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2015年5月10日 (日)

対華21か条要求受諾100周年より対独戦勝利70周年

 昨日(2015年5月9日)は、日本の大隈重信内閣が打ち出した対華21か条要求を中華民国(当時は袁世凱が政権を握っていた)が受諾して100周年に当たるとともに、ナチスドイツが降伏して70周年に当たる日としてロシアが対独戦勝利記念日としている日でした。

 今日(2015年5月10日)付けの人民日報は、1面で習近平主席がモスクワで行われたロシアの対独戦勝利70周年記念式典に参加したことを大きく報道しています。私は、今年は中国は抗日戦争勝利70周年を大々的に宣伝するだろうと思っていたのですが、その意味で、日本の対華21か条要求100年を大きく扱っていないのは意外でした。

 この5月、人民日報を見ていてもうひとつ意外だったのは、5月4日の「五四青年節」の扱いが非常に小さかったことです。「五四青年節」は、1919年、日本による山東半島の占拠を認めることなどを含んだヴェルサイユ講話条約に反対することを切っ掛けに始まった広範な中国の民衆運動です。この運動は、1919年5月4日、北京大学学生などの若者が中心になって始めた運動で、5月4日は新中国成立後「青年節」となりました(北京市内にはこの運動を記念して「五四大街」と命名された通りがある)。五四運動のうねりの先に中国共産党の発足があるので、5月4日の「青年節」は中国共産党政権にとっては、非常に重要な日です。いつもは、例えば胡錦濤主席が北京大学を訪問して学生と対話する、など「五四青年節」を盛り上げる行事があるのですが、それが今年は目立ちませんでした。

 背景のひとつは、習近平政権としては今年(2015年)「抗日戦争70周年」を盛り上げたい気持ちはある一方、これはあくまで「反ファシスト」であって、露骨に「反日」を標榜することは避けたい、という気持ちがあるのかもしれません。急減速する中国経済にあって、経済的な日本との連携強化は、今の中国にとって必要不可欠だからです。最近、中国共産党幹部が訪中する日本の政治家との会談を行っているのも、こういう現在の中国政府の考え方を示しているのかもしれません。

 もうひとつうがった見方としてあるのは、対華21か条要求を受諾した1915年の暮れ、袁世凱は自ら皇帝になって「中華帝国」を設立することを宣言したのですが、今の習近平政権はまるで「北京を首都とする帝国を作る」かのような動き方をしているので、袁世凱の「中華帝国」を思い出させるようなことはしたくない、と考えているのではないか、という点です。袁世凱の皇帝宣言は、中国内外からの強烈な反発を受けて「中華帝国」の樹立は結局実現しなかったので、袁世凱の「中華帝国」の轍は踏みたくない、というわけです(袁世凱は翌1916年に病没)。

 一方、袁世凱は儒教を「中華帝国」の国教と位置付けましたが、最近の中国は、世界各国に「孔子学院」を作るなど、儒教精神を精神的柱の一つとして位置付けています。

 中国国内経済の減速の解決策として、「一帯一路」と名付ける陸と海のシルクロード構想を打ち出しているのも、意地悪い見方をすれば「国内の憂いを対外進出で解決する」という帝国主義的発想だ、との見方も可能です。

 そもそも習近平政権のモットーである「中華民族の偉大な復興」は、漢帝国や大清帝国時代のように「世界の中心に中国がある」という中華思想的世界像をイメージしているように見えます。

 封建時代の精神的柱である儒教を復活させ、経済力で近隣国に進出し、孫文から毛沢東に続く歴代革命家が打倒した大清帝国の復活を願うような思想は、私は革命政党である中国共産党の思想とは全く反対の極にあると思っています。

 打倒帝国主義を旗印とした五四運動や対華21か条を受託した袁世凱政権についてほとんど「スルー」してしまった今の習近平政権は、それだけ見ると自ら「帝国」を目指しているように思えてしまいます。習近平政権が「プーチン帝国」とも揶揄されるロシアと接近していることもそれを印象付けます。

 私は、文化大革命後、苦悶の中で毛沢東の施策の一部を批判し、自己変革を試みた1980年代の中国共産党を知っているだけに、中国共産党政権の「帝国指向化」には大きな懸念を抱いています。文化大革命の反省の上に立ち自己批判して自己変革を試みた1980年代の中国共産党は中国人民の大きな支持を得ていましたが、「帝国指向する中国共産党」では中国人民の支持を失ってしまうでしょう(もう既に失いつつある、とも言えますが)。

 私は、中国共産党がソ連共産党と異なるところは、中国共産党は人民の支持を失ったら自己の存立基盤が失われることをよく知っていることだと思っています。中国共産党が原点に立ち返って、単に「腐敗反対運動」といった対処療法的な方策だけでなく、中国人民の支持を獲得できる政策(例えば、地方末端における行政幹部に関する選挙の実施など)を採ることを期待したいと思います。

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