えた夕張市が今でも財政問題で苦しんでいますし、1980年代のサッチャー政権による石炭産業のリストラが現在のスコットランド独立問題の背景の重要な要因である、とも言われています。各国とも、政府、労働者、企業の長年にわたる対立、協議、妥協で解決を図ってきたわけですが、完全に解決できたという状況ではありません。民主主義制度のない今の中国で、こういう「苦しい社会構造の変革の問題」について、うまく解決を図ることができるのでしょうか。

 上記の論説の中で「経済の高度成長期には表面化してこなかったリスクや矛盾が低成長下では表に出てくる可能性がある」と述べていますが、そういった「リスクや矛盾」の中には、そもそも民主主義がなく、経済活動を含めた全ての活動において「中国共産党の指導」が組み込まれていることに起因する中国独自の「リスクや矛盾」も多く含まれています。上記で紹介した「人民日報」の論説は、現在の中国経済の問題点を正直に分析していますが、その解決策として「民主主義の導入」「中国共産党による指導の廃止」を解決策のひとつとして検討のまな板の上に乗せられるかどうか、がその中国経済の問題点を解決できるかどうかの真のカギになるでしょう。その意味で、今、中国は「中国共産党による支配体制」自体に係わる重要な転換点に来ている、と言えるでしょう。

 折しも、2015年5月29日(金)、中国共産党中央政治局は「中国共産党党組工作条例(試行)」について審議し、条例文の公開を決定しました。この条例改革が何を目指そうとしているのか、現時点ではまだ判断できませんが、国有企業など経済組織の中に組み込まれている中国共産党組織のあり方を改革するものである可能性があります。そうであれば、この条例改革は、中国が国是とする全ての分野における「中国共産党の指導」を改革するものであり、中国における国有企業の企業統治(コーポレート・ガバナンス)に致命的な影響を与えるものとなる可能性があります。これまで国有企業は立地地域の就業対策という政治的役割を果たしてきましたが、上記の石炭産業に関する評論にあるように、国有企業をその政治的役割から解放させ、失業対策のような政策の責任は地方政府に担わせる、という方向で改革が行われる可能性があるからです。

 ただし、この問題の背景には「地方政府の幹部は地元住民(国有企業の従業員でもある)の選挙で選ばれたわけではない」という中国における民主主義制度の欠如が存在しています。多くの国では、民主主義制度に基づいて、政府、企業、地元住民(=労働者)が長く苦しい議論を通じて解決策を模索してきました。習近平総書記が「国有企業と地方政府の機能分離」を目指しているのだとしたら、問題解決のため、結局は民主主義制度を導入するかどうか、といった根本問題にぶちあたります。

 世の中的には、上海株の上下に一喜一憂する日々が続くのでしょうが、「自由競争下にある国際経済体制に組み込まれた中国において、民主主義体制を排した『中国共産党による指導に基づく体制』と自由闊達な経済活動をどう調和させていくのか」といった中長期的な(おそらくは十年単位で動く)大問題に基づく地殻変動が起きつつある現状も見失わないようにしなければならないと思います。

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2015年5月23日 (土)

日本国内企業は今「中国経済バブル」の上で楽しんでいないか

 私は、中国株は4月末頃をピークにして調整に入ると思ったのですが、上海総合指数は昨日(2015年5月22日(金))には4,657.596と更に年初来高値を更新しました。「バブルだと思っていても、みんなで上げてしまう」という「止められないバブル状況」になっているようです。

 2007年の上海株バブルの時もそうなのですが、中国の投資家には、バブルだとわかった上で「自分はバブルをチャンスにして儲けられる。自分は絶対ババを引かない。」と思って取引しているタフな人が多いようです。

 それに反して、日本の投資家、企業家は、中国関連のビジネスに関しては、以前から、よく言えば「慎重」、悪く言えば「リスクを取らない」と言われてきました。

 私は1980年代、中国との貿易通商関係の仕事をしたり、1986年10月~1988年9月に北京に駐在したりしていましたが、「日中経済交流拡大期」だった1980年代ですら、「日本企業は中国市場の外にある左足に重心を置いたまま、右足の親指だけ中国市場に入れて湯加減を見ている」などと揶揄(やゆ)されていました。

 中国はビジネスに関してはしたたかですから、改革開放が始まったばかりの1980年代当時ですら、「これからは日中友好の時代です!」と顔ではニコニコしながら、「合弁期間は20年間で終了」「製品は全量輸出、部品の半分以上は中国国内産品を使うこと」など様々な厳しい条件を付けて日本企業と交渉してきました。なので、日本企業の中には合弁契約を断念することもあったのですが、欧米企業には将来の中国市場の有望さを見込んで、中国側が示す「無理難題の条件」を飲み込んで合弁契約するケースも多くありました。

 その結果、例えば、1980年代には北京市内では輸入された日本車を多く見かけたのに、2000年代には中国国内生産のドイツ系ブランド(フォルクスワーゲンやアウディなど)の車が目立つようになった、といった状況になりました。

 2007年4月から私が二度目の北京駐在をやっていた時期にも、中国側から「日本企業は中国ではバレーボールをやっているだけだ。欧米企業は、中国でサッカーをやっており、中国ゴールまで果敢に攻め込んでくるが、日本企業はネットの向こうの自陣からスパイクを打つだけで、中国の陣地に入ってこようとしない。」とよく批判されました。

 「チャイナ・リスクを強く意識し、中国を重要なビジネス展開の場とはするが、中国に頼り切ることはしない」という日本企業の慎重な姿勢は、結果的によかったのか悪かったのかわかりませんが、一つの「見識」ではあるのでしょう。

 ただ、上記の「中国に対して慎重な姿勢」を続けている日本企業は「中国国内を生産拠点にしている製造業」「中国国内に製品を販売する製造業」「中国国内で事業を展開するサービス業」に関するものです。「中国人による『爆買い』などインバウンド需要を当て込む日本国内の小売り業・サービス業」「中華圏(大陸及び香港、台湾系を含む)からの投資を見込む日本国内の不動産業」については、日本企業はあまり「チャイナ・リスク」を意識していないように見えます。

 「中国からのインバウンド需要の急増」や「中華経済圏からの日本国内不動産への投資」は、2012年末のアベノミクス開始以降の急速な円安や中国人観光客に対するビザ発給制限の緩和などの結果であり、2014年、2015年の対前年比の急増が今後もずっと続くとは思えません(2015年4月の訪日外国人客数は対前年同月比43%増。うち中国人については対前年同月比2倍に急増)。

 一方で、もし今後「中国経済バブル」が崩壊するとすると、中国を資金源とするインバウンド需要や日本国内への不動産投資は急激に冷え込むリスクを含んでいると言えます。

 よく「理財商品等の『影の銀行』や中国株に大量に投資しているのは中国国内の投資家であり、『中国経済バブル』がはじけても、日本など外国に与える影響は限定的」と言われます。たぶんそれは間違いではなく、「中国経済バブルの崩壊」がアメリカ発のリーマン・ショックのように直接的に日本経済に影響を与えることはないと私も思います。しかし、日本の特定の産業(あるいは特定の地域経済)が中国からのインバウンド需要や中華圏経済からの不動産投資に支えられているのだとすると、「中国経済バブルの崩壊」はインバウンド需要の急減や日本国内への不動産投資の急減(または投資の引き上げ)という形で、大きなマイナスのインパクトを日本経済に与える可能性があります。

 また、私が気にしているのは、最近、オーストラリアやロンドンを中心とするイギリス、ニューヨーク等のアメリカの大都市圏で不動産価格が上がっていることです。リーマン・ショック後、先進各国の国民の所得の向上はようやく始まったばかりですので、これら各国の不動産価格の上昇は、ぞれぞれの国民の投資意欲が向上したから、というよりは、中国からの資金の流入が背景にある可能性があると思われるからです。中国国内の不動産市況が停滞していることが、リターンを求める中国の国内資金を海外の不動産に向かわせているのかもしれません。

 従って、「中国経済バブルの崩壊」は、外国に対してはリーマ・ショックのような直接的なマイナスの影響を与えないにしても、不動産投資の急減(または投資の引き上げ)によって世界各国に波及していく可能性は小さくない、と思っています。

 1980年代末の日本のバブルを知っている人は、「財テク」に走った日本の企業がニューヨークの不動産や海外の美術品を買いあさったことを覚えていると思います。当時は「爆買い」という言葉はありませんでしたが、今考えれば、日本のバブル期、日本発の「爆買い」が世界で起きていたと言えます。

 今、日本国内で中国人の「爆買い」の恩恵を受けている人は多いと思いますが、中国人の「爆買い」や中華圏からの日本国内の不動産への投資は「中国経済バブル」の結果である可能性があることには注意しておく必要があると思います。

 中国に工場を建てたり、中国で製品を売ったりしている企業は、「チャイナ・リスク」をいやおうなしに認識させられ、慎重になりがちですが、インバウンド需要や中華圏からの不動産投資の恩恵を受けている日本国内の業界(地域)の中には「チャイナ・リスク」を認識していないところが多いのではないかと心配です。中国経済が巨大化し、日本経済が中国経済の影響を大きく受けるようになった現在、日本にいる全ての人が「チャイナ・リスク」について注意を払う必要があると思います。

 そもそも経済状況について「バブル」という言葉を最初に使ったのは、ガリバー旅行記を書いたスウィフトだと言われています。「バブル」という言葉の古さは、人類が18世紀以降、何回も「バブル」を経験していながら、懲りずに繰り返し「バブル」を経験してきたことを示しています。直近の例でも、2008年、原油価格が1バーレル140ドルを超え、多くの人が「これはバブル的だ」と感じましたが、結果的にリーマン・ショックというバブル崩壊を防ぐことはできませんでした。今、中国の経済の状況や株価も、多くの人が「バブル的だ」と思っているのですが、崩壊を防ぐことはたぶんできないのでしょう。だとしたら、各企業や各個人が来たるべき「中国株バブル崩壊・中国経済バブル崩壊」に備えて、少しでも被害が少なくなるように対策を講じておくしかないのだろうと思います。

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2015年5月16日 (土)

「人民日報」が「中国経済の新しい明るい点」を指摘する意味

 今日(2015年5月16日)付の「人民日報」は、1面トップと6面で「中国経済の真の価値は更に向上している(中国経済の「新亮点」(新しい明るい点))」と題する評論を載せています。

 6面の記事では「この4月の社会電力消費量は前年同月比0.9%の伸びだが、そのうち第二次産業用は0.8%マイナス、第三次産業用は7.9%プラスだった。また、この4月は、鉄道輸送量のうち、貨物輸送量は対前年同月比9.2%マイナスだったが、旅客輸送量は8.3%のプラスだった。」との事実を指摘した上で、これは中国経済が鉄鋼業などの第二次産業から第三次産業に比重が移ってきているという産業構造の変化を表している、と評価しています。

 こういった産業構造の変化を「新亮点(新しい明るい点)」と表現することは間違いではないと思います。しかし、この記事で紹介しているこの4月の鉄道貨物輸送量が対前年同月比マイナス9.2%、昨年(2014年)の石炭消費量が対前年マイナス2.9%、昨年の石炭生産量が2000年以降初めて低下、今年(2015年)第一四半期の全国石炭販売量が対前年同期比マイナス4.7%、という数字は、「中国経済の構造変化を表している」というより、素直に「中国経済全体が減速していることを表している」と受けとめるべきなのではないでしょうか。

 先週日曜日(2015年5月10日)、中国人民銀行は貸出基準金利と預金基準金利の引き下げを発表しました。昨年11月から半年間で5回目の金融緩和策(3回の利下げ、2回の預金準備率引き下げ)であったことから、この追加再利下げは、中国の国内外に「中国当局も中国経済の減速に対する危機感を強めている」との印象を与えました。人民日報が1面トップで「中国経済の真の価値は更に向上している」と題する記事を掲げるのも、中国人民に対して「中国経済は、指標上は減速しているが、方向としてはよい方向に向かっている」と訴えたいからでしょう。

 一方、今日の「人民日報」では、前日行われた国務院の記者説明会で中国人民銀行副行長が「ローンの資産証券化の市場の潜在力は巨大である」と解説したことが紹介されています。中国人民銀行副行長は、個人向け住宅ローン等のローンの資産証券化の発展は、今後進めるべき方向のひとつである、としています。「再証券化をさせないことを原則とする」「リスクきちんと防ぐ」といった注意すべき事項もきちんと説明していますが、どうしても「ローンの資産証券化」と聞くと、アメリカのサブ・プライム・ローンの証券化を連想してしまいます。それなのになぜ中国人民銀行の副行長がこのタイミングであえてこういった発言をしたのか、を考えると、まるで、中国人民に「最近、リスクを気にする人が増えて理財商品の売れ行きが落ちているけど、理財商品のような金融商品は今後も発展するので、安心してもっと買ってね」と勧めているように思えてしまいます。

 最近の中国の株価の急上昇は、「中国経済全体の減速」→「不動産事業等に対する投資を基にした理財商品のリスク上昇」→「個人マネーが理財商品から株式市場への移動している」が背景にあるとの見方があります。

 中国当局も株式市場の過熱を気にしているようです。今日の「人民日報」の記事は「中国経済の指標上の減速は構造変化の表れであってよいことだ」「当局はローンの資産証券化の拡大を望んでいる」と表明することによって、理財商品を離れて株式市場に集まる個人マネーにブレーキを掛けようとしているのかもしれません。

 先日の日本経済新聞の記事で、中国では「株で勝ちたいなら『人民日報』を読め」との合い言葉が流行っていると紹介されていました。その意味では、今日の「人民日報」の記事は「当局はこれ以上の株高は望んでいない」と読めます。中国の投資家の方々はこのメッセージをどう受け取るのでしょうか。中国国内の資金の流れがどうなるのか、まだ先の読めない状況が続きそうです。

 それにしても「人民日報」が「ローンの資産証券化の市場の潜在力は巨大である」といった記事を掲げることに対しては、どうしても「危ういなぁ」という印象を持ってしまいます。

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2015年5月10日 (日)

対華21か条要求受諾100周年より対独戦勝利70周年

 昨日(2015年5月9日)は、日本の大隈重信内閣が打ち出した対華21か条要求を中華民国(当時は袁世凱が政権を握っていた)が受諾して100周年に当たるとともに、ナチスドイツが降伏して70周年に当たる日としてロシアが対独戦勝利記念日としている日でした。

 今日(2015年5月10日)付けの人民日報は、1面で習近平主席がモスクワで行われたロシアの対独戦勝利70周年記念式典に参加したことを大きく報道しています。私は、今年は中国は抗日戦争勝利70周年を大々的に宣伝するだろうと思っていたのですが、その意味で、日本の対華21か条要求100年を大きく扱っていないのは意外でした。

 この5月、人民日報を見ていてもうひとつ意外だったのは、5月4日の「五四青年節」の扱いが非常に小さかったことです。「五四青年節」は、1919年、日本による山東半島の占拠を認めることなどを含んだヴェルサイユ講話条約に反対することを切っ掛けに始まった広範な中国の民衆運動です。この運動は、1919年5月4日、北京大学学生などの若者が中心になって始めた運動で、5月4日は新中国成立後「青年節」となりました(北京市内にはこの運動を記念して「五四大街」と命名された通りがある)。五四運動のうねりの先に中国共産党の発足があるので、5月4日の「青年節」は中国共産党政権にとっては、非常に重要な日です。いつもは、例えば胡錦濤主席が北京大学を訪問して学生と対話する、など「五四青年節」を盛り上げる行事があるのですが、それが今年は目立ちませんでした。

 背景のひとつは、習近平政権としては今年(2015年)「抗日戦争70周年」を盛り上げたい気持ちはある一方、これはあくまで「反ファシスト」であって、露骨に「反日」を標榜することは避けたい、という気持ちがあるのかもしれません。急減速する中国経済にあって、経済的な日本との連携強化は、今の中国にとって必要不可欠だからです。最近、中国共産党幹部が訪中する日本の政治家との会談を行っているのも、こういう現在の中国政府の考え方を示しているのかもしれません。

 もうひとつうがった見方としてあるのは、対華21か条要求を受諾した1915年の暮れ、袁世凱は自ら皇帝になって「中華帝国」を設立することを宣言したのですが、今の習近平政権はまるで「北京を首都とする帝国を作る」かのような動き方をしているので、袁世凱の「中華帝国」を思い出させるようなことはしたくない、と考えているのではないか、という点です。袁世凱の皇帝宣言は、中国内外からの強烈な反発を受けて「中華帝国」の樹立は結局実現しなかったので、袁世凱の「中華帝国」の轍は踏みたくない、というわけです(袁世凱は翌1916年に病没)。

 一方、袁世凱は儒教を「中華帝国」の国教と位置付けましたが、最近の中国は、世界各国に「孔子学院」を作るなど、儒教精神を精神的柱の一つとして位置付けています。

 中国国内経済の減速の解決策として、「一帯一路」と名付ける陸と海のシルクロード構想を打ち出しているのも、意地悪い見方をすれば「国内の憂いを対外進出で解決する」という帝国主義的発想だ、との見方も可能です。

 そもそも習近平政権のモットーである「中華民族の偉大な復興」は、漢帝国や大清帝国時代のように「世界の中心に中国がある」という中華思想的世界像をイメージしているように見えます。

 封建時代の精神的柱である儒教を復活させ、経済力で近隣国に進出し、孫文から毛沢東に続く歴代革命家が打倒した大清帝国の復活を願うような思想は、私は革命政党である中国共産党の思想とは全く反対の極にあると思っています。

 打倒帝国主義を旗印とした五四運動や対華21か条を受託した袁世凱政権についてほとんど「スルー」してしまった今の習近平政権は、それだけ見ると自ら「帝国」を目指しているように思えてしまいます。習近平政権が「プーチン帝国」とも揶揄されるロシアと接近していることもそれを印象付けます。

 私は、文化大革命後、苦悶の中で毛沢東の施策の一部を批判し、自己変革を試みた1980年代の中国共産党を知っているだけに、中国共産党政権の「帝国指向化」には大きな懸念を抱いています。文化大革命の反省の上に立ち自己批判して自己変革を試みた1980年代の中国共産党は中国人民の大きな支持を得ていましたが、「帝国指向する中国共産党」では中国人民の支持を失ってしまうでしょう(もう既に失いつつある、とも言えますが)。

 私は、中国共産党がソ連共産党と異なるところは、中国共産党は人民の支持を失ったら自己の存立基盤が失われることをよく知っていることだと思っています。中国共産党が原点に立ち返って、単に「腐敗反対運動」といった対処療法的な方策だけでなく、中国人民の支持を獲得できる政策(例えば、地方末端における行政幹部に関する選挙の実施など)を採ることを期待したいと思います。

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2015年5月 3日 (日)

上海株バブル崩壊のタイミングとその影響

 上海株式市場の上海総合指数は、メーデー休暇前の2015年4月30日(木)の終値ベースで4,441.655ポイントと2008年初以来の高い水準にあります。最近の中国の経済指標が軒並み減速している中で、もはや「上海の株はバブルか?」といった質問は愚問でしょう。誰が見ても明らかにバブルだからです。昨年11月に始まった香港と上海の株式市場の相互取引(いわゆる「直通車」)により新たな買い需要が起きたからだ、との見方もできますが、「株価は経済情勢を映す鏡である」という見方からすれば、今年に入ってからの上海株の上昇ぶりは、明らかに異常です。

 ただ、この「上海株バブル」が「いつはじけるか」を予測するのは相当に難しいと思われます。というのは、今は「バブルじゃないのか?」という「懐疑の中」で株価が上昇している段階であり、まだ「幸福感の中で消えていく」という段階に至っていないからです。なので、「上海株はまだ上がる」と思っている人も多いと思います。ひとつの節目は、前回の「上海株バブル」のピークだった2007年10月の6,124ポイントで、今回もこれを超える水準までは上昇するだろう、とする見方もあります。

 前回の上海株バブル(2007年10月16日場中高値6,124ポイント→2008年8月18日終値で2,319.868ポイントを付け、その後リーマン・ショックで更に下げた)の時、私は北京に駐在していましたが、今(2015年春)の上海総合指数の上昇ぶりは2007年春の上昇ぶりとそっくりであると感じています。

 私は2007年4月末に北京駐在を始めましたが、その直後の2007年5月第一週にあった関係機関北京事務所長の会合で「上海株バブルはいつはじけるか」で議論になっことをよく覚えています。多くの参加者は「北京オリンピック(2008年8月)までは上昇が続く。その後は崩れるかもしれない。」「いや、上海万博(2010年)までは上昇が続く。その後は調整するかもしれない。」との意見でした。私は「北京オリンピックの前に崩壊する」と主張したのですが、同調者はいませんでした。事実は、2007年の10月がピークだったので、私の説は当たったのですが、2007年10月の後の上海株の動向は半年以上掛けて「ずるずる下げた」という感じだったので、「バブルがはじけた」という印象はあまりなく、株価の下落が経済全体に悪影響を与えた、という印象もありませんでした。

 ただ、この時期(2007年~2008年前半)、賃金の上昇等により、中国は従来の労働集約型の産業構造を変換せざるを得ない状況となったのは事実でした。

(参考URL)科学技術振興機構中国総合研究センター
北京便り(JST北京事務所快報)File No.08-007
「2008年上半期の中国経済とイノベーション」
http://www.spc.jst.go.jp/experiences/beijing/b080723.html

※この文章の筆者はこのブログの筆者と同一人物

 そうしているうちに、四川大地震(2008年5月)が起きたり、北京オリンピック終了直後(パラリンピック開催中)の2008年9月にアメリカ発のリーマン・ショックにより世界経済が混乱したりしたので、「2007年10月の上海株のピークがバブルだったかどうか」といった議論は吹き飛んでしまいました。中国は、リーマン・ショック対応の大型景気刺激策を打たざるを得なくなり、「労働集約型産業からイノベーション型産業構造へ」の構造転換は「おあずけ」となり、従来型の「鉄鋼、セメント等のインフラ型(=国有企業型)産業」で雇用を支えざるを得なくなりました。現在の習近平政権も、リーマン・ショック対応の景気刺激策で肥大化した「インフラ型産業」を十分に削減することができず、アジアインフラ投資銀行によって、中国国外のインフラ投資を増やして、中国国内の余剰なインフラ型産業の製品販売先を確保せざるなくを得なくなったのが現状である、と言えるでしょう。

 中国が今アジアインフラ投資銀行や「一帯一路」(陸と海のシルクロード構想)路線を強調しているということは、中国が2008年頃考えていた「労働集約型からイノベーション型」への産業構造変換をあきらめ、従来型のインフラ型産業構造に頼らざるを得ない状況になっている(そうでないと膨大な就業需要を吸収できない)ことを意味しています。従って、2007年と今(2015年)とでは、「上海株バブル」と巡る背景情勢は全く違っていることに注目すべきです。

 2007年の前例と同様になるだろうとの推測から今回(2015年)の上海株の上昇も「6,000ポイントを超えるまで続く」「10月頃まで続く」と考えてはいけないのかもしれません。具体的に、2007年と今(2015年)とで、異なる経済状況について、以下に列挙してみます。

○2007年は、北京オリンピックや上海万博を控えて、中国経済は高い経済成長率を続けており、物価も上昇していたが、2015年には中国経済の減速は明らかである(2007年のGDP成長率(年間)は+14.7%、消費者物価上昇率2008年2月で対前年同月比+8.7%、2014年のGDP成長率(年間)は+7.4%、消費者物価上昇率2015年3月で対前年同月比+1.4%)。

○2007年~2008年前半は、中国当局は、バブルを警戒し、金融政策は引き締め気味だった。それに対し、2014年後半~2015年4月、中国人民銀行は2回の利下げ、2回の預金準備率引き下げを行い、「大型の景気刺激策は採らない」としているものの、方向としては明らかに金融緩和の方向に舵を切っている。

○2007年は、株価の上昇と不動産市場の上昇が同時に起きていた(不動産市場も2007年末頃から頭打ち傾向となり、株価と不動産市場はほぼ同時に調整局面に入った)のに対し、2015年年初~は、不動産市場が低迷する中で株価が上昇している。(不動産市場が不調であるため、それまで理財商品等を通じて不動産に流れていた資金が株に流れることで株価の上昇に繋がっている、との見方もある)。

○2007年は北京オリンピックや上海万博を前にして外国からの投機資金(いわゆるホット・マネー)が流入するとともに、輸出増により外貨準備も急速に積み上がりつつあったのに対し、2015年は、外国から中国への投資資金は引き揚げられつつあり、資金流出超となった。輸出の不振も相まって2015年には外貨準備は減少傾向にある。中国が持っているアメリカ国債も減少傾向にあり、2015年2月には中国が保有するアメリカ国債の額は日本に抜かれて2位となった。

 もうひとつ、2008年の教訓として言えるのは、中国経済は外的要因によって想定外の動きを余儀なくされる可能性がある、ということです。具体的に言うと、「2008年のアメリカ発のリーマン・ショックによって、中国が望んでいた産業構造改革ができなくなった」のと同じように、「2015年のアメリカの利上げによる国際的投資資金のアメリカへの引き揚げによって、中国が想定していた以上のスピードで、中国に入っていた外資(ホット・マネー)の引き上げが加速し、中国が望んでいた経済のソフトランディングができなくなる」可能性があることです。

 今、世界経済は相互にリンクしており、「どちらが原因で、どちらが結果か」がわからない状況になっています。2014年半ば以降の急速な原油安の動きも、シェールオイルや中東情勢など供給側の問題ではなく、経済が急減速した中国経済による需要の急減が主な原因かもしれません。2014年の中国のGDP成長率はプラス7.4%ですが、中国政府が発表するマクロ経済データは信用できない、実際は中国経済はもっとシビアに減速しているかもしれない、という見る人も多いと思います。

 こうした状況における上海株の急騰に対しては、多くの人が警戒心を持っています。今日(2015年5月3日)付けの日本経済新聞では、中国の状況に警戒する以下の3つの記事が掲載されていました。

○5面記事「中国上場企業に減速感 前期5.8%増益止まり 非鉄金属や資源関連低迷 投資ブーム、株価は過熱」

○5面記事「『部分上場』透明性欠く 優良資産だけ切り離し 国有大手企業で活発に」

○3面記事「けいざい解読:中国、行き詰まる『土地財政』 金融緩和に地方救済色」

 特に3面の記事は、最近の中国の金融緩和が「土地財政」に頼った地方の負債を「地方債の発行」という形で「尻拭い」する側面があることを指摘しています。「理財商品」や「影の銀行」の問題で従来から懸念されていた土地開発を巡る地方政府の不良債権について、地方債券の発行を許可し、国内の金融機関にその地方債を購入させることによって、実質的に相次ぐ金融緩和が「借金に苦しむ地方政府の救済」になるのではないか、とこの記事では懸念しています。今までは「中国には豊富な外貨準備があるから大丈夫」と言われてきましたが、外貨準備が減少傾向に入り、中国が持っているアメリカ国債の額も減ってきている、という現状を見せつけられると、「いよいよ『土地を巡る地方政府の不良債権』という時限爆弾の導火線に火が付いたのではないか」とする見方も出てきて当然だと思います。

 先週(2015年4月27日(月)から始まる週)、世界では、ドイツ国債やアメリカ国債が売られ(金利は上昇し)、ユーロが急激に反発しました。一般には、5月7日のイギリス総選挙やギリシャ債務問題を話し合う5月11日のユーロ圏財務相会談の行方が不透明なこと、4月29日に発表されたアメリカの1~3月期のGDP成長率が年率ベースで+0.2%と予想を大きく下回る弱さだったことから、各国の投資家が5月相場の不透明感に備えて今までのポジションを巻き戻して、どちらに転んでも対応できるように対処したからだ、と言われています。しかし、もしかすると、5月のメーデー連休明けに想定される膨大な資金需要に備えて中国人民銀行がドイツ国債やアメリカ国債を売ったからこれらの国債の金利が上がったのかもしれません。あるいはそうなることを見込んだ投機筋が先回りしてドイツやアメリカの国債を売った、という見方も可能かもしれません。

 中国経済を巡る情勢は、中国経済自体の状況や腐敗撲滅運動に見られる習近平主席による政治的動きのほかに、「アメリカの利上げ」「イギリス総選挙の行方(イギリスのEUからの脱退がどの程度真剣に議論されるのか)」「ギリシャ情勢(ギリシャ国債はデフォルトするのか、ギリシャのEUからの脱退はありうるのか)」といった中国とは関係のない外的要因に大きく左右される可能性があります。上記に掲げた今日付の日本経済新聞の記事は「連休明けの中国経済(上海株)の動向に注意せよ」という注意喚起だと思います。

 中国経済については「いつも警戒モードだ」「バブルがはじける、はじける、と言われ続けているが、いつまでたってもはじけない」とよく言われますが、バブルは「一瞬にしてはじける」というより、「じりじり下がって行って、あとから振り返ればあれはバブルだった」と思えることが多いので、警戒心は常に持っている必要があると思います。

 上に掲げた2007年と現在との経済的背景の違いを考慮すれば、上海株がピークを打って下げ局面に入ったときの中国経済全体への影響は、2007年~2008年当時に比べれば格段に大きく深刻なものになることが予想されることには留意すべきです。2007年~2008年当時は、経済全体が成長し、外国からの資金流入も大きかったことから、上海株の下げは他の部門で吸収されたのですが、現在は、ほとんど全ての経済分野が低迷しており、もし上海株がピークを打って下落局面に入った場合、その負の影響を吸収できる分野が中国経済にはないからです。逆に上海株の下げが他の経済分野の問題点(例えば地方政府の不良債権問題)の深刻化を加速させ、加速度的に中国経済にマイナスの影響が広がる可能性があります。今、中国には、北京オリンピックのような「みんなが期待する将来の楽しみイベント」がありませんので、経済が「下げ」局面に入った場合、多くの人が「中国から我先に逃げる」という選択をする可能性があることは念頭に置いておく必要があると思います。

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