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2014年11月

2014年11月16日 (日)

香港雨傘革命対処と衆院解散総選挙判断は共鳴するか

 報道によると、香港警察は明日(2014年11月17日)以降、「香港雨傘運動」においてデモ隊が占拠している地区の強制排除を行う予定、とのことです。偶然ですが、明日からの週は、日本でも安倍総理による消費税増税見送りと衆院解散総選挙の判断がなされる見通しです。この全く関係のない二つの動きが同時に動くことによって「共鳴現象」を起こして、予想外の「大激動」を引き起こさないか心配しています。

 明日(2014年11月17日(月))にはいろいろなことが予定されています。

○香港警察による「香港雨傘運動」占拠地区の一部の強制排除の実施(ただし、報道によれば、強制排除が予定されているのは九龍半島の旺角(モンコック)と香港島の中環(セントラル)だけで、デモ隊の最大拠点である香港行政府前の金鐘(アドミラルティ)は今回の強制排除の対象にはなっていない、とのことです)。

○香港株式市場と上海株式市場の相互流通の開始(中国本土の投資家は上海市場を通して香港の株を買えるようになり、外国人投資家は香港市場を通して上海の株を買えるようになる:10月にも開始予定だったが「香港雨傘運動」の状況を踏まえて中国政府側が「待った」を掛けていた、と言われている)。

○安倍総理が来年10月からの消費税増税(8%→10%)を実施するかどうかを判断するための経済指標の一つである7-9月期のGDP速報値が発表される。

 香港でのデモ隊の強制排除は、私は、APEC終了後、G20首脳会談開始前の11月13~14日にも行われるのではないか、と思っていたのですが、行われませんでした。強制排除で多数の逮捕者が出たり流血の事態になったとすると、習近平主席がG20の場で窮地に立たされますので、G20終了までは強制排除は行わないことにしたものと思われます。

 先週(11月9日)、習近平主席と香港行政府の梁振英長官が北京で会談した際、習近平主席は改めて香港のデモ隊には妥協しない強硬姿勢を示し、この会談直後に11月17日からの香港・上海株式市場の相互直通開始が発表されました。これは「ここは株式市場の相互直通を認可するが、それはデモ隊の動きを鎮静化することが条件だ。ビジネスの邪魔をさせたくないと思うなら、香港のビジネス界はデモ隊を鎮静化させることに協力しろ。」という香港ビジネス界に対する習近平主席の強いメッセージである、と読むことができます。

 それを考えると、「強制排除」は株式市場が開く前の11月17日(月)未明にも行われる可能性もあります。

 もうひとつ心配なのは、10月31日の黒田日銀のサプライズ追加緩和とGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)による株式比率の増加、という「ダブル・バズーカ」に加えて、先週サプライズ的に急速に高まった「消費増税先送りと衆院解散の観測」のトリプル効果により、東京の株価が異常な高騰を示していることです。11月14日(金)の日経平均株価の終値は1万7,490円83銭で、25日移動平均上方かい離率は10%を超えましたが、こうした状況は昨年(2013年)5月22日以来です。この翌日の昨年5月23日に東京の株価は大暴落しました。

 昨年4月4日の日銀による「異次元の量的・質的金融緩和第一弾」の後の株価急騰後、5月23日に株価の大暴落があったことは関係者の記憶に新しいので、みんな警戒感を持って対応しているので、去年のような暴落はない、と見る人が今は多いようです。しかし、一方で同時進行中の香港情勢により「香港雨傘革命の占拠地の強制撤去」→「大量の逮捕者が出たり流血の事態になったりする」→「国際社会が中国に対して経済的制裁をせざるを得ない政治状況になる」→「ただでさえ失速気味の中国経済に大ブレーキが掛かる」→「中国経済の減速予測を改めて嫌気して株価が暴落する」というリスクは、もはや「テイル・リスク」(発生可能性は極めて低いが実際に起きたら影響は極めて大きい)ではなく、かなりの発生確率のあるリスクであると認識した方がよいと思います。

 だいたいニューヨークや東京の株価が急騰している一方で、原油の国際相場が急落して、ドル高が進んでアメリカ国債が買われている(金利は低下している)のは、アメリカ以外(中国、ヨーロッパ、日本、新興国)の経済減速を懸念して、世界中の投機資金が原油や商品市場、新興国から引き上げて、ドルを買い、アメリカ国債を買っているからだ、という見方もかなり強くなっています。通常リスク回避局面で買われるはずの金の価格が上がらないのは、ロシアや中国の中央銀行が手持ちの金を少量づつ売っているからだ、という見方も可能です(ロシアの中央銀行はルーブルを買い支えるため。中国人民銀行は債務利履行になりそうな理財商品を買い支えるため)。

 「第二次天安門事件」での武力弾圧と日本経済のバブル絶頂期が重なった1989年をリアル・タイムで経験している私としては、現在の「香港雨傘革命」の状況と日本の株価の現状(去年ある週刊誌は「AKB相場(=安倍・黒田バブル相場)」と表現した)が1989年当時とだぶって見えてしまうのです。

 下記に、1988年、最初の北京駐在を終えるに当たって書いた私のエッセイへのリンクを掲げて起きます。安定成長期に入る一方で「財テク」に走っていた当時の日本経済の一端を知ることができるでしょう(後から見れば「財テク」は「バブル」だったことがわかるわけですが)。

(参考URL)「北京よもやま話」
「北京で考えたこと」(1988年9月9日)
http://homepage3.nifty.com/itaru_watanabe/beijing/kangaeta.html

 1988年の当時、私には「日本経済がバブル期にある」との認識もなかったし、翌1989年に「第二次天安門事件」が起きて中国の経済発展に急ブレーキが掛かることも全く予期していませんでした。当時、日本経済における中国経済の比重は小さいものでしたが、上の私のエッセイに垣間見えるように、日本経済のバブル的成長が「将来における中国市場の急速な発展への期待」を念頭に置いていたことは間違いありません。従って、後から考えれば、「第二次天安門事件」の武力弾圧が中国経済発展への期待を縮小させ、バブル崩壊のひとつの要因になったことはおそらくは間違いはないと思います。

 過去の例を見ると、解散から総選挙投票日に掛けては「新しい政策への期待」から株価が上昇することが多いのだそうです。ただ、今回の解散は「来年は経済が停滞しそうだから、来年以降に選挙をやるより、まだ好調を保っている今やった方が得」という「目論見」からなされる、との見方が一般的ですが、そうであれば、解散を判断する総理自身が「来年はジリ貧になる」と予想していることを意味しています。「総理自身が来年はジリ貧になる」と認識している日本の株を外国人投資家が今後も買い続けるかどうかわからないし、日本の有権者が「来年はジリ貧になる」と考えている総理の率いる与党に投票するかどうかもわかりません。

 最も重要なのは、解散詔書が発せられれば、総選挙が行われて新しい内閣が組閣されるまでの期間、日本の内閣は一時的に「選挙管理暫定内閣」になることです。そのタイミングで「香港雨傘革命の武力弾圧に起因する中国の大激動」が起きた場合、日本政府が的確に対応できるのだろうか、という問題が生じます。アメリカ・サイドでも、先の中間選挙で共和党が上下両院で勝利したことにより、オバマ大統領の政権も残り2年の任期中は「レイム・ダック化した」と言われています。またアメリカ議会は選挙結果を受けて新しい議員が任命される来年1月1月までは「レイム・ダック・セッション」になります(落選した議員はまじめに議論に参加しなくなる)。こうした世界の政治状況の中で、中国で大激動が起きては困ります。

 「リスクを恐れて何も行動しないのが『デフレ・マインド』なのだ。今は、リスクを取ってでも打って出るタイミングなのだ。」というが正解なのかもしれません。中国情勢・香港情勢については、安倍総理や黒田日銀総裁は私より情報を持っていることは間違いないので、「香港・中国リスク」を認識した上で「第二次追加緩和」「衆院解散総選挙判断」は行われた(行われる)のだと思います(ただし、黒田日銀総裁は安倍総理が「消費増税先送り」「衆院解散総選挙」を判断することは予想していなかったと思われ、「アベノミクス」の「キモ」である「総理と日銀総裁の信頼関係」が崩れたことが表面化したことはよろしくなかった、と思います)。

 私の心配(香港発の中国経済の混乱→世界経済及び日本経済の大変調)が現実化しないことを祈りたいと思います。

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2014年11月 7日 (金)

習近平主席の「法治改革」はAPEC後にどう動くのか

 今日(2014年11月7日)付の「人民日報」は1面で、国家主席・中国共産党総書記・中国共産党軍事委員会主席の習近平氏が、総合後方支援部の下に置かれていた人民解放軍審計署(人民解放軍の中の監察部門)を中央軍事委員会直属にするという組織改正を定めた中国共産党軍事委員会主席令に署名したことを報じています。日本のマスコミは報じていないようですが、これはかなり「でかい」話です。軍内部の監察を習近平氏が主席を務める中央軍事委員会が直接行うことは、一種の「シビリアン・コントロール」であり、軍の末端組織の独走は許さない、という習近平氏の強い決意を表すからです。

 最近、習近平氏を中心とする党中央が党の末端組織をコントロールできていないのではないか、という事例が続発しています。今年9月に習近平主席がインドを訪問して、新しく首相に就任したインドのモディ氏と会談して中印友好関係をアピールしているちょうどその時、中印両国が国境線について係争しているインド北部カシミール地方で人民解放軍の部隊が実効支配線を越えて侵入して居座る、という事件がありました(本件は産経新聞や日本経済新聞が報じています)。

 今、日本の小笠原諸島近辺に中国のサンゴ密漁船が大量に押し寄せて問題となっていますが、数が200隻と半端ではなく、単なる民間の密漁グループではなく、中国の末端機関が支援している(または積極的にやらせている)のではないか、と考える人もいるようです。このサンゴ密漁騒動は、「なぜ今なのか」「なぜ日本の小笠原近海なのか」を考えると、来週行われるAPEC首脳会議の機会に習近平主席と安倍総理との会談ができるかどうか、という微妙な外交関係を探っている中国政府の動きを意図的に邪魔しているように見えます。

 10月29日、国際会議の主催団体理事長として福田康夫元総理が北京で習近平主席と会談しましたが、二人が握手する様子をこの日の中国中央電視台(CCTV)夜7時のニュース「新聞聯播」は冒頭で報じていました。これは習近平指導部が日本との関係改善を模索しているというメッセージだと受け取れると思います。福田康夫氏は、私が北京駐在中の2007年12月に総理大臣として訪中していますが、1978年の日中平和友好条約締結時の福田赳夫総理の御子息であることから、中国側は福田康夫氏に非常によいイメージを持っており、「仲介役」としての役割をかなり期待しているのだと思います。。

 そんな中、「日本との関係改善を模索している」という党中央の意向が末端まで届いているとするならば、サンゴ密漁船を出している地域の地元の地方政府(=中国共産党地方組織)は、様々な方法でサンゴ密漁をやめさせるように漁民に働きかけるでしょう。そうでなければ、自分たち(共産党地方幹部)は、党中央から「厳しい叱責」を受けるからです。しかし、今、中国共産党中央の権威は、末端の党地方組織には完全に無視されているようです。

 最近の「人民日報」1面トップには、いかに中国共産党の地方組織が党中央の意向に反しているか、を伺わせる記事が再三にわたって登場しています。例を挙げれば以下のとおりです。

○10月8日(国慶節の連休明けの日)、「党の群衆路線教育実践総括大会」が行われ、習近平総書記は「重要講話」を行い、「党内の上下関係、人間関係においては、仕事の雰囲気において協調を旨とし、健康的で純潔な雰囲気を保ち、不良グループ化してはならず、利益集団となることを許してはならない。」と述べた。

○10月10~11日には、「全国党委員会事務局長会議」が開かれ、党の幹部から「党中央の決定が末端組織まで貫徹して実行されるようにし、党中央の権威を維持し、中央の命令が徹底されることを保証すること。」という習近平総書記のメッセージが出席者に伝えられた。

 これは、中国共産党の地方組織が「健康的で純潔な雰囲気ではなく」「不良グループ化しており」「利益集団となってる」ことを示しているとともに、「党中央の決定が末端では実行されず」「党中央の権威が維持されていない」ことを意味しています。まともな感覚ならば、こういった指示は「内々に」やれば済む話なのですが、恥も外聞もなく「人民日報」の1面にこうした「指示」「メッセージ」を掲載しなければならないほど、習近平指導部の危機感は強いのだと思います。

 一方、10月25日付け「人民日報」の1面に載った人民日報評論員による評論「中華民族の偉大な復興のためには法治による保障を提供しなければならない~第18期四中全会の精神を貫徹し深く学習するための一論~」には次のような一節があります。

「『歴史周期律』を抜け出し、長期にわたる執政を実現し、『中国の道』をうまく歩み、党と国家の長治久安を実現するためには、必ずや法治をもって根本的、全局的、長期的な制度を保障しなければならない。」

 この文章では明記していませんが、「歴史周期律」とは「長期政権70年寿命説」だと思います。ソ連はロシア革命から74年で崩壊しましたし、西太后が支配した末期の清朝はアヘン戦争から72年で終焉しました。中国共産党は政権を取ってから今年で65年です。この中国共産党機関紙「人民日報」の評論員による評論は、中国共産党政権内部にある、自らの寿命が尽きかけているのではないか、との危機感(恐怖感)をよく表していると思います。

 おそらくは中国共産党は「党の組織の末端が党中央の命令を実行しない」というのは、ソ連末期に現れた長期政権の末期症状であることをよく知っていると思います。ソ連では、ブレジネフ書記長が高齢化した1970年代末から、1980年代前半のアンドロポフ、チェルネンコ両書記長の時代に掛けて、党中央の全国支配力が弱くなり、ソ連共産党政権は弱体化していきました。ソ連共産党自身が危機感を持ち、1986年に改革派のゴルバチョフ氏を書記長に選出し、改革を進めました。ゴルバチョフ氏はソ連共産党政権を長期化させるために様々な改革を進めましたが、結果的に1991年にソ連共産党は解散しソ連も消滅してしまいました。そのことを中国共産党政権はよく勉強して知っています。「ソ連の轍は踏まない」との決意の下で打ち出されたのが、今回、四中全会で打ち出された習近平氏による「法治による統治の徹底」の政策だったのだと思います。

 今日(2014年11月7日)から北京で始まる一連のAPECの閣僚会議・首脳会議は、「党中央の権威の再構築」の最も重要な一歩なのだと思います。だからこそ、APECの期間中、学校や企業を連休にし、北京周辺の工場も操業を停止させ、北京市内に乗り入れる車のナンバープレートの偶数・奇数による運行制限を実施して、PM2.5による大気汚染を減らそうと必死になっているのだと思います。

 そうした中、「党中央の権威」に挑戦しているのが「香港雨傘革命」です。APECを成功させるのが至上命題である習近平指導部は、APECが終了するまでは香港に対して強硬策は採らないでしょうが、「党中央の権威を再構築する」のが今回の四中全会で打ち出された「法治改革」のキーポイントである以上、APEC終了後、中国共産党中央が「香港雨傘運動」に対して強硬な態度に出る可能性はかなり大きいと思います。手段としては、「観光客や通勤者の香港立ち入り制限などによる『兵糧攻め』」、「香港警察に大陸から人員支援をして警察力によりデモ隊を排除」から「人民解放軍による武力鎮圧」まで様々な選択肢がありますが、APEC終了後(=11月12日以降)、北京政府が香港に関して今までよりも相当に強硬な態度に出ることはたぶん間違いないと思います。(タイミングとしては、オーストラリア・ブリスベーンで開かれるG20(首脳会議は11月15~16日)まで待つかどうかはわかりません)。

 「第二次天安門事件」の時もそうなのですが、デモ隊の動きが膠着状態になるとニュースに登場する回数が減るので、外部の人は「鎮静化した」と誤解しがちなのですが、現時点(11月7日時点)で、「香港雨傘革命」については、何も解決していないことを再認識する必要があります。

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2014年11月 2日 (日)

香港雨傘革命:「全軍政治工作会議」は「武力鎮圧の前兆現象」なのか

 昨夜(2014年11月1日)の中国中央電視台(CCTV)の夜7時のニュース「新聞聯播」と今日(11月2日)の「人民日報」の1面トップで、福建省上杭県古田鎮において、10月30日から「全軍政治工作会議」が開かれ、31日には習近平国家主席・党書記・軍事委員会主席が出席して「重要講話」を行ったことが伝えられています。これを見れば、10月20~23日に四中全会が開かれて「法治による国家統治」を徹底する旨が決まったことは、習近平氏による「上からのクーデター」であったと言えるでしょう。「新聞聯播」や「人民日報」の扱い方からは、通常の会議の報じ方と一線を画した「緊迫感」を感じます。

 「人民日報」によれば、今回の「全軍政治工作会議」を古田で開くことを提案したのは、習近平氏自身だ、とのことです。古田は、1929年12月28日、「古田会議」が開かれて、人民解放軍の前身である紅軍の基本方針が決まった由緒ある場所、ということです。この場所で「全軍政治工作会議」を開催しよう、と提案した習近平氏の意図は、「軍よ。原点に帰れ。」ということでしょう。

 日本のマスコミでは、よく「中国軍」と誤って報じられるのですが、人民解放軍は中国共産党の軍隊であって、中華人民共和国政府の軍隊ではありません。現在、憲法により、「中国共産党の指導」が書かれているので現在ではあり得ませんが、もし仮に、将来、人民解放軍の位置付けが現在のままの状態で憲法が改正されて、中国に中国共産党に反対する政府ができた場合には、人民解放軍は、中国政府に対して銃口を向ける、ということになります。従って、香港に「反中国共産党」の行政府ができる可能性があるのだったら、香港に駐留している人民解放軍は香港を制圧することになります。「中国軍」と表示している日本のマスコミは、この重要な点を理解していないのです。

 1980年代、改革開放政策が始まった後、トウ小平氏は「軍民結合」の方針を打ち出して、軍の指揮下にある軍需産業が持っている技術のうち民需転用が可能なものについては、積極的に民間用に活用する政策を進めました。1980年代の中国の民間技術はまだ貧弱な水準でしたが、軍需産業においては、人工衛星(=大陸間弾道ミサイル)の打ち上げや原子力潜水艦の建造などが既に行われており、かなりの水準の高い技術を持っていました。トウ小平氏は、外国からの資金と技術の導入を進めることに加えて、中国国内にある軍が持つ高い技術のうち民間活用が可能なものについては民用転換を進めて、中国経済の活性化を図ろうとしたのです。

 この「軍民結合」の方針を受けて、軍は数多くの企業を立ち上げてビジネスを始めました。上記に書いたように「人民解放軍は中国政府の軍隊ではない」という事情に基づいて、軍需産業に立脚したビジネスは中国政府による各種規制を無視する形で進展してきました。それにより、人民解放軍の一部は「中国人民を防衛する」という本来目的からはずれてビジネスに走る「特権的利得権益集団」に転化していったのでした。

 胡錦濤政権までは、軍の一部が「利得権益集団」となっていることに対して改革することはできませんでした。しかし、習近平氏は「アンタッチャブル」だった軍にもメスを入れたのです。これは「改革の進展」という意味では非常に大きな一歩です。

 四中全会の決定文が発表された同じ日(2014年10月28日)、既に捜査の対象とすることが公表され党籍を剥奪されていた徐才厚・元党軍事委員会副主席(=胡錦濤政権時の制服組トップ)について、汚職の罪で起訴することが発表されました。今日(11月2日)の「人民日報」の報道によれば、習近平氏は今回の「全軍政治工作会議」で「特に徐才厚の案件については、高度に重視し厳粛に見て、深刻に反省すべき教訓とし、影響の一掃を徹底させなければならない」と述べています。元の軍の制服組のトップの固有名詞をわざわざ挙げて指摘するなど、私の知る限り、中国共産党内の会議内での発言としては、相当に異例の厳しい言葉で直接的に語っています。

 この「全軍政治工作会議」では、現職の国防相の常万全氏も出席していたことが、この「人民日報」で報じられています。「新聞聯播」では常万全氏が出席している様子も放映されていました。常万全氏は、一時、香港などの報道で、現職の国防大臣でありながら捜査の対象にされているのではないか、との観測記事も出ていましたが、この「全軍政治工作会議」は、常万全氏は「セーフ」だったことを内外に明示する形となりました。

 「新聞聯播」では、「古田会議」を記念する記念館の展示として、「古田会議」の決議を映し出していました。「古田会議の決議」とは「政治理念を誤らないこと」「忠実であること」「犠牲精神に基づき、能動的に仕事をすること」「金儲けを考えてはならないこと」「アヘンを吸ったり賭博をやったりしてはならないこと」の5つなのだそうです。「全軍政治工作会議は古田でやるべし」と提案した習近平氏が言いたかったことは「軍は党中央に忠実であるべし」「金儲けは考えてはいけない」であったことは明らかです。

 もうひとつ「新聞連播」の報道で気になったのは、この「政治工作会議」に関する一連の行事の中で、習近平氏と軍の幹部が集団で、この地にある巨大な毛沢東主席の銅像に花輪を供えて、「三顧の礼」を取っていた場面です。私が最初に北京に駐在していた1980年代、当時の実力者トウ小平氏は、文化大革命時代に対する反省から、個人崇拝を排除しようとしており、各地に残っていた毛沢東主席の銅像の多くは撤去されました。今回の習近平氏と軍の幹部の毛沢東主席の銅像への「三顧の礼」は、こうした1980年代のトウ小平氏の方針に真っ向から反することを意味します。このことは、習近平氏がトウ小平氏が始めた「軍民結合」を廃して、「軍は『金儲け』から手を引け」と命じていることを意味します。

 この習近平氏の「命令」に対して、既に巨大な「特権的既得権益集団」と化している人民解放軍の一部が黙って従うのかどうかはわかりません。そこで気になるのが「軍の内部を引き締める」という目的で、習近平氏が人民解放軍を動かして、香港の「雨傘運動」を鎮圧する可能性があるのではないか、という点です。

 習近平氏が「香港雨傘革命」を武力で鎮圧するかどうかの可能性を「第二次天安門事件」(1989年)との比較で考えてみたいと思います。

【「武力鎮圧の可能性は高い」と考えられる理由】

○上記に述べた四中全会で示した習近平氏の人民解放軍に対する掌握を確固としたものにするために習近平氏は最高司令官として実力行使を指令する。これにより、国際社会からの反発が予想されるため、人民解放軍は最高レベルの警戒態勢に入るので、「反習近平」の勢力が広がる可能性は摘み取られる。

○国内向け報道では「香港の非法な『占中』派は外国で訓練を受けている」「『占中』派に対して外国から資金や物資の支援がなされている」「香港市民の間で『占中』派に反対する署名が130万人分以上集まった」といった報道が連日なされており、香港に対して強硬策を採らない状況が長く続いた場合、中国国内に「なぜ党中央は強硬手段を用いてでも香港『占中』集団を取り締まらないのか」という声が上がる可能性がある。チベットやウィグルの運動についても、常に「外国勢力に扇動されている」と報じられるので、香港についてだけ「何もしない」という選択肢は、国内世論をコントロールする観点ではあり得ない。

○今年(2014年)2月、ロシアのソチで冬季オリンピックが行われている時、既にウクライナでは政情不安状態だったが、国際社会は誰もロシアがウクライナのクリミアを編入することなど考えていなかった。しかし、ロシアのプーチン大統領はソチ・オリンピック終了後、クリミア編入を強行した。国際社会は対ロ経済制裁を発動したが、天然ガス供給をはじめとして世界経済に組み込まれているロシアに対して国際社会は本格的な制裁措置は採れなかった。中国が香港に関して強硬な措置に出ても、世界経済における中国経済の重要性を踏まえれば、国際社会は中国に対して実効性のある経済制裁は採れない、と習近平氏は読んでいる可能性がある。

【「武力鎮圧が行われる可能性は低い」と考えられ理由】

○1989年の「第二次天安門事件」の際、デモ隊が占拠していたのは天安門広場だけであり、北京市民の生活やビジネス活動に全く支障は出ていなかった。それに対し「香港雨傘運動」では、商業活動やビジネス活動に実質的な支障が出ており、商店主やタクシー運転手、ビジネス関係者などに「雨傘運動」に批判的な人たちが相当数おり、無理に武力鎮圧しなくても、香港市民の中に「雨傘運動」に批判的な動きが高まる可能性に期待できる。

○香港は、電力、水、食料、労働力などを大陸部に頼っており、中国政府は香港を「兵糧攻め」にする手段はいくらでも持っている。既に国慶節期間中の大陸から香港への旅行を「安全確保のため」という名目で絞っているし、大陸部から香港の企業に「通勤」している人たちの足止めをすることはいつでも可能である。観光客や労働者が香港へ行くことを制限することにより、香港のビジネス界に「雨傘運動に反対する勢力」を増やすことは比較的容易であると考えられる。

○北京の長安街は、東西に長く続く幅広い道路であり、戦車や装甲車を北京郊外から天安門広場に移動させるためには、市民が築くバリケードを排除すれば、そのほかに物理的障害はない。それに対し、香港の九龍半島と香港島は道路が狭く、戦車や装甲車を「占中」活動をやっている地点に移動させることには物理的な困難が伴う。そもそも戦車や装甲車を香港島に上陸させる、といった作戦に対しては、香港市民の大きな抵抗が予想され、強行すれば「市街戦」となることから、人民解放軍による武力鎮圧は純粋に軍事戦略的観点から「あり得ない選択」である。

○「天安門前広場」は、中国共産党本部(中南海)の目と鼻の先であり、国賓歓迎行事などが行われる場所なので、「天安門前広場」の占拠の長期化は、中国政府の活動に直接的に影響を及ぼすのに対し、香港の一部で「占中」活動が続いても、香港のビジネス上の障害とはなっても、中国政府の活動自体には直接的な悪影響は与えない。それに対して、武力鎮圧した際に中国自身が受ける経済的打撃は計り知れないほど大きいので、中国政府としても避けたい。

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 一方で、私たちは、以下の事実を再認識しなければなりません。

○1989年6月4日、北京で「第二次天安門事件」が起き、市民や学生らの運動が人民解放軍によって鎮圧された。同年11月9日、ベルリン市民によりベルリンの壁が壊され、東西冷戦が終結した。1991年、ソ連共産党は解散し、ソ連は崩壊した。それと同時並行的に起きた現象として、1989年年末に東京の日経平均株価は史上最高値(終値で3万8,957円44銭)を記録したが、翌年から株価は暴落、地価も1991年頃がピークで、後から考えると「第二次天安門事件」「東欧・ソ連での共産党政権の崩壊」と「日本のバブル経済の崩壊」が同時並行的に起きていたことがわかった。もっとも、当時の世界的政治情勢と日本のバブル崩壊に因果関係があったとは言えない。

○政府の地震調査研究推進本部は今後30年間の間に「宮城県沖地震」(最大マグニチュード8程度)が起きる確率は99%と予測していた。しかし、近くの複数の断層が同時に動くことは想定していなかった。2011年3月9日11:45に三陸沖でマグニチュード7.3の地震(最大震度:震度5弱)が発生していた。しかし、この地震が3月11日の東日本大震災の本震の前震であるとは誰も考えなかった(現在は、3月9日の地震は「前震」だった、と考えられている)。今年(2014年)9月上旬、御嶽山で火山性微動が増加したが、9月27日に噴火が発生することは予知できなかった。

 「後で考えれば、あれが前兆だった」と思えることは過去多々あります。「香港雨傘革命に対する武力弾圧」についても、あとから振り返った時「あれが前兆だったのだ」と思えるような事象は既に発生しています。10月19日付けの「人民日報」4面に掲載されていた「『自主』から『占中』の背後にある『香港独立』の陰謀が見える」と題する評論も「前兆」の一つかもしれないし、今回の「全軍政治工作会議」も「前兆」の一つなのかもしれません。香港に拠点を持っている企業は、武力弾圧事態を想定した「リスク・マネジメント・プラン」を作成していると思いますが、香港に関係のない人たちは、現時点で、全く無防備だと思います。

 一昨日(10月31日)に発表された日銀の追加緩和策に対して、日本だけでなく、上海、香港、ヨーロッパ、ニューヨークの株式市場から、ブラジルの株式市場まで、「世界同時株高」の現象が起きました。中国と香港で起きている現状から見て、この株価の反応は「はしゃぎすぎ」だと私は思います。

 「リスク・マネジメント」においては、「空振りを恐れずに前兆と思われる事象は深刻に捉えて対処する」ことが重要です。なので「香港雨傘革命に対する武力鎮圧」について既に前兆と思われる事象が起きていることを、後で「空振り」「心配のしすぎだった」と批判されることを期待しつつ、記させていただきました。

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