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2013年9月 1日 (日)

中国の低所得者用公共住宅の問題点:「人民日報」の指摘

 低所得者用公共住宅(中国語では「保障房」:社会保障的性格の強い住宅の意味)の建設の促進は、今、李克強総理が経済構造改革の一環として進めている「都市化」の中の大きな柱の一つです。低所得者用公共住宅の建設は、中国政府はこれまでも強力に進めてきていますが、2013年8月30日付けの「人民日報」では、今まで建設が進められてきた低所得者向け住宅について、大きな問題があることを指摘しています。以下にポイントを紹介します。

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【2013年8月30日付け「人民日報」17面記事】
「低所得者用公共住宅がなぜ『野ざらし状態』になっているのか(民生からの視線)」
~住宅に住めない人がいる一方で、人の住んでいない住宅がある~

○低所得者用公共住宅において、建設資金の不足が指摘される中、一方で人の住んでいない低所得者用公共住宅が空き家のまま放置されている状況が、再び社会の関心を集めている。

○北京南第六環状路の馬駒橋の近くにある草地の中に広仁家園地区の高層建築群が見える。この住宅プロジェクトは、北京市中心から30kmの場所にあり、去年10月末に入居が開始された。ここの住民が言うには、この地区の北側の第1棟から第4棟までは、主に北京市西城区の住民向けに建設されたものだが、現時点では空室率が50%以上であり、かつ入居している人のうち多数がこの住宅の所有者ではなく、所有者が付近の村民に賃貸しているものである、とのことである。

○記者が北京市西城区までの通勤経路を実際に移動してみたが、この地区のバスは15分間隔で、最寄りの地下鉄の駅までバスで15分、バスを降りてから地下鉄に乗り換えるのに20分近く掛かる。結局、大きな荷物を持っている場合、住居から地下鉄の駅まで小一時間掛かり、この地区から西城区へ行くのにバスと地下鉄を乗り継いで、2時間ないし3時間掛かる。誰が通勤に毎日5~6時間も掛かる場所に住むというのだろうか?

○低所得者用公共住宅建設では、予算が限られているため、郊外に建設されることが多い。北京の場合、2012年に提供された各種の低所得者用公共住宅のうち77%が第5環状路の外側であり、かつその半分以上は地下鉄が未開通の地区である。南京においては、今年初に提供された二つの低所得者用公共住宅は中心部から20km及び35kmの場所にあり、合わせて6,000戸以上が募集を行ったが、申し込んだのは数百人しかいなかった。

○低所得者用公共住宅は、場所が遠く、交通などのインフラが整っておらず、病院、学校など公共サービス施設がないものが多い。「郊外に一戸の家を持つより、むしろ市内にベッドがひとつあった方がいい」と言う申請者も多い。去年雲南省で提供された2万3,000戸の低所得者用公共住宅は、建物は良い建て付けになっているが、道路が完成していなかったり、電気・ガス等が全部完成していなかったりした。ある地方の低所得者用公共住宅建設プロジェクトにおいては、1~2kmの範囲内に、スーパーマーケット、八百屋、薬局やバスの停留所がないところもあった。

○低所得者用公共住宅のうち、都市郊外のゴミ処理工場、下水処理場、工業団地などに近接しているものが少なくない。ゴミ処理工場の煙の問題で、住民と騒動になったところもある。

○今年8月初めに広東省深セン市で最大の低所得者用公共住宅プロジェクトで抽選が行われた。ここは賃貸であるが、家賃は1平方メートルあたり16.5元(約260円)で1戸40平方メートルの物件の家賃は約660元である。これは周辺の同じような一般住宅に比べて3分の1の家賃である。しかし、最初に入居を申し込んだ人のうち、物件を見た後で45%が辞退した。

○江蘇省出身のある女性は大学卒業後に深センに来て就職したが、この家賃は彼女の月収の半分以上だった。しかも、深センの低所得者用賃貸住宅に申請するには、深センの戸籍があり、少なくとも三年以上社会保険費を支払った者でないと申請できない。彼女は申請ができないのだった。

○申請資格において、流動人口(いわゆる「農民工」など、その都市以外の戸籍を持つ人)は、低所得者用公共住宅の配分の枠外に置かれている。上海においては、低所得者用公共分譲住宅に夫婦で申し込むためには、夫婦ともに連続して7年以上の上海都市部戸籍を持つ必要があり、申請する区の戸籍を5年以上連続して持っている必要がある。北京においては、低所得者用公共賃貸住宅、低所得者用公共分譲住宅、中所得者用公共分譲住宅に入るには北京戸籍を持っている必要がある。杭州においては、家族のうち少なくとも一人以上が杭州市の都市戸籍を5年以上持っていなければならない。これらは、住宅に困っている人たちの中で大きな割合を占めている大量の流動人口あるいは卒業後一定年限に達していない大学卒業生を排除していることになる。

(このブログの作者注:大学生は、農村戸籍出身・非農村戸籍出身に係わらず、大学生になった時点で一旦「暫定戸籍」扱いとなる。卒業後、就職が決まった時点で、就職先が都市であれば、その都市の都市戸籍を取得できる。従って、農村出身の学生にとっては、大学入学と就職は農村戸籍から離脱できる大きなチャンスである。中国の農村出身の学生が必死に勉強に励んで大学に入学し入学後も都市部の企業に就職できるように努力するハングリー精神に富んでいるのは、こういった制度が背景にある)。

○中原不動産市場研究部総監の張大偉氏は、提供対象者の範囲の狭さが、低所得者用公共住宅の高い空室率の主要な原因であると分析している。特に、北京のような大都市においては、ごく少数の低所得者層を除いて、その都市の戸籍を有している家庭の大部分は既に住宅を持っている。彼らもより条件のよい公共住宅を欲してはいるが、低所得者用公共住宅を欲しいと思っている人の7割は流動人口(その都市の戸籍を持っていない者)である。だから、低所得者用住宅の空室率が高く、一方で、流動人口で住宅を欲しいと思っている人が住宅を取得できないのである。

○需要と供給の不一致が高い空室率を招いていることは数字上明白である。北京市最大の賃貸公共住宅プロジェクトである京原家園では、今年年初、抽選で当たった家庭の三割が辞退した。辞退した家庭は、分譲住宅を購入したいと思っていたのである。深セン、杭州、武漢などの都市においては、賃貸住宅の抽選において当選者辞退の比率が5割に達しあるいは5割近くになっている。

○価格が不合理であることも、低所得者用公共住宅で空室が多いひとつの原因である。2012年、山東省においては、4つの市、40の県の1万2,900戸の低所得者用公共住宅が空室であった。そのうち4つの市、22の県の4,870戸が6か月以上空室のままである。去年末の時点で、青島城陽白沙湾片区の1,848戸の中所得者用公共分譲住宅では、143戸しか申し込みがなかった。周辺の一般販売住宅と比べて、中所得者用公共分譲住宅は1,000元以上安いが、間取りの設計や景観などで見劣りがし、将来の転売についても制限が多いことから、多くの人は、公共分譲住宅の方が一般販売住宅より価格が有利であるかどうかは明確でない、と言っている。

○建設基準も不合理なため、低所得者用公共住宅が競争力を失っている。例えば、ある低所得者用公共分譲住宅では、住居内面積が約45平方メートルであるが、入居基準は当地で一人あたり15平方メートル以下の住宅に住んでいる人に限られている。つまり3人以上の家庭では、お金を使ってこの低所得者用公共住宅を購入しても住宅環境の改善にはならないのである。

○低所得者用住宅の入居基準が厳しいことについては、いろいろな議論がある。多くの地方政府は「余裕のある人に政府が補助をしている」と世論から批判されることを恐れている。また、財政的限度のため、低所得者用公共住宅の面積は最低限のものにせざるをえず、そのため申請できる家庭の収入が低く抑えられている、という問題もある。2012年において、二人家庭向けの北京の低所得者用公共分譲住宅の申請資格は、家庭の年収が36,300元未満であった。これは一人あたり月収1,513元以下を意味するが、この年の北京の最低賃金基準は月収1,260元である。これでは申請できる家庭は相当に限られてしまうことになる。

○北京西城区の候さんは、過去数年間の年収は36,000元だったが、ここ数年努力して月給が約200元増えた。そうしたら、低所得者用公共分譲住宅の申請基準を上回ってしまった。候さんは「努力しなければ住宅を買えない。努力したら入居基準を超えてしまった。低所得者用公共住宅の申請条件は厳しすぎる。政府は多くのお金を使って住宅を建設して、いったい人に住んでもらおうと思っているんでしょうかね?」と言っている。

○専門家は、新しく建設された低所得者用住宅への入居を容易にするために、住宅補助金政策を採ることを提案している。また、住宅・都市建設部門の責任者は、さらに調査を進めて、2013年年末までに、一定以上の規模の都市に安定的に就業している外来労働者(その都市の戸籍を持たない労働者)を低所得者用住宅の対象に含めることを検討している、という。また、多くの市では、低所得者用住宅の空室率を行政成績の審査の際の考慮事項にするという政策を実施している。

○中国社会科学院社会学研究所の唐鈞研究員は「都市管理の観点から見ると、低収入の人たちが同じ場所に集まって住むのは、あまり理想的ではない」と指摘している。唐鈞研究員は、低所得者住宅の多くは都市の郊外地区に建設していることから、そういった場所では治安状況が比較的悪くて、「貧民街」を作ってしまう可能性が増大する、としている。

○唐鈞研究員は、政府が賃貸料を補助して、空室となっている二番手住戸(所有者が住んでいる住戸以外に投機目的で所有している住戸)を低収入家庭が借りられるようにする、という政策を採ることも可能であろう、と指摘している。

○唐鈞研究員は、空室率の高低は、低所得者用住宅の計画が合理的であるかどうかを反映している。我々の計画は、経済的論証、環境面での論証の前に社会的論証を受ける必要があり、低所得者用公共住宅の対象者に対して調査を行い、彼らに政策決定者に対してどのような地域社会を作るべきなのかを言わせなければならない、と指摘している。

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 「人民日報」は、時として、社会問題を鋭く追究するルポ記事を掲載することがあります。私もいろいろ「人民日報」の「鋭い記事」を読んだ経験がありますが、その中でも上記の記事は、なかなか秀逸だと思います。また、李克強総理が「都市化」を強力に進めている現在、グッド・タイミングな記事だと思います。要するに、今までも政府は低所得者用公共住宅をたくさん作ってきたけれども、地方政府は「数を作ればいいんでしょ」という態度であり、入居しやすい条件整備をしてこなかった、ということなのでしょう。特に戸籍による入居制限が問題を複雑にしていることを指摘していることは、今後の戸籍制度議論に大きな材料を提供していると思います。

 特に、最後の「低所得者用住宅の対象者に対して調査を行い、彼らに政策決定者に対してどのような地域社会を作るべきなのかを言わせなければならない」の部分は、地方政府の政策決定に受益者たる住民の意見を反映させなければならない、という意味で、政治の民主化を主張しているわけであり、それが「人民日報」に載った意味は大きいと思います。

 こういった記事を中国共産党機関紙の「人民日報」が掲載した、ということは、党中央としても、李克強総理は経済構造改革の一環として「都市化」を進めているけれども、結局はそれが今までと同じような「コンクリートのハコモノ作り」で終わってしまうことを警戒していることを示しているのでしょう。

 ただ、今までも、私もいろいろ「『人民日報』もなかなかいいこと指摘するなぁ」という記事はたくさん見てきましたが、あんまり実態は改善されてきていません。是非、政策を実行する地方政府は、この「人民日報」の指摘を真摯に受け止めて、李克強総理が進める「都市化」政策が強力に進められた後の何年後かには、地方に多数のガラガラ空室ばかりの低所得者用公共住宅群が墓標のように林立している、というような事態にはならないようにして欲しいと思います。

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