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2013年9月 8日 (日)

習近平主席らの外国訪問中に改革方針をアピールする李克強総理

 9月の第一週の後半、習近平国家主席は、ロシアのサンクト・ペテルブルクで開催されたG20首脳会議等へ出席し、中央アジア諸国を公式訪問しました。当然のことながら、「人民日報」や中国中央電視台(CCTV)の夜7時のニュース「新聞聯播」では、これら習近平国家主席の会議出席や次々にこなす各国首脳との会談を連日大きな扱いで報道しました。特に今回のG20首脳会議に際しては、BRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)の首脳会議も開催され、ロシアのプーチン大統領とともに習近平国家主席の国際舞台での重要性が目立ちました。

 一方、李克強総理は、北京で、今後の経済改革制度に関する会議に出席しました。習近平国家主席の派手な外交活動の陰に隠れて、「人民日報」でも「新聞聯播」でも扱いは小さかったのですが、中身では、結構、今までの中国の政策をがらりと変える改革の方向性を打ち出しています。習近平主席が外交面で目立っている一方、李克強総理が「内政は自分が中心」と言わんばかりに、その辣腕振りを発揮しているように見えます。実は、同じ時期、江沢民派と言われる劉雲山政治局常務委員もベラルーシ訪問中であり、あたかも「鬼の居ぬ間に既成事実を作っておく」といった李克強総理の動きでした。

 私が注目した二つの会議は、以下の二つです。

【注目した会議その1:2013年9月6日に開催された国務院常務会議】

 この会議では、国務院が全国商工連合会の実施した民間投資政策に関する第三者委員会による評価を聴取しました。意見を聴取しただけで、何かを決定したわけではないのですが、内容は、今までの中国の経済政策と比べると、革命的に斬新な内容を含むものでした。2013年9月7日付け「人民日報」1面が伝える9月6日付け新華社電によると、ポイントは以下の通りです。

○民営企業は、市場参入に当たって、体制面及び政策面において少なからず障害に直面している。実施細則が具体的ではなく、運用がやりにくく、高い参入障壁があり、現実的な執行において困難が生じている。政策に関して、監督と評価が欠乏しており、一部の法律上の規定では時代の流れにあった調整がなされていない。

○この会議は、民間投資は、市場活力を発揮させ、就業や創業を促進し、改革を促進する重要な力がある、と指摘した。「微動だにしない二つの原則」(注)を堅持した上で、民間投資を活用して発展させ、改革の深化を通じて、体制システムの障害を打破し、生産資源の利用や市場競争への参加、法律による保護、社会に対する責任における平等を作り出し、社会資本が持つ巨大な潜在能力をもって中国経済発展のレベルアップのための転換の持続力を増強しなければならない。

(このブログの筆者注:「微動だにしない二つの原則」とは、「公有経済を断固として発展させること」と「非公有経済の各種形態の活動を断固として発展させること」の二つ。この部分は、「国有企業の優遇をやめ、市場競争での平等原則を確立する」というのがポイントですが、「微動だにしない二つの原則」を堅持した上で、とわざわざ言っているのは、保守派に配慮して「国有企業をなくすことはしない」ことを明示するためだと思われます)。

○会議は、思想の解放を継続し、理念の転換を果たし、民間投資を導入し奨励する各種の政策を全面的に実施すべきことを強調した。具体的には、以下のとおり。

・第一は、問題が抽出された点について、期限を切って実施細目の改善を実施する。

・第二は、市場システムが調整できる事項については、政府が許認可を行うことはしないようにする。許認可を実施する場合にも、プロセスと期限を明確にし、民間投資にとって「(通れるように見えて通れない)ガラスのドア」「(一時的に開いてもすぐに閉まる)バネつきドア」「(入れるように見えて実際は入れない)回転ドア」にならないようにする。

・第三は、金融、石油、電力、鉄道、電信、資源開発、公益事業において、民間資本の指向する方向が一致し、レベルアップのための転換に有効なプロジェクトに対しては、コスト・アンド・ベネフィットのモデルを構築し、機構改革の中において混合所有制経済(公有経済と民間所有経済の混合)を発展させる。

・第四は、民間投資に関連する行政法規を整理し、明晰で、透明性があり、公平公正で、市場参入がしやすい規則とする。

・各部門が実施する各種政策において、状況の評価を強化し、社会の能力を利用した第三者評価を導入し、各方面から監督を受けるようにし、政府による「自画自賛」をできないようにする。

---ブログの筆者によるコメント---

 中外合資経営企業法などが制定されたばかりの1980年代を知っている私としては、特に金融、石油、電力、鉄道、電信、資源開発、公益事業といった「社会主義のコア」の産業に「混合経済」とは言え民間資本を導入する考え方は画期的だと思います。

 党の会議ではなく、国務院の会議で、「思想の解放を継続し」と言っている部分は、1980年代の感覚から言ったら、相当に「革命的」です。1980年代前半は「精神汚染防止キャンペーン」と称して、胡耀邦総書記が失脚した1987年には「ブルジョア自由化反対」と称して、改革開放政策の導入による自由主義思想の導入を極度に警戒していましたので。

 中国では、解放前の半植民地的状況の苦い経験を踏まえ、1980年代の改革開放当初は、中国政府は、鉄道、電信、資源開発等に外国資本が参加することは絶対に認めない、という強い意志をもっていました(解放前は、鉄道や電信などを外国資本に握られ、それらの外国資本を保護する、という名目で列強各国の軍隊の駐留を許してしまいましたからね)。現在では、既に香港が中華人民共和国の一部になり、香港資本をはじめ、台湾資本やシンガポールなど多くの中華系外国資本が中国の経済活動を支えており、これらを活用しない手はないと考えているのでしょう。台湾資本を活用することについては、むしろ、将来、経済面から台湾を取り込むことを可能にする、という思惑が働いているのかもしれません。

 また「市場参入における公平原則(国有企業を優遇しない)」という主張は、最近摘発が相次いでいる石油開発関連会社幹部の汚職摘発と相まって、「国有企業だけが経済成長の甘い汁を吸っている」「国有企業が優遇されすぎて、市場経済化が進まず、民間企業の活力が削がれている」という多くの人民や民間企業家の不満を背景とした「李克強改革」の「キモ」と言える部分だと思います。

 習近平主席や劉雲山政治局常務委員が外国にいる間にこういった会議を開催するというタイミング設定には、私は李克強総理の「挑戦的意図」を感じました。

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【注目した会議その2:新型都市化路線の進め方について科学的に論証し検討するための中国科学院、中国工程院の専門家との座談会(「最近行われた」とだけ記されているので、正確な開催日は不明)】

 この会議は、李克強総理や張高麗副総理らが中国科学院と中国工程院の専門家を中南海(中国共産党本部のある場所)に呼び、「新型都市化」について意見を聞いた座談会です。「座談会」であって、何かを決定する会議ではありませんが、「新型都市化」に対する重要なポイントを議論しています。2013年9月8日付け「人民日報」1面が伝える9月7日付け新華社電によると以下の点がポイントです。

○中国工程院が行ったサンプル調査によると、現在、「80后」(1980年代以降生まれ)及び「90后」(1990年代以降生まれ)の新世代の農民工の多くは故郷に帰って農業に従事する意志はなく、都市住民になることを切望している。都市化は既に逆転不可能な趨勢となっている。

○座談会の中で、多くの参加者は、最近の中国の都市化は大きく進んだが、問題点も確実に存在し、科学的な計画が欠けている問題がある、最も大きい問題点は、1億人以上の農民工が都市に流入したが、都市住民と同じような公共サービスを享受できておらず、これらは「半都市化」と言わざるを得ない、と指摘した。李克強総理は、改革によって、都市を人々が真に安住し仕事をできる場所にしなければならないと述べた。

---ブログの筆者によるコメント---

 中国科学院、中国工程院の専門家は、都市化にあたっては、農村戸籍を持った農民工に都市戸籍を与えて、都市に住む農民工にも都市住民と同じような公共サービスを受けられるようにすることを提案しているように見えますが、それに対して李克強総理は言質を与えていません。農村戸籍・都市戸籍(非農村戸籍)という「二重戸籍制度」の是非については、たぶん、中国共産党内部でもいろいろな意見があり、改革派の李克強総理としても、まだうかつなことは言えないのでしょう。ただ、上にの二番目の李克強総理の発言からすると、どちらかというと李克強総理も二重戸籍制度を廃止すべき、と考えているようなニュアンスが伺えます。

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 上記の二つの会議で述べられた「企業活動の公平化(国有企業優遇の廃止)と鉄道、電信、資源開発等への民間資本の導入」「新型都市化に伴う二重戸籍制度の問題」は、いずれも中国共産党の「政策の基本方針の哲学」に関する問題であり、本来は総書記たる習近平氏がリードして中国共産党の中で議論すべき問題です。そういった基本方針(哲学)の変更を、本来は中国共産党の決めた政策方針に従って実務を進めるのが仕事であるはずの国務院総理の李克強総理がリーダーシップをとってどんどん進めていることが、現在の習近平-李克強体制の特徴と言えるでしょう。私が知っている1980年代の「胡耀邦総書記-趙紫陽総理の体制」、2000年代の「胡錦濤総書記-温家平総理の体制」、もっとさかのぼれば「毛沢東党主席-周恩来総理の体制」においては、基本方針は党の総書記(主席)が決め、国務院総理はそれに従って実務を実行する、という形でまとまっていました。ところが現在の習近平総書記-李克強総理の体制ではそうなっていないのです。

 これが、中国の新しい統治のあり方、を示すのか、路線を巡る指導部内の今後の混乱を予想させるのか、については、私はまだわかりません。もう少し様子を見る必要があると思っています。

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