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2014年11月 7日 (金)

習近平主席の「法治改革」はAPEC後にどう動くのか

 今日(2014年11月7日)付の「人民日報」は1面で、国家主席・中国共産党総書記・中国共産党軍事委員会主席の習近平氏が、総合後方支援部の下に置かれていた人民解放軍審計署(人民解放軍の中の監察部門)を中央軍事委員会直属にするという組織改正を定めた中国共産党軍事委員会主席令に署名したことを報じています。日本のマスコミは報じていないようですが、これはかなり「でかい」話です。軍内部の監察を習近平氏が主席を務める中央軍事委員会が直接行うことは、一種の「シビリアン・コントロール」であり、軍の末端組織の独走は許さない、という習近平氏の強い決意を表すからです。

 最近、習近平氏を中心とする党中央が党の末端組織をコントロールできていないのではないか、という事例が続発しています。今年9月に習近平主席がインドを訪問して、新しく首相に就任したインドのモディ氏と会談して中印友好関係をアピールしているちょうどその時、中印両国が国境線について係争しているインド北部カシミール地方で人民解放軍の部隊が実効支配線を越えて侵入して居座る、という事件がありました(本件は産経新聞や日本経済新聞が報じています)。

 今、日本の小笠原諸島近辺に中国のサンゴ密漁船が大量に押し寄せて問題となっていますが、数が200隻と半端ではなく、単なる民間の密漁グループではなく、中国の末端機関が支援している(または積極的にやらせている)のではないか、と考える人もいるようです。このサンゴ密漁騒動は、「なぜ今なのか」「なぜ日本の小笠原近海なのか」を考えると、来週行われるAPEC首脳会議の機会に習近平主席と安倍総理との会談ができるかどうか、という微妙な外交関係を探っている中国政府の動きを意図的に邪魔しているように見えます。

 10月29日、国際会議の主催団体理事長として福田康夫元総理が北京で習近平主席と会談しましたが、二人が握手する様子をこの日の中国中央電視台(CCTV)夜7時のニュース「新聞聯播」は冒頭で報じていました。これは習近平指導部が日本との関係改善を模索しているというメッセージだと受け取れると思います。福田康夫氏は、私が北京駐在中の2007年12月に総理大臣として訪中していますが、1978年の日中平和友好条約締結時の福田赳夫総理の御子息であることから、中国側は福田康夫氏に非常によいイメージを持っており、「仲介役」としての役割をかなり期待しているのだと思います。。

 そんな中、「日本との関係改善を模索している」という党中央の意向が末端まで届いているとするならば、サンゴ密漁船を出している地域の地元の地方政府(=中国共産党地方組織)は、様々な方法でサンゴ密漁をやめさせるように漁民に働きかけるでしょう。そうでなければ、自分たち(共産党地方幹部)は、党中央から「厳しい叱責」を受けるからです。しかし、今、中国共産党中央の権威は、末端の党地方組織には完全に無視されているようです。

 最近の「人民日報」1面トップには、いかに中国共産党の地方組織が党中央の意向に反しているか、を伺わせる記事が再三にわたって登場しています。例を挙げれば以下のとおりです。

○10月8日(国慶節の連休明けの日)、「党の群衆路線教育実践総括大会」が行われ、習近平総書記は「重要講話」を行い、「党内の上下関係、人間関係においては、仕事の雰囲気において協調を旨とし、健康的で純潔な雰囲気を保ち、不良グループ化してはならず、利益集団となることを許してはならない。」と述べた。

○10月10~11日には、「全国党委員会事務局長会議」が開かれ、党の幹部から「党中央の決定が末端組織まで貫徹して実行されるようにし、党中央の権威を維持し、中央の命令が徹底されることを保証すること。」という習近平総書記のメッセージが出席者に伝えられた。

 これは、中国共産党の地方組織が「健康的で純潔な雰囲気ではなく」「不良グループ化しており」「利益集団となってる」ことを示しているとともに、「党中央の決定が末端では実行されず」「党中央の権威が維持されていない」ことを意味しています。まともな感覚ならば、こういった指示は「内々に」やれば済む話なのですが、恥も外聞もなく「人民日報」の1面にこうした「指示」「メッセージ」を掲載しなければならないほど、習近平指導部の危機感は強いのだと思います。

 一方、10月25日付け「人民日報」の1面に載った人民日報評論員による評論「中華民族の偉大な復興のためには法治による保障を提供しなければならない~第18期四中全会の精神を貫徹し深く学習するための一論~」には次のような一節があります。

「『歴史周期律』を抜け出し、長期にわたる執政を実現し、『中国の道』をうまく歩み、党と国家の長治久安を実現するためには、必ずや法治をもって根本的、全局的、長期的な制度を保障しなければならない。」

 この文章では明記していませんが、「歴史周期律」とは「長期政権70年寿命説」だと思います。ソ連はロシア革命から74年で崩壊しましたし、西太后が支配した末期の清朝はアヘン戦争から72年で終焉しました。中国共産党は政権を取ってから今年で65年です。この中国共産党機関紙「人民日報」の評論員による評論は、中国共産党政権内部にある、自らの寿命が尽きかけているのではないか、との危機感(恐怖感)をよく表していると思います。

 おそらくは中国共産党は「党の組織の末端が党中央の命令を実行しない」というのは、ソ連末期に現れた長期政権の末期症状であることをよく知っていると思います。ソ連では、ブレジネフ書記長が高齢化した1970年代末から、1980年代前半のアンドロポフ、チェルネンコ両書記長の時代に掛けて、党中央の全国支配力が弱くなり、ソ連共産党政権は弱体化していきました。ソ連共産党自身が危機感を持ち、1986年に改革派のゴルバチョフ氏を書記長に選出し、改革を進めました。ゴルバチョフ氏はソ連共産党政権を長期化させるために様々な改革を進めましたが、結果的に1991年にソ連共産党は解散しソ連も消滅してしまいました。そのことを中国共産党政権はよく勉強して知っています。「ソ連の轍は踏まない」との決意の下で打ち出されたのが、今回、四中全会で打ち出された習近平氏による「法治による統治の徹底」の政策だったのだと思います。

 今日(2014年11月7日)から北京で始まる一連のAPECの閣僚会議・首脳会議は、「党中央の権威の再構築」の最も重要な一歩なのだと思います。だからこそ、APECの期間中、学校や企業を連休にし、北京周辺の工場も操業を停止させ、北京市内に乗り入れる車のナンバープレートの偶数・奇数による運行制限を実施して、PM2.5による大気汚染を減らそうと必死になっているのだと思います。

 そうした中、「党中央の権威」に挑戦しているのが「香港雨傘革命」です。APECを成功させるのが至上命題である習近平指導部は、APECが終了するまでは香港に対して強硬策は採らないでしょうが、「党中央の権威を再構築する」のが今回の四中全会で打ち出された「法治改革」のキーポイントである以上、APEC終了後、中国共産党中央が「香港雨傘運動」に対して強硬な態度に出る可能性はかなり大きいと思います。手段としては、「観光客や通勤者の香港立ち入り制限などによる『兵糧攻め』」、「香港警察に大陸から人員支援をして警察力によりデモ隊を排除」から「人民解放軍による武力鎮圧」まで様々な選択肢がありますが、APEC終了後(=11月12日以降)、北京政府が香港に関して今までよりも相当に強硬な態度に出ることはたぶん間違いないと思います。(タイミングとしては、オーストラリア・ブリスベーンで開かれるG20(首脳会議は11月15~16日)まで待つかどうかはわかりません)。

 「第二次天安門事件」の時もそうなのですが、デモ隊の動きが膠着状態になるとニュースに登場する回数が減るので、外部の人は「鎮静化した」と誤解しがちなのですが、現時点(11月7日時点)で、「香港雨傘革命」については、何も解決していないことを再認識する必要があります。

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