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2014年10月31日 (金)

香港雨傘革命:四中全会と黒田日銀ハロウィン・バズーカ砲が与える影響

 前の発言(2014年10月22日付け)で、「香港雨傘革命」は、香港からの外資の引き上げを招き、それが減速しつつある中国経済を「綱渡り的」になんとか軟着陸させようとしている中国政府に予想外のインパクトを与えて経済政策のバランスを崩し(ないしはタイミングを失わせ)、中国経済のバブル的部分が崩壊する切っ掛けになる可能性について書きました。背景にあるのは、10月末に、アメリカFRB(連邦準備制度理事会)が量的緩和第三弾(QE3)を終了させ、それが中国を含めた新興国に投下されてきた投機マネーの引き上げの波を起こす可能性があることでした。

 一方、中国共産党は10月20~23日に四中全会(中央委員会第四回全体会議)を開き、「法治による国家統治」を決めました。四中全会での決定文全文は、10月28日(火)夜に発表されました。私はそれを伝える中国中央電視台(CCTV)の7時のニュース「新聞聯播」を見ていて、「えらいこっちゃ。こりゃ習近平主席による『上からのクーデター』だ」と思いました。「新聞聯播」ではアナウンサーが決定文と「説明」を読み上げる映像が30分も続く、という「ただならぬ雰囲気」だったからです。

 日本のマスコミがあまり大げさに報道していないので、翌日、私自身、ネット上の「人民日報」に掲載されている今回の四中全会の決定文の全文をじっくり読んでみましたが、確かに司法改革など重要なことは書いてありますが、それほど「革命的に新しいこと」があるわけでもなく、マスコミが大騒ぎしないのは当然かな、と思いました。

 ただし、内容は、例えば「県・市級の地方組織の権限を大幅に縮小する」など、党中央の意図を無視して勝手な行動で環境破壊しながら乱開発を続ける地方政府(=中国共産党地方組織)の権能を法律で厳密に縛る、という点で、中国共産党の歴史においては画期的かつ重要なものでした。多くの日本の方は誤解しているかもしれませんが、そもそも中国共産党は、末端組織の集合体が集まった基礎の上に立ったボトムアップ組織を基盤としており、トップダウンによる強権的組織ではありません(私は、その点が中国共産党とソ連共産党の最も異なる点だと思っています)。

 今回の四中全会の決定は「法治の徹底」を叫んでいますが、「法治」の前には必ず「党の指導による」が付いています。ここで言う「党」とは「党中央」のことでしょう。つまり「法治」とは言っていますが、その内実は、法律を作る全人代などどうでもよく、要するに「党の末端組織は必ず党中央の命令に従え。これからは有無を言わさず党中央の指示貫徹を徹底するぞ。」という「党内改革」の話なのです。(このことは、今までは党の末端組織は党中央の指導を無視してきた、つまり「国家統治」どころか「党内統治」もできていなかった、という中国共産党の実情を表しています)。

 それからもうひとつ重要なのは、今回の「法治」については、軍の組織も例外としない、としているところです。ここに習近平総書記の改革へ向けてのなみなみならぬ決意が感じられます(人民解放軍は、中国共産党の軍隊であって、中華人民共和国政府の軍隊ではありません)。その意味では今回の四中全会の決定は、私が最初に受けた印象のとおり、「静かなる上からのクーデター」と表現しても間違いではないと思います。

 こうした「改革」は、当然、既得権益を享受してきた地方組織や軍の末端組織からの反発を受けることが予想されるので、習近平総書記は「言論の締め付け」という形で、力で反発を抑える方針のようです。それを表すかのように、最近、新聞記者や文芸関係者に対して「社会主義の核心的価値観」を徹底するよう要求しています。

 香港関連で言うと、事態を収拾できない梁振英行政長官は辞職すべき、と公開の場で述べた中国人民政治協商会議委員の田北俊氏が委員を解任されました。中国人民政治協商会議は、中国共産党員ではない有力者が政治に助言をする機関で、いわば「ガス抜き機関」なのですが、助言機関の委員が自分の意見を言って解任されたのでは、助言機関としての意味がありません。

 「中国人民政治協商会議とはそもそもそういう会議なのだ」と言われればそれまでですが、「梁振英行政長官を支持する」という党中央の意図に反することは、たとえ「完全なる中国政府派」である中国人民政治協商会議委員であっても公の場で発言することすら許さない、という今回の態度は、ある程度いろいろな意見を議論することはよいことだ、という雰囲気のあった1980年代(「第二次天安門事件」以前)を知っている私としては、あまりにも「締め付けのやり過ぎ」だと感じました(特に田北俊氏は、自由な言論の許されている香港代表の人なので)。

 今回の四中全会決定が対象としているのは「党と軍の地方末端組織」で、この「法治の徹底」は、おそらくは習近平総書記が、2年前の総書記就任以来、党内や軍の長老などへの「根回し」を周到に行って進めてきた「目玉政策」なのでしょう。ところが、その「目玉政策」の最終決定段階の四中全会の直前のタイミングで「香港雨傘革命」というやっかいな事態が生じたのです。習近平総書記としては、香港に対して安易な妥協をすれば、党と軍の地方末端組織に対する「しめし」がつきません。従って、香港に対して甘い顔はできないのです。

 なので、私は、習近平総書記がタイミングを見計らって(おそらくは11月10~11日のAPEC首脳会議が終わった頃に)「香港雨傘革命」に対して強硬な措置に出る判断をするのではないかと恐れています。

 一方、冒頭に書いたように、「香港雨傘革命」は、大減速(場合によってはバブル崩壊)気味の現在の中国経済に予定外の影響を与える心配があります。タイミングが日本時間10月30日未明に決まったアメリカによる量的緩和策第三弾(QE3)の終了が世界(特に新興国)に影響を与え始める時期とぴったり会うからです。

 そうした中国を巡る微妙なタイミングで、今日(2014年10月31日)、日本銀行は金融政策決定会合で「異次元の量的・質的緩和措置」の第二弾を決め、発表しました(後世の人がどう呼ぶかわかりませんが、私は「ハロウィン・バズーカ砲」と呼びたいと思います)。この緩和措置は、おそらくは意図的にアメリカのQE3終了とタイミングを合わせることにより、世界規模においては、緩和マネーの出所がアメリカから日本に替わるだけであるので、これまでアメリカの金融緩和措置によって投下されてきた資金の新興国からの引き上げの動きを少しでも緩和することができる、という目的もあるのではないかと思います。

 ですが、今回の黒田日銀による「ハロウィン・バズーカ砲」は、あまりに予想外のタイミングに決まったので、株式市場は急騰し、外国為替市場では急激な円安が進みました。去年(2013年)4月4日の「異次元の量的・質的緩和」の後も、株式市場や外国為替市場で、何度か乱高下があったように、今回の「ハロウィン・バズーカ砲」もマーケットに予想外の乱高下を呼ぶかもしれません。もしそうだとすると、今回の日銀の追加緩和は、バブル経済崩壊回避と香港雨傘革命対応で「綱渡り的」な対応を迫られている中国政府の政策バランスに影響を与えてしまうかもしれません。

 人民元は、ドル元レートについて中国人民銀行が毎日決める「中央値」の上限2%幅での変動を許される「拘束式変動相場制」なのですが、2%という「縛り」が掛かっているのは人民元/米ドルのレートなので、日本円が対米ドルで急激に変化すると、日本円/人民元レートは、短期間に大幅に変化する可能性があります。日中貿易は中国経済においても重要な役割を果たしていますので、プラスかマイナスかはいろいろ議論はあるにせよ、今回の日銀の追加緩和策は、中国経済にもかなりのインパクトを与えると思います。

 前の発言で、私は「シートベルト着用サインが点灯している」と書きました。今回の「ハロウィン・バズーカ砲」により、サインは「パラシュート着用・カタパルトで脱出すべし」に変わっているのかもしれません。しかし、私も二回の北京駐在を経験していますが、中国といろいろな仕事をしている以上、日本側は「ボタンひとつで脱出」はできません。お金の損得の以前の問題として、日本企業は多くの中国人従業員を雇い、中国側の企業や人々とビジネス関係を持っています。「ボタンひとつでカタパルトで脱出」はできないのです。

 従って、パラシュートを付けてカタパルトで脱出したくなるような事態になっても、少しくらい揺れてもよいから、機長にはなんとか安全に飛行を続けて、軟着陸できるようにコントロールして飛行を続けて欲しいと思っています。

 「雨傘運動」をやっている方々にも冷静な対応を望みたいと思います。過去の「第二次天安門事件」の運動の例などを引き合いに出すまでもなく、明確なリーダーがいないままに運動が長期化すると、運動に参加する人々が穏健派と急進派に分かれ、急進派が警備側と衝突するような事態に発展して、政権側に武力介入の口実を与えかねません。「香港雨傘運動」をやっている人たちには、過去の苦い経験を踏まえ、あくまで非暴力の活動を貫いて欲しいと思います。

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