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2013年9月12日 (木)

人心が離れていることを自覚している中国共産党

 今日(2013年9月12日)付けの「人民日報」4面に「マルクス主義執政党はいかにして大衆からの離脱を避けるべきか(人民論壇)」と題する評論文が載っていました。筆者は、陳俊宏氏です。通常、記事の中には筆者の役職が書かれるのですが、今回の評論には書かれていません。ネットで調べたら陳俊宏氏は「人民日報」の副編集長のようですね。この評論のポイントは以下のとおりです。

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2013年9月12日付け「人民日報」4面
「マルクス主義執政党はいかにして大衆からの離脱を避けるべきか(人民論壇)」
(陳俊宏)

○中国共産党は、人民に由来し、人民に根ざしている。党の政権獲得後、大衆から離脱する危険性は大きく増大してきており、それが最大の危機であると言える。

○党が執政を始めて以後、大衆から離脱する危険が増大している主な原因は以下の通りである。

(1)一般に国家権力は、社会に対して大きな強制力を持つものであり、本来は社会大衆のために社会秩序の維持を図るのが基本任務であるが、一方で、社会大衆から離脱し、大衆の利益から離れて大衆に損害を与える方向に向かう傾向がある。中国共産党員もその傾向から逃れることは難しい。いわゆる「権力の魔力の効果」である。

(2)我が国には長期にわたる「官本位」の文化的歴史遺産があり、一部の中国共産党員の中には、この文化的背景により、市場において、権勢で人を圧し、権力を利用して私益を図る現象が見られる。

(3)中国共産党が政権を取って以降、多くの党員は厳しく鍛えられる経験を経ておらず、人民のために尽くすという基本意識が頭に入っておらず、人民の利益を最終目的とする執政理念がいまだ確立されていないために、大衆と利益を争い、大衆の利益を損なう事態がたびたび発生している。

○これらの原因は依然として存在し、その影響を与え続けており、党が大衆から離脱する危険性を増加させるだけでなく、これが今後も続けば、党と大衆との関係を破壊し、最終的には中国共産党の執政を担当する地位を侵食しかねない。

○経済のグローバル化、社会の情報化、利害の多様化が進む現在、大衆から離脱するという危険性は切迫しており、全力を挙げて重要な課題を解決する努力を堅持する必要がある。そのためには以下を考えなければならない。

(1)党の路線の方針と政策を人民大衆の願望と時代の進歩する時代の潮流に合致するようにしなければならない。人民に政策を問い、人民の要求を問い、人民の意向を計り、民主的・科学的で秩序あるプロセスを経なければならない。これが党の政権担当の基礎を固め、執政の使命を計る根本的な決め手である。

(2)政府機関にいる党員は党の規約と法律を遵守し、人民のために権力を正しく用いなければならない。「権力を制度の籠の中に入れる」という要請に基づき、合理的に権力の限界を設定するとともに、権力の制約と監督システムを完全なものにし、越権行為や権力乱用をしてはならない。権力行使の透明性を確保し、人民による権力の監視を効果的なものにし、「権力のマイナス効果」を防止するシステムを確立しなければならない。

(3)党の基盤組織は、大衆との連携を緊密にしなければならない。大多数の大衆の信頼を獲得し、党と大衆の血肉との関係を確固なものとし発展させるために絶え間なく新しい活力を注入しなければならない。

(4)党員は大衆の具体的な要請を担う者にならなければならない。

○中国共産党が政権を担当しているのは、もともと与えられたものではなく、「一度苦労すれば永遠に楽ができる」というものでもない。大衆との関係を明確にし、大衆に緊密に連携して初めて、党は不動の地位を築けるのである。今実施している党の大衆路線教育実践活動は、全党の同志の精神的洗礼であり、新しい情勢の下における大衆との連携の伝統を発展させ、思想政治と制度において大きな成果を得られると信じている。

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 この手の「人民日報」の評論にはありがちなのですが、「危機感」については正しく認識しているものの、それに対する具体的対応方策が示されていません。今、中国共産党中央は、「大衆路線教育実践活動」と称して、地方の共産党幹部がタウン・ミーティングのようなものを開催して「面対面」で一般大衆と意見交換するような運動を展開しています。中国中央テレビの夜7時のニュース「新聞聯播」では、連日、タウン・ミーティングをやっている地方共産党幹部の状況を紹介しています。しかし、そんなことで「大きな成果が得られる」とは私には思えません。地方の共産党幹部は、一般大衆の意見に反した政策を採っても、クビにならないからです。

 日本やアメリカなどの民主主義国家では、国会議員などは、毎週週末地元(選挙区)に帰って、有権者との会合などに参加して、現在の政治に対する不満などを聞いています。これは日本などの政治家が偉いからではなく、単純に、そうした「地元への気配り」をしないと、次の選挙で落ちてしまうからです。こういった「地元活動」は、俗に「田の草取り」など呼ばれていて泥臭い活動だと思われていますが、実は、「政治家が常に直接有権者の意見を聞いている」という意味では、非常に重要なのです。

 上記の「人民日報」の評論文のように、原因を分析して「党員の心掛け」を徹底したりしても、おそらくは事態は改善しませんが、「大衆の意見を聞かない政治家は選挙に落ちる」というシステムを導入すれば、すぐに改善できる問題だと思います。でも、今の中国共産党は、地方末端組織においてすら住民による選挙を導入するとは思えません。

 ただ、上記の評論文で「『権力を制度の籠の中に入れる』という要請に基づき、合理的に権力の限界を設定する」と主張している点は、「憲法に基づき中国共産党の権力を縛る」という発想であり、今年初めに広東省の新聞「南方周末」が主張しようとして検閲でボツにされた「憲政の夢」に通じる話です。

(参考URL)このブログの今年(2013年)1月9日付け記事
「『南方周末』の『中国の夢、憲政の夢』の日本語訳」
http://ivanwil.cocolog-nifty.com/ivan/2013/01/post-e578.html

 今日(2013年9月12日)付けの産経新聞オピニオン欄に掲載されていた石平氏のコラム「China Watch 『中央党校』から反乱ののろし」によれば、中国共産党中央党校の教授の中にも「憲政こそ国家安定維持の大計」と主張する人もいるそうです。中国共産党の中にも、「中国共産党の権力を一定の範囲内に縛らなければ、むしろ中国共産党による政権維持自体が危機に瀕する」と考える人も多くなっているのかもしれません。

 私は、1980年代においては、地方政府レベルで選挙制度を導入すれば、自由選挙をやっても中国共産党は勝てると思っていました。中国共産党は、「文化大革命の誤り」を自分で修正し、改革開放政策により、経済成長を軌道に乗せ、1980年代に入って、人民の生活は明らかに向上していましたから。だけど、今(2013年)ならば、国家レベルでも地方レベルでも、選挙をやっったら中国共産党は完敗するでしょう。私としては、中国共産党は、既に民主制度を通じて自らの権力掌握を正当化するタイミングを失してしまったと思っているので、今更党内で「憲政を導入すべき」などと議論しても無駄な話だと思っています。今回紹介した「人民日報」副編集長の評論文も「問題意識の提起」としては評価すべきなのでしょうけど、これからもたぶん現実には何も変わらないと思います。

 ただ、この評論文は、「中国共産党の中には、まじめに考えている良識派もいるのだ。全ての党員が私利私欲で動いているわけではないのだ。」ことを示している、とは言えるのでしょう。

 なお、この評論文のタイトルが「マルクス主義執政党はいかにして大衆からの離脱を避けるべきか」となっているのは、「中国共産党はいかにして大衆からの離脱を避けるべきか」とすると、あまりにも露骨に中国共産党の危機感を表現してしまうことになると考えたからだと思います。

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