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2014年10月

2014年10月31日 (金)

香港雨傘革命:四中全会と黒田日銀ハロウィン・バズーカ砲が与える影響

 前の発言(2014年10月22日付け)で、「香港雨傘革命」は、香港からの外資の引き上げを招き、それが減速しつつある中国経済を「綱渡り的」になんとか軟着陸させようとしている中国政府に予想外のインパクトを与えて経済政策のバランスを崩し(ないしはタイミングを失わせ)、中国経済のバブル的部分が崩壊する切っ掛けになる可能性について書きました。背景にあるのは、10月末に、アメリカFRB(連邦準備制度理事会)が量的緩和第三弾(QE3)を終了させ、それが中国を含めた新興国に投下されてきた投機マネーの引き上げの波を起こす可能性があることでした。

 一方、中国共産党は10月20~23日に四中全会(中央委員会第四回全体会議)を開き、「法治による国家統治」を決めました。四中全会での決定文全文は、10月28日(火)夜に発表されました。私はそれを伝える中国中央電視台(CCTV)の7時のニュース「新聞聯播」を見ていて、「えらいこっちゃ。こりゃ習近平主席による『上からのクーデター』だ」と思いました。「新聞聯播」ではアナウンサーが決定文と「説明」を読み上げる映像が30分も続く、という「ただならぬ雰囲気」だったからです。

 日本のマスコミがあまり大げさに報道していないので、翌日、私自身、ネット上の「人民日報」に掲載されている今回の四中全会の決定文の全文をじっくり読んでみましたが、確かに司法改革など重要なことは書いてありますが、それほど「革命的に新しいこと」があるわけでもなく、マスコミが大騒ぎしないのは当然かな、と思いました。

 ただし、内容は、例えば「県・市級の地方組織の権限を大幅に縮小する」など、党中央の意図を無視して勝手な行動で環境破壊しながら乱開発を続ける地方政府(=中国共産党地方組織)の権能を法律で厳密に縛る、という点で、中国共産党の歴史においては画期的かつ重要なものでした。多くの日本の方は誤解しているかもしれませんが、そもそも中国共産党は、末端組織の集合体が集まった基礎の上に立ったボトムアップ組織を基盤としており、トップダウンによる強権的組織ではありません(私は、その点が中国共産党とソ連共産党の最も異なる点だと思っています)。

 今回の四中全会の決定は「法治の徹底」を叫んでいますが、「法治」の前には必ず「党の指導による」が付いています。ここで言う「党」とは「党中央」のことでしょう。つまり「法治」とは言っていますが、その内実は、法律を作る全人代などどうでもよく、要するに「党の末端組織は必ず党中央の命令に従え。これからは有無を言わさず党中央の指示貫徹を徹底するぞ。」という「党内改革」の話なのです。(このことは、今までは党の末端組織は党中央の指導を無視してきた、つまり「国家統治」どころか「党内統治」もできていなかった、という中国共産党の実情を表しています)。

 それからもうひとつ重要なのは、今回の「法治」については、軍の組織も例外としない、としているところです。ここに習近平総書記の改革へ向けてのなみなみならぬ決意が感じられます(人民解放軍は、中国共産党の軍隊であって、中華人民共和国政府の軍隊ではありません)。その意味では今回の四中全会の決定は、私が最初に受けた印象のとおり、「静かなる上からのクーデター」と表現しても間違いではないと思います。

 こうした「改革」は、当然、既得権益を享受してきた地方組織や軍の末端組織からの反発を受けることが予想されるので、習近平総書記は「言論の締め付け」という形で、力で反発を抑える方針のようです。それを表すかのように、最近、新聞記者や文芸関係者に対して「社会主義の核心的価値観」を徹底するよう要求しています。

 香港関連で言うと、事態を収拾できない梁振英行政長官は辞職すべき、と公開の場で述べた中国人民政治協商会議委員の田北俊氏が委員を解任されました。中国人民政治協商会議は、中国共産党員ではない有力者が政治に助言をする機関で、いわば「ガス抜き機関」なのですが、助言機関の委員が自分の意見を言って解任されたのでは、助言機関としての意味がありません。

 「中国人民政治協商会議とはそもそもそういう会議なのだ」と言われればそれまでですが、「梁振英行政長官を支持する」という党中央の意図に反することは、たとえ「完全なる中国政府派」である中国人民政治協商会議委員であっても公の場で発言することすら許さない、という今回の態度は、ある程度いろいろな意見を議論することはよいことだ、という雰囲気のあった1980年代(「第二次天安門事件」以前)を知っている私としては、あまりにも「締め付けのやり過ぎ」だと感じました(特に田北俊氏は、自由な言論の許されている香港代表の人なので)。

 今回の四中全会決定が対象としているのは「党と軍の地方末端組織」で、この「法治の徹底」は、おそらくは習近平総書記が、2年前の総書記就任以来、党内や軍の長老などへの「根回し」を周到に行って進めてきた「目玉政策」なのでしょう。ところが、その「目玉政策」の最終決定段階の四中全会の直前のタイミングで「香港雨傘革命」というやっかいな事態が生じたのです。習近平総書記としては、香港に対して安易な妥協をすれば、党と軍の地方末端組織に対する「しめし」がつきません。従って、香港に対して甘い顔はできないのです。

 なので、私は、習近平総書記がタイミングを見計らって(おそらくは11月10~11日のAPEC首脳会議が終わった頃に)「香港雨傘革命」に対して強硬な措置に出る判断をするのではないかと恐れています。

 一方、冒頭に書いたように、「香港雨傘革命」は、大減速(場合によってはバブル崩壊)気味の現在の中国経済に予定外の影響を与える心配があります。タイミングが日本時間10月30日未明に決まったアメリカによる量的緩和策第三弾(QE3)の終了が世界(特に新興国)に影響を与え始める時期とぴったり会うからです。

 そうした中国を巡る微妙なタイミングで、今日(2014年10月31日)、日本銀行は金融政策決定会合で「異次元の量的・質的緩和措置」の第二弾を決め、発表しました(後世の人がどう呼ぶかわかりませんが、私は「ハロウィン・バズーカ砲」と呼びたいと思います)。この緩和措置は、おそらくは意図的にアメリカのQE3終了とタイミングを合わせることにより、世界規模においては、緩和マネーの出所がアメリカから日本に替わるだけであるので、これまでアメリカの金融緩和措置によって投下されてきた資金の新興国からの引き上げの動きを少しでも緩和することができる、という目的もあるのではないかと思います。

 ですが、今回の黒田日銀による「ハロウィン・バズーカ砲」は、あまりに予想外のタイミングに決まったので、株式市場は急騰し、外国為替市場では急激な円安が進みました。去年(2013年)4月4日の「異次元の量的・質的緩和」の後も、株式市場や外国為替市場で、何度か乱高下があったように、今回の「ハロウィン・バズーカ砲」もマーケットに予想外の乱高下を呼ぶかもしれません。もしそうだとすると、今回の日銀の追加緩和は、バブル経済崩壊回避と香港雨傘革命対応で「綱渡り的」な対応を迫られている中国政府の政策バランスに影響を与えてしまうかもしれません。

 人民元は、ドル元レートについて中国人民銀行が毎日決める「中央値」の上限2%幅での変動を許される「拘束式変動相場制」なのですが、2%という「縛り」が掛かっているのは人民元/米ドルのレートなので、日本円が対米ドルで急激に変化すると、日本円/人民元レートは、短期間に大幅に変化する可能性があります。日中貿易は中国経済においても重要な役割を果たしていますので、プラスかマイナスかはいろいろ議論はあるにせよ、今回の日銀の追加緩和策は、中国経済にもかなりのインパクトを与えると思います。

 前の発言で、私は「シートベルト着用サインが点灯している」と書きました。今回の「ハロウィン・バズーカ砲」により、サインは「パラシュート着用・カタパルトで脱出すべし」に変わっているのかもしれません。しかし、私も二回の北京駐在を経験していますが、中国といろいろな仕事をしている以上、日本側は「ボタンひとつで脱出」はできません。お金の損得の以前の問題として、日本企業は多くの中国人従業員を雇い、中国側の企業や人々とビジネス関係を持っています。「ボタンひとつでカタパルトで脱出」はできないのです。

 従って、パラシュートを付けてカタパルトで脱出したくなるような事態になっても、少しくらい揺れてもよいから、機長にはなんとか安全に飛行を続けて、軟着陸できるようにコントロールして飛行を続けて欲しいと思っています。

 「雨傘運動」をやっている方々にも冷静な対応を望みたいと思います。過去の「第二次天安門事件」の運動の例などを引き合いに出すまでもなく、明確なリーダーがいないままに運動が長期化すると、運動に参加する人々が穏健派と急進派に分かれ、急進派が警備側と衝突するような事態に発展して、政権側に武力介入の口実を与えかねません。「香港雨傘運動」をやっている人たちには、過去の苦い経験を踏まえ、あくまで非暴力の活動を貫いて欲しいと思います。

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2014年10月22日 (水)

「香港雨傘革命」が中国経済バブル崩壊の切っ掛けとなる可能性

 昨日(2014年10月21日)、香港行政府の幹部と民主化選挙を求めるデモ隊のリーダーとの間の「対話」が行われました。事前に予想された通り、双方の主張は平行線で、事態は進展していません。

 「中国政府が香港行政長官選挙において民主派候補者(=中国共産党に反対する可能性のある候補者)の立候補を認める可能性は100%ない」一方で「民主派候補の立候補を認めない限りデモ隊側は『占拠』をやめない」ことは明らかなので、この問題には以下の二つの解しかありません。

(1)中国政府が武力(=人民解放軍)を投入してデモ隊を強制排除する。

(2)デモ隊側が非暴力に徹し、香港市民の日常生活への影響を最小限にする形で抗議活動を続け、香港行政府と中国政府も警察力または人民解放軍による「力での排除」は自制することにより、長期にわたり「平和的な抗議活動」が続く。

 武力によるデモ隊の強制排除は、国際金融センターとしての香港の機能を喪失させるとともに、「将来は『香港方式』により台湾も統一したい」という「一国二制度」を採用したそもそもの出発点を自ら潰すことになり、中国政府側にとっても最も希望しない選択肢なので、起こらないと私は信じています。

 ただ、10月19日付けの「人民日報」4面に掲載されていた「『自主』から『占中』の背後にある『香港独立』の陰謀が見える」と題する評論では、今回の運動の背後に「台湾独立派」がおり、香港の独立を狙っている、とかなり激しく批難しています。もし仮に本当に「『占中』運動」が「香港独立運動」ならば、人民解放軍が動く大義名分となるわけですから、この評論は相当にきつい「恫喝」です。

 「国際社会からの制裁があることを考えれば、中国共産党もそれほどバカではないので、人民解放軍による武力鎮圧はないだろう」と多くの人は思っているでしょう。「第二次天安門事件」の時、私も1989年6月3日まではそう思っていました。しかし、そういう私の考えが甘かったことは事実が証明しています。予断は許しません。

 一方、今回は中国共産党が最大限の自制心を働かせて、上記(2)の「平和的な抗議運動の継続を認める」方針を採ったとしても、混迷の長期化による香港からの外資の引き上げが、中国の経済バブル崩壊の切っ掛けとなり、世界に大激震を走らせることになる可能性は否定できません。

 現在、中国経済バブルがほとんど「臨界点」に近づいていることは多くの人が認めているところです。「ハードランディング」を避けるため中国政府が綱渡り的な経済政策を採っている中で、今回の「香港雨傘運動」に起因する外国資本の香港からの引き上げが中国政府が行っている「綱渡り的政策」を壊してしまう可能性があるからです。

 昨年来、世界の多くの人々が心配するようになった「影の銀行」や「理財商品」の問題は、基本的には中国国内の金融システムの問題なので、アメリカのサブ・プライムローンのように、中国国内の金融バブル崩壊が世界経済に伝播する程度は小さい、という見方は多いと思います。しかし、下記の大和総研の神尾篤史氏のレポートでは、外国からの香港への外貨投資が香港を中継として中国国内の「理財商品」に流れている可能性があることから、中国国内のバブル崩壊が世界に伝播する危険性について警鐘を鳴らしています。

(参考URL)大和総研金融調査部兼経済調査部神尾篤史氏のレポート
「理財商品等と増加する中国企業の外貨資金調達~外国子会社等の外貨建て債券の発行増加がもたらす可能性~」(2014年3月24日)
http://www.dir.co.jp/research/report/capital-mkt/20140324_008358.pdf

 今、世界のマーケットではボラティリティ(変動率)が非常に大きくなっています。最近ニューヨーク株式市場のダウは、毎日のように100ドルを超える(時として200ドルを超える)乱高下を続けていますし、東京株式市場の日経平均株価も一昨日(2014年10月20日)から今日(10月22日)まで対前日比で、578円高、306円安、391円高と連日300円を超える乱高下を続けています。

 今は、様々なデリバティブ(金融派生商品)があり、多くの投資家がレバレッジを効かせて(テコのように少ない元手で多くの収益が得られるようにして)いるので、ちょっとの切っ掛けで相場が大きく変動することがあります。本来は、商品先物などは、将来の価格変動による損失を少なくするためのものですので、多くのデリバティブは市場の変動を抑制する効果がありますが、ブランコで力を入れるのと同じように、タイミングがずれると、逆に振り子の振動を極端に大きくしてしまう可能性もあります。

 今年前半、様々な市場ではボラティリティが異常に少なかったのですが、8月下旬以降、逆にボラティリティが急激に拡大してきています。この変化は、アメリカのFRB(連邦準備制度理事会)が量的金融緩和第三弾(QE3)をこの10月末にも終了する予定であり、一方で、ECB(ヨーロッパ中央銀行)が量的緩和を始めようとしている(日本銀行は「異次元の金融緩和」を継続中)ことから、市場関係者が各国の金融政策の変更に対応しようと動いていることが原因のひとつと考えられています。

 従って、現在のマーケットのボラティリティの急激な拡大は「香港雨傘革命」の運動とは直接的な関係はありません。しかし、同じタイミングで起きているこの二つの動きが「偶然の共鳴現象」を起こす可能性があります。

 具体的にはアメリカFRBによるQE3の終了と利上げ観測の具体化で、香港を含めた新興国に投下されてきた資金のアメリカへの引き揚げが始まった時、香港については「雨傘革命」の長期化を嫌気した外交投資家により従来想定していたより大きな額の資金の引き上げが起き、それが香港経由で中国国内に流れ込んでいた投機資金の中国からの流出を招き、中国国内での一時的な流動性の欠乏を招いて、理財商品のデフォルト(現金化不能)を起こす、といった「ドミノ倒し」が起こる可能性が否定できないからです。(実際は中国人民銀行がうまくコントロールすると思いますが)。

 今日(2014年10月22日)付の日本経済新聞朝刊3面には「バブルに踊り覚めて大損 現代版『邯鄲(かんたん)の夢』」と題する記事が掲載されていました。この記事では、最近の住宅価格低下により、河北省邯鄲市で不動産開発会社の経営者が失踪し、高利回りに引かれて開発資金に投資した住民が投資資金の回収ができなくなっている状況を報じています。「邯鄲の夢」とは、昔、邯鄲の若者がお粥を炊いてもらう際、まどろんでいる間に立身出世する夢を見たが、夢から覚めたらまだお粥が炊きあがっていなかった、という有名な故事です。「現代版『邯鄲の夢』」は、面白い話ではありますが、シャレになりません。

 「香港雨傘運動」に参加する若者は純粋に香港の民主化を望み、FRBはアメリカ経済の順調な回復を見て金融政策の「正常化」を図る、というそれぞれの全く至極まっとうな希望に基づく行動が、たまたま同じタイミングで起きることにより、中国経済バブルの崩壊とそれによる世界的な経済危機、という大きな結果をもたらす可能性がある、ということは注意する必要があります。なので、私は10月4日のこのブログで「香港『雨傘革命』:日本の関係者の状況認識は甘過ぎないか」と書いたのでした。

 学生らと香港行政府の「対話」が不調に終わり、一方で日本の株式市場で非常識な乱高下が続いているので、多くの市場関係者は既に認識していると思いますが、「シートベルト着用サイン」が出ているという注意喚起の意味で改めて書かせていただきました。

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2014年10月18日 (土)

長期化する香港「雨傘革命」が中国大陸部13億人の人民に知らせたもの

 香港の民主的な行政長官選挙を求める運動、いわゆる「雨傘革命」は、本格的な「占中」(オキュパイ・セントラル)の運動が始まってから3週間が経っても、解決の糸口が見えません。1989年の「第二次天安門事件」(六四天安門事件)の対処の経験を踏まえても、事態を長引かせることは、「時間切れ解決」をもたらすのではなく、デモ参加者の一部の強硬な姿勢を強めることになり、事態の悪化をもたらす可能性の方が大きいと思います。

 梁振英行政長官は、10月16日(木)、「来週にも学生団体と対話する」と発表しました。私は、「なぜ『来週』なのか」と思いました。事態の長期化はよくない、と考えるなら、対話はすぐにやるべきでしょう。私は「梁振英長官は、おそらく北京政府から、四中全会(中国共産党中央委員会第四回全体会議:10月20~23日)と11月10~11日に北京で行われるAPEC首脳会議が終わるまでは『騒ぎ』を起こすな、と厳命されているのだろう」と想像しました。「対話の提案」は、おそらくは時間稼ぎです。対話を「来週」に設定すれば、少なくとも四中全会の始まる前の週末(10月18日(土)、19日(日))には大きな混乱を招かないで済む可能性があるからです。

 「第二次天安門事件」に参加したデモ隊が「ゴルバチョフ書記長が訪中するまで運動を引き延ばして、自分たちの主張を世界中のメディアに報道してもらおう」という考え方を持ったのと同じように、香港でのデモに参加している人たちの中には「少なくともAPEC首脳会談の時期まで運動を続けて、世界中の首脳から習近平主席に圧力を掛けてもらおう」という意図があるのかもしれません。

 梁振英長官とデモ隊参加者の双方に「APECまでは・・・」という気持ちがあるのなら、APECが終わるまでは、大きな動きはないかもしれません。逆に言うと、APECが終わったら、大きな動き(例えば強制排除など)があることも想定しなければいけないかもしれません。

 「人民日報:日本語版」の記事によると、今回の四中全会の議題は「法による国家統治の全面的推進における重大な問題の検討」なのだそうです。もともとは周永康・前政治局常務委員の処分問題など、党内の腐敗撲滅や司法制度改革を念頭に議題設定をしたのだと思いますが、現在、「人民日報」などが、香港の「占中」運動を「非法な運動」と断罪し、「香港にも法治を」という主張を繰り返していますので、四中全会において香港問題を避けて通ることは難しいと思います。中国共産党内部には、武力を使ってでも早期に収拾を図るべし、と考える強硬派もいるでしょうから、四中全会の中で香港問題に関する議論をまとめるのに、習近平総書記は苦労するかもしれません(今後APECもあるので、今の時点では強硬策を主張することは好ましくないことから、四中全会でまとめる文書では、おそらくは「非法な『占中』活動は香港市民の正常な生活を阻害することから、香港行政府が早期に事態を収拾することを期待する」といった程度の内容に留めることになるだろうと思います)。

 今回の「香港雨傘革命」の動きが、過去の1986年末の学生運動や「第二次天安門事件」の時と異なるのは、「人民日報」をはじめとする公式メディアが批判する立場からとは言え、連日、香港の動きを伝えていることです。中国中央電視台の夜7時のニュース「新聞聯播」では、「デモ反対派市民によるデモ」の様子は放映するけれども、民主派デモの人々の様子は放映しない、など、相変わらず「完全に偏った報道」なのですが、それでも道路を封鎖するバリケードの様子を放映するなど、私の知る限り、中国国内において中国共産党中央に対する異議申し立ての運動をこれだけ大量に報道するのは初めてではないかと思います。

 連日報道することにより、「非法な行動が行われているのに香港行政府は収拾できていない」ことも全国に知れ渡ることになり、同時に「香港ではこうした運動ができるのだ」という事実を全国の中国人民に知らせることになりました。

 人民日報のホームページでは、この香港の「占中問題」に関するネット上座談会なども掲載されていますが(当然、出席者は全員が「占中」に反対)、その中で、「香港市民700万人のうち『占中』を行っているのは2%に過ぎない」という主張もありました。これは逆に「14万人もの人が参加している」ことを示しており、人民日報の論評で言っている「ごく少数の人が行っている」という主張と矛盾しています。

 また、中国最大のネット検索サイト「百度(バイドゥ)」では、10月1日以降「雨傘革命」で検索すると「法律と政策により一部の検索結果は表示されません」という表示が出るようになり、「雨傘革命」がネット上での「検閲対象語」になったことがわかりました。しかし、政府サイトなどでの「占中」批判評論の中でも「雨傘革命」の語を使うことがあるので、「雨傘革命」が「使用禁止語」になっているわけではありません。

 「人民日報」ホームページで記事を閲覧すると、右側の広告欄の中に「ニュース用語検索頻度リスト」を見ることができます。この「人民日報」ホームページの「ニュース用語検索頻度リスト」では、先日見たら、1位が「雨傘批発」(雨傘販売)、2位が「雨傘廠」(雨傘工場)、3位が「太陽傘」(日傘)でした。「雨傘革命」は「検閲対象語」なのでランク入りすることはあり得ないのですが、「雨傘関連」の用語を全て「検閲対象語」にすることはできないので、こういう検索頻度リストができあがるのでしょう。大陸部の中国人民にとっても、「香港雨傘革命」は、賛成か反対かは別にしても、大きな関心を呼んでいることは間違いありません。

 香港行政長官の選挙で民主派が立候補できようができまいが、大陸部の人々にとっては「どうでもよいこと」なので、大陸部で「香港雨傘革命」を支援しよう、という動きはそんなに高まらないと思いますが、「香港では自由にデモや抗議活動ができるんだ」「当局が『非法な行為』『動乱』と称するようなことでも、香港では抑え込むことができないだ」という事実は、既に大陸部の13億の人民に広く知れ渡ったことでしょう。

(注)「第二次天安門事件」の時の1989年4月26日「人民日報」が社説「必ずや旗幟を鮮明にして動乱に反対せよ」を掲載した時、デモ参加者は猛反発しました。しかし、今回の「香港雨傘革命」に際して、2014年10月15日、「人民日報」が1面で「本紙評論員」による社説「香港特別行政区政府の法による施策を断固支持する」を掲載し、その中で「安定は福であり、動乱は禍である」と記載したことに対しては、あまり反発の声は聞こえませんでした。香港市民は「人民日報」なんて読んでない、と言えばそれまでですが、私は個人的には、1989年と比して「人民日報の権威(=中国共産党中央の権威)」が相当に落ちたなぁ、という印象を受けました。

 「第二次天安門事件」の時代にはインターネットはなかったので、中国国内では北京で武力弾圧があったこと自体を知らない人が多かった(今でも「六四天安門事件」関連情報はインターネット上ではアクセス禁止措置がなされているので、中国大陸部では知らない人は多い)のと比べると、今回の「香港雨傘革命」運動は、中国人民に対する「認知度」という点で、大きな違いがあります。この「雨傘革命に対する認知度の高さ」が、ボディブローのように、今後の大陸部での政治的動きに効いてくる可能性があります。

 過去、中華人民共和国の歴史の中で、「文化大革命」を除いては、学生や市民が中国共産党中央に直接的な形で「異議申し立て」をやったのは、1976年4月の「第一次天安門事件」(四五天安門事件)、1986年末の合肥・南京・上海等での学生デモ(北京での動きは当局が事前抑止に成功した)、1989年の「第二次天安門事件」だけです。「第一次天安門事件」では、この後、毛沢東主席の死後の1976年10月に当時中国共産党中央を牛耳っていた「四人組」が失脚し、1986年末の学生デモでは胡耀邦総書記が、「第二次天安門事件」では趙紫陽総書記が失脚しています。つまり、いずれも「当時の中国共産党中央」の実質的交代が行われたのです。

(注)過去の学生らの運動の経緯等については、このブログの過去の発言「中国現代史概説」を御覧ください。左側に「中国現代史概説の目次」へのリンクが張ってあります。

 香港は、もともと集会やデモは自由にできますので、「中国共産党中央に対する異議申し立て」は別に今回が初めてではない、と言えばそれまでですが、「中国共産党中央に対する異議申し立ての動き」が、大陸部の13億人の人民に津々浦々伝えられているという事実は大きいと思います。今すぐ何かが変わる、というものではないにしろ、今回の香港「雨傘革命」は、中国の歴史における大きな転換点であることは間違いないと思います。

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2014年10月 4日 (土)

香港「雨傘革命」:日本の関係者の状況認識は甘過ぎないか

 先週日曜日(2014年9月28日(日))夜、私はCNNが伝える香港の状況(民主的普通選挙を要求するデモ隊への警官隊の催涙弾の使用など)を見て、「これは大変なことだ」と感じ、9月29日(月)以降の世界の株式市場は大暴落するだろうと思いました。

 ところが、9月29日(月)の東京株式市場は、前週末比で若干値を上げて終えました。29日(月)のヨーロッパとアメリカの株式市場が香港情勢を心配して値を下げて帰って来たことを受けて、東京市場では30日(火)以降、株価が下がりました。

 今、世界には様々な地政学リスクがあり(エボラ出血熱患者がアメリカでも発生したことを含む)、香港情勢だけが世界の株式市場を動かしているわけではありませんが、29日(月)の東京の株式市場の動きを見て、私は「日本の関係者は香港情勢に対する認識が甘過ぎる」と思いました。

 「雨傘革命」と呼ばれている現在の香港でデモを行っている人々が求めているのは、2017年の行政長官選挙において民主派からの立候補も可能とする選挙制度の制定ですが、立候補者を事前に絞り込むという制度は、全人代常務委員会で既に決まったことであり、北京の中央政府がそれを撤回することはあり得ません。

 従って、今回の運動では「香港当局側が妥協案を提示して打開を図る」ことが根源的に不可能なのです。今後、デモを行っている人々が仮に座り込みをやめても、2017年の選挙までは、選挙制度の改革を求める運動は続きます。従って、今の運動は、香港経済に長期間にわたって大きな影響を与える可能性が大きいのです。

 多くの人は、「まさか北京の中央政府は1989年の『第二次天安門事件』(六四天安門事件)のような武力弾圧はやらないだろう」と思っているのでしょう。でも、1989年の「第二次天安門事件」の時も、私も含めて多くの人は同じように「強硬な武力による解決はないだろう」と思っていましたが、実際は武力行使がなされました。1989年当時は、トウ小平氏というカリスマ的で老練な政治家が実権を握っていたわけですが、そのトウ小平氏すら、穏健な解決は図れなかったのです。今の習近平指導部は、トウ小平氏を上回る問題解決のための指導力を発揮できるのでしょうか。(上に書いたように、問題の根本は「選挙制度改革」ですから、香港当局に問題解決能力はなく、最終的には北京が何らかの策を講じなければ、問題は解決しません)。

 香港は中国大陸部の経済の重要な「対外窓口」ですから、香港で現在のような混乱が続くと、中国大陸部の経済活動に対して致命的なダメージを与えます。香港に投資している外国企業や投資家が香港から逃避することも懸念されます。

 今、中国大陸部の経済は、景気減速が意識され、不動産市場では「バブルが崩壊しつつあるのではないか」との心配もささやかれています。去年(2013年)表面化した「影の銀行」問題も何も解決していません。

 中国政府は、バブルの膨張を呼ぶような大規模な経済刺激策を避けつつ、「小出し」の経済政策で、綱渡りのような経済政策を進めています。今、ここで香港経済が今までのような活力を保てなくなったら、大陸部の中国経済にも大規模なブレーキが掛かる恐れがあります。

 「第二次天安門事件」の運動が始まったのは、1989年4月15日でしたが、警察力による天安門前広場からの人々の強硬排除が行われなかったことから、最初のうちは、なんとなく大学生ら若い人たちの「フェスティバル」のような雰囲気の座り込みが続きました。中国共産党中央は、4月29日、座り込みを続ける学生たちと話し合いを行いました。しかし、学生たちが納得する結論が出るわけもなく、事態は全く改善しませんでした。

 今回の香港の「雨傘革命」においては、一昨日深夜(2014年10月2日(木)深夜)、香港の梁振英長官が「自分は辞職しないが、ナンバー2の高官と学生らとの対話を行う」と発表しました。これを受けてか、2日間の国慶節休暇明けの10月3日(金)の香港株式市場のハンセン指数は、やや上げ、一時的に緩和したような雰囲気になりました。ここまでの今の香港の雰囲気の推移は、1989年の「第二次天安門事件」の推移と非常に似ていると私には感じられます。

(「第二次天安門事件」の時の詳しい経緯については、このブログの左にリンクが張ってある過去の発言「中国現代史概説」の中の「第二次天安門事件」の部分をお読みください)。

 1989年当時、中国経済の世界経済に占める割合は、まだ小さいものでした。しかし、今(2014年)の世界経済は、中国なしには立ち行きません。香港の混乱が長引けば、中国大陸部の経済に大きな影響を与え、結果的にそれが世界経済に非常に大きな影響を与えます。それなのに、日本の関係者の香港情勢に対する反応が鈍すぎる、私にはそう思えるのです。

 もちろん、外国は、中国の国内問題に口を出すべきではありませんが、世界は1989年の「第二次天安門事件」を知っているだけに、中国に対して、同様の結果にならないようにする働きかけを行う必要はあるでしょう。今年11月10~11日に北京でAPEC首脳会議が開かれます。この会議に出席する多くの首脳は、何らかの形で今回の香港の「雨傘革命」について言及せざるを得ないでしょう。

 (1989年の時も、「第二次天安門事件」の運動が始まった1か月後にソ連のゴルバチョフ書記長の初の訪中という大きな外交日程が設定されていました。運動が重要な外交日程に影響を与える可能性があった、という点でも、「第二次天安門事件」と今回の香港の「雨傘革命」運動に一種の「類似性」を想起させます)。

 香港は、中国当局のインターネット上の情報統制障壁(「金盾」とか「グレート・ファイアー・ウォール・オブ・チャイナ」とか呼ばれる)の外にありますから、中国大陸部の学生とは異なり、香港の学生は「第二次天安門事件」(六四天安門事件)のこと(その結果)はよく知っているでしょう。学生の側にも、ぜひ冷静な対応をして欲しいと思います。 

 

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